事例報告②「ダイバーシティを企業風土に根付かせる」取り組みの推進

講演者
本 昌子
株式会社NTTドコモ人事部ダイバーシティ推進室長
フォーラム名
第82回労働政策フォーラム「女性活躍新法と企業の対応:働き方改革と管理職の役割」(2015年12月15日)

ドコモでは、2006年に専任組織である「ダイバーシティ推進室」を発足しましたが、世の中の動きや会社を取り巻く環境が急速に変化したことから、2014年度以降、あらためて原点に立ち戻り、新たな取り組みを進めています。

ドコモ本体では約1万人のうち、約2割が女性社員と、男性社員が大半を占めていますが、新卒採用ではここ数年、女性比率は30%を超えており、女性管理職比率も2015年4月には、ようやく3%に達しました。

女性の平均年齢は36.7歳であり、今後、女性管理職へのステップが期待できる一方、ちょうどライフイベントに関わる社員が多いこともあり、年間約100~180人が出産休暇を取得しています。

また、育児休職については3歳まで取得することができますが、最近の傾向では1年以内に復職する社員がほぼ半数以上を占める状況となっています。

「ダイバーシティ=女性」という誤った意識も

ドコモが発足した当時は、移動通信事業のみを取り扱っていましたが、ここ最近はスマートライフ事業といった新しい領域にも力を入れています。この事業は、パートナー様との協業を通じて、生活を豊かにより便利にするサービスを提供したり、社会課題の解決や新たな価値を創造していくものです。まさに、この実現にはダイバーシティの推進が不可欠であり、現在、ダイバーシティ推進を経営戦略の一つに位置づけ取り組んでいるところです。

さて、ダイバーシティ推進室を設置して以降、第1フェーズ(2010年まで)においては、社内でダイバーシティという言葉すら浸透していない時代であったといえます。この段階では、言葉の理解・定着と同時に、両立支援制度の充実を目指して、女性にフォーカスした活躍推進に取り組んできました。

第2フェーズ(2010~2014年まで)になると、ワーク・ライフ・バランスに着目し、労使が一体となった活動(労使共に話し合う機会として「ワーク・ライフ・バランス推進委員会」を設置)を強化しました。

そして、現在(2014年~)、あらためて原点に戻り、振り返ってみたところ、少し課題が見えてきました。

ダイバーシティ推進室の設置以降、女性の活躍支援には、かなり多くの活動を行ってきましたが、先ほど紹介したとおり管理職比率はまだ3%に過ぎません。

たしかにダイバーシティという言葉そのものは浸透してきましたが、活動のターゲットが女性に偏っていたこともあり、「ダイバーシティ=女性」という誤った意識が醸成されていたことも事実です。

そこで「ダイバーシティは経営上の戦略的課題」との意識を社員一人ひとりが持つよう変革しなければならないと考え、現在、真剣に取り組んでいるところです。

四つのサイクルで新活動を展開

活動の方向性としては、大きく四つのサイクルを回していこうと考えました。

その一つは『活動の見える化』です。これまではドコモ本体とグループ会社が別々に活動していましたが、ドコモグループが一体となって取り組むことで、どの会社であっても同じベクトルを向いていることを明確化しました。二つ目は『更なる理解』です。それぞれの活動を進める中で、ダイバーシティ推進は企業の成長に直結していることについて理解を深めていきます。そして三つ目は、社員一人ひとりが意識を高めることにより『理解から行動へ』と変革を促し、四つ目として、女性活躍の加速にも繋がる『結果的に影響をもたらす』というものです。

それぞれのサイクルでの具体的な活動を紹介すると、一つ目の『活動の見える化』では、まず現状を把握することを目的として、昨年度、グループ会社全社員(3万人)を対象に意識調査を行いました。また、今年度からは、階層別に実施している研修にダイバーシティに関するカリキュラムを確実に盛り込んでいます。この階層別研修とは、新任主査や新任課長、新任部長を対象としたもので、男女にかかわらず全員が受講しています。一方、組織横断的にダイバーシティを考えたり、特定のテーマについてディスカッションしたりする機会をダイバーシティ推進室で企画し実行しています。

なお、ダイバーシティの推進体制については、本社人事部のダイバーシティ推進室(室長含め3人)が事務局となり、全国各支社の各部門にダイバーシティ推進責任者を配置し、同じベクトルでの活動を展開しています。各支社の状況によって直面する課題は異なることから、それぞれが責任を持って課題に向き合い、主体的に活動を進めています。

また、それぞれが主体性を持って活動することによって、9地域(8支社+本社)の様々なノウハウが蓄積されることから、定期的(年3回)に会議を開催し、これらを活動事例として共有しています。

その結果、最近では各支社間で切磋琢磨するようなポジティブな雰囲気も生まれてきています。

社員自薦のワーキンググループも設置

二つ目の『更なる理解』では、企業理念や社長等からのメッセージをより浸透させるため、毎月1回、幹部から「ダイバーシティ・メッセージ」を発信しています。このメッセージは、誰もが社内イントラネットを通じて閲覧でき、今ではトップクラスの会議資料と同様の閲覧数に達するなど、ダイバーシティが身近に、そして意識の浸透が少しずつ進んでいることを実感しています。

三つ目の『理解から行動へ』は、当事者意識をいかに高めていくかが重要なポイントとなります。したがって、ダイバーシティ推進室(3人)のみでは、社員一人ひとりに届く深い活動にも限界があるため、ダイバーシティ推進活動を共に実践してくれる社員を募集しました。その結果、40人ほどの応募があり、その中から20人程度を選抜し、ワーキンググループ(WG)活動を展開しています。

WG活動では、前述した全社員への意識調査結果から浮き彫りになった課題をピックアップし、ドコモグループ全体を展望した活動を行っています。各WGメンバーは、社長からの積極的な応援や、前社長(現顧問)がアドバイザーを担っていることもあり、ダイバーシティ推進活動を会社全体の戦略的課題として認識することができ、非常に高い意識を持って活動することができています。

象徴的なポストに女性を積極的に配置

四つ目の『結果的に影響をもたらす』とは、全てのサイクルをしっかりと回していくことにより、女性の活躍推進を実現していくもので、「2018年度までに女性管理職比率5%到達と女性役員数10人以上」を目標に掲げています。ここでの活動の一つに、女性社員向け総合支援プログラム「Win-d活動(Women’s innovative network in docomo)」があります。このプログラムの活動を二つご紹介します。

一つは、管理職一歩手前の主査レベルの女性社員の中から、ロールモデルを輩出していくものです。(Win-d Start)ロールモデルとなった社員は、それぞれに若手社員との対話会を開催し、この先起こりうるライフイベントへの不安をどう払拭し、キャリアアップに繋げていくかというディスカッションを通じて意識改革を支援しています。

二つ目は、管理職に登用された後の活動です。以前であれば、自分の頑張りによって、その先の道を切りひらいていくことが当たり前でしたが、現在では、女性役員の輩出目標の達成に向けて、役員との交流会を開催したり、自組織の組織長と月に1回(1時間程度)、メンタリング機会を設けるなど、リーダーとしての資質を高める施策にも取り組んでいます。

そして、人事部としても二つの新たな仕組みを設けました(シート1)。

その一つが「Symbolic one」であり、象徴的なポストに女性を積極的に配置していくものです。

そして、もう一つが「Plus one」です。これは、組織や各担当における女性比率のリバランスを整えていく取り組みで、なるべく女性社員をいろいろな環境に配置していくものです。

少し修羅場の経験を得られるようなポストであっても女性を象徴的に配置していくといった人事方針を、会社のメッセージとして全社員に発信しています。

働き方の改革を通じて社員を支援

一方、女性活躍をサポートする側面では、働き方改革の一環として、柔軟性のある制度をスタートしています(シート2)。

例えば、2015年4月に導入した「スライドワーク」は、育児中の社員であれば、朝早く出社し早目に退社できるもので、短時間勤務を選択することなくフルタイム勤務が可能となる仕組みです。当然、女性だけでなく男性社員も対象で、誰もが積極的に育児に参画できることを目的にしています。現在、全国で150人程度がこの制度を活用しており、その約1割が男性社員です。

シート2 働き方の改革~制度の多様化~

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参考:配布資料17ページ(PDF:2.06MB)

また、評価制度の運用についても見直しました。例えば、育児休職等を取得し勤務実績のない期間が生じたとしても、復職後の評価結果と所属組織からの推薦によってリカバリ昇格を可能とするものです。これにより、たとえ育児休職を取得しても、本人のやる気と能力次第で昇格候補に上げることができます。

さらに、「メリハリある働き方」をしてもらうため、朝型勤務を推奨し、時間外労働を早朝にシフトし定時に退社する「プライオリティワーク」の推進や、男性社員の育児や家事への参画を促進するために、グループ会社が運営する料理教室(ABCクッキング)の受講費用を会社が半額負担するといった仕組みもトライアル導入しています。

他にも、男性社員の育休取得の推進には目標値を設け、各組織50%以上を目指して取り組んでいます。

プロフィール

本 昌子(もと・まさこ)

(株)NTTドコモ人事部ダイバーシティ推進室長

1990年NTT入社、移動体通信事業本部研究開発部勤務。1992年移動体通信事業本部が分社化、(株)NTTドコモへ転籍。その後、サービス開発部、モバイルコンピューティングビジネス部にてデータ通信系のアプリケーション開発(主に位置情報サービス、動画伝送システムなどの開発)に従事、神奈川支店にて法人SEの現場経験を経て、本社システムサービス部、ソリューションビジネス部にて法人系サービス開発に携わる。2014年6月に現職である人事部ダイバーシティ推進室に着任。ダイバーシティ推進の活動が、ドコモの通信事業、また、新しい事業領域の成長につながるよう、社員一人ひとりの当事者意識を高める活動展開に注力している。

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