事例報告 職場のパワーハラスメント─丸文通商の取組みとコミットメント─

当社の設立は昭和36年3月1日で、今年(2020年)還暦の60歳を迎えます。本社は北陸新幹線の終点の金沢にあります。当社の事業内容は、CTやMRIを中心とした医療機器、それから分析機器を中心とした科学機器の販売等、その機器販売に伴った機器の据えつけ、点検・修理といった保守サービスを提供しております。機器の販売にとどまらず、アフターサービスまで一気通貫のサポートできることが当社の強みでございます。売上高は2019年3月期実績で256億円、従業員は295名で、お客様は民間企業に加えまして、国公立私立の大学、工業技術センター、あるいは国公私立の医療施設イコール病院が主たるお客様となります。

当社の企業理念、方針の体系をご紹介します。企業理念、企業行動憲章、行動規範と続き、その下に今回のテーマとなるコンプライアンス方針とハラスメント防止方針を定めております。最も上位概念である企業理念として、社員との関係を定めております。当社は商社ですので、とにかく人が全て、人イコール社員こそが財産です。人材という言葉がありますが、通常は材料の「材」を用いますけれども、当社では財産の「財」を用いて「人財」と表現しております。

当社では、財産である人財への投資は惜しみません。今回のテーマはハラスメントということですが、その対策を考えるためには、ただ単にハラスメント防止策を考えるのではなく、CSR経営を中心に据えて、メンタルヘルスや健康経営、あるいは働き方改革、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、両立支援、女性活躍推進等いろいろな観点から総合的に取り組んでいます。

いろいろなことに取り組む以上は、それなりに費用がかかります。ですが、それをコストと捉えるのではなくて、投資であると考えることが重要だと思います。もう一つは経営トップみずから推進することが重要だと考えております。

ハラスメント防止方針を策定

当社では、2017年4月1日に社長名でハラスメント防止方針を策定いたしました。もちろん社内規定の中でも、ハラスメント防止をうたっておりますが、もっと社員がいつも目にするものにすべきと考えました。

具体的には、大きなポスターにして、ハラスメントの起きそうな場所、例えば事務エリアですとか、会議室等に張り出して経営者も社員もいつもこの方針を目に焼きつけるようにしております。

4つの視点での多角的な予防措置

ハラスメント防止対策としては、偏りを避けるために4つの視点での多角的な予防措置を行っています。1つは上位役職者対象のラインケア、そして、メンタルヘルスを健やかにするためのセルフケア、それから、産業医を中心とした専門性を有する社内外の産業保健スタッフによるケア、また、医療とは直接関係性を持たないけれども、一方でハラスメント防止に有益な知識を持たれた方からのケアの4つです(図表)。

図表 ハラスメント防止対策 4つのケア

ラインケア、セルフケア、産業保健スタッフによるケア、外部リソースによるケア(詳細は本文および配布資料10ページ参照)

参照:配布資料10ページ(PDF:3.19MB)

ラインケアとしては、先ほどお話ししたハラスメント防止を方針として明文化、それから、全社員対象のコンプライアンス教育の実施、マネージャーを対象としてメンタルヘルス研修の実施等を実施しています。

次に、セルフケアとしては、自分自身のストレスをみずからがマネジメントするための数々の施策を実施しています。また、人事評価では、上司の評価結果を必ずフィードバックする制度に、また、能力評価におきましては、上司が部下を評価するのみならず、部下も上司を評価する、このような360度評価を取り入れる予定でおります。それから、内部通報制度を整えて、社員の主としてメンタルの保護を図っていきます。

産業保健スタッフによるケアとしましては、産業医によるメンタルヘルス研修の実施、また、安全衛生委員会を組織して、定期的な健康課題について協議する場を設けていること、さらには、年に一度産業医に取締役会に出席してもらい、主としてメンタルヘルスチェックの結果を報告してもらっています。

最後に、外部リソースによるケアとしては、外部コンサルによる男女の特性の違いをお互いに理解するためのジェンダー研修や、社労士によるハラスメント研修を行いハラスメント防止に努めています。

ラインケア

第1の視点、ラインケアです。先ほどのハラスメント防止方針は、A1サイズのポスターを全拠点に張り出しています。また、毎年必ずコンプライアンス教育を社長みずからが全拠点を回ってコンプライアンスの遵守を訴えるとともに、教育を通じてコンプライアンス意識の浸透を図っています。具体的には、一方通行の座学で周知させるのではなく、読み合わせやケーススタディを行い、また、教育のアウトプットとしてコンプライアンスの浸透度テストを行っています。この教育は、臨時社員や特別社員も含めて、社員全員の受講を必須としています。

ラインケアの中で最も重要と考えますのは、産業医によるメンタルヘルスセミナーです。内容は、NIOSHの職業性ストレスモデル等を学んだ上でワークショップを実施して、グループでのディスカッションを行ってもらいます。ポイントは、他部署の方々とのコミュニケーションをとることで、ハラスメントについて自分たちが考え方やものの見方、あるいは価値観に触れていただくことが重要だと考えています。さらには、啓蒙DVDを試聴してもらい、その場で再びグループディスカッションを行い、ハラスメントの実例を客観的に理解してもらいます。その上で学んだことや自分の取り組みをコミットメントとして発表していただきます。

セルフケア

セルフケアでは、社員自身が自分のメンタルを守れるような措置を行っています。まずは産業医による健康講座の受講により、自分自身のストレス要因に対する反応や心の健康についての理解を深めていただきます。その上で、社員が自分自身のストレス解消方法を見つけられるように、例えば運動やボランティア、あるいは海外研修旅行等に参加し、リフレッシュする機会を会社として提供しています。

また、人事評価制度では、とにかく一方的にならないようにしています。MBO評価では、社員が自分自身の目標設定を行い、その上で上司との合意形成のための面談を実施しています。また、年度終了後には上司から部下への評価結果のフィードバックを実施するようにしています。さらにコンピテンシー評価では、上司から部下の一方的ではなく、部下が上司を評価する360度評価を来年度4月から導入する予定でおります。もし社員が何か不都合を感じた場合はいろいろな悩みについて相談する窓口を設けています。もちろんその場合、社員のプライバシーの保護や不利益を受けるということがないようにしております。

社員の相談窓口とは別に、より重篤な問題の内部通報についても社内、外部にも通報窓口を設置しています。通報ルートは、当人から直接は管理本部長が一旦受けて、それで監査役に報告、同時に当社では親会社の丸文の法務部長に報告をするという流れになっております。また、社内の職制での解決が難しい場合は外部の相談窓口も設けております。

産業保健スタッフによるケア

当社では健康経営を力強く推進しています。それはハラスメント防止にも大きく影響していくと考えています。第一に健康企業宣言のA1サイズのポスターを作成し、社内に張り出しています。そして、安全衛生委員会を中心として、健康経営体制を構築しています。その体制の中にアドバイザーとして産業医も入ります。また、社内で健康管理者の資格を持つ者を健康づくり担当者としてアサインして、健康プログラム企画推進や健康診断受診指導等々のさまざまな健康課題について取り組んでいます。

健康経営を推進するためにはそのための組織体制をしっかりと構築することが重要だと考えています。安全衛生委員会をそのコアとして捉え、毎月安全衛生委員会を開催して、健康課題について議論しています。また、産業医とのパートナーシップも非常に重要で、産業医にも毎月の安全衛生委員会に参加してもらっています。さらには安全衛生委員会の設置が不要な事業所においても担当者を選出し、同様に毎月の安全衛生委員会に参加してもらっています。衛生管理者の資格やメンタルヘルスの資格を保有している方が多いのが当社の特徴で、そういう方々にはこの安全衛生委員会に参加していただいて、健康課題について取り組んでいただいております。

次に産業保健スタッフによるケアです。産業医との提携が重要なことはさきにお話ししたとおりです。ハラスメントとは直接の関係はないかもしれませんが、メンタルヘルス障害を予防するという意味で、健康促進や生活習慣病予防は重要です。当社では健康保険組合とも提携し、情報交換を行いながら、社員の生活習慣病予防に努めています。また、当社では自販機へのカロリーと塩分含有表示や、野菜をもっととってもらうためにOFFICE DE YASAIを導入しています。これは冷蔵庫に野菜サラダ等々が置かれておりまして、社員は100円程を払っていただいて、オフィスでとっていただくというものです。また、全拠点でスポーツジムと法人契約を行っておりまして、社員は無料でジムを使用することができます。

外部リソースによるケア

当社では2種類のストレスチェックを実施しています。1つはアドバンテージリスクマネジメントのアドバンテッジタフネスと産業医による独自のストレスチェックです。アドバンテッジタフネスでは、事業所別の仕事のストレス要因やコントロールの状況を判定し、産業医のチェックではより詳細なチェックを行い、その上でその分析結果を取締役会にてご報告いただいております。

また、昨年度初めて実施したジェンダー研修において、男性、女性それぞれの特性をグループディスカッションを通じて洗い出し、自分との見解の違い、男女の見解の違いを相互認識することでハラスメント防止につなげています。この研修は昨年度、地域別、会場別で計6回実施いたしました。

ハラスメントの無い環境づくりを

ハラスメントを予防するにはハラスメントのない職場環境をつくり出すことが非常に重要です。その基本はまずは過剰労働を防止するための勤怠管理です。2019年の労働基準法改正に伴いまして、当社ではスマートフォンで打刻が可能なクラウドベースの勤怠管理システムを新たに導入いたしました。このシステムの導入によって管理者は部下の勤務状況や有給休暇取得状況をリアルタイムで確認できるようになりました。また、過剰な時間外労働を未然に防止するために、毎月の時間外労働の社内上限を設定し、設定基準に達した場合は本人並びに上長にアラームメールが発信されます。これは有給休暇取得状況も同様です。このように勤怠管理をしっかりと行い、過剰労働を抑制することでメンタルヘルス失調を発生させないような環境をつくっております。

とはいえ、業務の都合上でどうしても時間外労働が社内の基準時間を超えてしまう場合もあります。この場合、労働基準監督署とも協議をして定めた管理手法として、概ね45時間を超えた場合、まずは自己判断のチェックリストを書いていただいて、その上で上長と面談をしていただきます。上長、場合によっては管理本部長、産業医が当人と面談して、もし仮に時間外労働が当人に及ぼしている疲労度がかなり高いとなると、こちらの産業医とのワンオンワンの面談についていただきます。

ハラスメントを防止する環境づくりのためには、社内の男女格差を少なくしていくことも重要と考えております。当社では人事制度の改定や女性の業務改革の推進、女性の管理職、監督職の登用の推進、女性のスキルアップの支援、ジェンダーフリーに向けての規定の整備等を行い女性活躍の推進に努めております。

同様にワーク・ライフ・バランスやダイバーシティを考えることも重要です。当社では女性の育児休業取得率は100%ですが、男性の育児休暇取得も推進しており、直近2年間では、そんなに長い育児休業ではありませんけれども、5日間の取得率は50%ほどの方にとっていただいております。これを推進することにより、貴重なお子様の幼い期間に父親も育児期間として触れていただくことも重要で、何よりも奥様がうちの旦那は何かあったときに休みをとれる会社なんだと思っていただき安心してもらえることが重要だと思っています。

それから、当社では昨年の4月より1時間単位での有給休暇が取得できるようにいたしました。このことによりちょっとした用事、例えばお子様の送迎や通院もこの1時間単位の有給休暇を充てることができるようになりました。

以上のような取り組みを通じて、当社は北陸の企業では大変珍しいと思いますが、子育て支援企業に与えられる「くるみん」、女性活躍推進企業に与えられる「えるぼし」、そして健康経営企業に与えられる健康経営ホワイト500を取得しています。また、ほかにも県や市から与えられる認定や表彰を多数受けております。

丸文通商の取組み─コミットメント

今後も女性活躍に向けての施策を推進していきます。ただ、女性活躍ももちろん重要ですが、当然ながら男性にも活躍して頂きたいですし、高齢者やあるいは障害を持った方々等々、すべての社員の方に活躍をして頂きたい、言わば社員全員活躍に向けての環境整備を進めていきたいと考えています。その為には社員全員の健康が必要ですし、健康経営が最重要だと思います。また、その為には体の健康のみならず心の健康も大変重要です。今後も社員全員の健康に向けてハラスメントのない環境づくりを継続していきます。

プロフィール

越野 智明(こしの・ともあき)

丸文通商株式会社 取締役 管理本部長

富山大学を卒業後、流通系企業での勤務の後、1986年に丸文株式会社に入社。以降、半導体デバイスの営業、マーケティングを担当。2011年にデバイス事業部マーケティング本部⾧、同年6月29日に取締役就任。2014年に故郷の北陸に本社を置く丸文通商株式会社に入社し、経営企画担当の取締役に就任。2015年4月より現職。2018年より健康経営を強く推進しており、地方公共団体や民間企業からの要請に応じて、健康経営に関する講演も行っている。

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