事例報告②
高齢者は超高齢社会の担い手になれる
─高齢者派遣事業の取り組み

講演者
有我 昌時
株式会社高齢社取締役(株式会社かじワン代表取締役社長)
フォーラム名
第75回労働政策フォーラム「高齢者の多様な働き方と社会参加の実現に向けて~企業・行政・地域の取組み~」(2014年9月25日)

高齢社という会社をご存じでない方もいらっしゃると思いますので、まずは会社の概要からお話しします。高齢社は、設立が2000年1月4日で、今年でちょうど15年目になります。業種は、①各種請負事業②一般労働者人材派遣事業③有料職業紹介事業④家事代行業─があり、現在、社員数は、本社の事務等をやっている社内スタッフが約30人、現場で実際に働く高齢者の登録社員が約650人で、平均年齢は68.9歳です。最高齢で働いている社員は80歳で、この650人のうち、現在現場に出て実際に働いている就労率はほぼ50%となっています。

会社の成り立ちについてお話しますと、ちょうど高齢化が進展してきた1998年ごろ、60歳を過ぎて定年になっても家でごろごろしている人がいっぱいいるなかで、今は最高顧問をやっている上田研二氏が、「非常に能力があってもったいない。こういう人たちを集めて何か会社をやってみよう」と思ったのが設立のきっかけです。

豊富な経験を持つ高齢者の活躍の場が絶対に必要になる

上田氏は、どうせやるなら、小さくてもきらりと光輝く会社にしたいと考えました。その「3つの思いと4つのこだわり」を整理したのが図12です。思いの1つは、当時は株主第一主義という風潮がありましたが、それは経営としては間違いではないかということです。あくまで人が働くわけですから、伊丹敬之先生の唱えた「人本主義」を貫く経営を実践するんだと。2つ目が、定年を過ぎても気力、体力、知力のある人がいっぱいいることから、そういう人たちに対して働く場と生きがいを提供したいということ。3つ目が、少子高齢化社会に入ると、労働力不足が発生し豊富な経験を有する高齢者の活躍の場が絶対に必要になってくることから、そういう場所をつくろうということです。

次に4つのこだわりですが、皆さんお気づきだと思いますが、「高齢社」という会社の名前です。要するに高齢者のパーソンをカンパニーに変えただけの話なのですが、当時、私もまだ現役で、上田氏から一緒にやろうと言われていたころ、「こんな名前の会社は嫌ですよ」なんて言っていました。ところが、彼は、「いや、これは絶対、後になったら必ずいい宣伝効果になる」といって頑張りました。これはものすごい効果があり、宣伝費を何も使わなくても世間に知られるようになりました。

2つ目のこだわりが、設立年月日です。先ほど言いましたように1998年にやろうという話が出ていたのですが、2000年という区切りがいいと。また、1月1日に設立しようとしたのですが、1月1日は、役所は赤ちゃんの誕生日(出生届)は受け付けますが、会社の誕生日は受け付けないので、それで仕方がなく1月4日になったのです。

それから、所在地を、小さくても日本の中心に置こうというようなことで千代田区としました。最後が出資者で、上田氏も私も東京ガスの出身で、当初は東京ガスの子会社としてやらせてもらおうかと考えたのですが、即断、即決、即実行の理想の会社とするために、これは自分たちでやらせて欲しいと希望し、独立会社としてスタートいたしました。

社員を大事にすれば、お客様を大事にする

まず、経営理念をしっかりしなければいけないということで、4つの経営理念をつくりました(図3)。1つが、定年を迎えても気力・体力・知力のある方々に、「働く場」と「生きがい」を提供しようということ。

2つ目が、「社員≧顧客≧株主」という人本主義を徹底すること。要するに、社員に対する基本姿勢を示しているわけで、経営者は社員を大事にしますよと。そうすれば、大事にされた社員はお客様を大事にする。そうすれば会社の業績も上がって、株主にもいい配当ができる。

3つ目が、豊かな経験を活かして「低コスト・高品質・柔軟な対応力」を武器に優れたサービスを提供していくということ。お客様に対する姿勢を示しています。低コストというのは、もう現役時代のようにたくさんお金をもらうわけではないので、安くできる。それから高品質。これは技術・技能に加え人間としてのキャリア、いわゆる人柄も十分磨き上げられてきているはずという意味です。それから、柔軟な対応力ということで、働き方も柔軟ですから、使っていただく企業にも柔軟に対応していただければいい。たとえば、高齢社は、休日割り増し代金はもらいません。なぜかというと、「毎日が日曜日」の方々を使っていますので。

最後に、「知恵と汗と社徳」を重視した企業風土を醸成するということです。特に社徳の部分ですが、人間に人徳というものがあるのと同じように、会社にも社徳というものがあるはずだと。こういった社徳を身につけた会社になりたいということで、世間に対しての会社の価値と方向を示しています。

ワークシェアリングでできるだけ多くの人が働く

高齢社のビジネスモデル(図4)ですが、登録社員(雇用契約社員)のケースでいうと、採用条件は定年後の方に特化して採用していますので、60歳以上75歳未満の「気力」「体力」「知力」のある方に特化しています。勤務形態は、ワーク・ライフ・バランスということで、働く人の都合に合わせています。たとえば、来月の働きたい日程を、今月の終わりに登録をしてもらい、登録してもらった日程に合わせてシフトを組む。それから、ワークシェアリングということで、2人1組で1人分の仕事をします。その理由は、できるだけ多くの方に働いていただくということ。それと、年金併用型で働いてもらっているので、勤務を週30時間未満に抑えるため、稼働日数は週3日程度となっています。週の残りの2、3日は、自分の趣味を生かすとか、家庭サービスをするとか、そういったものに使っていただきたい。

こんな形で働くと、だいたい月に8万から10万円ぐらいの手取りになります。このぐらいもらえると、これを自分で自由に使えるお金というふうに見れば、「現役時代のときよりお小遣いが多いや」なんていう人もいますし、現役時代にはあまりやったことのない奥さんの誕生日プレゼントを買えるお金にもなる。

こういう働き方ですから、決して現役の皆さんのお仕事を取るという形ではありません。あくまで副次的な仕事ですし、目的は、健康で長生きしていつまでも息長く働く仕組みづくりです。

売上高は右肩上がり

こうしたビジネスをやってきてどうだったのかという話ですが、おかげさまで業績は右肩上がりです。売上高は5億円を超えるぐらいまで伸びています。

どんな仕事をしているのかというと、売上のほぼ8割は東京ガスグループ企業からの仕事が占めています。そういう関係から、登録社員も東京ガスのOBが多くなっています。

東京ガス関係の仕事では、1つに、新築マンション等の設置機器の使用説明があります。どちらかというと現役の皆さんがやるのはもったいない仕事です。新築マンションの内覧会に立ち会って、入居される方に機器の説明をしたり、点火試験をする仕事です。それから、引っ越しされる方のメーターの閉栓や、ショールーム等の受付、工事現場の監督・検査、倉庫管理業務、事務補助、宿日直、電話受付、あとは調査関係などがあります。実際には50種類ぐらいあります。

東京ガス以外の仕事では、代表的なものでは家電修理アシスタント業務があり、現在はこれが一番多くなっています。具体的には、修理マンの車の横に乗って、荷物の持ち出しなどの手伝いをする。リフォーム後の施工品質点検業務では、リフォームをした後の結果を点検して歩くという業務です。こちらは実際には30種類以上の仕事があります。

高齢女性が働く女性の家事を支援する会社も設立

「かじワン」という会社も設立しています(図5)。高齢社の登録社員が650人ぐらいいると言いましたが、10%ぐらいは女性です。しかし、高齢の女性の仕事はあまりない。簡単に思いつくのが家事で、女性は家事のプロなわけです。じゃあ、その家事を業務でやってみようと思ったのですが、家事代行は既に大手企業も手がけていて、簡単に参入できるものではありません。そこでどうしたかというと、60歳以上の方々に来てもらい、働き盛りの女性をシニア世代が応援するというモデルとしました。いろいろアンケートをみると、女性が働けない大きな理由が家事です。家事に追われて外へ出られない。でも、何でアウトソーシングしないのかというと、お金が高いと言う。それだったら安くしなきゃだめだということで、当社は、今ある家事代行の仕事の中でおそらく一番単価が安いと思います。利用してもらっている30代、40代の方の割合が去年はほぼ60%だったのですが、今は73%ぐらいを占めます。しかも共稼ぎの方に利用してもらっています。

「かじワン」での仕事の内容(図5)は何かというと、掃除や片づけ、食事の世話。この掃除と食事でもってだいたい90%です。あとは介助サポート。介護はできませんから、介護の手前までを行います。それからお子様の世話で、特に塾からの帰りのお迎えなどをやっています。

とくに働き盛りの家庭の主婦の皆さんにPRをしており、東京は地方から出てきた方が多いですから、「東京のお母さん、東京のおばあちゃんになれますよ」というようなうたい文句でPRをしています。女性が女性を応援する、まさしく今の女性社会進出の一助を担っていると自負しています。

まだある年齢に対する先入観

私は、これからのことを考えると、高齢化とともに少子化も非常に問題じゃないかと考えています。それには何といっても女性の力がどうしても大切です。今、ゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井さんが「ウーマノミクス」という言葉を使っていますが、高齢者も応援をするということで、まことに僣越ですが、私は高齢者の支えを「シニアノミクス」という言い方をして頑張ってみようかなと思っています。

当社で実際に働いている人たちにアンケートをとったところ、「元気なうちは働き続けたい」という人が75%もいました(複数回答)。それから、どんな働き方をしたいのかを尋ねると、「年金併用で週3日程度」、「希望する時期に無理なく」との回答が多く、まさしく当社方針に沿った働き方が一番いいと思われている結果が出ています。

それから、働き続けたい理由は何ですかと聞くと(複数回答)、「生きがい・やりがいを感じたい」が57%と一番多くなっています。

高齢者が働く上での課題も当然あります。まずは何といっても健康問題です。それから、まだまだ社会や、受け入れ企業の年齢に対する先入観というのはあります。65歳の壁、70歳の壁と私どもは言っていますが、高齢者も人それぞれで、能力に差や違いがあります。また、とくに高齢者になると、個人差は広がってきますから、その辺を考慮してもらいたいと思います。

働けば高齢者の3不安はなくなる

働く人のメリットについて述べると、これは高齢社の宣伝なのですが、働けば仲間と触れ合いながら楽しく仕事ができます。働けば元気になる。一般に言われている高齢者の3不安、「健康不安」、「経済不安」、「孤独不安」というものはなくなります。

これから高齢社がどこをめざすかですが、なかなか働くところがありませんので、なければ「創る」という精神でやっています。また、当社には高齢者が1,000人近くいますので、いろいろなモニターをご用命いただければ高齢者のニーズがわかるかもしれません。

最後に、高齢社会への提言をしたいのですが、働けば元気になり、健康寿命が延びれば、社会保障費も軽減される。だから高齢者が働きやすい環境づくりを続けてください。そうすれば、次代を担う若い人たちに明るい未来を提供できるということで、高齢者も超高齢社会の担い手になれると思っています。