事例報告 UAゼンセンのハラスメント対策の取り組み
─カスタマーハラスメントを中心に─

講演者
松井 健
UAゼンセン 常任中央執行委員(政策・労働条件局長)
フォーラム名
第107回労働政策フォーラム「職場のパワーハラスメントを考える─予防と解決に向けて─」(2020年1月10日)

UAゼンセンの組織概要でございますが、産業別の労働組合として、現在179万名の組合員を抱え、組合数でいうと2,400弱の組織となっております。大きく、製造産業部門、流通部門、総合サービス部門と産業別に区分けをして運営をしています。中小100人未満の組合が半数弱を占めており、大きな特色は雇用形態別の割合で、179万人のうち100万名以上がいわゆる非正規雇用(短時間の組合員の方、有期雇用の方、派遣社員の方々)となっております。

2019労働条件闘争方針 職場のハラスメント対策

まず、UAゼンセンの職場のハラスメント対策ですが、大きな取り組みとしましては、この春(2020年)にも交渉をいたしますが、その中に職場のハラスメント対策という要求を入れています。セクハラ、マタハラ、パワハラ、ハラスメント全般について、トータルな対策を整備するように組合のほうから要求をいたします。そしてセクハラについては、既に企業に方針作成や体制整備等の措置義務が課されているので、それを踏まえてセクハラ以外の悪質クレーム等の迷惑行為やハラスメントに対しても同様の措置をとるように協議を行います。具体的な内容については、厚生労働省で示されている内容でございますので、それに沿って体制をつくっていくということです(図表1)。

図表1 職場のハラスメント対策 基本的考え方と取り組み内容

2019労働条件闘争方針 職場のハラスメント対策
基本的考え方
セクシュアルハラスメント(LGBTに対してのハラスメントを含む)、マタニティハラスメント、パワーハラスメントなど、ハラスメント全般について、トータルな対策を整備するよう労使で取り組む。なお、顧客、取引先からのセクシュアルハラスメントについては、企業に方針作成、体制整備等の措置義務が課されていることを踏まえ、顧客や取引先からの暴力、悪質なクレーム等の著しい迷惑行為やハラスメントに対しても、同様の措置をとるよう労使で協議を行う。
取り組み内容
以下の7点を含めた、企業としてのトータルな対策を実施するよう労使協議を行う。必要に応じて労働組合独自で研修やアンケートを実施する。
①企業トップからのメッセージの発信
②ガイドラインや就業規則などの社内ルールの作成
③従業員アンケートによるハラスメントの実態把握
④管理職研修・従業員研修の実施
⑤会社の方針についての社内周知
⑥相談窓口や対応責任者を決めるなどの相談・解決の場の設置
⑦行為者に対する再発防止研修

参照:配布資料3ページ(PDF:2.09MB)

パワーハラスメントの実態─2017組合員意識調査の回答より

過去3年間にパワーハラスメントを受けたり見聞きしたりしたことの有無でいいますと、自身が受けたことがあるという方が正社員で2割弱、そして勤務先であったという方が3割弱ですから、かなりの職場でパワーハラスメントの実態があるということかと思います。

そして、短時間派遣組合員についても、若干数字は少なくなっておりますが、やはり合わせて3割強の職場でパワーハラスメントの実態があることが報告されております。

パワハラを受けた組合員の対応ですが、4割強は実際には何もしていないという回答結果です。また退職を考えたという回答も3割弱あります。この辺の実態については厚生労働省等で出されているアンケート調査等々とも数字が大きく変わることではないので、一般的な状況ではないかと思っております。

加盟組合のハラスメント取り組みの状況─2019年労働条件実態調査の回答より

全体のうち400組合ぐらいが回答しておりますが主に大きな組合が中心になっていることをご承知いただければと思います。実際取り組んでいる組合は、96%に及んでおり、どのような取り組みが行われているかというと、多いのは相談窓口の設置等となります。セクハラ等々法的な義務になっていることもございますので、本来は100%でなければいけないのでしょうが、実態はこのようになっています。回答している260組合の4割ぐらいの企業では実際に処分者が発生しています。

ここまでがハラスメント全般の取り組みでして、この後私どもが今中心的に取り組んでおりますカスタマーハラスメントについてご報告をしたいと思います。

70%が悪質クレーム(迷惑行為)を経験したと回答

2017年に、流通部門と総合サービス部門でアンケートを実施しました。そのうち、流通部門の調査結果を紹介させていただきます。有効回答5万弱のうち3万4,000人、70%の方が悪質クレームを経験したという回答です。これは無作為調査ではないので、必ずしも職場、組合員の7割が受けたということではありませんが、かなりの割合でそういう経験をされている方がいることがわかっています。

どのような迷惑行為に遭遇しましたかという質問では、複数回答で、暴言というのが6割強で一番多くなっており、その後、内容の繰り返し、権威的態度、脅迫、威嚇、長時間拘束、セクハラ行為となっています。この調査結果を見ますと、私ども悪質クレームという言葉で調査をしておりましたが、いわゆる商取引に伴って商品に何か問題があるとか、対応に何か問題があってクレームになるという事例よりも、一方的な暴言やセクハラ行為のように商取引とは全く関係のないところで起こっているという意味では、クレームにまつわる対策というよりも、ハラスメントという概念で捉えてこの問題に取り組む必要があるということが明らかになったと思っております。

そして、迷惑行為から受けた影響ですが、5割以上が強いストレスを感じたということですし、厚生労働省で労災支給決定件数が毎年報告されており、その中でもこの取引先等からのクレームによって労災認定されたという事例、精神障害になって労災認定されたという事例が7件あり、いじめが69件とありますから、それなりのウェイトがこの問題にはあるということだと思います。

続いて、迷惑行為に遭遇したときどのように対応したかは、5割近くは謝り続けたということでした。そして、迷惑行為から守るためにはどのような措置が必要かということでは、企業の組織体制の整備とクレーム対策教育が上位に上がっています。

悪質クレーム(迷惑行為)の具体的な事例

では実際にどのような事例があるのか、一部ご紹介しておきます。いわゆる暴言ですが、暴言を浴びせられる、何回も同じ内容を繰り返されるということと、最近増えているのはお説教をされてしまうということです。これは世代間の問題もありますが、一般的には高齢のお客様から若い社員に向かって、接客態度等の指導を受けてしまうということ、それから脅迫・威嚇、長時間拘束、これも非常に大きな問題になっております。

意外と多かったのがセクハラ行為でして、これはやはり女性の組合に多いケースですが、店舗内でこういうようなことが起こっているということです。そして、一般的にマスコミ等で取り上げられるのが土下座の強要ですとか、暴力行為です。

2019闘争で30組合が協議

取り組みの例としては、春の交渉の中でハラスメント全般への対応ということで取り組んでおります。交渉結果の例として、顧客からのハラスメントについては、対応マニュアルの周知の取り組みを実施、未然防止、初動対応、継続対応全ての面で、被害にあった従業員を守ることを基本として、本社が十分なサポートを行うなどのような取り組みが労使の間で徐々に行われているということですし、介護業界、介護で働いている方の労働組合も加盟していただいておりますが、いわゆる合同労組のような形で組織をしている介護クラフトユニオンでは42法人と、ご利用者、ご家族からのハラスメント防止に関する集団協定書を結んでいます。

法制化の取り組み

アンケート調査の後に署名活動を行い、厚生労働大臣に提出をしています。

2019年5月には労働施策総合推進法の改正案が成立し、そこでパワーハラスメントの措置義務が法律上の義務になったということに含めて、悪質クレーム等の顧客からのハラスメントについても、望ましい取り組みということで指針の中に記載されました。

2019年4月には介護については、厚生労働省から介護現場におけるハラスメント対策マニュアルというのが4月に出されまして、1つのモデルにしていきたいと思っています。

それから、政府の取り組みとは別に我々として野党に働きかけをしまして、労働安全衛生法の一部改正、労働安全衛生法の枠組みの中でこの取引先や顧客等からのハラスメントへの対応を義務づけていくという議員立法を出したり、悪質クレーム対策推進法といった、労働施策総合推進法に近い基本法的なものですが、こういうものを出したりしたところです。

また、消費者庁にも消費者教育の問題で要請を行っておりまして、基本方針に一定程度記載をしていただいています。

チラシやホームページで意識啓発

先ほどの署名活動をしたときのチラシでは、"サービスを提供する側と受ける側がともに尊重される社会の実現を目指して"というの私どもの考えをアピールしました。

また、ホームページでは、テレビコマーシャル風のものをつくって意識啓発にしております。実際にテレビに流すとなると非常にお金がかかってしまいますので、ぜひホームページでご覧いただければと思います(図表2)。

消費者の権利、労働者の権利の双方の尊重

この問題について我々が消費者団体の皆様等とも論議をする中で考えていかなければいけないと思っているのが、消費者の権利と労働者の権利の双方を尊重する取り組みを進めていかなくてはならないということです。

消費者や消費者団体の皆様から聞いておりますと、仮に顧客からのハラスメントを規制するような法律をつくると、消費者から企業への苦情や要求が阻害されてしまい、逆に悪質な業者が不当な商売を続けていく言いわけにされてしまうのではないのかという懸念も示されています。

我々としては、消費者は企業に対して何かを言うときに、大きな企業に対してものを言うということで、かなり気負いがあるということですが、労働者としては、消費者からのクレームというのは本来企業に向けられるものであって、労働者は労働契約に沿って、企業の指揮命令のもとに働いているわけですから、本来労働契約の意味合いが社会的に共有されていれば、もう少しお互いさまという考えが出てくるのではないか、そこが1つポイントではないかなと思っております。

悪質クレーム対策=正当なクレームの尊重

続いて、取り組みですが、企業の体制整備、先ほど言った労働契約の本旨として、労働者はどこまで対応する義務があるのかを明確にすること、企業の安全配慮義務として保護する体制整備をしていく必要がある。そして、悪質クレーム対策というのはイコール正当なクレームを尊重する企業の体制をつくることにつながるということです。

ILO暴力とハラスメント条約(190号)の概要

昨年6月に採択をされて、今批准を待っているところですけれども、この会議に参加して参りましたので少し紹介をさせていただきます。適用範囲等は非常に幅広いということ等が話題になっておりますが、基本原則は第4条の1のとおり、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するあらゆる人の権利を尊重するということです。権利として尊重するというところがこの条約の一番の精神でして、そのことが合意をされました。

基本原則の中に、第三者が関係する暴力とハラスメントについても考慮するということが記載されています。条約の論議のベースになっているのは、安全衛生の範囲の中でこの問題にきっちり取り組み、リスクアセスメントをきちんと行いPDCAサイクルを回していくという安全衛生活動の基本精神です。

プロフィール

松井 健(まつい・たけし)

UAゼンセン 常任中央執行委員(政策・労働条件局長)

1994年ゼンセン同盟入局。2016年から現職。労働政策審議会人材開発部会委員。

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