報告「雇用多様化の今日的課題」
雇用の多様化の動向研究─厚生労働省「多様化調査」の特別集計─

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本日の発表は、非正規の動向研究になります。今回、スケルトンというのをつくっております。また、このスケルトンを要約したものがこのパワーポイントです。パワーポイントをごらん頂きながら、スケルトンのほうをご参照いただければ幸いでございます。

非正規の動向研究ということで、2ページにありますように、代表性の確かな、総合的な調査によって、その動向を捉えようということでございます。今回は、3ページのとおり厚生労働省が2003年と2007年にやりました「就業形態の多様化に関する実態総合調査」というものを借りてまいりまして、その分析をしたものでございます。その結果は、4ページのとおり既に報告書としてまとめております。この報告は、実は二番煎じでございまして、2006年にも報告書が出ております。このときは、同じ多様化調査の1994年と1999年と2003年の3回分を分析しております。今回はその後編として、2003年と2007年という分析になっております。

まずこの多様化調査は、皆さんご存じだと思いますが、5から10ページで若干ご紹介いたしますと、厚生労働省が4年置きに実施する調査でございます。また、この調査には事業所を対象にしたものと、事業所経由で個々の労働者に対するいろいろな調査の両方ございます。この多様化調査の中で、当然就業形態を聞いているわけでありますが、就業形態は調査のほうで定義されています。定義のほうはスケルトンの2ページに、調査の報告書にあるとおりのコピーをしておりますので、お読みいただければと思います。この中で契約社員と派遣労働者とパートタイム、今日はこの3つを重点的にご紹介したいと思います。

7ページはこれらの2003年と2007年を比べたものでございます。この水色が正社員でございます。正社員が65.4%から62.2%に、正社員の割合が減っている、低下していると。正社員よりは非正社員の割合が増えているということでございますが、その中で、薄いピンク、これはパートタイム労働者ですが、パートは、2003年が22.5%、2007年も22.5%でございます。非正規化が進んでおりますが、パートが増えたわけじゃなくて、フルタイムの数字がありますが、2.1%から4.7%ぐらいになった派遣労働者の数が増えています。あと、先ほど言った契約社員の方は2.4%から2.8%というふうに増えていると。ですから、もちろん非正規の中でパートの人の割合というのはまだまだ大きいのですが、最近の傾向はフルタイム型の非正規が増えているというのが一つの傾向になっています。

また、この調査のウリですが、ウリというのは、ほかの調査ではなかなか出てこないということですが、8ページで非正規雇用を事業所が活用している理由と、その問題点というのが調査されています。あと、個人調査では、何で非正規を選択したのかという理由と、就業に満足されているのかどうかという調査をされています。これが調査のウリです。それから、今回は特別集計ですので、こういうことだけをご紹介するつもりは全くありませんが、こういうウリがあります。ちょっと紹介しますと、9ページですが、事業所が非正規を活用する理由というのは、こうなっています。パートさんは、いわゆる賃金節約が41.1%の事業所がそうだというふうに回答されていますが、契約社員の第1位は、専門的業務に対応するためにというもの、派遣は、即戦力の確保というものです。ですから、よく非正規が増えたのは賃金コストを節約するためだと言われますが、中身がそれほど単純じゃないということは言えると思います。

あと、10ページに個々の働く人が非正規雇用の形態を選択した理由でありますが、これも契約社員は、専門的資格の活用ですというのが第1位です。それから、パートさんは、自分の都合のよい時間に働けるというのが第1になっています。これは断トツの55.9%。断トツの第1位です。派遣さんの場合、これは登録型であろうが、常用型であろうが、本当は正社員になりたいけれど、正社員になれなかったから派遣になっていますという回答が最も多くなっています。そのほかの理由ももちろん当然ございますが、こういう状況になっています。

これ以降は、今回の報告のポイントですが、ポイントは4つございまして、まず第1番目のポイントは、11から16ページにございます製造業派遣の動向というのをちょっと焦点にして分析してみましたということです。集計結果を要約しますと、機械関連製造業で製造派遣の活用が進展したということ。これは当然のことですが、一応データ的に見てみますと、この活用目的は雇用調整が多かったと。要するに景気変動、経済変動に対して雇用調整ができるからというのが多かった。それから、働く人々の満足度も高くなかったという、この3つがデータ的に見られたということでございます。繰り返しになりますが、これは平成19年、2007年調査のデータです。現在からもう3年前、リーマンショックの前の状況です。

今の要約をちょっとデータ的に紹介しますと、こうなります。派遣労働者を多数活用する事業所の割合が2.5%から7.7%に上昇しています。機械関連製造業は、2003年のときはそんなに多くなかったのですが、2007年はかなりのところが製造派遣を導入していると。それから、第2に、派遣労働者がいない事業所は、2003年は87.0%という数字が74.6%に減っています。この4年間で製造業の派遣がかなり活用されたと。これは当然のことですが、こういうデータが出てまいります。機械製造業はこういう数字ですが、ほかの社員の分についてもスケルトンの方に書いておりますので、ごらんいただきますと、機械関連製造業が今は断トツで増えていることがよくわかると思います。機械関連製造業でなぜ派遣を活用しますかというと、これ2007年に聞いたことですが、雇用調整要因が50.3%と半数を超えて、理由のトップになっています。ほかの産業は、人事戦略要因と。要するに正社員の重点的な職務に活用される、そういう要因を挙げているところがトップなのですが、機械関連製造業だけは2007年において雇用調整要因がトップだったという結果になっています。

それから、個人調査結果からも製造業の派遣が増えたということがわかります。2003年に26~30歳までの人は、当然2007年には30~34歳になりますが、このときの高卒の男性の派遣労働者のうち、製造業業務に勤めている割合は18.4%だったのですが、2007年には81.8%、高卒男性の派遣労働者が、10人いれば8人が製造業務だと、こういう状況になったわけでございます。これは登録型派遣です。ほかのところはスケルトンのほうに表が出ておりますので、ごらんいただければ幸いです。

また、賃金を見ますと、派遣同士で比べますと、大体製造業務の派遣の賃金というのは安いという統計データになっています。ただ一つだけ、高卒男性のみ製造業の派遣のほうが高かったのです。製造業の派遣が、これは2007年9月の賃金総額ですが、21.6万円でしたが、ほかの業務は19.3万円でした。高卒の男性の派遣の場合には、製造業の派遣というのはかなりの雇用機会を提供したはずなのですが、賃金の満足度を聞きますと、ほかの学歴の方より高卒の方の満足度が低いという結果になっています。このようなデータを総合的に判断させていただくと、このようなことが言える、データ的に裏づけることができるのではないかと思います。

ついでにもう一つ申し上げますと、この傾向は2003年のときも、もちろん導入前ですから、賃金とか、そういうのはありませんが、導入前もあまり変わってはいないです。導入の段階でこういうことをもうちょっと考えていただければ、導入するかどうかは別として、導入するなら、もうちょっとセーフティネットを整備してから導入するということもあり得たのではないかと思っています。

ポイントの2番目は、17から27ページの非正規の正社員化でございます。このテーマのポイントは2つありまして、若年層について、大卒は非正規から正規への動きが見られます。ところが、高卒ではそんな動きは特に見られていない。中年層については、男性では大卒も含めで軒並み非正規から正規へ戻るということは、そういう動きは見られていないということでございます。

ここで使うのはコーホート分析というものですが、ご存じの方も多いと思いますが、調査の年によって見る年齢を変えていくというものです。平成6年に17~21歳の人は、当然平成11年、1999年には22~26歳になっていると、これを順番に追っていくというものです。それで見たのがこれです。1番は最も単純なグラフですが、正社員割合の数字でございます。左が男性/高卒、右が男性/大卒です。上の黒いのが大卒のコーホートですから、こう見るとちょうど平成6年に就職時期を迎えている人たちです。ついでに高卒のコーホートというのは、同じように平成6年に就職時期を迎えた人です。コーホートで見ているのは、その5年後、平成11年、証券不況等があって雇用が本格的に悪くなってから就職された方々です。大卒の男性でありますと、平成6年ごろに就職された方が、普通は95%くらいの方が正社員になっていまして、まあまあ、大体横ばいです。ところが平成11年ごろに就職された方は、当初は82.6ですから、8割ぐらいの方しか正社員で就職できなかったわけですが、その後だんだん上がっていまして、正社員がほぼ同じような割合になっています。ところが、高卒はそういうことが全く見られていません。両方とも下がっているという状況になっています。

続いて女性です。女性の方はいろいろあって、なかなか分析が難しいのですが、高卒のほうはほぼ並行ですが、大卒のほうは若干でありますが、近づいているというのがあります。ただ、大卒は男性が正社員のほうにシフトしているらしいといっても、それだけでハッピーかどうかということはもちろん別問題でありまして、これは大卒男性の正社員の企業規模分布をデータで見たものですが、コーホート、平成6年ごろに就職された方は、大体半分近くの方が1,000人以上の企業に勤めていらっしゃるわけですが、平成11年ごろに就職された方は、3分の1ぐらいが1,000人以上ですと。あと正社員化したということは、正社員の全体の数が増えたということですが、どこで増えたかというと、300人未満のところで増えているということであります。したがいまして、大卒男性はまあまあ正社員化しているのですが、それは企業規模で見ると、やはり中小企業のほうで正社員化しているということでございます。

これで何が言いたいかというと、いろいろなことが言えるわけですが、一つは、平成11年に学卒で就職できたということです。ところが、どういう理由か知りませんけれど、正社員になれなくて、10年ぐらいたって中小企業の正社員になったと。それはめでたしめでたしなのですが、もうちょっと考えを変えていただいて、学卒就職時に中小企業でも良好な雇用条件があればいいやというような意識を持って就職してもらえば、その間ムダとは言いませんが、もうちょっと違った人生もあったんじゃないかなと思います。

中高年もずっと下がりっぱなし、正社員の割合が下がりっぱなしということでございます。これは、10年後はどの学歴をとってもそうだということでございます。ただ、もう一つだけポイントがありまして、最近契約社員の企業の登用制度を導入するところが増えているようです。

一方、働く人も、現在の会社で正社員になりたい人が増えています。ただ、派遣だけは、派遣も増えていますが、派遣はもともと今の会社ではなくて別の会社の正社員になりたいという人が多いという傾向があります。これはちょっとややこしいのですが、下のほうが、登用制度があるという会社で働いている契約社員の割合ですが、増えています。転換制度があるというところの正社員希望の方の割合も上昇しています。要するに転換制度を制度化していただくと、社員のほうも希望が増えて、正社員化の一つの方法になり得るということではないかと思います。

ポイントの3つ目は、28から33ページの正規・非正規間格差であります。非正規の方は、賃金に関する満足度が相当低いという結果になっています。その中で、何とかこのデータを使って正社員と非正社員の賃金格差を計算しようということで、ちょっと工夫をいたしまして、まず正社員のほうの賃金を、学歴と、性と、職業と年齢の要素で、こういった属性の正社員の賃金は幾らぐらいなのかということを推計いたしますと、30ページのとおり男性正社員をこういう式であらわすことができますということになります。これを用いて非正社員と同様の属性を持っている正社員の賃金が計算できますと。こういうことで計算してみたのが31ページですが、このブルーの線が契約社員ですが、20代のときは100.9、ほぼ同様です。ちなみに男性の契約社員、20代で同様な仕事をしている人でいうと、契約社員は、正規も非正規もそれほど賃金は変わらないわけですが、30代以降になってくると、ぐっと下がってくるということが言えます。ほかの派遣なども同様の動きになっています。

ここはちょっとややこしいので、今回はちょっと割愛いたしますが、賃金満足度を高めるための試算をしてみたところ、当面非正規の賃金を底上げすることが満足度を高める方向にききやすいという、そういう計算結果となりました。

ポイントの4つ目ですが、調査から、いわゆる非正規の方々の、いわゆる弱者というのはどういう方なのかということで、いろんな集計をしてみました。34から45ページです。まず本当は正社員になりたいけれど、非正社員になっている人々、非正社員で自分で生計を賄っているという人、それから、収入が低い人々、それから、現在正社員になりたいけれどなれないでいるという方々という4つの要素で「非正規弱者」と勝手にネーミングいたしまして、計算してあります。ここのところわかりにくいですが、大体2割ぐらいの方が弱者と呼べる、ここで言う弱者と呼んでいいんじゃないかと思うんですが、もうちょっと厳しい人、例えば子供さんを抱えているとか、そういう条件を加えますと、男性よりもむしろ女性の方々のほうが多いということになります。非正規問題というのは、女性の問題と深くかかわっているということを、どこか念頭に置いておかないといけないのではと思います。これは所得が低いということなのですが、40ページで資格のある人は結構所得も高くなりやすいという、データをちょっと計算してみました。ですから、所得を底上げするということに関して、資格を持ってもらって、要するに能力開発をするということも、一つの方策になり得るということでございます。

あと、母子世帯の母、弱者の中の典型と言ったら怒られますが、母子世帯というのは非常に注目すべき存在だと思いますが、41から45ページにございますように、正社員になれなくて収入も低い非正規雇用者となっている場合が多く、時間的にはフルタイムに近い労働をしていると、こういう分析結果になっております。このようなデータがそろっておるということでございます。実はこの難しい分析は、3番目に登場する高橋研究員がされたものでございます。

46ページのまとめですが、本当に非正規はいろんな問題があります。まとめればきりがないのですが、当面として申し上げたいことは、低所得の方の底上げというのはどうしてもかなりやっていかなきゃいけないんじゃないかと。それから、正社員化、特に企業内の転換制度というのを整備していただいて、企業内で今までやっている仕事をそのままキャリアアップしながら正社員になっていただくと、こういうことに当面力を入れてやるべきじゃないかと考えているところでございます。

ちょっと雑駁な報告になってしまいましたが、以上で私の報告を終わりたいと思います。

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