講演2 若者の働き方と意識の変化―「若者のワークスタイル調査」から―
若者は社会を変えるか ―新しい生き方・働き方を考える―
第61回労働政策フォーラム(2012年6月30日)

堀 有喜衣 労働政策研究・研修機構副主任研究員

写真:堀 有喜衣

私ども労働政策研究・研修機構では、これまで2001年から、若者のワークスタイル調査を5年ごとに3回やってきました。2011年2月が最も新しい調査ですが、これに加えて、2011年の秋に、30代のワークスタイル調査というものも行っております。この30代のワークスタイル調査については、まだ皆さんに公表できる段階にはありませんが、本日はその結果の一部と、これまで私どもが蓄積してきた調査研究をもとに説明していきたいと思っています。キャリアや働き方の変化、意識の変化、あるいは非典型から正社員への移行などが基本的な問題意識になっています。

日本では、正社員でないまま、一度労働市場に出てしまうと、その後、安定した職につくのは難しいというのが定説になっています。これはもちろん事実ですが、図表1で、私どもの若者のワークスタイル調査(東京の若者2,000人に対してサンプリング)の2011年をみると、男性でアルバイト・パートで労働市場に出た人のうち、その後正社員になった経験がある人は52.5%いました。これが高いのか、低いのかということは判断が難しいのですが、2006年の調査と比較すると、06年は42.7%だったので、10ポイント近く上がっています。若者の正社員への道が広がったのかどうかは、5年後の調査を待たないとわからないのですが、おそらくは、この2006年から2011年にかけて、景気回復期があったために、2011年の数字が高くなったのではないかと私どもは考えています。つまり、非典型雇用から正社員になれるかどうかということについては、やはり景気動向の影響が大きい。そしてもちろん言うまでもなく、新規学卒者については、非常に離学時の景気の影響が大きいということでもあります。

図表1 離学時に失業・無業・非典型雇用だったが、その後正社員へ移行した者の割合

絶対無理ではない正社員への移行

こうして見ると、1回、非典型雇用として労働市場に出ても、その後正社員になるのが絶対無理かというと、そういうわけではありません。この点については、ぜひ若者には伝えておきたいところだと思います。ただ、その状況は、基本的には企業側の判断に任せられるものであり、企業側の判断というのは景気動向に大きく規定されるので、その点はもちろん気をつけなくてはいけないのですが、どうしても正社員として社会に出なければいけないと追い詰められている若者がいるのだとすると、実は若者の状況も結構多様なのではないかということも、また見えるのではないかと考えています。

ただし男性についてはそうなのですが、女性についてはかなり厳しいというのが現状です(2011年調査での正社員移行割合は31.5%)。女性特有の家庭のイベントがあるということが、企業側の採用を思いとどまらせているのだと思います。男女をあわせると、およそ4割ぐらい(41.0%)が、2011年では正社員に移行できている状況になっています。

図表2では、どんなキャリアをたどっているのか、キャリア類型を見ています。「他形態から正社員」というところに着目して見てください。2006年よりも2011年のほうが高くなっているということが見えてくると思います。この間の景気回復が、正社員への移行を可能にしたということだろうと思います。

図表2 キャリア類型の比較

2001年はフリーターに期待も

それでは、この間若者の意識は変わったのでしょうか。図表3で見ているのは、2001年の20代の男性正規、男性非正規、そして2011年の20代の男性正規、男性非正規、そして30代の男性正規、男性非正規です。

図表3 若者の意識の変化(速報値)

2001年に20代だった若者は2011年には30代になっていますので、同じ人ではないのですが、同じ年齢層の人たちを追いかけているような設計になっています。

まず、どの意識項目でも、特に棒グラフが突出して高い人たちがいます。これは2001年の20代の男性非正規の労働者です。ほかのカテゴリーとは違う、突出した形です。たとえば、「今の世の中、定職に就かなくても暮らしていける」、「将来のことを考えるよりも、今は楽しく生きたい」、「若いうちは仕事よりも自分のやりたいことを優先させたい」、「いろいろな職業を経験したい」、「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」、「将来は独立して自分の店や会社を持ちたい」――こういう意識を持っていたのが2001年の男性非正規の若者だったわけです。

2001年の20代の男性非正規労働者の特徴というのは、やはり当時は、フリーターという新しい働き方が登場して、それに対する期待にあふれていたことが、フリーターとしての意識の肯定感につながっているのだろうと思います。すなわち、当時の正社員は組織に絡めとられて自由がない働き方であったと考えられていました。このような正社員という働き方に対する息苦しさというものがあって、オルタナティブな方向性を、彼らは模索していました。その新しい働き方としてフリーターというものがあり、自分たちはそういう働き方をしているんだという自信が、この意識調査からは垣間見られます。同時に社会の側にも、当時は、既存の企業社会というものを変革させてくれるんじゃないか、といった期待もあったように思われます。

20代の意識は堅実化が進む

しかしながら、ここで2011年の20代男性をみると、正規労働者も非正規労働者もかなり似た傾向を示しており、正社員に対して非常に肯定的で、いわば落ちついた、堅実化した意識の変化をしています。ここからうかがえるのは、残念ながら、フリーターというのは新しい働き方にはなり得なかったということでしょうし、それが、社会だけではなくて、若者にとっても認識されたということではないかと思います。

20代のときに、男性非正規労働者は独自の意識を持っていたわけですが、30代の男性非正規労働者がどうなっているのかを見てみると、実は、男性の非正規労働者の人たちは、ちょっと変わった意識を持っていることがわかります。例えば、「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」という意識は、今でもまだまだ高く、20代の若者に負けないぐらい高い。また、独立志向も高い傾向にあります。

この結果は30代の正規の男性と比べると非常に対照的で、30代の正規の男性は、すっかり社会に同化していると言って差し支えないかと思いますが、今の社会に肯定的な意識を持っているように思われます。30代の非正規男性は普通の30代とは違う、新しい意識を持った存在だという感じも見えてきています。速報値ですから、結果はまだ変わるかもしれませんが、若者の意識の変化というものが、断層的な変化を伴って起こっていると言えるのではないかと思います。

社会保障からの排除も

ところでなぜここで、非正社員から正社員への移行というものを問題とするかと言えば、就業形態だけではなく、結局のところ、社会保障などさまざまな面で、大きな影響が出てくるということがあるわけです。図表4では健康保険と年金保険への加入状況について見ていますが、男性の正社員では会社の健康保険や共済保険に入ることができている人が7割ですが、アルバイト・パートだと3割にも達しません。「どれも加入していない」という割合が高くなっていたり、無回答・不明などもアルバイト・パートでは高い割合となっています。

図表4 就業形態別社会保険への加入状況

非典型雇用であるということは、企業社会においては正式なメンバーではないという位置づけにあります。したがって社会保障から排除されることは容認されているのです。これは年金でも全く同じで、正社員だと厚生年金、共済組合などの加入割合が高いわけですが、アルバイト・パートだと「加入していない」という人たちや、「わからない」という人が3分の1ぐらいおり、今の社会保障の仕組みに入れていないという問題があります。

履歴に空白をつくらない

それでは、どういった若者が非典型雇用から正社員に移行しているのか。ワークスタイル調査の中で行ったインタビュー調査の結果を3ケース紹介したいと思います。ワークスタイル調査は質問紙調査で行うものですが、その中で協力してくれる方を募り、インタビューしました(図表5~7)。

図表5 ①資格

Iさんという女性、当時は27歳でしたが、家庭の状況はかなり厳しく、父親のDV(家庭内暴力)などさまざまな問題があるなか、手に職をつけたいということで専門学校に進学した方です。専門学校でかなり猛勉強をして、簿記一級をとって、この後、税理士の勉強をしようかなと考えたそうですが、ちょうど両親の離婚問題が起きて、それを見ていたくなかったので、それまで1回も海外など行ったこともないし、興味や関心もなかったのですが、ワーキングホリデーというのがあるらしいと聞いて、ワーキングホリデーに必要なお金を何とか稼ぎ出して、そしてワーキングホリデーに飛び出していったという経歴を持つ方です。

行った先では、実際には、日本でのフリーター生活がそのまま移った形になったそうですが、ワーホリから戻ってきて、経済的な問題もあるので、すぐに転職活動したそうです。やはり簿記一級を持っている効果があったのだと思うのですが、ハローワークで仕事探しをして、会計関連の仕事で、簿記一級の資格を生かしながら働きました。

その間、転職や派遣社員なども経験しましたが、Iさんの特徴は、履歴にブランクをあけないということで、「絶対に空白をつくらない」ということで頑張って仕事を続けてきました。

その中で、大企業の紹介予定派遣で、正社員にならないかとも言われましたが、ベンチャー企業の正社員を選びます。ベンチャー企業ですから、職務があまり限られていない。もともとは経理の仕事しかしていなかったのが、どんどん仕事が広がっていって、このベンチャー企業は海外との取引もあるので、頻繁に海外出張にも行くようになり、インタビュー時にはプレイングマネジャー的に仕事を回していました。

ベンチャー企業ですから、この後この企業がどうなっていくかはもちろんわかりませんが、これだけの経験、そして管理職としても仕事をしたという経験があれば、転職をするとしても、さらに仕事が広がっていくのではないかと思える事例でした。

農業で一貫したキャリア

図表6 ②夢追求

2番目は、典型的なフリーターのイメージに重なるような、1回、夢を追ってフリーターになったQさんのケースです。Qさんは、大学時代に格闘技にのめりこみましたが、卒業時は1回仕事をしようかと思い、地元に戻って農業関係に就職しました。しかし、労働条件が悪かったということと、やはり格闘技をやりたいということで、離職して再び上京します。そしてアルバイトで生活費を稼ぎながら格闘技を再開するのですが、やはり格闘技で食べていくのは難しいということで、結婚を機会に正社員になろうとウェブで見つけた求人に応募して、農業関係の仕事で採用されました。

この人の特徴は、大学時代の専攻が農学で、かつ最初の仕事も農学関係であり、アルバイトの次に探した仕事も正社員の農業関係だったことで、何か資格があるわけではないのですが、ずっと関連したキャリアを歩んでいる点です。こうしたキャリアのつなぎ方もあるんだなということを強く感じました。

図表7 ③企業以外の活動

そして3番目の方は、企業以外の活動から入っていかれたGさんです。Gさんは大学になじめず、大学時代からどっぷりNGO(非政府組織)活動とアルバイトに浸かっていました。卒業後はタイでNGO活動をしました。NGO活動の中で、別にきちんと教えてもらったわけではないのですが、ITスキルを培い、それを生かして小企業に就職したのですが、現在の職場だと仕事の内容が限られるので、独立をめざしているとのことでした。

移行プロセスの個人化は問題

以上のケースの特徴をまとめると、図表8では挽回型移行と呼んでいるのですが、1つはブランクが少ないということ。それから就業形態が、アルバイトであろうと正社員であろうと、内容に一貫性があり、明らかにこの人はこの仕事内容でどんな能力を獲得したかということが周りにもわかるような仕事経験を歩んでいるということが専門性に結びついています。

図表8 挽回型移行の特徴と課題

もっとも重要だと思うのが、3ケースの皆さんは、非常に自律性の高い人たちであったということです。社会学的な言い方をすれば、「再帰的」なプロジェクトを遂行できるような人たちであり、3人とも、だれかの助けを借りるというよりは、個人化された移行プロセスをたどっていたこともまた、印象的でした。

これは、本田教授の講演にあった日本型循環モデルにおける移行のあり方とは違っており、組織の援助を受けて移行するのではなく、本人の自律性に頼る移行になっています。これが、非正規社員から正規社員になる人についてだけの特徴かというと、現在においてはそうではなくなりつつあるということが問題点だと思っています。

図表9 「組織化」された移行の衰退

資料出所:『学校基本調査』各年度

例えば図表9は高卒就職について示した表です。日本の高卒就職は極めて組織化されているのですが、2010年、2011年と組織的あっせん率が下がってきています。組織的にあっせんされないのがどういう人かと言うと、自己開拓したり縁故を利用する人であり、属性的な傾向の影響が強くなってしまうということが私は問題だと考えています。したがって、移行プロセスを「個人化」させる、かつ、若者に高い自律性を求めるのは非常に問題があるのではないかと思っています。

仲間と一緒の移行の検討を

最後に、新しい「組織化」のあり方について考えたいのですが、簡単に言うと、フォーマルな組織の支援だけではなく、仲間と一緒に移行するような、そういった組織化のあり方というものが考えられてもいいのではないかと思います。日本型の移行では、同じ年代の若者が、一緒に同じ組織に入ることによって同期意識というのが形成され、自分が悩んだときに同期同士で相談して、こういうふうに悩んでいるのは自分だけではないのだという形で問題を昇華しながら仕事を継続していたという面もあったと思います。そうした、仲間と一緒に移行するというやり方をぜひ検討したい。

自営希望が低下していることへの対応としては、多様な働き方を若者に示す必要がありますが、これは職業情報などで示すというだけではなく、いろいろな働き方があるのだということをいろいろな形で示していく必要があります。多様な働き方の豊かさを、若者にはもちろん、保護者にも知ってもらうことが重要ではないかと考えています。