現場報告②
豊中におけるパーソナルサポート事業の活動を通じて

講演者
白水崇真子
一般社団法人キャリアブリッジ代表理事
フォーラム名
第74回労働政策フォーラム「アンダークラス化する若年女性Part2~支援の現場から~」(2014年6月21日)

制度の枠を超え個人に寄り添ったさまざまな支援をする「パーソナルサポート事業」は、派遣村の村長を務めた湯浅誠さんが提唱したもので、内閣府のモデル事業として始まりました。

大阪府豊中市には3カ所のパーソナルサポート事業の拠点があります。同市役所にある地域就労支援センター、庄内地域で活動する専門家チーム(生活困窮世帯や障害、外国人など多重に困難を抱えている人たちを支援する拠点)と、社会福祉協議会のコミュニティーソーシャルワーカーの活動(地域で困難を抱える人たちをピックアップして支援する)です。

福祉や教育など各方面の支援窓口でも解決できないような困難な方を受けてほしいと市役所や民間支援団体から連絡が入れば、看護師や臨床心理士、精神保健福祉士、発達障害支援員といったような専門家でチームを組み、総合的にケースの見立てをします。同時に出口を一緒に探すのですが、地域の企業で就労する場合もあり、福祉的就労や、再び学校に戻ったり、訓練を受けたりするという選択肢を検討しながら、地域の中でその人の居場所と出番を探していくというサポートをしています。

インテーク時にはご本人が望む生活や仕事、そこに辿りつけない阻害要因を分析します。DVなど暴力被害を受けている人や、メンタル面の不安定な人には心理士がついたり、身体面の不調がある場合は看護師が病院に付き添い、健康を取り戻すためのサポートをします。

企業での就労が可能そうであれば、求人をみつけて職業適性検査をし、職種を絞り、会社へ電話をし、どういう人かを紹介した上で、たとえば短時間勤務が可能かどうか、職場体験が可能かどうか相談にのります。

この豊中でのパーソナルサポート事業の活動を通じていくつかの気づきがありました。正直なところ、貧困がこれほど、とくに子供に蔓延しているという状況を目の当たりにして大変なショックを受けました。そして若年者の場合は家族の支援・応援がないと継続できないとも思いました。

自立支援における就職支援では、就職以前に、健康やライフラインの確保が大事ですし、生活身辺の自立のために社会参加の練習ということも必要です。働き続けていくためには自分に合う仕事や就労場所を探していくことになります。

豊中のパーソナル支援事業の利用者の属性については、男女が約半々となっており、年齢は、定時制高校と連携も多かったので10代が28%と多く、20代(28%)30代まで入れると7割を超えました。利用者が阻害されている要因をみると、ひとり親、メンタル、未就労、外国人、生活保護、引きこもりなどがあがっており、集計すると、1人が2つ以上の阻害要因を抱えていることになります。

本人は働きたいが、専門家の見立てとしては就労よりも優先すべき問題があり、包括的支援を必要とする人が多く、私たちは、地域の中で企業や医療機関、教育や福祉などに繋いでいくという支援に取り組んできました。10代~20代の若者に非常に有効だと思っているのが、職業適性のアセスメントです。

職業適性検査を行う際に背中を押してあげて、就職活動に向かってもらうサポートをしてきました。中卒の若者をプラスティック加工工場に紹介し、職場体験を経て就職したケースもありました。

職歴づくりのサポートもしました。若い人は職歴がなく、アルバイトの採用面接も通らないことが多い。そこで、地域の母子寡婦連合が運営する市民病院の協力を得て、病院の売店でアルバイトして職歴づくりをする取り組みをしました。

定時制高校の進路指導部との連携を通じ、生徒たちには困難が集積しているという実感を持ちました。生徒の8割以上がひとり親家庭であり生活困窮家庭です。私たちが支援する中では、例えば学費がかからない公共の職業訓練を紹介したり、福祉、障害手帳を使った就職を提案する場合もあります。

この1年を振り返ると、男子学生はこうしたプログラムで就労・自立支援が成功しましたが、女子学生については継続して支援できたケースは数えるほどでした。ただ彼女たちは学校には来ているので、学校の中に相談室を設置するよう依頼して居場所をつくりました。全校生徒が約200人の小規模な学校でしたが、来所者は1日7~8人くらいで、最終的には90人以上が居場所を利用しました。来所した生徒がつぶやいたことをスタッフが聞き取り、その内容がリスクが高いと判断した場合は、先生方を通じて地域の児童相談所や専門の機関へ繋ぎました。

親子関係においても、男子生徒はいずれ就職して経済的にさえ自立すれば自由になれる、と同居人のような関係で高卒と同時に独立するが、女子生徒の場合は家族を経済的、もしくは家事などで支えることに自己尊重感を見出し脱出できない傾向が強い。

他にも、父子家庭で父親や兄から暴力をふるわれるケースや、母親が連れ込んだ男性の暴力の対象になっているケースなどもあります。児童相談所に行っても、18歳以上は保護できないので高校生に対しては二の足を踏むこともあり、家庭へ戻らざるを得なくなります。そうなると、せっかく勇気を出して話したのに何も変わらなかったということで、大人への不信感が強まり、援助交際や性産業に入っていってしまう女子学生もいます。

自立した大人として、或いは労働者として生きていけるような見込みがなく、福祉とも繋がらず、進路に希望を持って継続的に取り組むことが非常に難しいというのが、今の女子学生を取り巻く状況であり現実です。

高校時代に周囲の大人がいかにリスクをキャッチし、自立の支援ができるかが、非常に重要だと思います。