報告1 コマツのグローバル人材育成:第73回労働政策フォーラム
日本型グローバル人事のこれから
(2014年4月14日)

写真:荒井氏

荒井 秀明  株式会社小松製作所コマツウェイ総合研修センタ所長付

私は最初に設計部門に配属になり、品質保証部門を経験して、現在は教育部門で人材育成にかかわっています。この部門は、コマツグループ会社社員向け共通教育および階層別教育を実施しています。その中でコマツウェイとして、コマツの社員の信念、心構え、価値観を全世界のコマツグループ社員に普及する活動を行っています。本日は、コマツがどのようにグローバル展開してきたか、海外各国の文化や習慣の違う人たちと連携して組織力を発揮するために、どのような方策をとっているかを紹介したいと思います。

まず、会社の概要です。従業員規模は連結で4万7,000人ほどであり、社員比率は海外が58%となっています。事業構成は建設機械・車両部門が約90%とほとんどを占めており、全世界で販売しています。売上高構成を地域別にみると、日本国内は17%程度で、北米(17%)、中南米(15%)、欧州(6%)、アジア(13%)、中国(7%)、アフリカ(6%)など各地域で販売しています。当社は海外に幅広く現地の販売代理店、生産工場を抱えており、コマツ社員が現在約400人駐在しています。ローテーションの基準は、原則として管理職が5年、一般社員が3年です。

シート1 コマツの海外進出の歩み

シート1[画像のクリックで拡大表示]

コマツが海外に輸出し始めたのは1950年代です。それ以降、海外志向を強くしてきました(シート1)。最初に海外に輸出したのが1955年で、建設機械のモーターグレーダーをアルゼンチンに輸出しました。その後、ブラジル、メキシコ、そしてインドネシアに工場を立ち上げました。当時は、現地での輸入関税が高く、それらの国の市場に展開するためには国産化が必要だということで進出していきました。そのほかの市場へは日本から輸出を続けていましたが、1985年にプラザ合意があり円高が進み、日本からの輸出では全然利益が出なくなり、ヨーロッパやアメリカにも工場進出しました。90年以降は日本市場が縮小したので、海外に出ていくしかないということで成長市場に工場を展開しました(現在、車両の完成工場と部品、トランスミッションエンジンの工場等が海外に32、国内に12ある)。

1回目の海外駐在は入社5~8年目で

シート2 社員に求める4つの人材像

シート2[画像のクリックで拡大表示]

当社の人材育成についてですが、新入社員としての定期採用だけでなく、経験者採用も行っています。入社すると、まずは各専門分野でプロフェッショナルになるため、専門性を磨いてもらいます(シート2)。専門分野で経験を積んだ後は、「ファンクショナルマネージャー」(組織の牽引者・実務運営責任者)に進む人、「スペシャリスト」(社内外に認められる高度な専門性)に行く人に分かれます。その後、海外に出て経験を積んで、「ビジネスリーダー」になっていくというステップを設定しています。

冒頭で、海外での任期について述べましたが、基本的には入社後、5~8年業務を経験すると1回目の海外赴任の機会があります。任期は3年前後です。特に、マーケティング部門とサービス部門、生産部門の社員がこの年代で一度海外に出ていくことが多いです。その後、いったんコマツ(日本)に戻ってきて経験を積み、また4、5年経った後に2回目の海外駐在を経験します。またコマツに戻ってきて、3度目の赴任では海外現地法人の経営幹部として駐在するというのが基本的な人事ローテーションです。

コマツが掲げているのは「グローバルチームワーク」

コマツが過去の歴史の中で定着してきた考え方ですが、コマツ単独で事業を展開するのは非常に難しく、サプライチェーンとして販売代理店、協力企業と協力し、信頼して1つの製品をつくり販売しています。お客様の満足度を向上させるためにもグローバルチームワークで全体最適の行動が必要となります。事業を海外展開していくためには、こうした考え方をコマツ社員だけではなくて、海外の現地法人の社員たちにも伝えていくことが大事です。その考え方は、「コマツウェイ」という価値観の中のひとつですが、コマツウェイの説明をグローバルで海外現地法人の社員にも行っています。

経験の長い現地社員を現地法人のトップに

1960年代の海外進出の創成期では、日本でつくった製品を海外で販売し、アフターサービスをするのが主で、営業サービス中心にコマツ社員の国際化からスタートしました。1985年以降、海外に生産工場を建て、海外生産が本格化すると、コマツ(日本)から赴任した駐在員がトップに就いて、現地社員に対してコマツのやり方を指導していきました。生産、経理、検査などの各部門には、コマツから課長クラスの人材を派遣し、コマツのやり方を教えて、定着させてきました。同じ製品を海外工場で同時期につくり、品質も同等にしていくという方針に従い、コマツのモノ作りのやり方・考え方をコマツのマザー工場が主導して海外のチャイルド工場に展開していきました。

1995年以降は、経営の現地化、現地マネジメントの強化という考え方にシフトしてきました。価値観を共有しチームワークで組織力を向上させることを教育し、ナショナル社員(現地社員)のトップや幹部を教育と実践を通して経営を担えるように育成しています。

現地社員の定着率を高める施策を実施し、いまでは、コマツグループに入社してから10年~15年、長い人では30年以上勤めているナショナル社員もいます。こうした、コマツグループ会社で長く経験を積んで、コマツのビジネスのやり方を理解した社員が、海外現地法人のトップに就いています。またコマツの駐在員トップはナンバーツーのポジションに就き、コマツ本社と現地とのブリッジ社員として活躍してもらうという方針で育成を進めています。

コマツの考え方・やり方の理解度を基準に人選

それぞれの地域の歴史や文化を尊重し、互いの違いを認め合うというのが当社の考え方です。つまり、多様性の理解です。一つひとつのローカルが、それぞれの事業を展開し、それらを足し合わせてグローバルに全体が1つにまとまるという連結の考え方、「シンクグローバル・アクトローカル」です。

コマツとしては日本に軸足を置き、創業者の精神を受け継いで、90年以上の歴史の中で先達たちから伝えられた心構え・価値観を踏襲して日本国籍のグローバル企業として成長していこうと考えています。欧米企業と同じようなスタンスで海外展開はしません。

当社のグローバル展開の成功の鍵は信頼して、安心して仕事を任すことができる海外のナショナル社員を増やしてきたことだと言えます。駐在員はコマツ流ものづくりを教えながら、ブリッジ人材となりますが、当社では20年とか30年間、現地に社員を駐在させるということはあり得ません。赴任期間に限りがあるので、派遣期間中にどれだけコマツの考え方を現地に浸透させられるかが仕事の目標の1つになります。

コマツの考え方・やり方を理解した現地社員に現地法人のトップに就いてもらう理由は、事業規模が拡大した現状では、駐在員が現地のトップに就いたとしても、方針に基づく経営の管理は可能でも細かいオペレーションまでは指示が行き届かないからです。部下から不満や苦情が出た場合に、そこに生まれ育って20年、30年とコマツ現地法人で業務を経験した人が中心となって処理した方がうまくいきます。

また、現地の社員に対して、昇進の機会があり、自分もトップに就けるということをみせることで、仕事へのやりがいや会社に対するロイヤリティが醸成できるというメリットもあります。

以前、ヘッドハンティングした人を海外の現地法人のトップに就任したことがあります。しかし、たまたま適性がよくなかったのかもしれませんが、うまくいきませんでした。当社では、全社員が現場主義を実践することを大切にしています。経営トップになっても、現場やお客様のところに行って話を聞き、実際に社員が働いているところをみて、不都合があればトップの考えでそれを直していくということを奨励しています。そのトップは現場にあまり行きませんでした。現地のトップになる人は、コマツに長く勤め、コマツのビジネスを理解し、仕事のやり方もわかった上で、チームワークで仕事ができる人であるかどうかを基準にして人選しています。

トップが自ら後継者を育成

現在の主要な現地法人のトップをみると、アメリカはナショナル社員と駐在員のツーヘッドです。ベルギーは駐在員がトップです。ドイツ、イタリアはナショナル社員がトップになっています。

中国では、90年代の最初は駐在員がトップに就いていましたが、ナショナル幹部を将来のトップに育成しようと考えてコマツのやり方を指導しました。定期的に日本に招聘し、経営層とのコミュニケーションを通して経営方針や経営者としての考え方を少しずつ理解してもらい、育成してきました。その結果、2013年に新たに4つの会社でナショナル幹部にトップに就いてもらいました。駐在員は、ナンバーツーあるいはアドバイザーという形で経営を見守っている状況です。

コマツはモノ作りの技術革新を進めるため、製造、生産技術、研究開発はインフラの整っている日本中心で行っています。ただ、人事、法務、マーケティングは現地主導で行っています。コマツ本社からは、コマツグループ全体の中期計画や人材育成の方針を提示し、定期的にコマツ本社の本部長クラスが各地域のマネジメントコミッティで報告を聞き、コミュニケーションをとっています。

コマツ社員向けの教育訓練では、将来の幹部をめざす社員の育成強化を行っています。あるプログラムでは、課長や主任クラスの社員を各本部から選抜し、社内のMBAコースを受講させ育成しています。部長クラスでは、社内選抜して海外のビジネススクールの集中講座に受講させ、海外ビジネスの感覚を養ってもらっています。

「コマツウェイ」を社員に教育

また、全世界に事業展開してきて海外現地法人の社員比率が過半数を越えています。文化、習慣の違う社員とチームワークで仕事を進めていくために、「コマツウェイ」を教育しています。コマツウェイの精神は、創業者である竹内明太郎の「工業富國基」という考え方のもとに、(1)品質第一(2)技術革新(3)海外への雄飛(4)人材育成──の4つの精神を先達たちが伝承してきて、社員で共有しています。今後も次世代へ伝承しようと考えています。コマツの歴史も含め、こうした内容を海外の経営トップと管理職に伝えながら、次は彼らがナショナル社員に伝えていくということを推奨しています。

また、経営の指針の「品質と信頼性を追求し、お客様に喜んでいただける製品・サービスを提供し、企業価値を最大化する」ための考え方を説明し、信頼度を高めるためにはコーポレートガバナンス体制の構築と整備、モノ作り競争力の強化が必要であるということを、全世界のグループ社員に説明しています。

「コマツウェイ」の冊子は、「トップマネジメント編」、「もの作り編」、「ブランドマネジメント編」に分かれています。トップマネジメント編では、経営者、経営幹部が事業を展開していく中で実践してほしい価値観が示されています。もの作り編では、モノ作りに関する社員の心構えを示し、ブランドマネジメント編では、お客様との関係性をさらに向上させるための心構えを紹介しています。

具体的な内容について一例をあげると、「ものづくりに興味を持ち、仕事を楽しくやろう、好奇心を必ず持ちなさい」、「トップはステークホルダー、特に社員とのコミュニケーションを率先垂範しなさい」、「管理職は人材育成を大切な仕事と思い、活動していきなさい」ということが書いてあります。

こうした「コマツウェイ」を海外現地法人の経営層、幹部に説明しています。今までに中国、東南アジア、南北アメリカ、欧州で実施しました。こうした取り組みを継続してコマツウェイを定着させ、変化に対応できる強い組織づくりをめざしています。