パネルディスカッション
高齢者の多様な働き方と社会参加の実現に向けて

パネリスト
藏本 秀志
ダイキン工業株式会社
人事本部人事・労政・労務グループ担当課長
有我 昌時
株式会社高齢社取締役(株式会社かじワン代表取締役社長)
前田 展弘
ニッセイ基礎研究所主任研究員
(東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員)
コーディネーター
伊藤 実
公益社団法人全国求人情報協会理事
フォーラム名
第75回労働政策フォーラム「高齢者の多様な働き方と社会参加の実現に向けて~企業・行政・地域の取組み~」(2014年9月25日)
写真:壇上の講演者の様子

伊藤 パネルディスカッションを始めます。最初に、企業内でどこまで雇用延長していけるかという問題を考えてみたいと思います。次に、長く勤めた会社を退職した後、別の会社でどのように働けるのかといった外側の枠組みについて検討してみたいと思います。それから、最終的には住んでいる地域社会に戻らざるを得ないのですが、そのあたりがどうなっているのか議論してみたいと思います。とくに地域社会については、これまであまり議論されてこなかったテーマです。最近、消滅する市町村が非常に多いといった衝撃的なレポートが出て、日本中が驚かされたりしていますが、地域に高齢者を受け止めることができる仕組みをどのようにつくっていくかが重要だと考えています。

テーマ1 企業はどこまで雇用延長していけるのか

伊藤氏の写真

伊藤氏

まず、企業内の雇用延長に関しては、これまで法律的な枠組みをつくり、企業に雇用延長を強制してきたというのが実態です。任意ではなかなか進まないため、高年齢者雇用安定法を改正して、最初は55歳だった法定定年年齢を60歳にしたわけです。

私は昨年度までJILPTに在籍し、長年、労働行政の基礎調査をしてきました。60歳定年延長の法改正に際して行った調査で、非常に衝撃的な結果が出て戸惑ったことを覚えています。それは「いま働いている職場で何歳まで働けそうか」を尋ねた大規模アンケート調査で、企画した側としては「60歳以上」との回答が多いことを期待していたのですが、集計結果をみたら平均値が56歳ぐらいになっていました。ただ、詳細に調べてみると、回答者の年齢が上がるほど働ける年齢が上がっていく傾向が認められたため、50歳以上の人だけで集計してみると、63歳か64歳までは働けそうだという結果になりました。

そういう経緯もあって、定年年齢を延長した後、さらに65歳までの継続雇用を努力義務とした法改正をしたときは、人事評価などで選別せずに希望者全員を雇用延長するという内容になりました。これは企業にとっては大変高いハードルです。

みえにくい仕事をする人への対応

その点、今日の事例発表を聞いていまして感心したのは、ダイキン工業の再雇用希望者が90%ぐらいにのぼっていることです。恐らく、働く人にとって居心地の良い会社なのだろうと思いました。日本を代表する有名企業でも、雇用延長の希望者が3割程度といったところもあります。

とはいえ、冒頭の清家先生の基調講演にもありましたが、90%もの人を抱え込むと生産性は下がります。私の調査経験でも、能力が非常に高くて企業に貢献しそうな人ほど、一律処遇をしていると辞めてしまう傾向があります。そこで、高能力者がやる気を失わないような仕組みをどうつくったらいいのか。それから、みえにくい仕事をする人への対応をどうするのか。たとえば、生産現場は作業工程の「みえる化」が進んでいて、何をしているかが一目瞭然です。厄介なのはホワイトカラーの仕事で、これはみえにくい仕事がいっぱいあります。藏本課長の講演にも「何をしているかわからない人がいる」という話がありました。企業として、そのあたりをどのように考えているのかをお聞きしたいと思います。

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藏本氏

藏本 当社の再雇用は原則一律の処遇ですが、一部に例外的な処遇を適用するケースもあります。凄い技術を持った人などは中国や韓国のメーカーから引き抜きの声がかかることもあり、その対抗策というわけではありませんが、他社にノウハウを持っていかれるよりは多少処遇を良くして当社で引き続き頑張ってもらう方が良いという考えもあります。そのような人も例外的処遇の適用者の一部となっています。

ホワイトカラーの仕事ぶりの評価ですが、定年までの社員は目標管理制度を中心に仕事ぶりを確認しており、再雇用の人にも仕事の進捗や成果などを各職場でケアしています。そういった仕組みがうまく運用できている職場や人については、再雇用者でもやりがいを持って働いていると思っています。一方、元高役職で、上司となる人が部門の長である役員ぐらいしかいないような再雇用者の中には、「誰が○○さんの仕事の管理をしているの?」といった感じで、うまく仕組みを運用できていないケースも無いとは言えず、そのあたりは課題だと感じています。

部長クラスもプレーイングマネジャー的な動きを

伊藤 清家先生の基調講演で「中小企業でグローバルニッチのトップ企業はすばらしい」とのお話がありました。私もそういった企業を調べていますが、70歳代、80歳代の人もいて、皆、熟練工です。それはさきほども触れたように、仕事の「みえる化」が進んでいるので、「あの人は残す」と社長がいうと、他の現役社員も当然だと思うわけです。

問題は管理職です。特定の市場でトップシェアを誇るような中小企業と大企業の違いをみると、中小企業はまず賃金が年功的ではなく、どういう仕事を担当して権限がどのぐらい与えられているのかといった職務・職責給に近い形です。そして、職務分析をすると、完全な管理業務に特化している人はいなくて、必ずプレーイングマネジャーになっています。大企業は管理サイズが大きいこともあり、管理業務に特化する人がいますが、その点はどうですか。

藏本 当社も2000年に人事制度の抜本改革をしたときに、「管理職から基幹職へ」という変更をおこない、その段階で管理業務に特化する人はほとんどいなくなり、部長や部門長クラスでもプレーイングマネジャー的な働きをするようになりました。また、海外への事業展開を進めていることもあり、元管理職の高齢者でいろいろなノウハウを持った人に海外で活躍してもらうケースも多いです。

伊藤 そういったことが可能なのは、企業が基本的に成長モードにあって、働く場所が増えているということがありますよね。しかし、いまの日本は経済成長が停滞しているところに高齢者が増えていますから、一般的な状況は大変厳しい。ところで、海外に行った日本の熟練者の評判はどうですか。

藏本 海外で現地工場の立ち上げの指導とか、何らかの技術・技能を教えるとなると、高齢者本人も凄くやりがいを持ちます。東南アジアや中国では年配の方が尊敬されますので、「先生、先生」と教えを請われて、本人も気持ちよく仕事をしているケースが多いように聞いています。

成果に応じた報酬体系の検討を

伊藤 もう1つぜひお聞きしたいのは、職務給的な仕組みについてです。年功制は、社員が若い時はすごく機能するよいシステムですが、40代半ば過ぎてまで年功制を続けていると非常に厄介なことが起きてきます。そこで、高齢者にこそ、「こういう仕事はいくら」といった職務給が合うのではないでしょうか。先ほどの余人をもって代えがたい人は、給料水準を据えおいてもよいわけです。発表の最後にも少し触れていましたが、現行のままで今後60歳以上の社員がどんどん増えてきた際の労務費コストと生産性をどう考えるのか。将来、対象者が増えて、なおかつ仮に企業の成長が鈍化したときに、どんなことが考えられますか。

藏本 やはり、成果に応じた報酬という体系を考えていかなければいけないのだろうと思います。他方、当社の風土は仕事に対する報酬という考え方より、人が中心です。「このポストだと幾らの給料」というより、「この人の役割と成果ならいくらの給料」という個人が中心の報酬決定になっており、職務給に当てはめるのが難しい面があります。とはいえ、再雇用制度をつくった時よりも、将来的に労務費コストが増えていく計算になり、一律的な再雇用者の報酬制度の見直しが近々必要で、そこはやはり成果に応じて差を付けていく形に変えていかねばならないだろうと考えています。

伊藤 高齢者は、ほんとうに多様です。たとえば、ある百貨店が再雇用に際して基本給を半分ぐらいに抑えて、その代わりにコミッションセールス(歩合制)を入れました。すると、60歳過ぎてから著しい成果をあげる人が出てきました。60歳までは何をやっていたのかという話になるわけですが、年功給なのであまり頑張っても仕方ないという思いがあった。ところが、60歳以降では頑張ればコミッションセールスで上乗せできるので、途端にエンジン全開して59歳時より高給になってしまったという次第です。

もう1つ、あるゼネコンで定年退職した3,000人ぐらいの1級建築士がぶらぶらしている現実がありました。そこで彼らを個人住宅部門で技術支援や竣工後のメンテナンスなどで活用することにしたら、次々と新築住宅を受注してくる者が現れたわけです。懇切丁寧に依頼主の相談に乗ってあげた結果、それが口コミで広がって受注に結び付いたケースです。

高齢者の場合は隠れた能力というものがあって、それが顕在化していない場合が多い。それを押しとどめているのが一律に扱う人事の対応です。日本企業は平均的なマネジメントは上手ですが、尖ったところのマネジメントをもう少し上手く対応してもらえたらと思います。

テーマ2 企業の外の枠組みでどのように働けるのか

伊藤 次に、長く勤めた企業の外側の枠組みの話です。高齢社では、東京ガス出身以外の人が何人いますか。また、そういった人はどんな人がどういったチャネルで応募してくるのでしょうか。

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有我氏

有我 半分が東京ガス以外の人です。当社では特別に募集はしていません。事例報告でもお話しましたが、社名がユニークなので、マスメディアに載る機会が結構あります。たとえばテレビ東京の「カンブリア宮殿」のようなもので紹介されると、1、2週間で300件ほどの問い合わせが来ます。働きたいのに仕事がない高齢者は多く、特別に募集しなくても困ったことはありません。ただし、「かじワン」の方は少し困っています。女性の場合、一度働いたことがある人は募集しますが、ずっと家庭にいた人は「働きたいな」と思ってもなかなか勇気がでないようです。

伊藤 すると、男性で会社を定年で辞めたかなり多くの人は、家でテレビをみていたりして、高齢社が放映されるとすぐにアクセスしてくるような感じですか。また、応募してきた人は、キャリア的にみて何か傾向がありますでしょうか。

有我 私もそうでしたが、やはり50歳ぐらいのときは「60歳で定年になったら絶対に働かない」と思ったりするものです。でも、大概の人はそうだと思いますが、退職して3~6カ月ぐらいしたら、働きたくなるのではないでしょうか。

やりたい仕事と過去の職歴は必ずしも一致しない

応募者の特徴については、大企業の場合はその会社でそれなりに面倒をみているところが多いので、傾向としてはとくに偏りはみられません。たとえば、中小企業の取締役員とかテレビのディレクターとか、非常にまれな例で大学教授とかも応募してきます。そういう人は、自分のテリトリーの仕事をしたいと思って申し込んでくるわけではありません。そういう人は、自分の専門分野であれば、自分で探せますから。そういった人は、「昔の名前で出たくない」ということで、とにかく体が動かせて働く場所さえあればいいと言ってきます。それとは真逆に、「私は前はこういうことをやっていたんだ」みたいな形で、過去の経歴を振りかざす人がいますが、そういった人は使ってもらえません。

伊藤 やりたい仕事と過去の職業経歴はあまり関係ないのですか。

有我 必ずしも一致しません。「こういう仕事がありますからどうですか」「ああ、いいです。やってみましょう」といった感じです。

伊藤 では、人気のある仕事ってありますか。

有我 とくに傾向や偏りはありません。希望があっても「できれば、以前やっていたことに近い仕事がよい」程度で、「仕事があればいい」という人の方が多いです。

伊藤 前田さんの場合、それを地域でやっているわけですよね。「生きがい就労」といっても、分解していけば仕事内容になりますが、希望者が多い仕事とそうでない仕事がありますか。

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前田氏

前田 男女で好む領域が多少異なっています。子育てや生活支援、福祉関係は女性、農業関係は男性が多いです。それから、男性のホワイトカラーの高キャリアの人は学童保育とか教育関係を望まれる傾向がありました。

技術の変化についていけない人への対応

伊藤 ダイキン工業では、定年延長した後、雇用延長していて、基本的には現職をそのまま継続しているわけですが、現業部門で技術革新についていけないとか、ホワイトカラーも、たとえばITとかは技術変化が激しいので、高齢者には内容がよくわからないといったケースが発生したら、どう転換するのでしょうか。

藏本 現業部門では、ラインスピードについていけなくなるということがありますので、高齢者向けのラインをつくって移ってもらっています。また、特別な専門性のない現業部門の人は、製造間接的な業務や工場の保安警備、造園などの職種に変わってもらうケースがあります。熟練技能を持っていて、それを若い人に伝承していく人はその道を進んで行くことになります。それ以外にも他の関連業務に変わっていく人もいます。ただし、それは定年を待たずに50代半ばぐらいから徐々に職場を移っていくイメージです。

伊藤 それは定年退職の準備教育のような形で本人の意向を聞き、会社の意向と摺り合わせながら徐々に移していくわけですか。

藏本 特段、そういった学習は行っているわけではなく、56歳時に賃金を見直す制度があり、その前段で所属長と本人が対話する仕組みになっており、その際にいろいろな話をして定年を待たずに他職場へスライドしていくという形が多いです。

伊藤 企業内で、たとえば高齢社のような派遣の仕組みを設けるようなことは考えていないのでしょうか。

藏本 いろいろな部門で人が足りないので、異動させることはありますが、派遣部署をつくってやりとりするといったことは今は考えていません。逆に言うと、そこまでたくさんの人を動かさねばならないというニーズは今のところ、ありません。

高齢者とのコミュニケーションが実践的な育成に

伊藤 高齢社の請け負う仕事は、すごく幅広いですよね。その中で非常にフィットしてクライアントにありがたがられている代表例はどのようなものがありますか。

有我 たとえば、修理のメンテマンの車に乗っている単純な仕事がありますが、これも実は喜ばれています。若い修理マンと1日中、車で一緒にいて、高齢者が今までの生きざまとか社会的な経験を話すことが非常に勉強になる。これは研修よりも実践的な育成につながるということで、非常にありがたいと言われることがあります。東京ガスの仕事もそうですが、直接の上司から言われるより、もっと親身にいろいろなことをいってくれてありがたいといわれるケースはかなりあります。

伊藤 学生を教えていて強く感じるのは、同世代とはよく話しますが、年の離れた人とは話さないし、話した経験がない。核家族化した家庭には高齢者がいない、学校では同世代としか会わず、社会に出ていきなり上司と話すことになるわけです。今の若者は高齢者と話すコミュニケーション能力が非常に低いのです。

有我 ですから、なかには、「親父と話したことはない。上司から話されるのは嫌だ。でも、おじさんなら話せる」となります。

人柄のよい人はどこでも歓迎される

伊藤 なるほど。では逆に、嫌われる高齢者にはどういった特徴があるのでしょうか。

有我 それは先ほども少し触れましたが、「俺は昔、偉かったんだ」というようなことを振りまく人です。そういう人はちょっと困っちゃいますね。

伊藤 先ほど紹介したゼネコンも同じでした。個人住宅部門に呼び寄せた定年退職者について、1年後、「来年もこの人と一緒にやりたいか」というアンケートを取ったところ、3、4割の人にレッドカードが出ました。それを要因分析していったら、「威張る人」でした。

有我 その傾向はまったく同じだと思います。

伊藤 実際に派遣してみたら、すごい能力を発揮したとか、期待外れでうまくいかなかったことはありますか。

有我 そういうのはあります。先ほど、伊藤先生からお話があったように、現役のころはあまり販売成績が上がっていなかったのに、なぜか高齢者派遣で行ったらすごく売り上げを上げたとか。あとは、現役のころは工場の堅い仕事をしていた人が、営業現場に派遣されてそこで初めて自分のほんとうの能力がわかったケース。実際、適材適所といいながら、必ずしもみんな適材適所にいるわけではないので、そういった現象もたまにみられます。

反対に、いいと思った人が意外にうまくマッチングしなかったこともあります。それもいろいろな理由がありますが、基本的にはやはり人柄です。人柄がいい人はどこでも歓迎されるということです。

伊藤 やはり、最後は人柄が出てきてしまいますね。長期勤続の正社員を雇用している企業でもそうでしょうか。仕事はいま一つでも人柄がいいと、その方が評価されますか。

藏本 それはそうですね。高齢者については、人柄が良い方のほうが、職場での受けがいいです。

重要な「キャリアのみえる化」

伊藤 それから、有我さんに指摘していただいた適材適所も大きな問題です。熟練工のような人は別ですが、ホワイトカラーの場合、一般的に自分がどういう適性能力があるのか、ほんとうはわかっていないのです。最近、長期失業者の調査をしました。国が民間企業に委託して、長期失業者を再就職させるプログラムなのですが、意外と効果がありました。何が効果的だったかというと、職歴ではなくカウンセリングでした。腕ききのカウンセラーにかかると、彼らの専門用語でキャリアチェンジというのですが、本人の眠っている潜在能力を引き出してあげるわけです。「これでもうあなたは再就職できますよ」と背中を押してあげると、1年以上失業していた人が再就職に成功してくるのです。

日本企業の年功制は職務概念が曖昧で、何でもフルセットで曖昧に抱え込んでしまいます。若いときはそれで良いのですが、年を取るにつれて負担になり、それが長時間労働に結びついてしまったりします。再就職しようする時に、自分のできることがわからなくなってしまうといったことも起こるわけです。ダイキン工業では、その辺のところに気をつけて人事施策を講じていますか。

藏本 具体的に何か策を講じているわけではありませんが、当社は56歳時点で基本的に役職を外れる役職定年を残しています。そのあたりから社内でのポジションも変わっていきますので、再雇用の頃には自分の立場をわきまえた人が多くなっています。

伊藤 重要なのは恐らく、「キャリアのみえる化」でしょう。期待値先行で、「いつか部長になれるのではないか」と思ったまま突っ走ってしまうと、はしごを外された時のショックが大きくなってやる気をなくしてしまいますよね。ならばキャリアをみえる化し、「部長は無理なので、違う道を歩む準備をして下さい」と言われた方がよいと思うのですが。

ところで、高齢社の場合、仕事を出してくる会社の求人に変化はみられますか。

有我 とくにはありませんが、本音をいえばもう少し仕事を出してもらいたいです。たとえば、東京ガスはわりと高齢者に優しい会社で、結構仕事を出してくれています。でも、普通はなかなか仕事が出てこなくて、出てきてもやっと1人。高齢者問題を自分たちの範囲のなかで考えるのではなく、もう少し大きく広げて考えてもらえたらと思います。大企業は自分たちでどうにもなりますが、中小企業で定年を迎えてしまった人たちには、やはり大企業のような道はなかなかないわけです。なので、当社のようなところに応募してくるわけです。そういう人たちがこれだけ多くいるので、副次的な仕事でも何でもいいから出して欲しいし、行政指導も含め、そういう動きをしていただきたい。そうでないと、これからの超高齢社会を円滑に運営していく社会はなかなか来ないのではないかと思っています。

テーマ3 地域で高齢者を受け止める仕組みがあるか

伊藤 地域で生きがい就労をやるときは、まさにその問題ですね。企業がすべて抱え込んでいるものを、もう少し切り分けすることで仕事が増えるわけです。前田さんたちがやられている柏のケースでは、そういうプログラムのようなものを立てて拡大しようというような、一種の営業活動を考えているのでしょうか。

前田 それはもちろん考えています。生きがい就労で9つの事業に取り組みましたが、今、進めているセカンドライフの支援事業では活躍できる場の拡大をはかっていきます。そのためには、情報の集約が必要です。柏市内でシニアの人が活躍できる場所がどれだけあるのか、意外とこうした地域資源の情報は誰も把握できていないです。自治体も組織ごとに管轄している組織や団体がさまざまで一元的管理がなされていません。柏市ではそうした情報の整理と一元化をまず行い、シニアの活躍の場を拡げていこうとしています。

シルバー人材センターと同時並行で活動を推進

伊藤 なるほど。生きがい就労で1つ聞きたいのは、シルバー人材センターとの違いです。

前田 少し申し上げづらいところがありますが、敢えて申しますと、シルバー人材センターが今のシニアおよび中年層のニーズに応えられていれば、おそらく私たちのような活動は必要なかったと思います。シルバー人材センターは労働と福祉の両方の性格を持っていますが、提供できる仕事のメニューは制約的でかなり限定的です。会員数が伸び悩んでいる状況や団塊世代の方々の声を拾うと、わざわざシルバー人材センターに入ってそこで働こうと思われる人は今後さらに少なくなっていくのではないかとみています。

高齢化が進捗するなかでシルバー人材センターの役割は非常に大きく、期待していることも事実ですが、センターがより魅力的な組織になるのを待っていられない現実がありました。そのため「生きがい就労事業」を手がけてきた経緯があります。

伊藤 シルバー人材センターは当初、「福祉でもない労働でもない生きがい就労みたいな仕組みをつくれないか」という発想で研究会を開いたのが始まりでした。その後、国庫助成することになって全国展開されて大きくなりました。実際の仕事内容を調べますと、草むしりとか放置自転車の整理などで、「これではホワイトカラーの人はあまり働いてみたいと思わないだろう」ということで、職員研修でたびたび「職域を開発しないとだめだ」といってきたのですが。前田さんが生きがい就労をしている柏市でも、放置自転車などの仕事以外には広まっていない様子ですか。

前田 そうした実態もありますが、改善方向にあります。柏市のシルバー人材センターとは定期的にミーティングも重ねながら、センターの機能充実に向けた取り組みを進めています。全国のシルバー人材センターもここ数年で相当、内部での改革意欲が高まっていて、事実、そういう動きもみられています。ただ、全国で1,300カ所あるなかで、取り組みの温度差は否めません。

センターの今後の方向性として、先ほどご紹介したセカンドライフの組織づくり(プラットフォーム化)の中で、センターがその組織の中心になる、あるいは機能の一翼を担うことがあると思います。今後進められるであろう地域における社会資源の再統合の中で、センターが新たな機能と役割を担っていくことが必要と考えています。

地域密着型と地域横断的な仕事の棲み分けを

伊藤 地域活動との絡みでダイキン工業にお尋ねしたいのですが、地方に立地している工場の地域社会との付き合いはありますか。前田さんたちがしているようなことと関連した仕事が絡んだことはないでしょうか。

藏本 高齢者と仕事が絡むような取り組みは聞かないですね。地域との交流については、文化活動はしていますが、地域で雇用を生み出したり仕事をつくるようなことはできていないのが実態だと思います。今後の高齢者雇用の機会という意味では、企業と地域とが何か一緒に創造できるといいとは思います。

伊藤 高齢社の場合は、地域との関わりは何かありますか。

有我 高齢者雇用の場合、地域はいまお話があったシルバー人材センターがありますよね。ですから、地域では基本的にシルバー人材センターの方々がやられていると思います。では、シルバー人材センターがありながら、どうして高齢社のような派遣事業が成り立っているかといえば、高齢社は地域横断的な仕事ができるわけで、そこが違うと思っています。

たとえば、「かじワン」のような家事代行事業は、実はあまり近くてもだめです。あまりに近い人に来てもらうと、「うちのなかをみんなみられちゃうから嫌だ」となる。適当な距離があった方がよいのです。ですので、当社のようなところが、そういった仕事を担うことでちょっと違った色を出せると思っているのです。要するに、地域に密着した仕事は地域の高齢者がやってもいい。ただし、ある横断的な仕事は地域にかかわらず、われわれのようなところがすればいい。われわれのような会社が、業種ごとに成立すれば非常にいいのではないかと思っています。

Q&A

伊藤 いろいろ貴重なお話をいただきました。ここからは、フロアからの質問にお答えしたいと思います。まず、ダイキン工業のケースで、役職定年で降格された人のモチベーション対策とか、具体的にどういう仕事に関わるのか、そして生涯年収の設計上、賃金体系を変えた点についてお伺いしたいということです。

再雇用者のモチベーション対策

藏本 役職定年は、社内制度として基本的には皆が対象になりますし、賃金のダウンも年齢が来たら仕方ないと思っています。ただし、仕事はそれでもやらなければいけないし、社内での自分の今まで築いてきたポジションもありますので、役職が外れたことでモチベーションが多少ダウンする人もゼロではありませんが、与えられた自分の職責の中で頑張ろうと考える人が多いです。ただし、製造部門のライン課長などを担っていた人が、56歳でまったく違う製造間接的・補佐的な仕事になったりすると、随分モチベーションダウンすることがあると聞いています。このため、そういったケースは人をみて、海外の工場で頑張ってもらうなど、本人の経験とやりたいこと、会社のニーズがうまくマッチするように配置できるように意識をしています。

生涯年収については、56歳で給料の見直しがありますので、そこで一旦下がって、60歳の定年・再雇用時にもう1段下がります。2段階になっているので、60歳の定年から再雇用になった時に一気に落ちるより、ワンクッションある分だけインパクトが小さいのではないでしょうか。ただし、「こんな給料でこんなにこき使われて」と不満を口にする人も、なかにはいます。

伊藤 いずれにしても、かなりきめ細かな対応というか、心のモチベーションとかに注意しないといけないということですか。

藏本 やはり、頼られるとすごくやってもらえるというのが各職場の経験値としてあります。うまくお願いをして、給料が下がってもどんどんと働いてもらいたいというのが、何となく職場の雰囲気になっている感じがします。

高齢者の採用時に重視すること

伊藤 リストラされた日本のベテランが、近隣諸国の企業に雇われて新しい職場で働いていますが、多くの人はねじり鉢巻きで働いています。それは現地の人が日本人をものすごく頼りにするため、やりがいを感じているからです。日本の企業は、これまで高齢者に対してやる気を失わせる方にばかりシフトしてきましたが、今後はやる気を高める方に向かうべきでしょう。

有我さんには、「採用時に重視されていることは何か」という質問が来ています。この回答は人柄ですか。

有我 人柄も、初めての人はすぐにはわかりません。採用時はやはりモチベーションです。やる気については、面接していても割と掴める部分があります。あとは健康ですが、これもどこか悪いところがあっても、どうしても働きたくて隠している人がいますので、そこら辺を上手に引き出せるかだと思います。最近は、たとえ高齢者でも人を採用するときには、ほんとうは聞きたいところでも、そこで直接聞けない場合もいろいろあります。そこで1時間ぐらいじっくり面接して、何とかそういったところを引き出さねばなりません。派遣はやはりマッチングが命。1つダメになってしまうと、次の仕事にもつながるものです。あとは年齢も考慮します。いま応募者の3割ぐらいは70歳以上の人で、なかには80歳の人も来ます。そこは年齢は問わないといいながらも健康面などで働くことが難しいような場合には、「仕事を探すのはちょっと難しいですね」というような話をしてお断りすることもあります。

活動のエンジンになる人が重要

伊藤 前田さんには、「たとえば東京・杉並区などの住宅街で今のようなプロジェクトをできるか」という質問が来ています。

前田 もちろん全国どこでもできると思います。活動の仕組み、活動のエンジンとなる人がいれば、決してできない話ではないです。ただ、問題は、そういう人なり組織を支える仕組みをどうつくるかということ、これは私どもも課題として検討しています。組織は自治体主導であったり大学やURが中心になったり、どこでもいいと思います。誰が活動のエンジンになるか、なれるかに尽きると思っています。

伊藤 「プロジェクトの参加事業者を短期間でどうやってみつけたのか」という質問もあります。

前田 決して短期間ではなくて、それぞれかなり年月はかかりました。保育と食堂は柏市からの公募のパターンですし、農業は農業委員会の人からの推薦でした。学童と生活支援、福祉は柏市および東大関係者からの推薦だったりさまざまです。

伊藤 多様なネットワークを活用したわけですね。事業運営費はどういうところから出てくるのですか。

前田 それはよく聞かれるのですが、それぞれの事業者に単純に資金を提供することはありません。あくまでこのプロジェクト・事業のために新たに必要とされる費用についてだけ、柏市及び東大から捻出しました。各事業者はそれぞれ通常の経営のなかで新たにシニアの人を雇用してもらったわけで、プロジェクトとは関係なく独立採算してもらっています。

伊藤 では、前田さんが属している組織は、国や地方自治体から一切助成金を受けていないのですか。

前田 東京大学としては、このプロジェクトに紐づく研究費は獲得しています。そこからプロジェクトのために雇用したコーディネーターの人たちの人件費とか、セミナー運営費等の必要経費は支出しています。

伊藤 日本の高齢化はものすごい勢いで進みます。もたもたしていると大変な社会が訪れてしまいます。今日は企業がどの程度まで雇用延長できるのかについてお話を伺い、外へ出たときにはいろいろな形態で働けることがわかりました。ただし、威張るような人はお払い箱になってしまいます。それから、最後は地域に戻らなくてはなりませんが、これはまだ手がついたばかりでしょうか。高齢化への対応をどうするかは、非常に難しい問題ですが、避けて通るわけにはいきません。今日は非常に興味深いケースを三者から報告していただき、そのうえで本音ベースの議論ができました。今後、組織や地域でどういう対応をするのかの参考にしていただければと思います。

プロフィール ※報告順

清家 篤(せいけ・あつし)

慶應義塾長

慶應義塾大学商学部教授、慶應義塾長。博士(商学)。専攻は労働経済学。1992年慶應義塾大学商学部教授、2007年より商学部長、2009年より慶應義塾長。現在、社会保障制度改革推進会議議長、経済社会総合研究所名誉所長、などを兼務。主な著書に『雇用再生』(NHKブックス、2013年)、『60歳からの仕事』(共著、講談社、2009年)、『エイジフリー社会を生きる』(NTT出版、2006年)、『高齢者就業の経済学』(共著、日本経済新聞社、2004年/第48回日経・経済図書文化賞(2005年)受賞)、『労働経済』(東洋経済新報社、2002年)などがある。

藏本 秀志(くらもと・ひでし)

ダイキン工業株式会社 人事本部 人事・労政・労務グループ担当課長

1987年ダイキン工業入社。人事部配属。人事部 労務課、東京支社 総務部 労務課などで労務業務、人事部で電子申請、評価などのシステム構築を担当。2000年~2009年はダイキン工業(株)の子会社でシェアードサービスのダイキンヒューマンサポート(株)で本体及び国内グループ関係会社の人事・総務業務の集約を実施。2009年ダイキンヒューマンサポート社発展的解散後、現職。2006年より人事本部内の高齢者活躍推進プロジェクトメンバー。

有我 昌時(ありが・しょうじ)

株式会社高齢社 取締役/株式会社かじワン 代表取締役社長

東京ガス株式会社では主として人事・総務部門を担務し、関係会社の役員等を経て2009年に株式会社高齢社の代表取締役社長に就任。3年5カ月務めた後、家事代行事業部門を独立し、特に高齢女性の就労と“働き盛りの女性をシニア世代が応援する”といったコンセプトで、誰もが手軽に利用できる「安くて・優しい」家事サポートサービス会社「かじワン」を立ち上げる。また、超高齢社会における高齢者の役割として、「高齢者は、超高齢社会の担い手になれる。─働けば元気になる─」をテーマに、機会を捉え各種の講演活動を行っている。

前田 展弘(まえだ・のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 主任研究員(東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員)

2004年ニッセイ基礎研究所入社。専門はジェロントロジー(高齢社会総合研究)。高齢者のQOLや長寿時代のライフデザイン等の基礎研究をもとに、超高齢社会の課題解決に向けた研究及び事業開発に取組んでいる。現在は東京大学の一員として、都市近郊地域(千葉県柏市)における長寿社会のまちづくりの一環としての「セカンドライフ支援事業(生きがい就労事業)」や、高齢者市場創造に向けた産学連携事業「ジェロントロジー・ネットワーク」(のべ90社参加)、ジェロントロジーの教育啓発事業「高齢社会検定事業」を手がけている。著書に『東大がつくった高齢社会の教科書』(共著、(株)ベネッセコーポレーション、2013年)など。

伊藤 実(いとう・みのる) ※コーディネーター

公益社団法人全国求人情報協会 理事

労働政策研究・研修機構(JILPT)統括研究員を経て、2014年より全国求人情報協会理事。専門分野は人事管理論、産業・経営論。商学博士。東京商工会議所労働委員会委員、シニアセカンドキャリア推進協議会アドバイザー、NHKラジオ・ビジネス展望レギュラーコメンテーター、青山学院大学大学院法学研究科講師などを兼務、歴任。主な著書・論文に「定年後の継続雇用者に対する雇用管理の課題と改善の進め方」(『人事実務』2012年9月号)などがある。