報告「労働時間」
仕事特性と個人特性から見たホワイトカラーの労働時間

配付資料(PDF:201KB)

おはようございます。小倉と申します。

私のテーマで挙げましたものは、多少、当組織の関係もございまして、昨年度の研究成果の発表ということで、お手元にございます資料「仕事特性と個人特性から見たホワイトカラーの労働時間」は、下の脚注に書きましたディスカッション・ペーパー(DP)10−02(『仕事特性と個人特性から見たホワイトカラーの労働時間』)を非常に簡単にまとめたものでございます。そちらを20分ぐらいご説明して、実はそのディスカッション・ペーパーのお手元にあるほうは、ある種の調査仮説をこれから調べなければならないという結論がございまして、その調査を2月にもう実施したんですね。その分析を今やっている最中で、こういう機会がございましたので、粗々のまだ集計しかしていないのですが、むしろその結果をこの場でお示ししたほうが、調査研究の一貫性もございますし、オーディエンスの方々にとっても参考になると思いましたので、そちらのほうにむしろ時間を割きたいと思っておりますので、あらかじめご了承いただければと思います。

パワーポイントでつくったほうは、まだこれから数カ月後に報告書にしますので、詳細な結果はそのときに出さざるを得ないのですが、ただ、日本の長時間労働問題を考える上で、あまりこれまで調査したことのないことを調査しておりますので、そちらをむしろ重点的にやりたいと思っています。

私、20年ぐらい労働時間のことをずっと調査研究してまいりまして、なかなか日本の労働時間の問題は難しいなと思っています。なぜ難しいかというと、一言で言うと、働き過ぎはいけないと思っているのですが、それはなぜかというと、働き過ぎというのは自分で気づかないで働き過ぎていることもあって、結果的に最悪の帰結は過労死や過労自殺ということに至ってしまいますので、働き過ぎはよくないというのは、私は根本的にほとんどの方と一致するのではないかと思うのです。

ただ、すべての残業を否定できるかというと、それはまた違うのではないか。そういうことを言うと、まただれかから批判されることも時々あるのですが、ただ、じゃあ、皆さん、どうですかと。皆さん、現役で働いていたとき、今働いていらっしゃるときに、全く残業しないで働いていたんですかと。それは、今働いている人に聞いても、残業がない人は1割ちょっとしかいないんですよね。それは嫌でやっているかもしれませんけど、嫌じゃなく、自分の仕事だからやっているという人もたくさんいらっしゃると。

そうすると、働き過ぎはだめだけれど、全く残業が否定できるのかというと、やっぱりこの国ではそれはしばらくの間、無理なんじゃないかと私は考えています。それはある種の価値観ではございますが、20年間、調査研究した上で、残業を今、全くゼロにするということはほぼ構造的に不可能だろうと。だったら、せめて働き過ぎで亡くなるような方をなくしていこうとか、平均として残業時間を削減していく、あるいはサービス残業をなくしていくということがまずやるべきことであって、いきなり残業ゼロということは、ほとんどの会社にとっては言っても無理だと思うんですね。という前提で考えるようになりました。

もともとそう考えていたわけではなくて、長年やっている間に、どうも日本の人というのはやっぱりまじめだなと思っております。今日ここに発表を聞きに来ていらっしゃる方も含め、私も含め、やっぱり日本人って、働いて汗をかいて、ホワイトカラーであろうとブルーカラーであろうと、がっと仕事をして、残業した後のビールがうまいというのは、多分、共通して、お酒飲めない方もいらっしゃるでしょうけど、何か共通にあるような気がしているんです。

その上で、昨年と今年度にかけまして、ずっと労働時間はやってきたのですが、今回はちょっと今までやらなかったことをやってみようと思いまして、お手元のDPのほうにあるのは、最初にインタビューをやってみました。これはだれでも知っている大手IT企業の役員の方にご協力をいただいて、その関係で、ホワイトカラーの技術者や営業マンや研究者などに1、2時間ほどかなり詳しいインタビューをして、どのくらい働いているんですか、何で働くんですか、何でそんなに働くんですかということを聞いたものです。詳しい結果は、脚注にございますように、ディスカッション・ペーパーにレコードが載っておりますが、今日はそれをすべて発表する時間はございませんので、まとめて発表させていただきます。

10名実施して、今いろんな職種がかなり細分化されていると思うのですが、Aさん、Bさん、この方々は営業ですが、ソリューション営業というそうです。単品の営業ではなくて、要するにシステム全体を売るような営業、ある種のコンサルティングなんですね。御社の場合はこのシステムを通して、この機械を、端末を使うことによって、こういうふうに業務が改善されますと。ですから、単品ももちろん扱うのですが、その顧客先企業の全体を見ているという意味では、ある種のコンサルティング的な機能がございまして、したがって、関連する範囲が非常に広いんですね。広い上に、専門性も問われますし、営業の特徴としては、やはりお客さんに合わせないといけないということで、かなり長時間労働になっています。

それから、CさんとDさんというのは、研究所の開発部門の方で、いわゆる最終製品に近いほうの技術者の方々です。この方々は、後で申し上げます、基礎研究はないのですが、応用研究の3年サイクルぐらいで仕事をしている人たちに比べると、非常に短期間のサイクルで、かつコストダウンやスピードアップなどいろいろ求められるということです。したがって、非常に労働時間も長く、技術者の中では一番大変な人たちだなという印象を持ちました。

それから、SEと書いてあるEさんとFさんは、両方ともいわゆるコンピュータープログラム、各システムをつくる方々なのですが、この方々も非常に長い人たちでして、これも1つの理由は、お客さんのところで働いているんですね。お客さんのところでシステムを担当していますから、すべてお客さんの都合に合わせて働く。かつお客さんの会社の従業員が全員いなくなった後でシステムを見直すというような形態で働きますので、深夜、土日に仕事をすることがあると。

それから、G、H、Iさんというのは、研究部門の方々で、こちらは最終的に製品にするのですが、その最終的なアウトプットのイメージぐらいがあって、それに応じて、何をどういうふうに改善していくかという研究をされている方々です。労働時間は、短くはないのですが、一番長い方に比べると、若干余裕があると。

最後のJさんというのは、基礎研究をやっていらっしゃる、かなり業界でもトップレベルの方で、この方は、労働時間は決して長くないのですが、ある種、ちょっと特殊な存在と。

この人たち、基本的にすべて労働時間が長く、別に長い人を特別選んだわけではなく、長いので、やっぱりいわゆるホワイトカラーと言われている技術者、営業マン、研究者というような人たちは、非常にまじめだなという印象を私は受けました。

そのまじめだなというのは、やっぱりできないと思われたくないという、ある種の技術者魂みたいなものが非常に強くて、より難しいことに挑戦して、例えばコストダウンと言われたら、何の部品をカットして、それを何にかえればコストダウンになるのかということも含めて、常にお金が幾ら使われてもいいなら新しい技術を使えるのですが、新しい技術を使いながらコストを下げていかなきゃいけないというところで、現場では非常に苦労していらっしゃるということですね。

この会社は、平均的に労働時間は長いのですが、ほかの会社さんにもあると思いますが、1つ大きな要因としては、管理時間というのを設けていまして、これは実働時間じゃないんですね。IDカードで入館、退館というのをはかっていて、その入館と退館の間を在社時間と言うとしますと、その時間そのものを管理時間としていまして、それが部署によって若干違うのですが、80時間を超えると上司が呼び出されるとか、そういうふうにチェックすることをやっています。

それをやっているからといって、短いとは言えないのですが、やらないよりはやったほうがいいだろうというのでやっていまして、ただ、それは人事部に聞くと、効果があると言うんですけれど、現場に聞くと、例えば技術者魂を持っているような人は、語弊を恐れず言うならば、人によってはそれが迷惑だという方もいらっしゃるんですね。

それはなぜかというと、我々は労働時間で働いているわけじゃないと、いいものをつくるから、そのために働いているのであって、残業がここまで行ったから、もう働くなと言われるのは余計なお世話だと。それは人事の方も目を丸くして聞いていましたけど、大きな会社ですと、人事の本社の部門と現場って大分温度差があるようなので、現場では、その管理時間というのはかえって迷惑だという意見もかなり聞きました。

それはもう一つ理由があるのは、現在、家で働くということがあまり簡単にできないんですね。1つは情報セキュリティーの問題、それが一番の問題だと思いますけれど、今日は私、USBを念のために持ってきましたが、このUSBメモリーなんて、今そういう大手の技術者は持っちゃいけないというか、使っちゃいけないらしいんですよね。それをチェックするために、この会社では、ゲートに探知する機械が設けられていて、ある種、性悪説なのですが、みんなそこを通り抜けないといけないというふうになっていて、パソコンそのものを持ち出すときも、もちろん許可が必要ですしということを多くの会社でやり始めていますから、昔でしたら、こういったものに入れて、あるいはフロッピーディスクで家で仕事するということもできたのですが、今それもできなくなっていると。

そうすると、じゃあ、いつやるかというと、管理職は基本的に残業手当が出ないので、いわゆる残業することも多いのですが、残業手当を出さなければいけない人は、会社も言ってくるんですね。だけど仕事はあると。「じゃあ、どうするんですか」と聞くと、そこは会社で聞いていますから、あまりはっきりは言ってくれませんでしたが、私の推測ですけど、朝早く行って、その時間、例えば朝6時に行って、でも9時に出勤したとかやっているような気がします。それは会社に行くことができますし、ほんとうは早出の残業手当がつかなきゃいけないのですが、夜残っていると、言われる。だったら朝早く行こうとか、そういうことをやっていらっしゃると聞いて、ある種、非常に苦労されているんだなと感じました。

それが日本人の平均だと必ずしも言い切れないと思いますが、ただ、日本の労働時間が長い1つの背景には、やっぱり働いている人たちの働く意思の強さというのがあるのではないかと。ペーパーのほうはいろいろ文章で書いていて、読んでいると時間が足りませんので、3ぺージにそれらのインタビュー調査の結果をまとめてございまして、いろんな特徴があると思いますが、①から⑥ということで、①は関係性ですね。やっぱりお客さんや他部門との調整が多ければ、どうしても会議や打ち合わせが延びてしまったり、頻度が多いことで労働時間が長くなると。

2番目は、じゃあ、人を増やせばいいじゃないかと単純な発想を外野は思うのですが、ただそれぞれの職場で考えますと、じゃあ、新人をすぐ雇えるかと。例えば技術者として、26種目の中から派遣労働者として来た人がすぐその仕事ができるかというと、そうじゃないと。

それは確かにそうなんですね。有名な小池和男先生が企業内熟練の話をされていますが、先生の『仕事の経済学』の第3版では、「企業内特殊熟練の比率は、私の経験上、10から20%である」と述べています。もしかしたら、先生が最初に思っていたことと違うのかもしれないですが、よく日本の労働市場、企業内の特殊性として、企業でOJTを中心に身につけた技術、能力、スキルというものの比率が高いので、他社にすぐに行ったときに使えないと言われることがあるのですが、正直それがどの程度あるかは、まだだれもわかっていないと思うんですね。一番プロの小池先生でさえ、10から20%ぐらいかなと言っているくらいですし、私がつき合っているこの会社さんの方に、長年勤めている方に聞いても、「まあ、3割ぐらいですかね」とおっしゃっているので、そういう意味では、ある種、企業内労働市場の特殊性がどこまで強いかは一概に言えない部分があると思うんですけれど、ただ、そうは言っても、同じ会社の中であっても、この仕事に、じゃあ、あなた、その仕事を半分分けて、どこそこの部署のだれだれさんにお願いしますよというわけにもいかないと。

それは、いずれ時間がかかればできると思うのですが、すぐに新人が来てできるかというと、そうではないという意味で、人手不足というのはかなり恒常的に労働時間に影響していると思われます。それが3番の問題ですね。

それから4番は先ほど申し上げました。それから5番も、冒頭に申し上げましたが、私からすると、こんなにまじめな人は、多分100点目指して働いているのだろうなと。100点というのは主観的な基準ですから、何の100点かはよくわからないのですが、大体何点ぐらいを目指して、何点ぐらいとっていると思いますかと聞いてみたんですけれど、100点目指して80点という答えを私は想定していたのですが、多くの方が80点目指して70点ぐらいですと答えているんですね。非常に謙虚な感じがいたしました。それは、もしかすると、まだ頑張ればできるという思いがかなりあるのではないかと思うのですが、労働時間が長いですから、精神的・肉体的な限界というのがその辺にあるのかなと思います。

こういった仕事の進め方ですとか、それから個人的に働きがいを感じるといったことを、もうちょっと定量的にやりたいと思って、この資料ではそれを、今、直近でできるデータとして、私がおととし調べたものについて研究したんです。その結果は、ちょっとややこしくなってございますので、後ほどまとめてご説明します。

それから、もう一つ、私がやりましたことは、この資料では、管理職を特別に分析してみました。インタビューでも5人が管理職で、管理職の方は、ご承知のように、必ずしも管理監督者とイコールではないのですが、労働基準法第41条第2号の管理監督者としてみなす会社が多いんですね。課長以上はと。それは、中身を見るとかなり法的には、法律の判断が厳しいという説もあるのですが、到底、経営者のかわりにそういった仕事をしているとはいえないという方が相当いると言われています。

その管理職の方々についても、ある種、管理職じゃない方とは事情が違いますので、それについて見てみたというのがございまして、9ページに第4表というのがございますが、こちらはそのアンケート調査の単純な集計でございまして、個人に聞いていますから、会社の解釈とは大幅に変わる可能性がございます。ただ、個人がどう思っているかということが大事なので、「制度上、出・退勤時刻を自由に決められますか」というふうに課長、部長に聞いたところ、何と、課長の7割以上は「決められない」と答えていらっしゃると。

これは、おそらく会社が人事で言っていることとは正反対だと思うのですね。「いやいや、あの人は違います、管理監督者です」と、だけど管理監督者と会社が扱われている側は、「いや、私たちは自由に決められません」と、7割あるいは6割の部長が思っていると。そのこと自体が重要なのではないかと私は思います。

なぜかというと、実際にはそういうふうに働けていないということなんですね。管理監督者ですから、基本的には10時に行っても午後に行ってもいいんですよね。労働時間管理の適用除外ですから。だけど、実際には普通の社員が来る8時半とか9時に、あるいはもっと早く来ている方もたくさんいらして、それゆえ、それが恒常化していますから、自由に決められないという認識になっていらっしゃるのだろうと。

「決められる」と答えている人に、第5表はその人たちだけを対象に、「実際に自由に決めていますか」とお聞きしますと、6割ぐらいの方は「決めている」と答えていらっしゃるのですが、そもそも決められるという方が課長で3割弱、部長で4割弱ですので、全体では課長の1割ちょっと、部長の2割ちょっとが、管理監督者的に労働時間を決めているということになると。

それから、そういったことも含めて分析したものを12ページにまとめてございます。

①は、インタビュー調査の結果でかなりのことはわかったのですが、定性的な要因として仕事の進め方や顧客、社内、他部門、協力会社などとの関係性の強弱、あるいは要員量がそもそも残業を前提にしているということなどなどあったと。

2番目は、ここは言いわけなのですが、それがすべて既存の調査ではできなかったので、絞ってやったということをまず言って、見たんですが、仕事特性とここで言っているのは、裁量的にある種、働けているかという簡単な指標を使ってみたところ、若干、効いていると。裁量的な人はそれほど長くないというような結果は出るというふうに見まして、個人特性というのは、ここでは仕事と余暇のどっちに重点があるかということで見たら、当然ですが、仕事志向の人が労働時間が長いという結果の説明でございます。

それから3番目は、管理監督者として扱われることが多い管理職を対象に分析したのですが、出・退勤の自由な決定は、全くと言っていいほど影響がなかったと。つまり、その人が自由に決めているか決めていないかと、その人の労働時間というのはほとんど関係がないということは、この分析だけでなく、過去の分析でもわかっているのですが、実際に自由に決めているかどうかはおそらく影響するんじゃないかと、私は今のところ思っているのですが、制度上、自由に決められるか決められないかはほとんど関係していないようです。それは、おそらく多くの方が実際に自由に決めていないからじゃないかなと思います。

それから、あと部下の採用や配置などの関与の度合いが強い管理職も労働時間が長くなるということが見えてきまして、そういうことを詳しくやっていきたいと資料を書いている時点で思って、同時に労働時間に関する調査を始めました。それがこれからパワーポイントのほうでご紹介するものですが、ことしの最初に、正社員約8,000人と書いていますが、内訳は半分ずつ、管理職と非管理職に聞いています。管理職のほうが、当然、普通に考えると比率が少ないので、管理職の方特有の問題というのを知るために、そこだけは増やしています。ですので、集計・分析は管理職と非管理職に分けてやっています。

これから何枚かの結果をご紹介していきたいと思いますが、まず3ページの1番目の1月の月間総労働時間の平均ということで、この月間総労働時間、残業時間、サービス残業時間をすべて調査の定義を簡単に申し上げますと、ことしの1月に、月間総労働時間というのは所定労働時間プラスそれを超えて働いた時間の合計でございまして、そのうち、所定労働時間を超えた分をすべて、ここではほんとうはかぎ括弧をつけないといけないのですが、2番目の残業時間というふうにみなしています。

そのうち、残業手当が支払われた分を除いた分が、3番目のサービス残業時間でございまして、通常、サービス残業時間というのはそれに近いと思うのですが、ただ、私は管理職の方をどう扱おうか非常に悩みました、この何年間か。本来、管理監督者として扱われるとすると、残業という概念がないんですね。深夜はもちろん違うのですが、残業という概念がない、それで残業手当が払われていないから、サービス残業の問題は管理職には起こらないというのが、ある種、行政的な解釈になっているのですが、ただ、朝、普通にほかの社員と一緒に来て、夜、その人たちが残業していて、もし一緒にやっているとしても、管理職の方には残業代が出ない。それを残業と言わないのだろうか。私は多分、一般的に何か残業と思っていると思うんですよね。ただ、残業手当が出る対象ではないから、それはもらえていない。それは法律的な解釈は、管理職手当というのが出ているから、それで読みかえるということだと思うのですが、その額がどのくらいかにもよると思うのですが、必ずしもそれに見合った額になっているとは言えないんじゃないかと。

そうすると、管理職の方でも、ある種、残業時間とかサービス残業というものをちゃんと定義づけた上で言っていいのではないかなと今は思っています。ですので、あえて集計をしまして、1カ月で見たときに、これは1月ですので、お正月休みが入っていますから、例えば6月などに比べますと何日かは少ないと思うんですね。でも183時間、186時間というふうに平均で出ていまして、平均ですから、当然、分散がございますので、長い人と短い人がいて、いろんな特徴はございます。職種によっても特徴は違いますし、業種によっても違いますし、私が一番注目しているのは4番目の点で、勤務時間制度で大分違うんですね。

この勤務時間制度で何が違うかといいますと、裁量労働制、あるいはみなし労働時間という法律上の適用をされているような方、あるいは時間管理がないというのは主に管理職の方なのですが、この人たちは、非常に労働時間が長目に出ます。特に、ここでいうサービス残業というのは、管理職も含めているサービス残業ですが、というのが、IDカードを使ったりタイムレコーダーを使ったりしている方に比べて相当な範囲、30時間から40時間ぐらいございまして、IDカード等を使っている方々はサービス残業時間がないわけではないのですけど、平均で12、3時間になると。倍以上あるということは、ある種、勤務時間の制度というものが、特にサービス残業に関して言えばキーポイントになっているのではないかと思っています。

サービス残業時間は、先ほど申し上げたような意味でございますので、あえて管理職で集計しますと、平均は30時間弱あって、非管理職よりは相当多い。これは、私が今まで労働時間調査を何度かやってございますが、この結果は変わらないんですね。対象が違うにもかかわらず、勤務時間制度がこういった人たち、あるいは管理職と一般職と比べたときに、管理職の人のほうが長いというのは、どうも事実なのではないかと。日本全体を調査できているわけではないのですが、何年かにかけて何回かやっても同じような結果が出るというのは、おそらくそういうことなのかなと思っています。

それから4ページに、このディスカッション・ペーパーの課題であった顧客との関係などを聞いた上で見たところ、もうちょっと詳しい分析をこれからやらなければいけないのですが、今のところ、労働時間とちゃんと関係がありそうなものとして、きのう集計しながらこれをつくったんですけれど、労働時間の長さとプラスに相関ですね、つまりそれが肯定度合いが高いと労働時間も長いというのは、「取引先や顧客の対応が多い」と答えている人、「会議や打ち合わせが多い」と答えている人、「会社以外の場所でも仕事ができる」と答えている人。その度合いが強いという意味です。イエス、ノーではなくて、5段階で聞いていますので、「そう思う」、「そう思わない」の中の5段階で、「そう思う」というほど、労働時間が長いと。

当然、インタビューでもそういうことはわかっていたのですが、なるほど、全体で見ても、そこはそうなんだなと。やっぱりこういう職種の方というのはどうしても、特に一番上の「取引先や顧客の対応が多い」、「会議や打ち合わせが多い」というのは、非常に性質が似ていて、相手が常にあることですので、それでも自分で考えて書類を書いたりしなければいけない仕事もあるのですが、その時間が削られていくんですね。そうすると、その時間というのはどんどん後に追いやられていって、夜になったり土日になったりしてしまうと。

「会社以外の場所でも仕事ができる」というのは、いわゆる外回りの営業の方が典型だと思うんですけれど、モバイルワーカーなんていう今、言い方をしますが、いつでもどこでもできるということは、逆にいつでもどこでも仕事をしてしまうということにつながるんだろうと。

逆に、労働時間が減る傾向にある、少ない傾向にある仕事特性というのは、「仕事の範囲や目標がはっきりしている」という度合いが強い人、「自分で仕事のペースや手順を変えられる」という度合いが強い人。これも非常に常識的な結果だと思うんですけれど、ただ、やっぱり労働時間を長くしないという意味で、重要なインプリケーションはあるんじゃないかなと。仕事の範囲や目標、これは成果主義だったらはっきりするのかというと、今、成果主義もかなり見直されているように、まだまだ課題はあるんじゃないかと。

それから、私が重要だと思っているのは2番目で、これはやっぱり自分のペースで仕事ができるというのは、本来、裁量労働制が目指していたところだと思うんですね。裁量労働制というのは、みなし労働時間ですから、1日8時間働いたものとみなす。だけど通常の残業手当は払わないでよいと。深夜と休日は別ですよという話なのですが、それは、私なりに解釈すれば、ある1週間、1週間じゃあれですかね、1カ月、非常に忙しい、だからみなし労働時間が適用されて、1日平均的に10時間ぐらい働いてしまっても仕方ないと。だけど、その仕事が1回終ったら、次の1週間や2週間は、例えば6時間でもいいんじゃないですかと。それが「みなす」という意味だと思うんですよ。

要するに、8時間というのが枠にあって、プラスもマイナスも含めて「みなし」なんだと。だけど今、現状の日本におけるほとんどの方々の「みなし」は、8時間より上のクッションはあるのですが、下にはほとんどないんです。その下にないということが、やっぱり長時間労働に拍車をかけているということなんじゃないかと非常に強く私は思うようになりました。

ですから、裁量労働制、みなし労働時間というのは、現状ではおそらく法の建前や趣旨とは違った実態になってしまっていると。そういうことを、ほんとうはもっと強く言うべきではないかと思うのですが、皆さんがかなり長時間なので、本来、裁量制というのは6時間でもいいんですよということを私の口からなかなか言えないんです。「ほら、おまえみたいな組織のところがそんなことを言っているから、働いていないんだろう」とか言われたりするんですね。そんなこと全然ないのですが。

でも、ほんとうは日本全体がもし裁量制とか、管理監督者もそうですし、ホワイトカラー・エグゼンプションで議論になった話もそうなのですが、個々人である種、裁量度を持たせて、10時間働く週もあってもいいけど、6時間でもいいじゃないかということが認められないと、その制度は機能しないんだと思うんですね。少なくとも働く側にとってプラスにと。

もっと言えば、長時間労働が多い場合、企業側にとっても長期的には決してプラスではないんですよね。過労死や安全衛生の問題等々、出てきますから、思わぬ損失をこうむることがあるのですが、それはかなり長期にわたって出てくる結果で、しかもそういうことでロスするものがまだそれほど大きくないと思われているようなので、どうしても長いほうに融通がきいてしまうのかなと、非常にそこは残念だなと思っています。

もし皆様がそういうことが言える立場にいらっしゃる方々でしたら、ぜひ短いほうの裁量制というのを強調していただけると、ワーク・ライフ・バランスなんかを進める会社にとっても非常にいいことではないかと思うのですが、ちょっと話はそれますけど、現状では短時間正社員制度というのを入れている会社さん多いのですが、私が聞いている限り、非常に厳しいと。それはなぜかというと、短時間正社員は8時間所定のところを6時間でいいから早く帰っていいよ、あるいは遅く来ていいよというふうにやるんです。だけどそれは、ほかの人たちが8時間か9時間ぐらいだから、まあ、6時間ぐらいでも働いていると思われる。だけど、ほかの方が10時間、12時間働いていたら、例えば6時間だったら、12時間だと半分しか働いていないと思われる。そうすると、そう簡単に短時間制度を入れられない、あるいはそれを申請できないという声を聞くんですね。その辺もやっぱり考えていかなきゃいけないなと思います。

労働時間と正相関にある個人特性というのは、自分がどういう人間かということを聞きました。「出世志向が強い」、そうだと丸をつける人もかなり勇気が要ると思いますけど、私はどちらでもないとか多分つけると思いますけど、その肯定度が強い人、あるいは「仕事を頼まれると断れない」、「専門職志向が強い」、「仕事に対する責任感が強い」、「上司が退社するまで帰宅しない」というあたりが非常に労働時間と関係がありそうなんですね。もうちょっとちゃんと分析しないと、これがほんとうに有効かどうかはわからないのですが、相関関係で見たときには、今のところそういうことが見えています。

確かに、「頼まれると断れない」、「責任感が強い」、「上司が退社するまで帰宅しない」なんていうのは典型的な日本人のバリバリサラリーマンのように思えるのですが、日本社会は変わっているようであっても、変わっていない部分もあるんじゃないのかなと思います。

それから、負の関係にあるのは、自己管理能力が高いと自認している人は労働時間が短いという傾向があるようです。

管理職について、ディスカッション・ペーパーでできなかったことを聞きました。同じことも聞きました。5ページですが、出・退勤時刻を自由に決められるのは4割でした。管理職全体ですので、この間、前回の調査と全く比較、同じベースではできないのですが、もしかすると多いかもしれないです。

1つ大きな問題だと思ったのは、課長、部長あたりは、もちろん部下が何人いるかにもよるのですが、いわゆる今、プレーイング・マネジャーという問題が非常に大きくなっていまして、英語なので、アメリカにプレーイング・マネジャーがいるのだと思うのですが、もしかすると日本でしか通用しない概念の1つかもしれないですね。本来、マネジャーというのはマネジメントが仕事ですから、プレーはしないからマネジャーなんですよね。だけど、プレーヤーとマネジャーを両方兼ねる。その典型的な例が、何年か前にヤクルトの監督をやっていた古田さんって、私の同級生、同学年なんですけど、学校は全然違うんですけど、彼はキャッチャーをやりながら監督をやっていたと。

そういう典型的なプレーイング・マネジャーが普通の会社にはたくさんいらっしゃるんですよね。要するにマネジメントだけやっている管理職ってほとんどいなくて、もちろん上に行けば行くほどプレーはしないのですが、課長ですとか、部下が少ない部長になってくると、自分がプレーしなきゃいけない。例えば営業の課長でいえば、自分のお客さんを持たなきゃいけない。その人たちからお金をもらわなきゃいけない。だけど部下がどういうふうに効率よく営業できるかも指導しなければいけないという、そういう意味です。

それを、非常にアバウトですが、ほかに聞き方がなかったので、管理職の方に、日ごろの仕事のプレーとマネジメントの比率は100で2分するとどのぐらいですかと聞いてみたんです。7対3とか、6対5とか出るのですが、その比率というのは、私は、プレー度が高いと労働時間が長くなると思っていたんです。調査する前は。ところが、それは相関しなくて、むしろプレー度が適度にある管理職の人の労働時間が長い。それから、プレー度が例えば75%以上の人と25%以下の人はそれほど労働時間は長くなくて、25%から75%ぐらいの人たちが、50%を中心にしたあたりが塊になって、その人たちの労働時間が長い。

これをどう解釈するかは難しいのですが、おそらくプレーの度合いが、それはマネジメントの度合いの逆でもございますので、要するにどっちも適度にあるということは、自分の仕事も忙しいし、部下の面倒を見るのも忙しいんだろうと。プレーの度合いが低い人というのは、マネジメントの度合いが高いから、自分の仕事はそれほどなくていい。だけど、その反対に、プレーの度合いが高い人は、自分の仕事だけでいいというふうに解釈ができる可能性があるなと思っています。

それから、当たり前ですが、統括する従業員が多いほど、管理職の労働時間は長いというのは、これはやはり部下が多いほど長いと。さらに、部下の中でも、指導が必要な社員が多いほど、管理職の労働時間は長いと。これも予想どおりでした。6ページは多少、今まであまり調査していないので、結果だけお示ししたいと思いましたが、残業手当の上限というのは、本来、法律上はあまり、あまりというか、認めてはいけないことだと思うんですが、35%ぐらいの人たちが勤めている会社で残業手当の上限がありました。そのうちの3分の2は月額30時間以内というふうに決められているようです。

管理職から見たときに、その上限の達成について、「難しい」、「やや難しい」と答えた人でほぼ半分いらっしゃいますので、それは、じゃあ、どうなるかと、30時間までと言われていて、その達成が難しい場合、それ以上は私、聞けなかったので聞いていませんが、サービス残業化する可能性が非常に高いんだと思います。サービス残業の1つの理由、原因というのは、残業手当が予算で決められていることにもある。そうかといって、残業手当が全く青天井という会社はあまりないと思いますので、そこも非常に難しいなと思います。

それから、管理職の方に、残業が長い部下をどう評価するんですかと、要するに労働時間の長さというのを業績評価にどの程度反映するんですかと聞いたところ、「どちらにも評価しない」というのがマジョリティー、62%でして、「マイナスに評価」も2割弱、逆に「プラスに評価」も2割あるのですが、この辺も難しい問題だろうなと思います。

以上で私の研究成果と今やっていることをご紹介申し上げましたが、これからまだ私がやらなければいけないことは、今、パワーポイントでご紹介したものについて、もっと定量的な部分をちゃんと分析していった上で、今、相関関係があったようなものがほんとうに影響があるのかを確認しなければいけないと考えています。

その上で、長期的には、労働時間が少しでも減るような、だけれども会社にとってあまりにも厳し過ぎない、だけど全体としては労働時間がもっと裁量度が高まるよう方向性で、何かいいものがないのだろうかと考えています。若干、悲観的なことを申し上げれば、そんなにすぐには日本の働き過ぎの問題は解消されないのではないかと思います。それはなぜかというと、働く側自身がそれをある種肯定している部分があるからでございまして、そこがむしろネガティブに考えているなら、もっと例えば労働組合が強くなって、「やめろ、やめろ」と言えるかもしれないのですが、労働時間を削減しなきゃいけないと言っていらっしゃる労働組合の本部で深夜残業されている状況では、おそらくそれはそう簡単ではないんじゃないか、ワーク・ライフ・バランスのためにと、行政のペーパーを深夜書いている霞ヶ関の方がたくさんいらっしゃるうちは、非常に難しいんじゃないかと、やや皮肉を込めて言うならば、そういう感じがしております。

以上で、終わらせていただきます。

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