パネルディスカッション
アンダークラス化する若年女性Part2

パネリスト
宮本みち子
放送大学副学長/日本学術会議連携会員
遠藤 智子
一般社団法人社会的包摂サポートセンター事務局長
白水崇真子
一般社団法人キャリアブリッジ代表理事
小園 弥生
男女共同参画センター横浜南管理事業課長
丸山 里美
立命館大学産業社会学部准教授
コメンテーター
山田 昌弘
中央大学文学部教授/日本学術会議連携会員
金井 淑子
立正大学文学部教授/日本学術会議連携会員
コーディネーター
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構特任フェロー/
日本学術会議連携会員
フォーラム名
第74回労働政策フォーラム「アンダークラス化する若年女性Part2~支援の現場から~」(2014年6月21日)

パネルディスカッションでは、前半の講演や事例報告を受けて、金井淑子・立正大学文学部教授と山田昌弘・中央大学文学部教授が研究者の視点でコメント。その後、①支援の現場で今、もっとも大きな課題は何か②現状の事態にどのような政策が有効なのか─といったテーマについて議論した。以下はコメンテーターおよびパネリストの発言の概要。

コメント:研究者の視点から①

金井淑子・立正大学文学部教授

私はかねてより、鬱やリストカット、摂食障害、引きこもりといった現象が「不可視化される現代の若年女性の問題の兆候」として表れているのではないかと問題提起をしてきました。いまの若い女性の現実は、女性を上方へ押し出す圧力と、さらに下層に押し下げさまざまな問題を抱える女性たちを登場させている圧力が働いているのではないかと思いますが、先ほどの支援現場からの報告は、若い女性のアンダークラス化の現実が想像以上にすさまじい実態であることを浮かび上がらせるものでした。

女性の貧困は「滑り台」のように一気に落ちるということではなく、家族や教育現場がその危機的な様相を内包しており、そこにどうやって支援を届けるかが課題になっていると思います。そこで「アンダークラス化」という言葉とは別に、若い女性たちの「内面的な解体」とか「自尊感情の破壊状態」を問う言葉が、「アンダークラス化」という言葉と並んでもう1つ必要ではないかということです。もう少し拡張した女性の自尊感情の破壊や解体を担保できるような言葉、あるいはこうした女性の状況を捉える言葉があったら、もっと違った角度からの支援の方向性が出てくるのではないかと感じました。

もう1点、女性と風俗の問題については、過激な言い方かもしれませんが、私は若い女性たちに自死するより生き延びて欲しいと思いますし、生き延びることができたら、そこから何とか自尊感情を回復させ、自分を取り戻していって欲しいと願っています。風俗にかかわる仕事を労働全体の中にどう位置づけていくのかについて、この機会に議論できればと思っています。

コメント:研究者の視点から②

山田昌弘・中央大学文学部教授

私からは、運やリスクをどう考えるかという問題を提起したいと思います。

男性には自立しなければならないという圧力が強く、自立できなかった場合は諦めや自暴自棄という形で問題が出てくると思います。他方、女性の自立の圧力は弱く、運に頼るという選択肢があります。これが、若年男性と若年女性の貧困問題をわけている1つのポイントであり、隠れホームレスやホームレス予備軍につながっていく問題だと考えています。

いい生活をしていたり、生まれが良かったようにみえていても、何か1つのきっかけで突然、状況が変わって転落してしまいます。しかし、若い女性の視点はその逆で、運がよければ、優しく暴力も振るわず、収入がある男性と結婚して一生幸せな生活を送ることができるという考え方です。ただし、たとえば結婚できなかったり、結婚相手が失業してしまったり、相手が暴力を振るう人だったり、何か1つ欠けてしまうとたちまち転落してしまう。30~40年前は、そういう運の悪い人は少数で問題にならなかったのかもしれませんが、そうした人が増えている現在の状況のなかで、私たちは若い人に何と言えばいいのか、ということです。

周囲に専業主婦で一生安泰した生活を送れている人が少なからず存在している状況において、「自分は運がいいから就職して一生やっていける」とか「正社員と結婚して専業主婦になれる」、「親の資産があるから大丈夫」などと将来を楽観視している人に対して、そこから外れる可能性もあることをどれだけ認識してもらえるかが、学生を教育している私の課題でもあります。

リスクについては、大学では新卒で就職するためのマニュアルや教育は多く取り入れていますが、何かリスクに陥ったときにどうすればよいかという教育をしてきているのだろうか、ということです。いまは3組に1組が離婚する時代です。離婚するための知識や離婚後の生活などについて、全員に教えてもよいのではないかと思っています。同様に、大学では就職できずに卒業した場合はどうすればいいかとか、性教育についても、性病の恐ろしさだけを教えるのではなく、妊娠したらどうすればいいかなど、何か困難に陥ったときの対処方法や手段について、今までは教えなさ過ぎたのではないかという思いがあり、今後の課題として考えていきたいと思います。

テーマ1
本人の自尊感情の問題や性の問題に支援の現場でどう取り組んでいるのか

暴力や被害を受けている自覚がないことが問題

遠藤智子・社会的包摂サポートセンター事務局長

女性の暴力被害者への支援での課題は、被害者がそれが暴力や被害であると自覚していないことが一番大きい問題です。今までの経験から、DV被害を受けた人は、100人中100人が「父や母に相談したら『我慢しなさい』と言われました」と言います。それで何年も同じ状態が長引いてしまう。こういう人が、親から「離婚して帰って来なさい」と言われて実家に戻れば、DV被害にカウントされません。学校の先生に相談しても真剣に取り合ってくれなかったり、警察に被害届を出しても「あなたにも落ち度があるんじゃないか」などと言われたり、周囲の大人は「黒い羊」が多く、なかなか相談に乗ってくれる人がいないのです。小さい頃、最初に被害を受けた時、周りに助けてくれる大人(=白い羊)がいればその後の人生がかなり違ってくると思います。ただ、白い羊に出会える人はとても運がよく、そして勇気のある人です。閉鎖的な環境で暴力を受け続けていると、それが暴力であると正しく認識・自覚するのが難しくなってしまうことを是非ご理解いただきたいと思います。

もう1つの課題は、支援者の数が圧倒的に少ないことです。加えて、DV被害やレイプ被害、性虐待の話を相談されると、驚いて動揺してしまいます。すると、相談者は二度と口を開きません。「動揺させて、辛い話を聞かせて悪かった」と思ってしまうそうです。何でもない顔で「よくあるね」といえる人が必要なのですが、とても少ない。役所でも親戚の中でもどこでもいいのですが、周囲にそういう人たちを沢山つくり、女性への支援が日常になるべきです。

風俗に関する相談で一番多いのは、業態の違いをよく知らずに入り、性被害に遭ってしまうことです。また、雇用契約がないことも問題です。支援する側も、業界の内情をよく知らないので支援する難しさがあり、そこが課題だと感じています。

早い段階で信頼できる大人をみつけることが重要

白水崇真子・キャリアブリッジ代表理事

今までの活動を振り返ってみると、教育現場では足りずに福祉や社会資源へ繋いだケースは男子学生の方が多かったように思います。それでは、なぜ女子学生が繋がれなかったのかを考えると、やはり搾取の対象になって、自分にかけるエネルギーが不足して将来に夢が持てなくなっているからではないでしょうか。

男子には、自立した1人の大人としてサポートしていきたいという家族の願いがありますが、女子には、家庭が大変であればあるほど家事労働をしてほしい、家計に入れてほしいという傾向にあります。また、女子の場合はたとえ親から離れても、友人宅や交際相手の家を転々としていると、自分の将来や進路にエネルギーを割こうという意欲が湧かず、支援機関と繋がることが難しい人が多かったように感じます。ただ、彼女たちは授業に出なくても保健室に登校したりして、学校には来ます。そこで信頼できる先生が1人でもいると、その先生にはいろいろ話したり電話やメール、ラインで繋がっていることはあります。まだ学校に来ている早期の段階で、信頼できる大人を1人でもいいからみつけて支援機関と繋がることが大切だと考えています。

女性は、自分で道を拓いて1人の自立した大人になるよりも、他人との関係性の中で自分が求められていることを自身の存在意義として捉え、それを保っていこうとするので本当に難しい問題です。彼女たちなりに自立への希望を持ってはいるのですが、それを保障するだけの経済力がありません。もしも16歳で生活保護を受給できたら、または学費の心配がなければ、それは実現できることかもしれない。自立できるまでの間、家族に代わる保障があるのなら変わっていくのかもしれません。いま私たちができることは、「あなたの夢は何ですか」「本当は何をやりたいのですか」「どういうふうに生きていきたいのですか」ということを少しでも掘り起こして、メッセージを出し続けることぐらいです。経済面での問題解決を現行制度で図ることは難しく、ここが大きな課題だと思います。

皆の力で社会のあちこちに「安全島」を

小園弥生・男女共同参画センター横浜南管理事業課長

就活か婚活かという悩みのなかで葛藤する女性にとって、就労とは異なる道あるいは社会への参画とはどういう形があり得るのか、という質問をフロアからいただいています。これは本当に一人ひとりで違ってくるものだと思います。いくつか事例を思い出してみると、「めぐカフェ」消しゴム判子を上手に作ってくれた女性がいて、とても上手なんです。アルバイトで外に働きに出られないと嘆くので、私たちは「あなたは人ができないことができるのよ」と言って、背中を押しています。他にも、ヨガの講師になりたいという女性がいたので場を提供したこともありましたし、障害者手帳を取得してまとまった額の障害年金を遡及して勝ち取り、それで資格を取って就職した人もいました。ただ、私たち現場では、このように公的機関に繋がって来られる人は、ある程度の社会的階層にいる人たちだと捉えています。社会参画という観点で言えば、たとえば障害年金をもらいながら市民活動やさまざまな活動をするのも充分あり得る選択肢だと思います。

性産業の話が出ましたが、自尊感情に関連しては、健康面や安全面を考えると懸念されることはあります。家を出たいけれどお金がない時に、性産業で働ける人はそれでやっていくのだと思いますが、私たちはその善し悪しを判断するのではなく、当事者の健康や安全が保障されるかどうかを考えるべきです。社会が信頼するに足るものでない以上、社会の中のあちこちに「安全島」を皆の力でつくっていかないと問題は解決しないと思います。

健康の問題も自尊感情に含まれます。私たちの就労者調査では、健康診断を5年以上受けていない人が大半でした。主婦も受けていない人が多いと思いますが、それと比べても多いと思います。いま横浜市では、高齢者については市が巡回して健康診断をしていますが、若い人にも実施して欲しいですし、健康に対する自意識や情報提供はもっと必要だと思っています。

コメント:研究者の視点から③

丸山里美・立命館大学産業社会学部准教授

女性が生活に困って性産業に行かざるを得ない状態は、基本的には生活保護を受けられる状態だと思われます。なぜ、生活保護ではなく風俗に行くのかということこそが、もっと問われなければならないと思っています。実際に窓口で申請したけれど断られたのか、断られると思って申請に行っていないのか、もしくは生活保護という制度をよく知らないのか。それぞれによって支援の在り方も異なってくるでしょう。

それから、「もやい」の女性相談者の個々のケースをみると、若い女性の相談者は実家に頼れないという人が多く、そういう人が支援を求めて来ていることがわかりました。実家で虐待に遭ったり、母子家庭で育ったけれど母親も精神障害があるなど、実家に頼る選択肢がない女性は早く家を出ざるを得ず、そういう人たちが深刻な状況に置かれているのだと思います。そのときに支援を求められる人というのは、先ほど小園さんも言われたとおり、ある程度の学歴があり、人を信頼できて、支援を求める力のある、一定の階層にいる女性に限られています。その一方で、そうではない人も確実にいます。そうした支援を受けられない女性たちが非常に苦しい状況にいるのだと思います。

女性の貧困や困窮が何故ホームレスとして表れてこないかについて最近感じていることは、女性は貧困にもなれないということです。つまり、夫や父親のもとを離れたときに初めて、女性は貧困になれるということです。女性は経済的には今は貧困の状態ではなくても、暴力にあっていて家を出たい、家族関係が辛くて家を出たいという場合などがあって、単純にすぐに生活保護申請をすれば解決するということではないのだと思います。貧困という言葉では捉えられない女性、とくに若年層の問題をきちんとみていく必要があると思っています。それが「アンダークラス化」という言葉なのか、もしくは金井先生が言われたような女性の内面の解体を問う言葉なのか。いずれにしても「貧困」以外の視点が必要だと常々感じています。

テーマ2
いま求められる政策的な対応とは

子どもが自分の家族を選び直せるシステムが必要

遠藤事務局長

世の中には、「家族・世帯ではなく個人でやりなさい」という考え方があります。しかし、若年女性に対しては必ず家族でものが語られます。「親権」という大きなものがありますが、家族を選び直さないと問題は解決しません。「黒い羊」がいるような家族から取り出して「白い羊」の中に入れることが必要です。ただ、児童相談所がいくら頑張っても、この親権というものはさまざまな取り扱いがあって非常に難しい。先ほど、16歳で生活保護を受給できればという話がでましたが、私も本当に常々そう思います。子どもが自分と一緒に暮らす安全な家族を選び直せるようなシステムが必要です。

何か事柄が発生してから支援者が当事者と会い、個別に具体的なプランをつくり、長期間にわたってその人と一緒にさまざまなことをする─。それが「寄り添い型支援(伴走型支援)」であり、「パーソナル・サポート・サービス」だと思いますが、行政機構は、最大多数の最大幸福のためのものなので、それとは馴染みにくいと思います。私たちが支援している人は、数は少なく、かつ個別具体的な事情を抱えています。本人も自覚がなかったり、表現力がなかったりして、対人トラブルなどのいろいろな問題を抱えています。そういう人への支援は、同じ支援者がずっと支援していける民間団体が適しています。「よりそいホットライン」は、そういった伴走型支援をしてくれる民間団体へ繋ぐまでの仕事です。残念なのは、そうした民間団体の仕事が公的にはあまり評価されていないことです。

DV被害の当事者は、いろいろな事情があって家に7回戻ると言われていますが、役所としてはその7回を受け入れがたいと思います。一度受け入れてシェルターに入っても再び元の場所に戻ってしまうような「困った人」たちですが、一番困っているのは本人です。たとえ7回揺れても、それに耐えられるような支援のシステムを公的に取り入れない限り、彼女たちが再度、社会的に包摂されることはないと思います。支援が必要な初期段階から、そこにお金を投下してほしいと願っています。

女性の経済的自立が実現できるような法制度を

白水代表理事

現場としては、やはり家族・世帯単位ゆえの介入のしづらさがあり、家族として成立しているなら、個人が困っていても別に問題ないという見方があります。とくに、女性や若者は親が保護するという前提で語られますから、親がセーフティネットとしての機能を果たしていない場合は貧困が連鎖してしまいます。家庭内で搾取されているような子供に対しては、将来の進路を一緒に考えようと精神面でもサポートしていますが、生活保障をすることができません。家族から離れて養護施設に入ることも考えられますが、施設はルールが厳しく管理され自由がないので、子供たちの抵抗感はとても強いのです。このため、10代後半から自立できるまでの間、安全な場所で生活保障を受けられるような制度が必要ではないかと考えます。

私は職業訓練センターでの仕事が長く、個人に合わせたオーダーメイドの支援と、プログラムを用意してそこに参加する若者へのグループ支援の経験があります。多重に困難を抱えている人たちには、オーダーメイドの支援が必要で、なおかつスピーディーに複数の困難を解決していくことが重要です。そうしたマイノリティの人たちへの包括的支援のための新しい制度・政策や予算のほかに、国民的なコンセンサスを図っていくことも必要だと思います。

また、女性がどうしてこうも排除されるかといえば、労働における自立が非常に弱いからです。非正規労働者の使い捨て労働のなかに組み込まれてしまい、家計補助的な位置づけしか期待されていない。今後は、男性も女性も同じように働ける共働きをめざす社会のなかで、女性の経済的自立が実現できるような法制度も求められます。

女性の労働が補助的という考え方を改める

小園管理事業課長

支援は継続して行わなければなりませんが、それがあまりにも難しいのが実情です。毎年、政府の予算が変わるので、先を見通すことができません。若者のためにもっと先を見据えた税金投入をして欲しいと本当に思います。生活困窮者自立支援法も成立したわけですが、これまで中間的就労のような形で若者支援をしていた人たちが今後も継続して支援できるよう、底上げを図って欲しいし、根拠法をつくる暁には男女の性別による困難をきちんと法律や条例で位置づけて、それに対する予算をつけていただきたいと思います。

労働問題については、白水さんも指摘されていたように、女性の労働が補助的労働だという時代錯誤の考え方を改めて欲しい。女性に対する差別や低賃金に従事せざるを得ない実態が、まだ多く残っています。生活保護を受ければいいという意見もあるかもしれませんが、受給するには生活上の制約があるなどハードルも高く、シングルマザーの就労率は高く、皆必死に働いています。そういう人たちが普通に働いて生活できるだけの賃金を保障して欲しいし、彼女たちの労働をもっと正当に評価して欲しいと強く願っています。

コメント:研究者の視点から④

宮本みち子・放送大学副学長

この10年程の間、若い年齢層の支援サービスに携わってきた中でいろいろと思うことがあります。まず、男女にかかわらず多くの困難を抱えている人たちが、生まれてから何とか自立できるまでの間に支援を受ける社会的な仕組みが一貫しておらず、1人の人間が一人前になるまでの過程を連続して見守るような制度ができていません。これは男女共通の問題です。また、この10年で、全国に若者支援の施設やネットワークができました。しかし、本日の報告にも多々でてきたような女性特有の問題を認識して支援している人が全国にどのくらいいるのだろうかということも感じます。

最近、若者支援の領域では、支援する側の力量の低さが反省を込めて盛んに言われています。これは本当に困難を抱えている人たちへの対人サービスになっていないということで、もっと向上させなければなりません。同じことは学校の先生にも言えます。目の前にいる生徒が毎日同じ服を着ていて、何か服装がだらしないと思った時に、この生徒の家庭状況に問題があるのではとピンとくる先生がどのくらいいるかということです。改めて、人を育て、支援する仕事に従事する人間の専門的力量を上げていく必要があると思います。

白水さんも言われたように、子供が家族内で危険な目に遭い、理不尽な事態に晒されているのだとすれば、何とかしなければなりません。ある程度自分で行動できる年齢に達したら、家族を選べるような、そうした社会環境をつくっていく必要があると思います。そのためには、まず住まいの問題があります。親の家から離れるためには、住まいを提供しないと何処にも行かれない。次に教育と仕事、そして生活費です。こうした支援を若者に与えることによって、悲惨な環境から脱出することができると思います。

まとめ

小杉礼子・JILPT特任フェロー

最後に総括を兼ねて労働政策にかかわる視点を少し提示させていただきたいと思います。まず、白水さんもご発言されたように、共働きモデルが非常に大事なポイントだと思います。専業主婦がいることで成立するような長時間労働の男性の働き方の世界を放置したままでは、まともな働き方、豊かな働き方を実現することはできず、女性の働き方を変えることもできません。長時間労働の基本的な是正や共働きモデルを実現させることが、労働政策として大変重要な課題であると思います。

また、労働政策からみると労働以前の問題と思われるところに実は大変大きな根があります。家族や男性との関係のなかでしか自分の存在意義や自尊感情を持てない状態に追い込まれ、搾取されている若い女性が多くいます。貧困の連鎖のなかにある家庭で育った彼女たちの周囲には、働いて自立している女性モデルがなかなかいません。モデル不在の環境で育った人たちに、どのように次の段階を示していけるのかという課題があります。

縦割り行政の弊害を指摘する声もありますが、政策や行政の仕事では、やはり役割分担や事業の期限を考えていかなければならない部分があります。個人の側の課題は多様で複合的かつ連続的・長期的ですが、行政の側はそれぞれの役割に縛られた施策しか用意できません。それを乗り越えて現場で生かしていけるのが、民間の力ではないかと思います。それができるような政策の作りこみも必要ですが、来年新たに始まる生活困窮者自立支援法などにもそうした発想はあり、実効性のある形で展開されることを期待しています。