実践報告2 若者の新しい働き方―協同労働の実践―:
第61回労働政策フォーラム

若者は社会を変えるか —新しい生き方・働き方を考える—
(2012年6月30日)

髙成田 健 ワーカーズコープ・センター事業団神奈川事業本部本部長

写真:髙成田 健

私からは、社会を変える新しい生き方、働き方の1つになれるのでは、あるいはなりたいと思っているワーカーズコープ=協同労働について紹介し、若者の就労の実践をお話ししたいと思います。

ワーカーズコープとは、働く人々、市民が必要なお金を自らが出し合い、経営も自分たちで行いながら、地域のニーズに応える仕事を起こす協同組合です(シート1)。私たちの歴史は、戦後、失業者が大量にあふれ、雇用がなかったとき、国が直接失業者を雇い、道路整備など、公共事業を行っていた失業対策事業にルーツがあります。その後、高度成長期に伴い、国が直接雇用する必要がないとして事業が打ち切られる中で、地域での中高年の働く場所を自分たち自身でつなげていこうと事業団運動が全国各地で生まれていきました。

シート1

ワーカーズコープ・協同労働とは

「よい仕事」「民主的改革」を掲げ、モデルとなる事業団をつくろうと、センター事業団が生まれました。スタート時は病院の清掃や生協の物流の事業を多く受託し、高齢者、障がい者、若者等が就労する場をつくってきました。

協同組合の歴史(シート2)は、1884年、イギリス・マンチェスター近隣の「ロッチデール先駆者協同組合」が最初と言われています。労働者の給与が減り、食料や衣類等、生活必需品の品質が悪化しているのに価格が高騰しているという事態の中で、労働者のための労働者によるお店をつくり、品質のよい砂糖や小麦、バターを、適正な価格で提供したのが始まりです。

シート2

労働者協同組合の概略

まちづくりも主体的に担う

私たちセンター事業団も、労働者の主体的な働き方を模索する中で、労働者協同組合を知り、そしてセンター事業団を設立した後、働く人たちで出資して、労働者協同組合となりました。話し合いを通じて、清掃・物流の仕事だけでなく、高齢者の介護、障がい者の支援、あるいは子育て支援のほか、最近では指定管理者として公共サービスや施設の運営を担っています。

10年ほど前から、生協法や農協法のように、労働者の協同組合法の制定を求める運動も行い、現在、200人を超える国会議員の議員連盟もありますし、800の地方自治体から国に意見書を上げていただいています。しかし、まだ法律はできていません。

シート3

ワーカーズコープ「7つの原則」「3つの協同」

私たちは、世界の協同組合原則をもとに、「7つの原則」と「3つの協同」という定義を持っています(シート3)。特徴的な2つを紹介しますと、第一原則として、働く人々、市民が、自らが仕事を起こすということを定めています。また、よい仕事、いわゆる利用者をお客様にするということではなく、利用者、地域、仲間と協同して仕事を行って、安心して暮らせるまちづくりを、市民が主体となってつくっていくということを掲げています。

もう1つの特徴が第二原則にあります。すべての組合員がお金を出資して、一人一票の決定権を持ち、事業内容、経営に関してみんなで話し合って決めていくとしています。私たちは話し合いによるよい仕事の追求と、仕事おこしを基本としている協同組合です。

4つのサポステと連携

シート4

協同労働による就労支援の実践について、続いてお話しします。ワーカーズコープでは、失業者の職業訓練や障がい者の職業訓練で、一人ひとりと向き合い、居場所をつくり、そして受講生全体でグループというか、仲間をつくって支え合い、そのことと並行して就労支援、あるいは仕事おこしを行ってきました。その実践の評価から、最近では生活保護受給者の就労支援や、若者の就労支援といったことも全国で行っています。

私が担当する神奈川では、職業訓練講座、ヘルパーの養成講座、障がい者向けの職業訓練講座等を実施しています(シート4)。県内に4つある若者サポートステーションと連携し、就労体系を受け入れています。特に湘南若者サポートステーションは、就労体験を専門的に受け入れるサテライト機能をワーカーズコープが担っており、その成果もあってこの2年間で10人以上の若者が湘南・藤沢エリアで働いています。

安心して働ける場と理解

ここで就労支援の事例をお伝えします(シート5)。1つ目の事例が、Hさん、38歳男性です。当初、母親に連れてこられましたが、まったく話ができない状況でした。働いた経験もなかったのですが、きれい好きという性格をサポステのほうでとらえ、サテライトの清掃の就労体験に21回参加しました。その後、私どもの施設で清掃を毎日早朝行っています。服装や目つき、顔つきがどんどん変わっていくのを目の当たりにしています。

シート5

事例1~事例3

本人いわく、全く働いた経験がなかったので、本当に働く経験をさせてもらって、自分の中で働くという流れが見えてきた。そして、就労体験していた同じ仕事で同じメンバーで働けたということで、現在、安心して働けているとおっしゃっています。

2つ目の事例が、Kさん、36歳男性です。サテライトの就労体験に40回参加し、就労への意欲を高めましたが、なかなかハローワークで、自分で就労を探すというところまではいきませんでした。発達障がいも、あるのかもしれません。そこで、ワーカーズコープで一緒に働こうということになり、3回、ジョブトレーニングで一緒に働き、4回目からは一人で働くことができるようになりました。

事例の3つ目がIさんです。32歳男性で、以前から障がい児に関係する職場で働いていましたが、非常に自己評価が低く、責任者だったのですが負担を感じ、働けなくなりました。藤沢に、重度の障がい児の親とワーカーズコープで準備会を立ち上げ、放課後、重度の障がいのお子さんを預かる児童デイサービスを立ち上げたのですが、そこでIさんは3カ月の就労体験、まず無償での訓練から始めました。その後、まずは非常勤として働きはじめました。

協同労働は、仲間や、その利用者である親とも一緒になって、話し合いながら働けるということで、非常に安心して働ける場だとIさんの中では理解されており、昨年は、その場所が利用定員10人だったのですが、1年で満杯になってしまったので、もう1回、親と一緒に準備会を立ち上げ、彼も今回はメンバーに入り、新しい現場をこの3月に立ち上げました。彼はその中で常勤として働くことができています。

自分たちで就労をつくる動きも

3つの事例から共通するのは、サポステで安心して相談できる環境があるというのが1つ目。2つ目は、じっくりと親身になってくれる、教えてくれる環境の中で、就労体験は3カ月~半年行うということが大事であるということ。その中で、仕事の経験と働く自信がついてくると思います。3番目としては、なるべくその人間関係の中で、その職場で働き始めて、徐々に就労を増やしていくというのが就労への道筋となっています。

続いて、職業訓練からの仕事おこしの事例を紹介します(シート6)。私たちは、職業訓練も長年やっていますが、これまで一般就労やワーカーズコープ内での就労が7割~8割を占めていました。ただ、ここ1、2年、特徴的なのは、新しいところで、自分たちで就労をつくるといった動きが生まれてきているという点です。

シート6

修了生による仕事おこしの取り組み

特に30代、40代の若者の受講生が、一緒に勉強した仲間と仕事をつくりたいと言います。今までどおり外で働いても、正社員の道は厳しく、派遣や非正規社員に戻るのでは、やりがいが少ないと。だったら、自分たちで納得のいく、そして地域から求められる仕事を、自分たちで苦労してでもつくりたいということで、地域の困難を学び、準備会を立ち上げて、今までにない、地域から必要とされているサービスをつくり出しています。

シート6に4点ほど具体事例を挙げていますが、一番上の事例は、高齢者のハウスクリーニングや墓石清掃、遺品整理、ごみ屋敷の特殊清掃などを立ち上げたものです。2番目は、民家を活用したデイサービスと元気高齢者のサロン、それから移送サービスを組み合わせた事例。3番目は老人福祉センターの利用者と一緒になって、元気な高齢者が地域で孤立している高齢者のところに行くという活動をセットにしたデイサービス。4つ目が、フロンティアネットワークという企業や大学とのネットワークを神奈川でつくっていますが、こうした方々と一緒になって、耕作放棄地を活用しての障がい者・若者や定年退職者による就農、直売所や米粉パン等のカフェの運営を、今年の4月に立ち上げました。

利用者、地域も一緒に仕事おこし

受講生が立ち上げたところから見えてきた4つの仕事おこしの流れを形にすると、シート7のようになります。利用者、地域、仲間との協同を深めて、地域懇談会などを通して、とにかく地域のニーズをとらえることが1つ目。2つ目が、職業訓練や人材育成講座を行う中で、仕事おこし準備会を発足させる。そして、趣旨書や事業計画、収支計画を作成し、それに沿った資金や人、物件を自分たちで探していくことを通して、仕事おこしが見えてくる。

ただし、私たちがこの仕事おこしをしようとしている分野は、行政や民間が対応できなかった分野です。簡単には立ち上がりません。この過程を、利用者、地域、仲間と一緒になって取り組むことが成功への重要な要因だと思います。

シート7

協同労働による仕事おこしの流れ

被災地でも仕事おこし

最後に、今後の展望と課題をお話しします。今年度、神奈川では、県の新しい公共モデル事業が公募されており、これを活用しての「くらしのサポートプロジェクト」に挑戦しています。これは、就労困難な若者がサテライトのような就労体験、専門訓練と徐々に経験を積み、そしてワーカーズコープの仲間や地域の方と一緒に、孤立している高齢者の生活を支える仕事をおこすというプロジェクトです。横浜市や、本田由紀先生にもチームに入ってもらっています。

2つ目が、緊急雇用を活用した被災地における仕事おこしです。これはワーカーズコープ全体として取り組んでおり、いま、被災地の大船渡、登米、大槌、釜石や気仙沼で職業訓練を行い、受講生とともに、海産物の加工や農産物の箱売り、豆腐工房の仮設住宅での立ち上げから高齢者の介護・障がい者のケアなどを通して、仕事おこしを進めています。

人の命や生活にかかわる事業で

これらの実践から、私たちは政策提言もしており、公的訓練、就労事業制度を提案しています。第一期として、生活の安定等、緊急・臨時の雇用を目的に、公的事業に失業者が一時的に就労するということからスタートします。第二期として、研修就労、あるいは職業訓練を並行して実施し、研修からの報酬や職業訓練からの給付金を受けて、生活の安定を確保しながら学んでいきます。第3期として、雇用創出基金等を活用し、仕事おこしに向かって期間中に仕事を起こして就労するという仕組みを提案しています。被災地や地域の雇用創出に効果的だと考えています。

私たちは、こうした新しい仕組みを通して地域のニーズにこたえる仕事をつくろうとしていますが、特に人の命や生活に直接かかわるフード(食)、エネルギー(燃料)、ケア(支援)の分野で事業を進めていきたいと考えています。そして、地域で住民みずからが自給し、循環するというコミュニティー・まちづくりをめざしたい(シート8、9)。これは経済学者の内橋克人さんが長年提唱しているもので、昨年の震災を機に、より一層、このFEC自給圏づくりの大切さを感じています。

シート8

Food Energy Care自給圏づくり

シート9

社会連帯ネットワーク

このような取り組みは、ワーカーズコープだけでは到底つくることはできません。同じような思いの団体・個人が地域社会で連帯して、緩やかなネットワークの中で取り組んでいく必要があります。

社会連帯ネットワークへの参加を、私たちは呼びかけています。協同組合が接着剤となり、NPO、企業、大学、行政や自治体や商店街、あるいは各就労支援団体とネットワークをつくる。そのうえで、地域のさまざまな課題をまずは共有し、ともに考えて、一緒にニーズ・課題にこたえる活動や仕事おこしを行っていくことが全国各地で起こっていくと、安心して暮らせるまちづくり、そして、若者の雇用創出といったものにつながると考えています。