第4回 旧JIL講演会
変わる日本型福利厚生
~諸課題と将来展望~
(1998年7月14日)

財団法人 生命保険文化センター
研究員 西久保 浩二

目次

講師略歴

西久保 浩二(にしくぼ・こうじ)
 1958年、大阪府生まれ。82年神戸大学経済学部卒業後、明治生命保険相互会社に入社。90年より財団法人生命保険文化センターの生活研究部研究室勤務となり、現在に至る。また、仕事のかたわら筑波大学大学院に進学し、93年に同経営政策科学研究科の修士課程を終了、97年より同研究科博士課程に在学中。日本経営学会、組織学会などに所属。
 主な著作としては、『所得保障とライフサイクル』(共著)(NTT出版、1992)、「転換期を迎える日本型福利厚生」『日本労働研究雑誌』429号(1995年)、『創造的キャリア時代のサラリーマン』(共著)(日本評論社、1997)、『日本型福利厚生の再構築』(社会経済生産性本部、1998)、『変化する企業福祉システム』(共著)(第一書林、1998)、『日本人の金融資産選択』(共著)(東洋経済新報社、1998)など。

プロローグ

 西久保でございます。

 私の所属する生命保険文化センターは、民間の保険会社が共同で出資し、広報活動や調査活動を行っている機関です。設立して25年ぐらいになります。私どもは企業福利厚生制度の実態調査などを行っており、いろいろな活動の中で福利厚生をずっとウォッチしてまいりました。

 本日は「変わる日本型福利厚生」というタイトルを掲げさせていただきました。生成以来非常に安定していた福利厚生という領域が、非常に大きな変化にさらされているという認識をここ2、3年強くしており、福利厚生全体が一体どうなっているんだろうか、ということを文献をまとめたりもして調べております。本日は、私がやってきたいろいろな分析や企業の事例をご紹介し、私が「変わる」と認識していることが果たして本当なのか皆さんにもぜひご意見をいただければと思います。

 本日は、大きく分けて大体3つぐらいの話をしたいと考えております。

 まず第1は、福利厚生制度の実態は一体どうなっているのか、できるだけ立体的な実態をご紹介したいと思います。第2に、今、福利厚生がさらされている環境変化とは一体どのようなものなのか、それが今起こっている様々な変化の大きな原因になっていると考えるからです。そして最後に、変わっているという内容は一体どういうものか、主に企業の事例を見ながら一緒に考えていきたいと思います。そしてその様々な変化が一体どういう方向性を持つものなのか、私なりの考え方をお伝えしたいと思います。

1. 福利厚生制度の普及実態

(1) 施策・制度の導入実態

 資料の1ページ目を見てください。実は、福利厚生制度という制度はなく、具体的に言うと、そこに挙げたような様々な個別の制度があります。これは1996年10月に私どもと統計研究会とで行った、比較的新しい企業調査の結果です。会社に導入されている制度は何かをきき、導入率の多い順に並べ替えてあります。一番多いのが慶弔見舞金、死亡退職金制度で88%。続いて、健康診断とか退職一時金、団体生命保険。このあたりが福利厚生の中でも導入率の高い制度ということになります。ずっと下がって社宅・独身寮というのが中ほどにありますが、これは42.7%です。実はこの社宅・独身寮は一番費用のかかる比重の大きい制度ですが、導入率は半分以下です。

資料 p1

 この調査の母集団は、上場企業全社と無作為に抽出した企業で、9,900社に調査票を送って1,300通程度回収しました。ばらつきはあまりなく、日本の企業集団をうまく代表できているのではないかと見ております。全部で22種類程度の選択肢を設けて調査を行いましたが、導入率には非常に格差がある、ということを見ていただければ良いかと思います。

 下位の方では、退職準備プログラムとか駐在者対策とか、比較的新しい制度が見られます。これが本日の議論の対象となる福利厚生制度の、一般的なものの普及率ということになります。

 資料の2ぺージで、22種類の制度導入の分布を確認しています。22の選択肢に対する度数分布で、上の図、横にして左の図です。1,301社の分布を見ると、導入されている制度の数は11から12種類程度というのが一番高い山になっており、左右に正規分布しています。

資料 p2

 右側のグラフは、従業員の規模別に導入されている制度数を並べてあります。これは非常に傾向が明らかで、例えば10人未満の企業では22種類のうち4.9種類しか入っていない。一方、1,000人超の企業では19.1と、22種類のうち19種類が導入済みです。これがよく言われる福利厚生における規模間格差、企業規模によって充実の度合いが非常に違うと言われる実態を反映したデータかと思われます。

(2) 費用面での実態

 3ページの資料では、どれぐらいお金がかかっているかという費用の部分を見ておきたいと思います。左側が日経連が昭和30年代から続けている「福利厚生費調査」といわれるもの、右側は労働省の「賃金・労働時間制度等総合調査」です。2つの調査は性格がかなり異なります。日経連は傘下の企業を母集団にしているので、平均従業員が4,465人と、かなり大企業です。右側は30人以上の常用労働者がいる企業ということですから、こちらの方が日本企業全体の傾向を反映していると見ることができると思います。

資料 p3

 調査特性の違いを踏まえたうえで、一体どれぐらいのお金が使われているのか。これはあくまで企業側の支出という観点で見た場合です。どちらの調査も大きく3つに費用が区分されています。法定福利費と法定外福利費、退職費用です。福利厚生費という時に、狭義の場合と広義の場合がありますが、この3つをあわせて用いることも多いです。法人費用統計などでは、福利厚生費は法定内福利厚生費も法定外も退職費用も含めて計算されます。ただし、いわゆる「企業福利厚生」といわれるものは、法定外の部分、それに退職費用、一時金とか企業年金の掛け金、これを足し合わせたものを企業が任意で自社の制度に対して支出する費用ととらえるのが一般的かなと思います。

 その3つの区分で大体の金額を見てみたいと思いますが、日経連調査では法定福利費が6万1,000円。これは従業員1人当たり月額平均ということです。法定外費用が2万9,000円、約3万円。退職費費用が5万円。ですから、この区分では6対3対5ぐらいになります、大企業の場合ですが。

 後ほど何度も議論に出てきますが、この法定福利費が非常に膨張する過程にあります。この段階でも法定外福利費の大体2倍以上、6万円ぐらいの支出を余儀なくされている。要因は2つあり、厚生年金と健康保険の保険料です。例えば厚生年金だけで法定外福利費程度の支出はあるわけですから、企業が任意に展開する福利厚生制度の部分は厚生年金だけでそれと見合う負担があると見ることができるのではないでしょうか。

 これが日経連調査で大企業を標本とする場合ですが、労働省調査と違うのは、一番下の現金給与の水準です。日経連では54万円程度ですが、労働省調査では40万円で、現金給与水準に35%程度の格差があります。これは規模間の賃金格差ということになるわけです。

 3ページの表を見るといろいろ数字が並んでいますが、一番右側の列の構成比3とあるのが、現金給与に対してどれぐらいの比重かという割り算をしたものです。福利厚生費全体で見ると、日経連調査が25.68%、大体4分の1です。現金給与以外にその4分の1程度を福利厚生費として企業が負担していると見られるわけです。労働省調査を見ると若干値が低くて19.8%、約2割ですね。

 福利厚生費という時に、企業規模によって負担にこの程度の格差があるということで、構成比を費目別に見ると、法定福利費はほとんど差がありません。日経連が11.29%、労働省の方では11.7%、約10%強です。これは月例賃金に保険料率を掛けて算出されるということですから、法定福利費の負担は比重的にはあまり変わらない。問題は、法定外福利費の部分、あるいは退職費用のところで大きな格差があるという点です。法定外が労働省の方では3.41%しかなくて、退職金でも5%、日経連調査の大企業に比べてこのあたりの支出が相対的に少ないということが言えるわけです。最初に見た制度別の規模間格差は、費用面でも確認されると言えるかと思います。

 それと、日経連調査の方では対前年比という分析をしていますが、平成7年と8年とを比較しても、法定福利費は4.4%増していますし、退職費用はさらに大きくて6.5%増加しています。非常に急速に拡大しているわけですが、本日の議論の中心になる法定外の部分は0.9%でほとんど伸びていない。費用という観点で福利厚生を眺めるとこういうことになっています。

 企業規模が大きくなるほど多くの制度が導入されていて多くのお金が支出されているという傾向はありますが、福利厚生制度はかなり日本企業の中に浸透していると見ることができるのではないでしょうか。

2. 現行制度の普及要因

(1) 生成期の状況

 では、そもそも福利厚生制度はどういう経緯で発生し、普及したのか、お話ししたいと思います。日本の場合、福利厚生制度が生成されたのは19世紀の終盤、明治維新の後と言われています。農村出身の非常に低賃金の労働者とか、遠隔地、特に鉱山で働く労働者に対する現物給付が始まりだと言われています。当時は、そういう労働者は工場なり鉱山に集められて集中的な労働をするわけですから、生活基盤としていた地域から移動させられたわけです。それで、住居とか食事をするところ、洋服を買うところなど、生活するための施設が鉱山や工場の周辺にはあまりないので、企業が寄宿舎や食事の援助、購買制度などを用意しないと、労働力の保全、維持ができなかった。それがそもそもの出発点です。当時の企業福祉、福利厚生は、今日のような恩恵的な制度ではなく、低賃金を補完し長時間働いてもらうための1つのシステムの中にあったわけです。労働強化として用いられたと言われています。当時は、いわゆる労働保護立法といったものが非常に未整備だったので、こういう生活的な施設を企業が提供せざるを得なかったのです。

 こういう形の福利厚生制度の起源は、日本だけではありません。アメリカの場合も、ちょうど工業化が始まった時代に、特にマサチューセッツ州やニューイングランド州で同じように繊維工業が勃興した際に福利厚生が始まったと言われています。これは19世紀初頭ということになります。ニューイングランド地方で独立農民の子弟が従業員として採用されたのですが、比較的な裕福な子弟を雇ったということもあり、当初からかなり充実した制度を準備したと言われています。非常に大規模な繊維関係の工場をつくったわけですが、寄宿舎と食事援助だけでなく、病院とか学校、さらには銀行や図書館など施設的に大きいものも企業がつくって、工場が所在するコミュニティに提供するという非常に大規模な福利厚生、特に施設型の福利厚生が提供されたと言われています。

 米国の場合、特殊なのは、19世紀の間、非常に大量の移民を受け入れているということです。移民はヨーロッパをはじめ世界各地から来ていますが、英語が不可欠であったために、まず英語やアメリカの生活様式を教えなければならず、移民労働者をいかにローカライズしていくかというところで福利厚生が注目されたわけです。

 今日の米国でも福利厚生制度は時々記事になることがあります。中南米から非常に低賃金の労働者が、合法であれ非合法であれ大勢入ってきています。どういう業種で採用しているかというと、ホテル業界や食品加工業種で、そこでも託児所や仮設住宅など、福利厚生の生成期にあるようなものが盛んにつくられているようです。生成期の福利厚生というのは、「低賃金の労働者が働くために不可欠な生活基盤を提供する」という共通性を持っていると言えると思います。

 余談になりますが、福利厚生制度は今では付加的な領域として位置づけられていますが、実は福利厚生制度の導入が、企業に近代的な人事管理をもたらす1つの契機になったという説があります。というのも、当時は人事・労務を専門にマネジメントする組織が企業の中になかったので、医療とか食事とか、様々な福利厚生的な業務を担当するセクションとして、福利厚生係が企業の中に初めてできた。これがその後、雇用部、雇用サービス部、あるいは労務部、人事部という形で、今日の人事部という組織の原型になったと言われています。福利厚生の必然性が今日の専門的な人事労務管理組織をつくった、という言い方も許されるのではないかと言われています。

 ともかく、生成期の福利厚生を見ると、1つは低賃金を補完するということであり、従業員の生活を維持し、労働力の保全をしなければならないという必然性でした。それ以外にも、米国の場合などは特に、少しでも有利な条件があると人材が流動していくという背景があり、ある程度優秀な従業員の定着させるため、あるいは必要な労働力を採用するための人材を吸引する手段、あるいは労使関係の潤滑化といった今日的な機能を生成当時から目的として位置づけられていたわけです。

(2)日本的雇用慣行

 日本でこんなに多くの制度が浸透したのは、日本特有の理由もあるようです。戦後、日本型経営と言うのか、かなりオリジナルな経営のスタイルがありました。日本的経営や日本的雇用慣行と言われるものと福利厚生制度は、実は大変相性が良いのです。1つは、いわゆる長期勤続慣行、終身雇用と申し上げて良いのかわかりませんが、従業員が長期に自社にとどまるという前提があるので、例えば独身寮とか社宅とか保養所など、多額のお金が必要となる施設型の投資に踏み切れたわけです。回収期限を長く見積もれてはじめて、そういった多額の設備投資をなし得たのではないか。

 あるいは、日本的雇用慣行の中に集団主義というか、集団としての凝集性を高める方向性が確かにあったと思われますが、1つの企業の中で長期勤続する従業員のコミュニケーションを円滑にする、集団内のコンフリクトを解消する、そういった共同体維持の機能として福利厚生が使われた。例えば運動会とかレクリエーションとか、そういうソフトな福利厚生制度が集団の共同体的な色彩を維持する上で非常に有効に機能したのではないかと考えられます。

 さらに、日本はいわゆる企業内組合という特色がありますが、企業内の毎年の交渉の中で福利厚生関連要求という形で、福利厚生制度の導入がある程度完結できたわけです。賃金は、春闘を含めていろいろ業種的、業界的な制約がありますが、福利厚生の場合は企業の中だけで議論が完結できたという点も、日本の大企業に多くの福利厚生が入った1つの要因ではないかと私は見ております。

 また、年功制ということが言われております。福利厚生の最大の目的は定着率の維持、すなわち長期勤続であり年功的なものです。企業年金や退職金制度などはその典型になりますが、長くいればいるほど良いことがあるというシステム、賃金や処遇のそういうシステムと福利厚生は全く性格を一にするものです。そういう福利厚生の性格と、日本の企業が戦後比較的長期間にわたって執行した経営スタイルの相性が非常に良かったということも、普及の1つの要因ではないでしょうか。

(3) 規模効果と労働組合の影響力

 資料の4ページで、最近のデータを用いて普及の要因を分析しています。また違う観点で成立の要因や背景を説明した分析です。冒頭で制度導入の横グラフを紹介しましたね。企業の中に制度がいくつ導入されているかという変数をとり、その数が多ければ多いほど福利厚生制度が充実しているということを示したわけですが、その変数が企業の属性のどういうものと関連性があるのかという分析をしたのが4ページの結果です。統計的に見て、企業の様々な属性と福利厚生制度の実施数というのは関連があるのかどうか、ということです。属性は、5ページの表の一番左側にありますが、企業の規模とか労働組合の有無、賃金水準、従業員の平均年齢、あるいは企業年齢(創立して何年になるか)、業種、というような変数を用いています。

資料 p4

資料 p5

 結論を申しますと、4ページの上の図に矢印で書いてありますが、例えば企業の規模が大きければ大きいほど実施数が多いというプラスの関係が認められました。いわゆる規模効果と言われるものです。それ以外にもいろいろ関連性が抽出されています。例えば労働組合があると顕著に制度数が多いということが統計的に言えます。すなわち、この標本の母集団、日本企業全体についてこの2つの変数は関係があるといっても間違いではない。少なくとも労働組合があるということは、要求主体があるということで、当然、同じ規模、同じ業種でも、福利厚生制度の導入数が多いということは納得がいくわけです。したがって、労働組合も福利厚生制度というベネフィットを獲得する上で非常に有効であったということになります。

(4) 賃金との相乗性と蓄積効果

 その次に、賃金水準というのがあります。これは男性の賃金水準をとっていますが、賃金水準が高い企業ほど福利厚生も充実しているという結果を表しています。

 普通、企業が事業活動の中で得た付加価値を従業員に配分する場合に、賃金という形態をとるか、福利厚生という形態をとるかは選択になるわけですが、両者はトレードオフ、背反すると思われるわけです。実際そうではありますが、企業を標本にして分析すると、賃金が高いところは福利厚生制度も充実している、賃金の低いところは福利厚生制度があまりないという結果になります。これは、企業の資金力の差であり付加価値そのものの大きさの差ですが、賃金と福利厚生はトレードオフではなくて相乗的だという関係が得られているわけです。

 5ページの属性に「企業年齢」というのがあります。企業が長く続いていればいるほどいろいろな制度が入る。蓄積効果と呼んでいますが、福利厚生制度は一度導入するとなかなか廃止できない、スクラップ・アンド・ビルドが難しいという性格を持っています。企業年齢との相関も統計的に非常に高いです。

 さらに業種を見ると、唯一、製造業で関連性がありました。ブルーカラーを含むために安全靴とかお風呂の施設とか、ホワイトカラーだけの業種とは異なる業務があるので制度の数が多いようです。

 以上が96年のデータをベースに分析した関連性の強い変数です。

(5) 恒常的な労働力不足

 結局、福利厚生は高度成長期からバブルのころまでは人材獲得競争のツールとして新聞などをにぎわせました。地方の人材を採用して首都圏で働いてもらう時に、住むところを用意しないと良い人が採れません。いろいろな意味で生活基盤を切り離すという状況があるわけで、景気の良い頃は住居の確保が人材獲得の1つの有効なツールとして随分機能したのではないか。恒常的な労働力不足が企業の認識としてあった時には、プールバーつきの豪華独身寮とか、一戸建ての社宅とか、良い人材を集めたいということで様々な制度が急速に入ったと言えるかと思います。

 今日の成立要因ないし普及要因を見ると、実態的にいろいろな制度が入っていますが、企業規模とか企業年齢といった長期的な、一時的にあまり変わらないような変数と、福利厚生制度の実施数の関連性が強いことがおわかりいただけたかと思います。

(6) 成長要因としての福利厚生

 企業規模は企業の成長の度合いです。企業年齢は、何年生き残ってきたかという1つのサバイバルな変数になっているんですが、そういうことを見ると、福利厚生制度は付加価値を従業員に配分するのではなくて、企業の成長、あるいは企業の生き残りそのものに貢献してきたという逆の因果関係も言えるのではないかというのが私の考え方です。すなわち、成長要因の1つとして福利厚生制度があったということも仮説できるのではないか。成果配分ではなくて、人的資源に対する1つの投資行動。幾つかの機能をねらって制度を入れて、その成果として企業は成長して規模が大きくなり、倒産せずに生き残ってこられたというような、「成長要因としての福利厚生」という観点もこの分析から見えるのではないでしょうか。

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3.福利厚生制度の導入目的

(1) 目的因子の抽出~5つの因子~

 では、企業は福利厚生制度に対してどういう機能を期待してきたのかということを、実態の1つとして確認したいと思います。資料では6~8ページあたりです。

 まず機能を考える場合に、企業側の目的という視点があろうかと思います。6ぺージの表の左側の観測変数のところに「優秀な人材の採用」とか「定着率の維持向上」とか、14種類ほどアンケートの回答肢があります。先ほどの企業調査の中で、どういうことを目的に制度を導入しているか、複数回答できいたものです。結果を少し集約したものが6ページの表の頭のFACTOR 1からFACTOR 5の5つの因子です。1番目は「採用・定着性因子」と私が名づけたもので、「優秀な人材を採用したい」「定着率を維持、向上したい」、こういう変数との相関の強い因子があるということです。これは福利厚生の基本的な目的で、それが果たされれば機能になるわけですが、それ以外にも4つぐらい目的といえるような因子の抽出ができました。

資料 p6

 1つは「社会性因子」。表を見ていただくとわかりますが、従業員の生活安定とか、企業の社会的責任とか、社会保障の補完とか、そういう回答との関連性が強い。つまり企業の社会的認識に基づいて制度の導入を考えているということです。

 同様に、「労務性因子」、「競争性因子」、「横並性因子」というのがあります。労務性因子は説明の必要がないと思いますが、競争性因子というのは、例えば他社と差別化を図りたいとか自社のイメージアップをしたいとか、福利厚生制度を競争企業との優位性を得るための1つの競争のツールとして見るということです。

 横並性因子は、「他社と同じ水準は維持したい、常に横並びでいたい」という、金融などで非常に顕著な企業特性ですが、そういう横並性のような目的も統計的に抽出できるわけです。

 大体この5つの因子が、日本の企業が福利厚生制度に対して期待する目的だと言えるのではないでしょうか。この5つの目的が一体どういう状態になっているのかを7ページから8ページで企業規模別に再集計しています。グラフは規模別に、そういう目的認識が強いか、弱いかで点が打たれ、線が引かれているとご理解いただければ良いかと思います。

資料 p7

 例えば7ページの採用定着性という因子は、企業規模が大きくなるほど強まる。おもしろいのは、社会性因子を見ると300人未満企業まではそういう認識は全くないのが、1,000人未満、1,000人超になると急速に目覚める。企業が社会的認識で費用のかかる制度を導入するというのは、これぐらいの規模にならないと余裕がないということなのかなと解釈しています。

 競争性という因子が7ページ右上にありますが、これは逆に、比較的規模の小さい企業で非常に顕著に見られる目的因子になっています。1,000人未満とか1,000人以上になると、競争的な位置づけで福利厚生をとらえるということはないんです。8ページになりますが、大企業は横並性です。ネガティブな競争というか、「少なくともマイナスの格差はつけたくない、他社並みの福利厚生制度は準備しておきたい」というような横並び的な目的認識が強いのは大企業です。競争性と裏腹な関係なのかもしれません。

 目的といっても企業規模だけで見てもばらつきがある。ここでは規模だけを見ていますが、企業によって一様ではないということが1つの実態と言えるわけです。

(2) 目的保有の構造

 目的認識の強さを全部足して棒グラフにしてみました。それが8ページ右側の縦棒グラフで、これは前の折れ線グラフを足したものとご理解いただければ良いと思います。いろいろな目的認識を足すと、企業の規模が大きくなるほど目的の積み重なりが高くなる、グラフが高くなるわけです。福利厚生というのは、目的が入れ替わるのではなく蓄積されて、多層化というか重層化というか、大規模になるほど多目的な位置づけを持つのではないかと私は読んでいます。これが先ほど、企業の規模間格差は費用で見ても、制度の種類で見ても非常に顕著だったわけですが、実は資金力だけではなくて企業の福利厚生制度に対する目的の多様化が、そういうたくさんの制度を導入する背景だと見ることができるのではないでしょうか。お金があるから導入するというよりも、企業は規模が大きくなるほど福利厚生制度にいろいろな機能を期待するようになる、と理解して良いのではないか。これは先ほどのデータとも非常に整合しますし、企業の考え方としての説明になるかと思います。

資料 p8

4.福利厚生の有効性検証

(1) 目的(期待)と実態(効果)の関連

1)「定着性」?自発的退職率

 次に、目的がきちんと果たされたかという検証が必要になってくるわけです。福利厚生制度が有効であったか、有効性が確認できているのかという分析です。福利厚生制度の有効性をどう測定するかというのは議論があるところですが、工夫すれば有効性の後ろ姿ぐらいは少し見えるのではないか、というのが本日ご紹介するデータです。

 有効性を見るのにどういう尺度を用いるかというと、最大の目的が採用定着性ですから、その目的が果たされることが有効であると考えて良いわけです。定着性とは自発的退職率が低いことと読み替えて良いのではないか。それを1つの第2変数として用いようということです。

 定着率という観点では従業員が自発的に辞めることが一番問題になるので、福利厚生制度が自発的退職率に対してマイナスの関係ならば、抑制効果があるんじゃないか。因果関係までは言えなくても、そういうマイナスの関係を抽出したいということで、先ほどのデータを分析したのが資料の9ページの上のもの、10ページが分析の生の結果です。

資料 p9

資料 p10

 ここで1,300社ほどの標本をベースに、自発的退職率と先ほどの様々な企業の属性と福利厚生制度の実施数も変数の中に入れて、統計的な関連性をチェックしてみました。結果から言うと、福利厚生制度の数は、自発的退職率に対してマイナスの関係が統計的に有意であった。このことをもって、「福利厚生制度数が多ければ多いぼと定着率は上がる」、すなわち「自発的退職は抑制できる」と私は解釈しました。しかし、9ページの上の図でわかるように、定着率や自発的退職率は福利厚生制度だけで実現されるものではない。さらに影響力の大きいものとして、例えば賃金水準が当然出てくる。賃金の高い企業であればあるほど、自発的退職率は統計的にも有意に低いということが抽出されています。

 とはいえ、これは会計分析という手法を用いていますが、そういう賃金の影響を排除して福利厚生制度数だけの影響を見ても、明らかに自発的退職率に対してネガティブな関係であるということが言えるのはラッキーでした。同時に、下の図で非自発的、自発的も含めた退職率について全く同じ枠組みで分析しましたが、その場合は福利厚生制度数というのは有意なものとしては残り得なかったという結果になり、これも私の仮説としては非常にハッピーでした。今までも退職率ないし離職率でこの分析をした研究は1つ2つありますが、やはり自発的という部分を抽出した方が福利厚生制度との関連は明らかだ、というのが結果です。

 これをもって福利厚生制度は有効に機能したと断言することはできないですが、統計的に見ても、そういう機能がどうやら発揮されたと言わせていただきたいと思います。

2)「勤労者モラール」?満足と不満

 もう1つ有効性の議論を紹介しましょう。私どもが平成5年に行った従業員調査の結果を11ページに載せてあります。先ほど目的の因子の2つ目にあった労務性因子は、従業員との一体感の向上とかモラールの維持向上とか、そういう労務的な目的という観点の項目です。11ページで紹介する調査は、10名以上の民間企業に勤める2,978人にアンケートを実施し、「会社のどんなところに満足していますか」「どんなところが不満ですか」と、満足、不満という観点で様々な項目を並べて回答をもらいました。

資料 p11

 満足を見ると、「責任ある仕事ができる」、「気の合う仲間がいる」、「やりたい仕事ができる」、こういうことをもって従業員は職場での満足点として挙げるわけです。「能力が生かせる」、「知名度が高い」、「社風が良い」と続いて、福利厚生制度は大分下の方ですね。「福利厚生制度が充実」にマルをつけるのは全体の中で12%程度。福利厚生はあまり一般的な満足点ではない。しかし、どこが不満かという尋ね方をすると、1番目に多いのは「給料が良くない」ということ。福利厚生も2番目に登場していて、実は非常に不満度が高いんです。左右は同じ項目を否定系と肯定系で表現していますが、満足では福利厚生制度は一般的に頭の中に思い浮かばないのに、不満ということになると一般的な項目になるわけです。

(2) 福利厚生制度の効果 ―人材吸引と衛生要因

 これをもって福利厚生制度は有効だとは申し上げにくいですが、私なりの解釈をつけ加えると、「福利厚生制度が良いから会社に満足している」という積極的な動機づけ要因ではなく、むしろネガティブな感情、「不満だ」という時に福利厚生に目がいくわけです。いわゆる衛生要因的な機能があるのではないか。福利厚生制度が充実しているからという理由で従業員が会社に対して満足を高めるということはあまりないですが、有効かどうかという議論というよりもむしろ、私はこのデータから、不満の発生を抑制するような性格があるのではないかと解釈をしています。これをもって不満を抑制するという観点で機能していて有効なのではないか、という位置づけをしているわけです。ちょっと強引ですが、労務性という観点でも有効に機能している可能性があると言っても良いのではないかと考えております。

 ここまでが第1のパートです。駆け足で日本の福利厚生制度の実態を確認させていただきました。最初に制度別の普及率を見て、次にその普及率の背景、費用としてどの程度支出されているのか、ということを見たわけです。規模間格差とか法定福利費の問題とかいろいろ見たうえで、成立の要因として、企業規模や企業年齢との関連性、そして、従業員に対する配分だけでなく、企業の生き残りを助ける成長要因としての福利厚生、そういう位置づけの可能性もあるのではないかということを申し上げました。では成長要因ならどういう有効な機能を発揮しているのかということで、企業側の目的の認識、すなわち定着性に対して有効かということについて、自発的退職率などの変数を用いた分析をご紹介し、従来の日本の福利厚生制度は、定着性や労務性など、企業がねらった目的に対して有効に機能したのではないかというところまで、実態確認としてたどり着きました。

5.福利厚生をめぐる環境変化と諸問題

(1)2つの環境変化?高齢化と流動化

 様々な制度が入って、企業のねらいが実現されているとなると、それはそれでハッピーだということになるわけですが、本日のお話の後半は、今後もこのままで良いのかということと、変化は起きていないのかという議論をしなければなりません。将来展望を行おうとする時に、果たしてこれまでのような、非常にハッピーな完結的な状況が続くのかという議論をこれからしたいと思います。これが2番目のパートです。

 冒頭に申し上げたように、環境変化ということを取り上げたいと思います。資料の12ページあたりからになります。環境変化と言っても非常に多様なので少し整理して、私にとって都合の良い環境だけを取り上げて議論を進めたいと思います。ここでは2つの環境変化として、高齢化と流動化を取り上げます。

資料 p12

 まず高齢化ですが、いわゆる少子化と長寿化が合体して高齢化という社会現象が起こっています。日本の高齢化を議論する場合、最大の特色はその進行速度です。極めて速い速度で高齢化が進行していると言われています。

 簡単にその速度のデータを紹介します。一般に高齢化というのは総人口に占める65歳以上の人口比率と言われていますが、大体7%と14%が1つの区切りというか、到達点になるわけです。7%を超えると高齢社会という表現が使われるようです。65歳人口という比率で諸外国と比較していますが、我が国が7%のハードルを超えたのは1970年です。他の国を見ると、例えばアメリカは1945年、ドイツでは1930年、フランスでは1865年です。スウェーデンでも1890年です。いわゆる先進諸国はとうに7%を超えており、日本は70年になって超えたわけです。ところが次のハードルの14%を超えたのが我が国の場合は95年です。ちょうど25年かかって7%から14%までの高齢化が進行したことになるわけですが、実はこの25年という日本の期間に比べて、ドイツは45年、米国は70年、フランスに至っては130年と、非常に長い時間をかけて高齢化が進んできた。いかに急速な高齢化か、改めて見ても非常に速いということです。

(2)高齢化の対応

1) 従業員ニーズの多様化

 高齢化の議論はし尽くされており、ここでこれ以上するつもりはありませんが、福利厚生制度にとって高齢化をどう位置づける必要があるのか、位置づけることができるのかについて申し上げたいと思います。

 従業員自身の高齢化と同時に、その従業員の両親など扶養すべき家族も高齢化し、いわゆる高齢者世帯が増えてくる。福利厚生制度に対するニーズも明らかに変化する。後ほどそのニーズにも触れますが、近年、高齢化に対応したホームヘルパー制度とか介護休暇とか、高齢化に焦点を合わせた制度が急速に増えてきています。ニーズが高齢化にシフトしたわけです。退職金や企業年金といった老後保障の制度が拡充されたのも、この「高齢化」が従業員の大きな不安の要因になったからです。もともと福利厚生というのは在職中の従業員に対するサービスでしたが、退職後の生活に対しても福利厚生から何らかの支援、援護をしてもらいたいという従業員のニーズが60年代後半あたりから強まってきて、いろいろな制度が入ってくる。ニーズがどんどん分散していくんですね。

 それと近年、「あまりにも速い高齢化を抑制したい」ということで様々な議論が起きています。そのために何をすれば良いのか。高齢化の大きな要因は就業する女性の問題で、彼女たちが子供をつくることについて支援できるのは誰かといったら、やはり企業が一番近くにいるわけです。それで、社内託児所とか、育児休暇とか育児短時間勤務制度とか、少子化を抑制するための制度を導入して下さい、という強い要望が、社会的にも従業員からも出てくるのですね。

2) 企業のコスト負担

 もう1つ重要なのは、高齢化の進行がいろいろな意味で福利厚生制度に対するコスト負担という問題を突きつけてくるということです。一番典型的なのは企業年金です。企業年金は、加入者と受給者の成熟化が進む、つまり高齢化して受給者が増えると、掛け金も厳しくなり積立金不足も深刻になる。厚生年金基金がつぶれる場合、高齢化、成熟化という原因の方が、運用リスクの問題よりむしろ深刻です。これも間違いなく高齢化の影響です。

 その負担の問題を、少し違う観点で見たのが13ページの上の「対現金給与比の将来推計」とあるグラフです。先ほど、費用のところで日経連のデータを使わせていただきましたが、それは現金給与に対してどれぐらいの比重かということで紹介しました。13ページのグラフは、法定福利費と退職費用と法定外費用という大きな3区分の、1996年、までの実態をグラフにしてあります。96年までが実測値で、それ以後、少し将来の予測をしてみました。

資料 p13

 法定福利費に関してはかなり予測が可能です。料率も人口推計もいろいろなデータがあり、現行制度を維持するという前提を置けば、かなり正確な負担割合が出て来ます。法定福利費を2025年まで延ばして、財政再計算の料率アップに反映すると、現在、現金給与比に対して11%程度の法定福利費が、2025年に23.6%へと急速に膨張します。2倍以上ですので相当な負担増になると思います。現在、退職費用とか法定外福利費を合わせても14%程度なので、それと同じ分を法定福利費だけで負担しなければならなくなるというのは、ひとえに高齢化のなせる技です。

 これまでの傾向として、法定福利費と退職費用は構造的に非常に近く、大体並行して費用が伸びてきています。96年あたりまでのこれら3者の関係をベースに予測をすると、退職費用も現行制度を維持するとどんどん増加するという結果が出てまいります。これは現行の退職金制度の放置を仮定することになり随分無理があるのですが、今のトレンドを延長すると退職費用も8%から16%程度に増えるということです。

 もう1つ重要なのは一番下の線、法定外福利費です。これまでも、法定福利費や退職費用の増加に対し、法定外福利費は非常に遠慮がちに調整的に働いてきました。昭和45年あたりですか、法定福利費と法定外福利費の対現金給与比が逆転し、以来ずっと負け続けてきたわけですが、この予測でも、現在5.4%程度ある法定外福利費が2025年には2%程度まで減らざるを得ないだろう、いやこんなものでは済まないのではないか、という意見はチームにもありました。単純に見ても、法定福利費や退職費用の増加によって、企業が任意に展開する企業福利厚生制度は財政的に非常にきつくなるということが、あまり異論なく言えるのではないでしょうか。

 13ページ下のグラフは実測だけですが、法人企業統計で、福利厚生費がどれぐらい企業の負担感になるかを見たものです。いわゆる付加価値に占める比率として、福利厚生費と経常利益を比較しています。この福利厚生費の中には法定、法定外、退職費用、全部が含まれています。グラフを見ていただくとわかるように、経常利益は水準がどんどん変化します。景気やいろいろな事情に左右されて上下動しますが、付加価値に占める旋律という観点でみて、戦後初めて平成5年に両者が逆転したわけです。つまり、経常利益の水準より福利厚生費の割合が高い状態です。それが平成5年、6年と2年続いて、その後元に戻ったわけですが、企業が次に再投資するための体力としての利益、経常利益という観点で見て、福利厚生費の水準がそれを上回ろうかというところまで来ているというのは、見過ごせない水準だという言い方もできるのではないか。福利厚生費は徐々に必ず上がって来ます。主に法定福利費の増加が原因で、退職費用もそうですが、固定費的に少しずつ、しかし必ず増えるのが福利厚生費の性格だと言えようかと思います。

 高齢化により、退職費用、法定費用も含めて福利厚生にかかるお金が増加する。それが見過ごせない水準になって来ているし、推計すると本格的に増えるのはこれからだということになる。賃金の23%を法定福利だけで支払わなければならなくなった時に、一体法定外福利厚生という領域そのものが存続し得るのか、という議論にもなるわけです。推計では2%という数字を示しましたが、実は福利厚生費の中には不可欠なものも多くあります。地方に異動する場合の社宅とか、安全靴などは、労働条件として不可欠な部分でしょう。そういうものが必ず残ると想定しても2%ぐらいはかかるのではないか。こういう背景の中で、企業が現在実施しているようなかなり任意的な制度を続けることができるのか、私は非常に悲観的になってしまうわけです。これが環境変化の中の1番目の高齢化です。

(3) 流動化の対応

1) コストパフォーマンスの高い経営組織

 もう1つ、流動化という言葉を使いました。これは、既存の経済システムに起こっている様々な構造変動、ととらえていただければと思います。私どもの業界で言えば、ビッグバンであり規制緩和ですね。グローバルな競争に勝てるように、もっと競争的なシステムに変えていかなければならない。日本が欧米諸国の基礎的な研究を模倣するキャッチアップ型のシステム、ローコストで歩どまりの良い製品を安くつくるというシステムから、もっとオリジナルな高付加価値な経営の仕組みに変えていかなけれはと言われて久しく、もっと価値創造的なシステムに変わろうとして現在苦しんでいるわけです。そういう変化を経済構造の変動ととらえ、ここでは流動化というキーワードを使ったわけです。経済システムが大きく変わるような環境変化が福利厚生に対してどういう影響を及ぼすのか、ということを見たいと思います。

 「高齢化」は60年代ぐらいから盛んに議論されてきました。非常に古くてしかも新しい問題が高齢化ですが、「流動化」はそんなに時間が経っておりません。具体的な現象はなかなか現れていませんが、資料の12ページに、私どもの機関で94年に整理したインパクトがあります。失業の危険性の高まりとか、能力・業績主義の浸透とか、失業者の増大、産業空洞化、例えばこんなことが起こるのではないかということを94年に議論して機関誌に載せたことがあるんですが、かなり現実味を帯びているものがあります。こういう、より高付加価値な、スリムかつフレキシブルな経営の仕組みに変えていこうという動きは日常あるわけです。

2) 多様化する雇用形態

 95年に日経連が提言した『新時代の「日本的経営」』という分厚い冊子がありますが、資料の15ページに福利厚生に関連するところを抽出してあります。ご記憶のある方もいるかと思いますが、この中に自社型雇用ポートフォリオ理論という考え方があるんですね。従来のように男子正規従業員の長期勤続という全体を1つとして見るのではなく、3つぐらいのグループに自社の従業員層を分けて、ポートフォリオ・マネジメントができないかということだったかと思います。どんな型かというと、例えば「雇用柔軟型」、これはパートのイメージです。「専門能力活用型」、これは専門職ですね。最後の「長期蓄積能力活用型グループ」、これが旧来の日本の正規従業員の型です。だから、今までの長期勤続で年功でという方は、それは1つのグループであって、それ以外にも幾つかグループを分けて、経営コストを下げるとかフレキシブルなシステムにするということかと思います。

資料 p15

 日経連の考える、そのグループ別の処遇のイメージが図表8です。長期蓄積能力活用型グループの福祉施策を見ると、「生涯総合施策」と書いてあります。これが、非常に広い、充実した、退職後も視野に置いた施策ということで、これは従来どおりだという理解です。専門能力グループとか柔軟型グループになると、生活援護施策、これは中身が非常に軽いということですね。例えば社員食堂は使って良いとか、いわゆるスケールメリットがあるようなもので、資産形成等は一切なし、非常に軽いものだけを適用するということですね。これを見ても、従来のように一律平等に福利厚生制度の利用を促進しようとしいうのではなくて、実は選抜されたあるグループだけに従来の福利厚生を用意し、それ以外のグループはもう少し軽いものだけにしようというメッセージとして受け止めたんです。これも1つの流動化への対応ということで、フレキシブルなものにしたいという流れの中で、福利厚生に対して適用の議論も変わってきたのではないかと見ております。

 実際、流動化というのはいろいろな形で雇用形態の多様化につながりますし、その多様化した雇用形態の型すべてに従来のような制度を適用するのは難しいわけです。実際、私どもの調査でも、例えばパート従業員に対する適用率は非常に低い。したがって、厚い制度を適用する人、軽い人、あるいは全くない人、というような分類が企業にとって合理的ではないかという流れが出てきた。流動化の中でそういうコストパフォーマンスの高い組織を目指さざるを得ない。先ほど付加価値との分析を見ましたが、固定費的な福利厚生費をどうコントロールするかが、企業にとっても大きな命題になってきています。

3) 労働移動に対する中立性の要請

 流動化の中の議論で、労働移動に対する中立性を確保しろという議論が、政府関係の提言も含めてあり、福利厚生制度に対しては批判としてよく出てきます。従業員の定着をねらって制度をつくるわけですから、当然中立性を前提にしていないわけです。ところが、雇用のミスマッチを解消するとかいろいろ議論がありますが、転職した場合のペナルティというか、コストを移動者だけに負担させないような制度にできないかという議論は随分前から出ていました。特に企業年金のポータビリティの議論として出ているわけですが、このあたりも定着性をねらって年金制度や福利厚生制度をつくってきた者にとっては、全く場違いな要求とも言えるわけです。長くいてもらうために費用を拠出して年金をつくったのに、「どんどん移動しても良い」というポータブルフリーのような制度は、従来の福利厚生の考え方とは非常に矛盾するものです。言い方を変えれば、中立性が完全に機能するということは、従業員全員を定着させたいという従来の目的、ないしはそれが果たされた機能というものが、流動化によって陳腐化してきている。企業も、従業員全員に長期勤続してもらいたいのではなく、日経連の提言のように一部の人だけで良いと。今までは労働力不足で、採用した正規従業員には全員定年までいてもらいたいというのが暗黙の前提であったわけですが、企業の側としては、そういう全体的定着性のようなものはできれば放棄したい。これは福利厚生制度にとっては非常に困るわけです。

 流動化の議論はいろいろありますが、そういう形で、従来の福利厚生制度の考え方や狙いを大きく転換しなければならないようなインパクトではないかと見ております。

資料 p14

資料 p16

資料 p17

(4) まとめ

 以上、高齢化と流動化という2つの環境変化を前提に、福利厚生の影響を議論してきましたが、もう1度整理したいと思います。1番目の実態を見た場合には、福利厚生制度というのは大体、目的が有効に機能して、日本の企業が生き残る上でかなり有効な仕組みであったということが、過去のデータをもとに言えた。ところが、今日日本の企業が遭遇している高齢化と流動化という環境変化を詳しく見ると、従来の福利厚生制度のあり方に対して非常に様々なインパクトを与える。それは企業年金の問題だけではなく、従来の福利厚生のままではいけないのではないかということを、2つの環境変化が突きつけてきている。これが私の最近の認識です。

 ではそういう厳しい環境の中にあって、企業は福利厚生制度をどうしたら良いか、次の議論にいく前に少し確認したいと思います。18ページです。

資料 p18

 18ページはアンケート調査です。私どもが時系列でやっている福利厚生制度の調査と、社会経済生産性本部の福利厚生制度の調査をならべています。私どもの場合は福利厚生制度全般の問題点は何かということを聞いております。その中で、「長期的な運営ビジョンが持てない」という回答が、92年の32%から95年には40.3%に急速に増えた。僕はこれを当然の結果と見ていました。様々な法定福利費も高まり、従業員のニーズは多様になって何が欲しいのかわからない、雇用形態は変わってきて誰にどう適用したら良いのかも難しい、と。長期的な運営ビジョンを現時点で日本企業が持てるかというと、やはり難しい。そういうことがダイレクトに現れた結果ではないか。4割の企業が「ビジョンが持てない」と回答しています。それ以外にも、現金給与の方にシフトしてもらいたいという要望が強いことや、法定福利費の問題とか、効果測定ができないとか、いろいろな回答があります。

 生産性本部のデータでも「負担能力に限界がある」という回答は非常に多いですし、「従業員の価値観や生活観の多様化が障害だ」ということで高い回答率を得ているようです。

 環境変化の説明をいたしましたが、私だけではなく、現場の企業の方は実感として今後の福利厚生の運営は難しいな、とお考えではないでしょうか。

6.模索される新たな方向性

(1) 自ら模索を始めた先進企業

1) 従業員選択型の福利厚生制度

 最後の議論に入ります。非常に閉塞的な福利厚生の状況の中で、いくつか先進的な企業が出てきています。その事例をご紹介し、結論につなげていきたいと思います。

 資料の19ページに、松下電器の制度、「全額給与支払い型」社員制度の概要があります。A社員、B社員と分かれているのは、福利厚生制度も要らないし退職金制度も要らないという選択を従業員に与えるということです。その選択をした従業員には、それに見合う現金を賞与に乗せて支払います。これをもって福利厚生制度からの撤退というような言い方もいたします。A社員は、退職金、福利厚生制度の両方、B社員は退職金制度だけということです。

資料 p19

 そのかわりにいくらお支払いするのかというのが下の別表1です。例えば本給が30万円以上の人を前提にすると、「退職金は要らない」と言えば66万円の支給があるようです。「福利制度は要らない」と言えば22万円です。合わせて年間88万円の現金が受け取れるということです。これは研究者にとって非常にショッキングな事例で、いよいよ福利厚生制度もなくなるのかと随分驚いたのですが、88万円という現金は30万円の給与の人の3カ月分なので非常に魅力的と言えるのではないでしょうか。

2) 福利厚生からの撤退事例

 松下電器の場合は選択という前提があったわけですが、さらにドラスティックなのがリクルート社です。資料の20?21ページです。

資料 p20

資料 p21

 リクルート社の場合は、社宅、家賃補助、新幹線通勤手当、保養施設、扶養手当も含めて、彼らが言う「福祉」を2000年までに全部やめるということです。これは選択の余地がなく、完全撤退と言わざるを得ません。撤退した分を従業員にどうフィードバックするかということになるわけですが、リクルート社の場合は賞与の原資が営業利益の11%あって、それを0.5%上げて11.5%にするというのが1つのフィードバックです。もう1つは若い人対象のようですが、成果貢献給ということで1点あたり7,500円のものを1万2,000円に、テーブルを少し上げるということです。これもあくまで成果貢献給ということが重要です。しかし完全撤退です。こういう企業が出てまいりました。

 松下電器、リクルート以外にも、最近いくつか出ております。例えば高島屋の場合は、つい最近、福利厚生制度を廃止するかわりに再雇用制度を導入する、ということが明らかになりました。あるいは定年退職者の年金の充実とか、財形年金で確定拠出を先取りしたのかもしれませんが、財形年金奨励金――これは補助金ですが――を入れるんです。雇用優先で福祉から撤退するという、福祉と雇用の交換が起こっているわけですね。福祉をやるから再雇用にお金を回したい、というような制度が出てきています。

 これ以外にも私の知る限りでは、三和総研が退職金から全面撤退しています。退職金はいつでも給与に乗せられるということです。この間新聞に出たコナミも、どうやら全面撤退のようですね。

 前半のお話では、福利厚生というのは定着性や労務性に関して有効だと申し上げたわけですが、こうやって大胆に撤退する企業が大手も含めてどんどん出てきているというのは非常に大きな変化です。これ以外にも、カフェテリア方式という新しい配分の方式もすでに20数社出てきています。このあたりも、今までのような一律平等な制度の供給のあり方を大きく変えたものです。

 資料の21ページの上、これはリクルート社の役員会議に使われた資料のようですが、非常にシンボリックな内容なので紹介したいと思います。

 リクルート社が福利厚生制度から全面撤退するという報道がありましたが、彼らの考え方では、これは単なるスクラップ・アンド・ビルドということです。21ページの上に「これまでの福利厚生の考え方」という囲みと、「これからの福利厚生の考え方」という囲みがあります。これまでというのは何かというと、「生活の基盤の保障」と書いてありますが、今まで慣れ親しんだ福利厚生制度で、これをやめて全部、賞与、成果貢献給に還元するということです。リクルートの場合は、「社員の自己実現の支援」が今後の福利厚生だと位置づけています。この部分には今後どんどんお金を使っていこうということです。自己啓発とかキャリア形成の支援とか、非常にユニークな制度がある。いわゆる自己実現の支援、あるいは人材開発に全面的にお金をシフトしていこうということです。

 2つの事例を比較したものが21ページの下の図です。2つは同じ撤退ですが、かなり性格が異なります。松下の場合は選択できるということで、賞与の中に88万円とか66万円とかきちんと数字が書かれています。少なくともそれは確保されていますが、リクルートの場合は賞与原資ですから、営業利益がなければ実質的に、この福利厚生によって手渡されていたものがどこかに消えてしまう可能性がある。固定費だった福利厚生費が、完全な変動費、いわゆる能力賃金になってしまったということです。これは松下とは大分色彩が違うということに注目していただきたいと思います。

 実は、撤退といっても松下の場合、業務上必要なものは残すという形で残存させておりますが、リクルートの場合は従来私たちが考えていた福利厚生制度は全部やめて、人材投資策というものに集中しようという考えです。

 非常にドラスティックな企業の例だけを見て、もう福利厚生は要らない、少なくとも企業がお金を払って従業員に何か福祉的、恩恵的な、リクルートの言う「生活基盤の保障」のような制度を整える必要はないだろうという結論を出す企業が出てきたわけです。こういう変化が特殊な事例なのか、今後の日本企業の福利厚生制度に対する行動を煽動するものなのか、解釈が分かれると思いますが、私は煽動するものではないかと見ております。特にリクルートの考え方は、日本の企業のすべてが模倣できるとは私は思いませんが、非常にクリアな考え方で制度を変えています。こういうものはやはり影響を及ぼすだろうというのが今の段階の印象です。

(2) 福利厚生の多面性

1) 労務管理的機能?労働生産性の維持・向上、創造的活力

 なぜこんなことが起こっているのかということをお話ししようと思います。まず、福利厚生制度というのは実に多彩な顔を持っているというところから始めましょう。

 例えば従業員にとっての福利厚生制度は、利益の中から賃金以外の形で配分される成果配分であるという面があります。また、業務上で必要な企業団地の食堂とか、安全靴とか制服、転勤用の社宅とか、業務を遂行する上での必要労働条件という意味あいのものもあります。あるいは人的投資というのもたくさんあり、自己啓発に対する支援などはその典型です。リクルートの例は、それを中心に据えた人的投資策でもあるわけです。

 さらに解釈を広げると、「他社よりも優れた人材を獲得したい」という人材吸収力というような一種の競争力のツールとなっています。目的のところでも、競争性というのが中小企業で非常に強い。中小企業の社長が「良い人を採りたい」ということで、目立つ制度を取り入れるケースがよくあります。逆に大企業では、「これは社会的責任です」という発言をしますが、企業の社会的な役目として、従業員の生活の安定とか老後保障に貢献する、ということは当然あります。個人を見たら、成果配分に相当するのは労働の報酬です。賃金以外の様々な形態で、「労働対価としての福利厚生」という面も当然あるわけです。

2) 福祉的機能?相互扶助・弱者救済

 また同時に労働条件であり、さらに相互扶助の機能もあります。慶弔制度とか死亡退職金制度も当然ですが、従業員が拠出するしないは別として、同じ企業に勤める従業員同士が困った時に助け合おう、ということです。ベネッセコーポレーションのペーパーの中に「きずな」という言葉があります。たまたま同じ職場で出会えた従業員は絆があるわけだから助け合っても良いんじゃないか。アメリカではファミリーケアなどと申しますが、要するに困った時に助け合うセイフティーネットです。ですから、困らないと全然利用しない。例えば介護ヘルプ制度は要介護の人がいなければ一生使わないけれど、介護をする立場になって本当に悲惨な状態になった時に福利厚生制度で救済される、そういうセイフティーネットの機能もある。

 あるいはリクルートの例で言えば、従業員にとってはキャリアをつくる、あるいは専門能力をつくる極めて重大な教育の機会ということになるわけです。

(3) 始まる旧来型福利厚生の分解

 そういう、多面的というか、様々な性格が融合しているのが福利厚生制度です。ところが今起きている変化というのは、効果測定ができないから放っておこうとか、既得権だからこれはスクラップ・アンド・ビルドしないとか、様々なエクスキューズがあってここまで充実し浸透してきたわけですが、どうやらそのエクスキューズが許されないというのが1つの読み方かなというのが私の考え方です。22ページの上の図、これは未完成なのでご批判があろうかと思いますが、横軸は機能性です。多様な顔でもざっくり2つの軸とすれば、労務管理や人的投資という機能です。もう1つは福祉であり、生活保障、相互扶助、いわゆる企業福祉に相当する部分です。そういう2つの機能があります。

資料 p22

 もう1つ主体性という軸を縦に置いてみました。誰がお金を払うのか、誰が企画して目的を定めていくのか、個人と企業ということで軸を立ててみました。中ほどに少し大きめの丸が座っております。やや福祉・生活保障寄り、企業寄りのところに現在の福利厚生の領域があるのではないかというのが私の解釈です。ここに多面な顔が全部、ごった煮になっていたわけです。でもそれはそれで日本企業も成長していたし、いろいろな意味で良いじゃないかと。効果測定はできないけれど、労働組合にとっては既得権だし役に立つか立たないか別にして置いておこうということで来たわけですが、どうやら、融合したままではなくて、例えば右下のリクルートは教育訓練とか能力開発とか人材投資という側面については企業がやっても良いと。なぜならそれはペイするからです。その背景にあるのは流動化です。もっと創造的な価値を生み出す組織にしたい、個人のアイデアが生かされる企業をつくりたい、ということになると最終的には、個のパワーを高める、福利厚生もそのために利用するという流動化のインパクトに引っ張られて、労務管理的・人的投資的、しかも企業が主体という部分に流れていく流れと、もう1つはやはり、高齢化が非常に深刻なので、公的システムや自助努力だけでは追いつかない部分を、企業の仕組みを使って支援する、あるいは従業員同士の相互保障の仕組みとするということの必要性はむしろ高まっている。ただしこの部分については、例えば共済会制度とか、従業員の拠出とか、企業が前面に出てその資金を負担するのではなく、従業員相互扶助的なものとして生まれ変わっていく。もちろん企業は補助金としていろいろなサポートをしますが、主体性は個人や労働組合、共済会といった組織に移る。高齢化に引っ張られて、そういうものも普及していきます。

 というのは、この高齢化、流動化、相互扶助と人的投資、そういう2つのもともと混在していた福利厚生の機能が、分解する過程にあるのではないか。流動化、高齢化に対してそれぞれ合理的な存在にならざるを得ないというか、なりたがっているという動きがあり、松下とかリクルートとか、右下の第2象限あたりの動きが出てきますし、当然左上の動きもすでに先行して盛んに行われています。

 いずれにしてもこんな絵柄で今の変化を展望すれば、企業はかなりペイする部分、従業員の教育や人材投資などの部分については、福利厚生制度という手法を使って充実させていくのではないか。要するに、賃金制度を能力給的なものにする一方で、福利厚生の中でも、あるいは教育機会を与える場合でも、優秀な人に優先的に与えるとか、非常に差別的な戦略的な制度展開が行われるのではないか。リクルートはシンボリックと申し上げましたが、そういうものを模倣する流れがある。それは止むを得ないし、機能すべきだと思います。効果測定もされて、非常に機敏なスクラップ・アンド・ビルドがなされるはずです。

 一方で、やはり高齢化に対応して相互扶助のシステムは充実していかなければなりません。企業年金をどちらに置くかという問題がありますが、そういう老後保障も含めて、企業という器を使ってマーケットよりも効率的な方法で様々なサービスを獲得していくというのは当然充実されていくべきです。

 私は「始まる旧来型の福利厚生の分解」ということでこういう絵をかいて、半年ぐらい考えていますが、最近の企業の新しい事例を見ていると、右下あたりは仮説に近い企業が出て来ているので歓迎していますし、左上はあまり報道には出ませんが、共済会は浸透してきていますから、自助の形、例えば401K従業員拠出のようなものがここに置かれるのかなと思います。そういう、従業員が拠出して自分の老後を確保していくという流れも一方で充実していくのではないか、これは1つの将来展望としてご紹介したいと思います。

 最後に少しまとめを申し上げますと、これまでかなり良い形で福利厚生制度が日本の企業の社会の中に入っていました。企業の従来の水準に対して何らかの貢献、成長要因としての機能を果たしたと見て間違いないと思います。ただし、高齢化とか流動化とか環境変化を取り上げましたが、ここにきて従来の方式や、従来の考え方のままで推移できるということは考えにくいというのが現時点の結論です。最終的にどうなるか何とも言えませんが、少なくとも高齢化、流動化のような流れに即応して、より合理的な、より機能を特化したものに分解していければ、福利厚生制度という領域は残っていきますし、賃金制度や人事処遇ではできない従業員に対するプラスの影響力を確保できるシステムとして残るのではないか、いや、残ってほしいというのが今の私の結論です。

───了───