報告「雇用多様化の今日的課題」
非正規社員の企業内訓練受講の規定要因とその効果

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今日ご報告させていただくのは、昨年度取りまとめました労働政策研究報告書No.117(『非正規社員のキャリア形成―能力開発と正社員転換の実態―』)というものがあるのですが、これはきょうお配りした配布資料の引用文献の中にも並べてありますが、この報告書は一応4人の研究者で分担して執筆しました。その中の私自身が分析・執筆を担当した部分について報告させていただきます。それが「非正規社員の企業内訓練受講の規定要因とその効果」となります。私は、労働経済学をバックグラウンドに分析と研究を行っておりますので、きょうは分析も、経済理論に基づいた実証分析を行っておりますので、若干理論的なフレームワークもご紹介して、その上で実証分析の結果をご紹介したいと思います。

まず3ページの分析の目的ですが、非正規社員、ここでは直接雇用の非正規社員で、いわゆる派遣労働者の方は除きます。非正規社員の企業内訓練の受講機会を規定する要因を探る、これがまず1番目の目的です。下のグラフをごらんいただきたいのですが、これは2007年度から2009年度、各年度の正社員と非正規社員のOff−JTの受講割合を集計したものです。これを見ていただくと、正社員と非正規社員の方ではやっぱり半分ぐらい、正社員と比べて非正規社員の人は半分ぐらいOff−JTの受講機会が少ないということがわかります。非正規社員の人たちは、今も正社員の方と比べて安い賃金に甘んじざるを得ない状況ですが、こうした企業内訓練、職業能力開発の機会に恵まれないと仕事能力を高めることができない。そうすると、キャリア形成の機会にも恵まれませんし、仕事上も恵まれなくなって、将来的な賃金も低くなってしまう。つまり、能力開発の機会に恵まれた人と比べて将来的にも賃金の格差が広がってしまう可能性があるということで、これは、非正規社員の方々の職業能力開発の機会を高める要因を探るということが政策的にも重要な課題だということで、まず1番目の目的に挙げております。

もう一つ、2番目ですが、非正規社員が訓練を受けることにメリットがあるのか、これを明らかにするということです。訓練、これは人的投資になりますから、当然コストがかかることです。企業にとっても労働者にとってもコストがかかることですから、訓練から収益、何らかの便益がないと、訓練を行うインセンティブがないわけですね。じゃ、一体全体本当にメリットがあるのかどうかを明らかにすることが第2の目的になります。

先行研究をご紹介しておくと、4ページですが企業内訓練の受講には賃金の引き上げ効果があるということが、日本についても証明されています。黒澤先生の2001年の研究、川口先生の2004年の研究というのがございますが、これは黒澤先生については、正社員についての研究、そして川口先生については、女性についての研究ということで、非正社員についての訓練効果の検証というのは、これまでにございません。なので、今回ここでやってみましょうというのが、この研究です。

どうして企業内訓練の受講には賃金引き上げ効果があるのかというのは人的資本論に基づきますが、5ページの図をごらんください。横軸には勤続年数をとっていて、縦軸には賃金、生産性をとっています。訓練期間、あるところまで訓練を受講して、その後は訓練を受けないというモデルを考えておりますが、訓練を受講しない人の賃金カーブというのは、この水平のラインになります。訓練を受けないので、生産性はずっと変わらないので、賃金というのは生産性に見合ったところでしか支払われませんので、ずうっと変わらないということですね。じゃあ、一方訓練を受講した人はどうなるかというと、このS字型のカーブになりますが、訓練の受講期間中は訓練を受講しなかった人と比べてやはり低い水準になってしまう。なぜかというと、訓練の受講中にはコストが発生しますので、このコストの部分を労働者、企業両方で折半しても、いずれにせよ低い賃金、つまり本来の生産性からコストを差し引いた分しか賃金をもらえないということですね。ただ、訓練を受け終わった後は、生産性が上昇していますので、その生産性の上昇に見合った部分を企業と労働者で分け合って享受するということで、訓練を受けた人は、受講前と比べて、受講後は賃金が上がるというのが理論的なモデルになります。この部分がそうですね。コストを負担して、上昇した生産性を享受するというメカニズムになります。訓練を受講することで労働者の生産性が上昇して、上昇した生産性に見合った賃金が支払われる、このことで訓練受講後は、訓練受講前と比べて賃金がアップする、これが理論仮説になります。

なので、検証仮説としましては、6ページですが、訓練を受講することで労働者、ここでは非正規社員ですが、非正規社員の仕事能力とか生産性が上昇するのか、そして、訓練受講前と比べて賃金がアップするのか、現実のデータを見てみますと、非正社員も、先ほど浅尾所長からのご報告にもありましたが、非正社員の賃金水準は正社員と比べて低く抑えられているという現実があります。訓練受講後の賃金アップについてもどうなのかということになります。

先ほどの人的資本論に基づいた図というのは、完全市場を仮定した上での図になりますが、ここで非正規社員について完全市場を仮定してよいのかということです。新たな仮定、現実を反映させるような仮定を置いてみたいと思います。7ページですが、非正規社員、特に非正規社員の大部分を占めるパートタイム労働者の方を想像していただければいいかと思うのですが、やはり勤務地の立地に対して個別の選好を持つということです。やはり近いところで勤めたい、通勤時間が短いところで勤めたいという選好を持っている。もう一つ、企業がこの非正規社員の賃金を決める際には、同じ地域のほかの企業の設定賃金もやはり考慮に入れているわけですね。1社だけで決めないで、隣の、近くのスーパーさんの賃金がどうなのかということもちょっと見ながら、横目で眺めながら決めているということを考えると、完全労働市場ではなくて買い手独占的な競争市場モデルを想定したほうがいいのではないかということです。

そうすると、賃金の決定がどのようになるかということです。ここでは仮定として、正社員については、こうした勤務地に対する特殊な選好はないということで、完全競争市場の均衡で決まると仮定しましょう。そうしますと、8ページの右上がりの直線が労働曲線で右下がりの直線が労働需要曲線になりますが、正社員についてはこれの交点で決まることになります、w*。このとき、非正規社員ですね、買い手独占を仮定するとどうなるか、ちょっと難しい計算は省きまして、利潤最大行動を企業がとった場合、どういうふうに決めるかというと、1人当たりの単位労働費用がMC、こういうふうになるのですが、これと労働曲線の交点で労働需要量が決まって、そこで賃金が決まるということになります。そうすると、wmで決まることになります。なので、完全競争市場よりも低い雇用量、低い賃金のところで決まるということになります。今、非正規社員の人たち、労働者が企業内訓練を受けたとしましょう。そうすると、限界生産性が高まりますので、労働需要曲線が右側にシフトすることになります。そうしますと、新たな均衡点では正社員の賃金は同じように新しい労働需要曲線と、もともとあった供給曲線の交点で決まりますので、w*′で決まります。そうすると企業内訓練を受けたことによる賃金の上昇幅がw*′とw*の間の間隔ということになります。

じゃあ、一方、非正規社員はどうなるかというと、同じように限界費用曲線と労働需要曲線の交点で重要量は決まって、労働供給曲線との交点で賃金が決まる。wm′のところで決まりますので、非正規社員の方が企業内訓練を受けた場合の賃金上昇幅はwm′とwmの幅ということになります。なので、正社員の方たちの賃金のアップの幅と比べると、どうしても低くなるという構造があるようです。

一応こういうモデルを前提に分析を行っています。これは2008年に私ども機構が実施した「働くことと学ぶことについての調査」というのを用いております。全国の25歳以上45歳未満の男女就業者を対象にした調査です。分析対象は、1、民間雇用者で、2007年度に現勤務先で働いていた人、正社員と非正社員の方に限定して分析して、2,913をサンプルとしています。

11ページの企業内訓練の変数と、訓練受講の規定要因ということで、まず用いる変数をご説明したいと思います。ここではOJTとOff−JT両方を取り上げていますが、OJTに関してまずご説明します。12ページです。2007年度のOJTの受講についての質問がございまして、それから、OJTに関する質問項目をつくっています。 (1)上司や同僚から仕事上の指導やアドバイスを受ける。 (2)部下や同僚に、仕事上の指導やアドバイスをする。 (3)上司や同僚の仕事のやり方を見て学ぶ。 (4)今の仕事に役立つ担当外の仕事を経験する。 (5)ミーティング等を通じて、仕事に役立つ情報を共有する。これらそれぞれについて、よくあった、ときどきあった、あまりなかった、全くなかった、そういう人はいなかったということを選択してもらうという質問が用意してあります。これからOJTに関する項目をつくっていきます。

先ほどの5つの項目を全部使ってもいいのですが、何が何だかわからなくなってしまうので、成分分析にかけて似たような特徴のある変数をまとめてみようと思いました。成分分析の結果、アドバイスを受けると見て学ぶというのは一つのグループにできるだろうと。あと、下2つの担当外の仕事を経験、アドバイスをするということも一つにくくれるだろう。ただ、仕事に役立つ情報を共有というのはくくれないということで、この5つの項目から3つのOJTに関する変数をつくりました。「人から学ぶ」が、アドバイスを受ける、アドバイスをする、のいずれかを経験した場合が1、両方とも経験しなかった場合を0とする変数、2番の「参加して学ぶ」という変数は、見て学ぶ、担当外の仕事を経験、のいずれかを行った場合が1、両方とも行わなかった場合を0とする変数です。3番の仕事に役立つ情報を共有するというのは、そのままになります。あと、この3つの変数をOJTの項目とするとともに、すべてのOJTですね、5つの項目のうち幾つ受けたか、数多く、種類多く受けた人がどうなのかということを見るために、5つのOJT項目すべてを足し合わせた変数についても用意して、4つについて分析を行っています。

簡単に受講の割合を見ていきますと、15ページに正社員と非正規社員を並べていますが、やはり人から学ぶということ、参加して学ぶということ、仕事に役立つ情報を共有する、いずれを見てもやはり正社員と非正規社員では、正社員のほうが受講の割合が高い。あと、その受講の種類ですね。これは数を見ていますが、非正規社員は2.59と、正社員は3.17と、やはり数、種類についても、正社員のほうが多いということがわかります。

もう一つの企業内訓練のOff−JTを定義したいと思います。16ページです。2007年度のOff−JTの受講と、受講日数を使いたいと思っています。勤務先の指示で、教育訓練を受けたかどうか。受けた人を1、受けなかった人を0とするダミー変数を用意しています。ここでOff−JTとは、半日以上ふだんの仕事から離れて参加する研修や講習会のこととなります。ちょっと2番目は飛ばさせていただいて、そうしますと、17ページのOff−JTの受講の有無を見てみますと、正社員と非正規社員を比べると、やっぱり非正規社員の人のほうが半分ぐらいしか受講確率がないということがわかります。あと受講日数を見ても、やはり受けた人が一体どのくらいの日数を受けているのか、受講の密度ですね、これについてもかなり違いがあるということがわかります。

やはりOff−JTの受講というのは、企業にとっては投資なので、投資しやすい人に投資したいというのがあるわけですね。なので、これまでに訓練を受けさせておいて、ある程度能力が高まった人にまた集中的に行いたいというインセンティブがあるのではないかということで、一応2006年度以前のOff−JTの受講のもと、2007年度のOff−JTの受講の有無というのを18ページにまとめていますが、やはり2006年度以前にOff−JTを受講したことがある人のほうが、2007年度もやはりOff−JTの受講の確率がかなり高いということで、同じ人に集中的にやっているという傾向が見られるかと思います。

まず最初に、ここまでが訓練の変数の定義になります。次に、ここでは分析として、一体だれが企業内訓練を受けているのかということを明らかにしていきたいと思います。19ページですが、仮説としましては、企業内訓練というのは人的投資ですから、企業が従業員に訓練を受けさせるのは、期待投資収益が回収できる場合に限られます。なので、収益を十分に回収できるだけ期待勤続年数が長かったり、労働時間が十分に長いということが挙げられます。あと、投資収益率の高い人に当然投資を行いますので、スキルレベルの高い人に選別的に訓練を行っているのではないか。あと、過去に訓練の受講経験があり、既に一定のスキルを身につけている人を対象にしているのではないかということです。

この仮説を検証していくために、変数を3つ用意しておりますが、ちょっと詳細については後でごらんいただいて、時間の関係で分析の結果を見ていきたいと思います。

まず21ページはOJT受講の規定要因になりますが、プラスの値で、右側に*がついているところだけ、統計的な意味のある数値になっていて、統計的に意味のあるレベルで、こういう人たちがOJTの受講数が多いとか、受講確率が高いというふうに見ます。このように見ていると、OJTの種類を多く受けているのはだれかというと、やはり期待勤続期間の長い人ということになります。個別の要因を見てみると、期待勤続期間が長かったり、労働時間が35時間以上、フルタイムで働いている人たちで、こうした受講の確率が高いということがわかります。

じゃあ、次のOff−JTはどうかということを見てみますと、22ページですが、やはり労働時間が35時間以上のフルタイムの人たちが、Off−JTの受講確率も高くて、2006年度以前、それまでも受けている人たちというのも、やはりOff−JTの受講確率が上がるという結果になっています。

ちょっとここは時間の関係でスライドを2枚ほど飛ばさせていただきまして、25ページにここまでの分析の結果をまとめます。そうしますと、やはり期待勤続期間が長い人がOJTの受講確率が高くて、また、フルタイムで働く人のほうがOff−JTの受講確率が高いということです。あと、現勤務先でこれまでにOff−JTを受講したことがある人が現在のOff−JT受講確率も高い。つまり、非正規社員についても、訓練からの期待収益が高い人に対して、企業は企業内訓練を行っているということが明らかにされました。

では、次に、2番目の目的ですが、企業内訓練受講の効果があるのかということを見ていただきたいと思います。27ページですが、訓練の効果、先ほどご説明しましたように、仕事の能力が上がったかどうか、生産性が上がったかどうか、あと賃金が上がったかどうかというところで見ていきたいのですが、仕事能力に関しては主観的評価ですね、スキルレベルとか、仕事遂行能力が上がったか下がったかという主観的評価を用いて、それを代理指標としたいと思います。あと、生産性の変化につきましては、仕事の担当範囲、仕事のレベル、仕事の責任の大きさ、それぞれが広くなった、高くなった、大きくなった場合は生産性が上がった、そうでない場合は生産性が上がっていないというふうにしたいと思います。あと、2008年9月の時間当たり賃金と賃金上昇率に2007年の訓練が効果を与えているかということを分析しました。

ちょっと分析のフレームワークは、飛ばさせていただきたいと思います。ここでは何を説明しているかというと、やはり訓練の効果と、訓練によって生産性が上がったと言われても、にわかには信じがたいわけですね。もちろん、もともとその人が持っている基礎的な能力・学力であったり、その仕事に対する勤勉さ、性格的なもの、そういったものの要因が大きいんじゃないかというような批判は当然出てくるわけです。なので、そういった恐れを排除する、そして、能力とか、仕事に対する意欲とか、そうしたものを排除するために、テクニカルにどういう工夫をしているかということを説明していますが、その部分はちょっと抜かせていただきます。

なので、スライドとしては31ページ目をごらんください。これは仕事能力についてのOJTとOff−JT受講の効果を見たものですが、やはりOJTを数多く、これも先ほどと同じように見ます。*が右側についていて、プラスの数値の場合、その人たちの仕事能力が上がったというふうに見ます。そうしますと、やはりOJTをたくさん受けた人のほうが仕事能力が上がっていますし、また、個別の要因を見ても、人から学ぶ、参加して学ぶということ、あと、仕事に役立つ情報を共有するということが、やはり仕事能力を上げることに役立っているということです。あと、こちらの(9)、(10)はOff−JTの効果を見たものですが、2007年度だけでも、あと、それ以前を見ても、やはりOff−JTを受けた人は、仕事能力が上がっているということが確認されました。

あと、生産性の変化に対しての結果も、ほぼ同じように出ています。32ページに仕事のレベルについてのみの結果を掲載していますが、訓練、OJTを数多く受けている人、また、個別の要素でも受けている人というのがやはり生産性が高まっているようです。Off−JTについても、同じように受講した人というのは生産性が高まっているということが確認されました。

では肝心の賃金はどうかということになります。33ページで、非正社員の結果を見たのが(1)~(4)のところになりますが、ここではOJTの賃金への効果を見ています。ここでは2007年と2008年に、同じ勤務先にいて、かつ非正社員のままの人ですね。非正社員の人が、非正社員のときに受けた訓練が、同じ企業で正社員として働き続けたときも賃金が上がるのかということを見るために、そうした分析対象を区切っています。そういうのを見ると、もう全く*がついていないことからもわかりますように、OJTは、賃金の上昇には効果がないんですね。ただ、一方、正社員についての分析の結果を見ていただくと、正社員については、ぽつぽつアスタリスクがついてくることからもわかりますように、Off−JTについてもやはり効果があるようなんですね。ここが、非正社員の人たちとはちょっと結果が違うということになります。

ただ、先ほどはずうっと非正社員だった人に限定したわけですけれども、そうではなくて、2007年に非正社員だったけれども、2008年には他の企業に移ったり、または正社員になった人たちもいるわけで、そういう人たちにも分析の対象を広げた分析をしてみると、34ページですが、賃金上昇率というのには、やはりOJTは効果がないわけですね。ただ、正社員になれたかどうなのかということなのですが、それを見ると、OJTを数多く受けた人は、正社員になる確率が上がっているんですね。なので、賃金に対する効果というのはないようですけれども、正社員への転換という意味ではどうも効果があるようです。

じゃ、Off−JTについてはどうかというと、ちょっと時間の関係もありますのではしょりますと、ほぼ同じような感じで、非正社員については賃金に対して効果が見られない。その一方で、正社員については効果が見られるということになっています。これも先ほどと同じで、やはり非正社員の賃金上昇率には効果がないようですが、Off−JTもやはり正社員転換には有効だということが得られました。なので、ここでもう一回まとめておきますと、37から38ページですが、企業内訓練を受講することで仕事能力についての自己評価が高まる、おそらく仕事能力が高まっていると考えられる。また、企業内訓練の受講と生産性の間には統計的に有意に相関関係があることも示されました。ただ、非正社員について、企業内訓練受講の賃金引き上げ効果は観察されないわけです。非正社員の訓練の受講は生産性の向上につながっているにもかかわらず、賃金には反映されない。もしかしたら訓練受講の効果は、賃金に反映されるにはもっと長い期間が必要かもしれない。ですが、非正社員については効果が反映されているという結果を見ますと、どうも非正社員の賃金設定には能力以外の要素、地場相場との関連というのが強いのではないかということで、先ほどの理論モデルはそれなりに妥当性があるというふうに考えられます。

また、企業内訓練の受講は、正社員への転換確率を高めます。なので、訓練の受講は人的資本の蓄積を促進して職業能力を高めることで正社員としての雇用に結びつきやすくするという効果があると考えられます。

以上の分析の結果に基づいて、最後ちょっと政策的インプリケーションを提示していきたいと思いますが、39ページですが、まずやはり訓練の受講を見ていきますと、訓練からの期待収益が高い人に企業は訓練を実施しているということがわかります。なので、非正社員というのは期待収益が高いという働き方にしていかないと、なかなか企業の訓練のインセンティブは高まらないわけですね。なので、非正社員の企業内訓練の受講機会を高めるためには、雇用契約期間を今よりも長くするような取り組みが必要になってくるのではないかと考えます。

あと、下は効果の部分になりますが、今のままでは一応企業は最適化行動のもとで行動しているので、企業は行動を変化させるインセンティブは持たないわけですね。ですが、仕事能力や生産性が上昇しているにもかかわらず、賃金アップには結び付いていない。なので、非正社員についても、やはりそういうふうな賃金設定になっていると、社会構成が減少して、低減してしまっているわけですね。ディストーションが発生してしまっている。なので、やはり能力とか生産性の向上を反映した賃金設定が必要になってくると思います。社会構成の観点から政策介入の余地が見出されると思うのですが、職業能力評価基準を導入して、基準に基づいた賃金設定を行う。こうした企業に対して補助金の支給といった政策がまずは考えられるのではないかと考えています。あと、選別的な企業内訓練を行っている可能性がございますので、底上げ的な、社会全体で人的資本蓄積を高めるために、非正社員の人たちにも幅広く能力開発の機会を与えていくためには、やはり底上げ的な訓練に取り組む企業に補助金を出していく、そういった政策も考えられるのではないかと思います。

あと、最後ですね。企業内訓練を受講したことのある人のほうが正社員に転換しやすいということがありますので、求職者への求人企業についての情報、企業内訓練の積極的な企業はどういうところなのかといったことを求人情報として提供を行える仕組みづくりを行っていく必要があると思います。

あと、肝心なことを書き忘れたのですが、OJTとOff−JT、これが両方とも正社員転換に結びつきやすいということで、今既存の制度としてはジョブカード制度というのがございます。職業能力形成プログラム、OJTとOff−JTを補完的に両方とも行うことで就職に結びつけていくというすばらしい制度が導入されたばかりですが、こうしたジョブカード制度の拡充といったことも、今現在の政策でもありますので、そういったことも正社員転換を高めるということでは役に立つのではないかと考えています。

では、私の報告は以上です。どうもご清聴ありがとうございました。

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