講演
女性の貧困問題の構造

なぜ女性が貧困なのか。一言で言えば、性別役割分業が社会システムの中に組み込まれている、これに尽きると思います。労働のあり方も、社会保障のあり方も、女性の家族依存を前提にしている。それゆえに女性の労働が不安定で低賃金になっています。

これまで、女性には基本的に3つの包摂先(労働、夫、父親)があると考えられてきました。この3つのいずれにも包摂されない者が貧困になります。具体的には、母子世帯、未婚女性、離死別によって単身となった女性です。

野宿者の中で女性は3%しかいないと言われています。ホームレスと言うとき、どういう人たちをホームレスと考えるのかということが研究の中ではいつも問題になりますが、日本の場合、ホームレスというと(ホームレス自立支援法の中から引用したものですが)、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」、つまり路上で生活をしている人と定義されていますが、海外の場合、路上生活者以外の人が含まれている方が一般的です。

最近では、こうした広い意味でのホームレスの人たちを捉える調査が行われています。各調査の女性割合をみると、「路上生活者調査」(2012年、厚生労働省)では3.2%ですが、「ネットカフェ難民調査」(2007年、厚生労働省)では17.2%、「ホームレス支援団体が運営する施設等の入所者調査」(2011年)では6.5%などとなっています。

なぜホームレスに女性が少ないのかということですが、2つの理由があると考えています。1点目は、女性の貧困が世帯の中に隠れて、そもそも女性が世帯主の世帯というものが非常に形成されにくい状態がある。もう1つの理由は、女性の場合、男性より福祉制度を比較的活用しやすいという点があげられるかと思います。たとえば、女性の場合、子供がいれば母子福祉が活用できたり、売春防止法や、暴力に遭っている女性にはDV防止法が適用されることもあります。

ただ、この点だけで女性が男性より恵まれているかというと、そうではないと考えます。女性が権利として利用できる社会保険ではなく、恩恵的な社会福祉を使わなければ生活できないこと自体、ジェンダー構造です。

最近調査している東京の「もやい」という貧困支援団体の女性相談者の特徴を紹介します。今回の分析対象は2,300ケースです。相談者の数は圧倒的に男性が多く、女性は13%(307ケース)でした。

もやいに相談に来た時点で住んでいた場所は、男性の場合は半分が野宿の状態でしたが、女性は野宿が10%程度で、多くは実家に暮らしていたり、自分で家を借りて暮らしていました。

また、女性の相談の特徴は、幼少期に虐待に遭った、DVを受けているなどと話す人が多くいたことでした。健康状態では、男性は身体的な不調を、女性は精神的な不調を訴える人が多いという違いがありました。また、女性の9割以上が体の調子が悪いと答えていました(男性では8割)。

相談に来た時点で仕事をしていた人の割合は女性の方が多い。さらに、女性の方が男性より安定した職に就いているということがわかりました。

もやいへの相談後、多くは生活保護申請をすることになるのですが、これも男女で大きく違いが出ました。女性の場合は生活保護申請をした人は約4割と、男性(約7割)に比べて大分少なかったことがわかりました。また、女性は男性に比べて、まだお金を持っているうちに相談に来るという傾向がみられました。

以上のことから、女性の相談者は男性より困窮していないと考えることができますが、貧困に対するリスクの認知度が男女で異なり、女性は早い段階で相談に行かなければならないと感じているとも解釈できると思います。

この分析を通じて最近考えていることがあります。女性の貧困が見えにくい1つの要因として、貧困を把握する際の前提に「世帯」という概念があって、「世帯」を単位に貧困を把握していることが、そもそも女性の貧困をみえづらくしているということです。

女性世帯が全世帯数に占める割合については、近年、増加傾向にあります。母子世帯は過去15年であまり変化はみられませんが、女性の単身世帯が増えています。背景には、高齢女性の増加や未婚化の進行などがあります。とくに単身女性は、若年層と高齢層で増えています。「もやい」の女性相談者の事例をみると、若い人ほど非正規雇用が多く、メンタル面に問題を抱えている人が多い傾向がみられました。

これまでの研究で、女性の路上生活者と施設入居者に対して聞き取り調査をし、その人の生活史を詳細に辿れる人が33人いましたので、その特徴を紹介したいと思います。

まず平均年齢が59歳で、若くして家を出ている人が多いという特徴がありました。学歴は、男性よりも圧倒的に低い。多く(約8割)は結婚の経験がありますが、離死別をした人が多い。特に離婚して単身になったケースが一番多かったです。また結婚経験はあるものの、子供がいない人も多いという特徴がありました。多くの人が働いていましたが、低賃金の不安定労働に長く従事していた人が多く、障害があると思われる人も若干いました。

今後、どのような政策が必要かというと、1つは、女性が経済的に自立する条件がもう少し整わなければいけないと思います。

次に、非正規雇用者が増えていますが、そうした人でも加入できる社会保障を拡充すべきだと思います。

最後に、やはり人生の早い時期に社会に包摂する仕組みが必要だと思います。生活保護を受給し、お金があれば生活できるかというと、生活技術が身についていないと難しいという点から、この辺りの支援も必要なのではないかと感じています。