第1回 旧JIL講演会
ベンチャー企業の時代が来た!
~世界5カ国の企業家比較~
(1997年12月01日)

早稲田大学アジア太平洋研究センター
早稲田大学アントレプレヌール研究会 代表
教授・商学博士・公認会計士 松田 修一

目次


講師略歴

松田 修一(まつだ・しゅういち)
 1966年、公認会計士第2次試験合格、72年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。73年に監査法人トーマツ入所、86年早稲田大学システム科学研究所(現アジア太平洋研究センター)助教授、91年同教授。93年早稲田大学アントレプレヌール研究会代表世話人。
専門分野:会計学、経営監査論、ベンチャー企業論。
著者: 「ベンチャー企業の経営と支援」(監修・著、日本経済新聞社、1994年)、
「シリーズ・ベンチャー企業経営1 起業家の輩出」
          (編著、日本経済新聞社、1996年)
「起業論」(著、日本経済新聞社、1997年)など多数
商学博士。通産省所管のベンチャー企業関連の委員会座長などを務めている

はじめに

今、元気なのは女性とベンチャー

 私は、いかに有能な人材をベンチャー企業へ流動化させるかという、労働省の政策提言の検討のお仕事をさせていただいております。大体労働省というのは、首を切るなだとか、人を動かすなとかというようなことが中心なわけですが、水が高いところから下に自然に流れるようなことを促進しないと、経済のダイナミズムというのは起きないと思います。多分労働省の中では、まだまだ始まったばかりなんだろうとは思いますが、ベンチャー企業を起こし、支援しながらどのように長期的に労働力を確保していくか、というような委員会が2年間にわたって行われ、私もそのメンバーに入っておりました。

 昨日、東京国際女子マラソンがありまして、嬉しいことにまた日本人が優勝しました。サッカーでやっと男が盛り返してくれたんですが、日本のここ10年ぐらいを見ていると、女性のスポーツや社会での活動の伸び率が男の伸び率の3倍ぐらい伸びているんですね。男はがんじがらめに社会の中に閉じ込められているけれども、女性の方はむしろ伸びやかに、社会の通念などから解き放たれているような印象を受けます。いろいろな意味で男性は既成観念しか発言がなくて、女性の言うことは突拍子もないけれど、実は社会の常識なんだと。逆に、常識だと思っているのは実は会社内だけの常識で、外へ行ったら非常識というのが結構ある、結構どころか圧倒的に多くはそうかもしれません。そういう意味で、ベンチャーは新しいことに挑戦し続けることに意義があるわけで、過去こうだったから将来もこう、という話ではない。過去こうだったけれども、将来はこうなるだろうという、仮説をどのように実行していくかというのがベンチャーの世界なんだろうと思うわけです。

ドラスティックな経済環境の変化と2極化

 ここ1カ月の間に大変な金融ショックがございました。起こるべくして起こったことかと思いますが、今の金融関連でみると、産業構造上の問題が各方面で2極化してきている。1極は、金融自体の話、もう1つはゼネコンを中心にした金融。金融とゼネコンの共通項というのは、国が支えなければすべて倒れるという、国家依存型の産業であるということ。逆にいえば、みずから自由に行動させてもらわなかったということでもあるわけです。

 ここ10年間の環境変化はものすごいです。会社に定款というのがありますね。環境変化が激しい時には新しいことに挑戦しますから、必ず定款の目的変更をやって新しく挑戦していくわけです。でも、金融機関は戦後1回も定款変更がないんです。そのように早くから国に依存せざるを得なかった産業と、国があまり守ってくれなかった産業とが、今、はっきりと2極化している。国に依存できなかった会社は自分で生きていかなきゃいけないから、マーケットの基盤を世界に向けながら、グローバルな動きをどんどんしていった。ですから今、メーカーで史上空前の利益を出している会社がいっぱいあるんですね。多くのメーカーは誰も助けてくれないから自活していく、これは会社ばかりでなく個人でもそうですが、そういう人たちは自分で自分を磨いている。誰かが何かしてくれるだろう、そのうち神風が吹くんじゃないか、こう考えるところと2極化してきているということです。もう1つは、同じ金融機関や同じグローバルな企業の中でも、またすごい勢いで2極化が進んでいる。どういうことかと言いますと、世界がグローバル化している中で、世界の中でも生き残れる企業が何社あるのか。私は大体10社と考えます。世界の中で残るのが10社という時に、日本の10社が世界の10社に残るはずがないので日本はせいぜいそのうちの2社でしょうね。これから中国やインドからどんな企業が出てくるかわかりませんし。世界で5社なら日本はせいぜい1社でしょう。そういうふうにグローバルになっている企業の中で、また強烈なサバイバルが行われている。昔はマーケット全体が成長していたから、大会社が悠々としていて、その下に中小企業があって、中小企業も大会社の言うことを聞いていればOKだった。ところがその大会社自身が残れるか残れないかというサバイバルに入っていて自分のことで精一杯。

 CALSというコンピュータのシステムがありますが、世界に購買マーケットを開いているのでどこからでも買える。今や、防衛産業に携わっているような日本の基幹企業が、必ずしも日本の高炉メーカーから鉄は買わない、ブラジルから買う、中国から、あるいは韓国から買う。10年前には考えられなかったことが起きているのは、現実問題として自分自身が生きていくために、今までつくり上げた「系列」がむしろ足手まといになっているからでしょう。販売チャンネルにしても、購買チャンネルにしても、同じようなことが今、起きている。では、どうすればいいのか。世界の中で5社、あるいは10社生き残る中の2社に入ろうとした時に、日本で3番目から5番目の会社は、上位の会社と同じことをしていたら絶対残れっこないですね。

 ある自動車会社へ行ったんです。褒める時には実名を出して、けなす時には実名は出しませんから、あそこかなと思ってください。今から3、4年前、そこが日本で1番早く限界企業になったんです。役員会に出て「おたくはよかったですな、早く限界企業になって。おかげで生き残れますよ」と。その会社はバブル崩壊直後に限界企業になって、日本がまだ力があるうちに大手術をした。3、4年間ずうっと赤字続きだったので、乗用車部門を全部切ったんです。昔は御三家と言われるようなすごい会社だったのを、プライドをかなぐり捨てて大手術をして、2年後にはもう復配したんですよ。自動車会社が11社、東洋工業は日本の会社でなくなったから10社かもしれませんが、全部トヨタと同じようなことをやろうとしていた。金融機関もそうでしょう。なぜ地銀まで全部、トップ行と同じことをやらなきゃいけないのか。パイが伸びている時にはナンバーワンと同じことをただやっていればよかったんですが、そうでない時には自分のユニークさがどこで生きるのかしっかり考えなきゃいけない。時代が変わってきたのだと思います。ですから、自分はどこを攻める、ということを明確に考えていく必要があると最近は思っています。

ベンチャーキャピタルファンドが抱える課題

 今、官の委員会の座長を幾つかやっているのですが、来春までに詰めなければいけない内容に、通産省の有限会社投資事業組合法というのがございます。ベンチャー企業に対して投資する会社をベンチャーキャピタルといいますが、ベンチャーキャピタルファンドというのは、出資を募ってその出資金の集合体である組合からベンチャー企業に投資している。こういうことをやっているところを投資事業組合というのですが、これはアメリカのリミテッドパートナーシップに準拠して日本でつくった独特なシステムなんですね。その独特なシステムは民法上の組合によって立っているというだけで、実は法律がないのです。にもかかわらず、もう7,000億円ぐらいファンドが動いているわけです。そこで何か事故があったら、ベンチャーに対して投資しているもとが崩れてしまうということで、前々から私どもも指摘をしていたのですが、やっと法律が来年の2月の国会に上程されそうだという見通しになりました。現在、実際に法律をどのように運用していくかという中身について詰めを行っていますが、そういう状況の中でこの山一証券の倒産が起きました。

 山一の子会社である山一ファイナンスというのはキャピタルだけではなく様々なことをやっているのですが、その中にベンチャー企業への投資をする投資事業組合もあるわけです。それが数百億円あって、当然、投資を受けているベンチャー企業が数百社ある。このファンドが山一の崩壊とともに空中分解するというのは、大変なことなんですね。これから法律をつくろうという時に、法律のモデルになっている1つのファンドが空中分解していると、それはベンチャー企業にとっても不幸ですし、ベンチャー企業を支援しようとお金を出していただいた投資家に対しても大変な不幸ですね。大きなファンドは海外からも買われているので、当然、投資家の中には海外の方々もおられる。そういう意味で、ファンドがどうなっていくのか、自分も制度をつくる窓口の1人ですから、非常に心配しております。

講演の流れについて

 ここ1カ月、いろいろありました。ベンチャー企業のインフラブームはそろそろ終焉ではないかという人もいますが、私自身は決して底流は変わっていないと思っています。これから先はますます明るい、それはなぜか、ということも含めてお話ししたいと思います。ベンチャー企業とは何かという定義から入りますが、この定義がものすごく難しいんですね。

 それから、成功するベンチャー企業にはどんな経営のポイントがあるのかということをお話して、世界のベンチャー企業が、成長意欲の高いいわゆる中小企業とどこが違うのかということをお話したいと思います。これが資料3、4、5で、5カ国の比較になります。

 それから資料6ですが、日米でベンチャーのトップ企業というのは随分違います。何が違うのか、なぜそうなったのか、それから起業家はどのようにして育つのだろうか。日本では「育てる」という意識が全く欠けていたんです。今、イギリスは実はベンチャーブームなんです、サッチャーさんの効果ですね。その場で大きな批判をされない施策は10年後にもあまり効果は出ない。アメリカが今、経済的に絶好調になっているのは、レーガンさんの施策が良かったということなんです。これも15年、20年近く経っている。そういうことを考えると、起業家を意図的に育てるということも相当考えていかなければならない。それから、日本のベンチャー企業の支援自体が大変革期の途上にあるのですが、どういうことなのかかいつまんでお話しします。それから最後に、日本が若い層を中心に相当変わりつつあるということをお話ししたいと思います。

 これから約1時間30分ほどお話しして、皆様からご質問を受けたいと思います。途中でよくわからないということがあったら、すぐ手を挙げて質問してください。

 私は90年にボストンに行っておりまして、ハーバード大学のMBAの授業に2回ばかり出たのですが、このぐらい話すともう30人ぐらい手を挙げるんです。「まだ中身に入っていないでしょう。もうちょっと聞けばわかるじゃないか」と思うんだけど、すぐワーッと手を挙げる。なぜか。誰が手を挙げたか全部点数につくんです。発言しなけれはつぶされるのが欧米です。韓国はもっときつい、言わないものはことごとくつぶされる。サイレントは悪なんですね。ところが日本の場合は、言わぬが花、沈黙は金。出る杭が打たれるというのは日本では当然なカルチャーだったはずです。しかし、大きな変革期には必ず新しい人たちが出てきていると僕は思います。そういうことを含めてこれからお話ししたいと思います。

1.ベンチャー企業とは

ベンチャー企業は「起業家精神をもったスモールビジネス」

 資料1をご覧ください。ベンチャー企業をアメリカでは何というか。アメリカにベンチャービジネスという本はないですよ、全部スモールビジネスなんです。しかし、成長を目指すということですから、ウィズ・ジ・アントレプレナーシップなんです。起業家精神を持ったスモールビジネス、これをベンチャー企業というのだろうと思います。

資料 1

 おかげさまで11月18日に、法政大学の清成先生をヘッドにベンチャー学会が起ち上がりました。私も清成先生をたきつけた1人なので副会長に入っています。清成先生と多摩大学の学長の中村秀一郎先生、それと長期信用銀行の研究所、長銀総研の平尾所長のお3人が、昭和46年だと思いますが、『ベンチャービジネス』という本を日本で初めて書きました。平尾さんが若いころアメリカへ留学していた時に、ベンチャーキャピタルという本がいっぱいある、これは何だと疑問を持たれた。そんなわけで、日本のベンチャーキャピタルの会社は、証券、銀行を含めて1番早いのが長銀のつくったNEDというキャピタル会社なんですね。実はその前に、京都がつくったんですよ。京都はベンチャー発祥の地ですから。ところが1年後にファンドが倒産しちゃったんです。多分投資した会社がばたばたと倒産しちゃったんでしょうね。ちょうど第1次石油ショックが来て、第1次のベンチャーはほとんど消えてしまったために、ファンド自身が消えてしまいましたけれども、今残っている中では長期信用銀行系のが1番長い。それをつくられたのが平尾さんという方です。その我々の先駆者3人が当時書かれた本の中で初めて、ベンチャービジネスという言葉が日本で使われたわけです。

 当時は中小企業は永久に中小企業であって、大企業からいじめ抜かれている、いじめられないようにどう施策を考えるかというのが大体のトーンだった時代ですから、中小企業学会ではベンチャービジネスについて話すことでつるし上げを食ったとも聞きました。今はもう変わってきていますが。

 ともかく、アメリカではベンチャー企業というのはスモールビジネスだということなんですね。スモールビジネスなんだけれど、そこにベンチャーキャピタルが投資する会社、成長する企業、そういうイメージです。これは私が主宰している早稲田大学アントレプレナー研究会の出した本の中の定義です。日本では、またちょっと違う独特なイメージをつくってきていますが。それで、ウィズ・ジ・アントレプレナーシップ、「挑戦する意欲のある」ということですから、成長意欲の強さ、起業家ということを抜きにしては語れないですね。

リスクに挑戦し続けるということ

 おもしろいのは、中小会社で議論すると「ベンチャー企業って何」と言ったら、「創業者」というのが必ず出てくるわけです。起業家、業を起こした人ですね。大企業でそういう議論をしても全然出てこない。大会社はサラリーマン社長が多くて誰が社長になっても変わらないですから。しかし、ビッグバンを起こすのはやっぱり「人」なんです。人によってどうにでも変わってくるわけで、この「起業家に率いられた」というのは非常に重要です。その方が成長意欲を持っているということ、それがリスクに挑戦し続けるということになりますが、何に挑戦しようとすべてリスクがあると僕は思うんです。例えば花屋をやるのだってリスクはありますよ。「誰も買いに来なかったらどうするんだ」ということです。

 フランチャイズビジネスというのがありますね。フランチャイザーは典型的なベンチャー企業です、新しい仕組みをつくるわけですから。その傘下に入る人はフランチャイジー。フランチャイジーの方々にフランチャイザーは「絶対リスクはないですよ」と言うわけですよ。冗談じゃない、リスクはある。フランチャイジーになって倒産したとか、夜逃げしたとか、一家離散だってあるわけですから、「リスクがない」なんて言い方でトークしちゃいけない。新しく何かを始めるというのは、すべてリスクがある。そのリスクが大きいか小さいかの違いだろうと私は思っています。そして、挑戦し続ける、ここが大事なんですね。

 ここにおられる方で、70歳の方がもしベンチャーを起こそうと考えていたら、私は「おやめになった方がいいんじゃないですか」と言います。VECという、ベンチャー企業に融資の信用保証をする通産省の外部団体があります。このVECに65歳ぐらいの方が保証してほしいと見えるらしいんです。意欲大、非常に良いことですよ。しかしVECとしては、保証して回収しなければならないので、基本的には株式を公開しなければならないわけですね。「何年で公開するんですか」ときいた時に、今65歳なら最低でも「5年で」と言ってもらわないと、70歳で公開してもっと伸びるなんていうことは考えられないわけです。それで、「ちょっとご遠慮いただかないと。うちのルールに合いません」と、こういうことを言わざるを得ないわけです。「挑戦し続ける」というのは、やはりある程度の若さとパワーが必要で、最低10年間はがむしゃらに働かなければならないということです。

 アメリカ東部に、1番古株のベンチャーキャピタリストでシェーンさんという方がいます。皇居ぐらいの広さのところに住んでおられて、駐車場が野球のグラウンドぐらいあって、駐車場に入ったって全然家が見えない。その方に、「成功するベンチャーというのは、どういうふうにして見分けるのですか」とききました。彼いわく「最終的にイエスとかノーを出すためには、土日に会社へ行ってみることだ」。「土日に行って、誰も来ていないような会社には投資はしません」と言うんです。

9時5時でインキュベーター施設が成り立つか

 今、地方でベンチャー育成ということで、インキュベータールームといいますか、インキュベーター機関というのをつくろうとしている。テクノパークとか、いろいろつくりましてね。私は千葉県の柏に住んでいるのですが、今度柏に東大工学部が移転してくるのでそういうリサーチパークをつくろうという動きがあり、私にもお話があって委員会に入ったんです。で、まず「このビルは24時間365日オープンなんでしょうね」、と聞いたら、何のことを言っているのか千葉県のお役人はわからないわけです。「いや、大体9時に始まって、5時、遅くとも6時には閉めないと」と言う。ベンチャーというのは人並みの3倍ぐらい働かなきゃ起ち上がっていかないのに、何を言っているのですかと。

 また、そこは住宅地で周りに飲み屋がないんですよ。従業員の方々、あるいは一緒に入っている人たちと、いろいろコミュニケーションをして自分もレベルアップして育っていくわけです。日本でアフター5のコミュニケーションといえば、やっぱり焼き鳥屋じゃないですか。焼き鳥屋に行くのに30分もかかるところにそんなものを建てて、どうして活性化するんだ、中にバーをつくれと、こう言った。しかし「県庁の建物にバーは、ちょっと」と言われて、それならせめて8時ぐらいまでお酒を置いたらいいじゃないか。多分そうなったと思います。それで、各階ごとに喫茶コーナーを設けた。要するにそういう施設ができたら地元と一体感をもって成長していかなければだめなわけですよ。それを城壁をつくって、セキャリティだセキュリティだというもんだから、ガチャンと閉めたら中に誰がいるのかわからない。何だか牢獄ですよね。外が城壁、中が牢獄、そんなので人材が育つはずがないですよ、とかみつきました。

チームづくりと独創性

 私もいろいろな会社の社長にインタビューに行っていますが、会社を起こして10年間何も危機がなくスムーズにきた会社というのは5%ぐらいです。10年やっていると絶対倒産の危機に遭遇していますよ。これを乗り越えなければいけないわけです。ものすごいテンションが高いまま、ガーッと10年間ぐらい走れるパワーがないといけない、ということだろうと思うんです。そうすると「私もう55歳だ、そんなパワーはないよ。ちょっと血圧も高い」と、こうなっちゃうわけですね。私もそうなんですが。で、次の段階としてどういうチームをつくるかという話になるわけですね。いずれにしても、1つの経営チームが10年間は戦い続けるというパワーがないといけない。アメリカでは決して若い人だけがベンチャーを起こしているわけではなく、50歳代ベンチャーはものすごく多いです。50代ベンチャーの素晴らしさは、その人の持っているスキルの深さと、それまでに蓄えたネットワークですね。ですから短期間に立ち上がっていって周囲もそれをサポートする。挑戦し続けるには、テンションが高くて10年間は必死で頑張れるということが必須になると思います。

 製品やサービスに独創性がある、ということをよく言うんですが、本当に独創性があるのは、日本では100社に1社じゃないでしょうか。しかし、いかなる会社でも何かあるんです、どこかに独創性がある。ビジネスプロセスという言葉がありますが、何のビジネスをやるのかを決めて、それを企画する、研究します、開発に入りますと。そして、プロトタイプができて、今度はどう生産するか。生産し始めて、どこにどう使っていただくか。今度はどういう方法で販売するか、どういう方法で回収するか。これがビジネスプロセスですね。小売業だと前半がないだけの話で、どこの会社も共通項だと思うんです。企画開発段階で圧倒的にユニークさがあるのは、やっぱり研究開発型のベンチャーだろうと思います。しかし、多くはそういうのはないわけです。ですから、「独創性がないからだめなんだ」と言えるのだろうかという気がするんですね。

 1つだけケースを紹介しますが、岡山からベネッセコーポレーションという、すごい会社が出てきました。現在の社長の父、つまり先代が会社を1回つぶしているんですね。急成長してつぶれたんです。赤ペン先生による添削を日本中でやっていたんですが、添削は今でも月3,000円ぐらいですから、当時は多分100円か50円ぐらいだったと思います。それを全国でやっているわけです。添削をし終わって送っても、北海道の人がお金を振り込んで来ない。当時は自動振込なんかないから現金書留の封筒に入れて送ってきていた、それが来ない、そういうことが重なっていったわけです。回収に行ったらどうなりますか。もっとみじめですよ、電車賃のほうが100倍ぐらいかかるんだから。それで売掛金がたまってつぶれたんです。それで何を考えたか。

 当時、添削による受験指導というのは全部そのシステムだったんです。そこのユニークさというか社長のすごさというのは、「じゃ、回収を前受け金にすればいい。後受けで回収したせいで売掛金がたまったんだから、6カ月分前もってもらっちゃえばいいじゃないか」と考えた。そうすれば全然リスクはない。社内の人は全員反対したそうです。でも、やってみたらすっと受け入れられちゃったんです。そういうものなんですね。ベネッセコーポレーションが他と差別化してあんなに成長できたのは、回収方法を後払いから前払いにした当初のアイデアが起点なんです。ただ、それがその業界で初めてのことだった。何が自分の会社のユニークさかということをしっかり把握して、社内的にも納得してもらって自信を持つことが重要だ、と私は思っております。

第2創業は大きなチャンス

 それから事業の独立性ですが、どこかに100%頼っているのはベンチャー企業ではないというのはおわかりいただけると思います。国際性は国内だけの小さいマーケットの場合はないかもしれませんが、少なくとも社会性というのは、これから非常に重要になってくる。環境問題は非常に重要ですし、社会性という問題抜きにはビジネスはもう成り立たなくなってきているという気がいたします。

 それからここに若い企業と書いてありますが、会社の設立が若いというのが1つ。しかし、必ずしも設立年月日が若いだけが若いとは限らないんです。会社の中が生き生きとしているのが、若いということなんだろうと思います。そういう意味で、中小企業の2代目が出てきて第2創業期に入った企業について、「ファミリービジネスのベンチャー企業化」という言い方を私はしています。ファミリービジネスで停滞していた会社がベンチャー企業に化けていくという意味合いですが、これも実は非常に重要だと思っています。既に経営資源を持っているんですから、ゼロからスタートするよりは経営資源があるはずだ。

 しかし、中小企業の中の官僚化、停滞化ほど悪いことはないですよ。従業員が50人ぐらいいて、そこそこ食える、まあまあ給料ももらえる。しかし平均年齢が50歳、もうどうしようもないですね。そういうところに2代目さんが入ると悲劇になりますね。銀座で何代目とか、銀のスプーンをくわえてお生まれになったとか言われる方がいますが、そういう方々とのおつき合いの中から、1つだけ例を申し上げます。

 ここにおられる方でそこの洋服を着ている方は大変なお金持ちだろうと思いますが、あの英國屋ね。英國屋というのは英国と全然関係ないんですが、英国の生地を使っているということは確かですね。で、英國屋とつけているのでダイアナ妃の不幸があったときにイギリスに呼ばれたり、日本にいろいろな方が見えた時にも英國屋は呼ばれるらしいです。今の社長は小林明といって、大学を卒業して2年目に会社に入った。そういう会社ですから、伝統があって古いわけです。しかも、手でちょっと反物を探れば値段が幾らの背広だとわかる、職人の集団なんですね。これはどうしたものか、親父はその人たちと一緒にやってきた、おれはどうして跡を継げるのだろう、と考えた。

 ここでそういうことを言っていいかどうかわかりませんけれども、200万円ぐらいの背広をつくる方というのは、結構この(手錠をされているポーズ)方が多いですから、おつくりいただくと、こうなっちゃう方が多いと。そうすると、10年、20年ぐらいの後、刑期が終わった後、「頼んであったあれはどうした」と来ると。えらいことですよ、10年、15年前の在庫を虫に食われないようにきっちり管理していないといけない。みんな注文なので、右から左にすっと売れるのではなくて、すごい在庫があるそうです。それを手作業でやるのは大変なことだ。もちろんお金は前払いですから問題ないんですが。

 そこで彼は考えた。自分が会社の中でやるのは、コンピュータしかない。それでコンピュータを習いに行って、在庫管理から、いかに大きな端切れを残さないようにするか、というところまで考えたんですね。それで、10年ほど前、30歳の後半ぐらいで社長になったんです。普通、未上場の会社だと社長交代は新聞には出ないんですが、あそこはステータスが高いから新聞に載った。電話しましたよ、「おめでとうございます。第2創業に入って、若い会社をこれからつくれますね。しかし実権を握ったの」、こう聞いたわけです。「何の話?」と言うから、「印鑑と人事権ですよ」と言ったら、「印鑑を私が持てるはずがないでしょう」というんですね。社長にはなったけれども、印鑑は会長が持っている。ましてや、人事権は一切社長にはない。3年前にオーナーが亡くなられたので、その時には完全に人事権も印鑑もご自身でお持ちでしょうけれども、第2創業が非常に難しいのは、本当に第2創業をさせる気がトップにないと難しいんですね。

2.ベンチャー企業成功の9ポイント

ビジョンづくりは会社の核

 ベンチャー企業というのは、今申し上げたように幾つかのキーとなるファクターを持っていなきゃいけないわけですが、これを全部持っている必要はない。幾つかがあればいいと私は思っています。新しいことに挑戦するというのは1つはキーワードで、あとは濃淡があるということですが、資料2にあるように、ベンチャー企業の成長のポイントが9つあると思います。日本ではあまり重視しませんが、この「ビジョン」、どういう会社づくりをするかということは、成長する企業にとってやはり非常に必要ですね。特にアメリカの会社というのは、中途採用の人たちをどんどん入れますから、ビジョン、経営理念とか経営方針とか、いろいろな呼ばれ方をしますが、中身はともかく「どういう方向に進むか」というのを非常に明確につくっていきます。異人種の集まりですから、それをしないと会社が崩壊するでしょう。

資料 2

 しかし、例外もある。亜土電子工業という会社が今、T?ZONEというパソコンショップを展開をしていますね。金山さんという社長が経営をやっているのですが、株式を公開した直後は、今のような立派な会社はまだなかったんですね。G5後の円高ショックの直前に公開したのですが、「円高ショックの直後に公開を予定していたら私の会社は倒れていた」と言っています。彼は、経営理念はないというんです。

 社長インタビューに行ったら、「松田さん、せっかくだから我々全役員を面談してください」と言う。いいですよ、と。皆さんどういう仲間なんですかと聞いたら、前の会社が倒産したので、その時の仲間で今、一緒に会社を起こしている。ビジョンを聞いたら「ない」というわけです。前の会社はコンサルティングの会社だったんですって。従業員30人ぐらいで、社長は「人間はパンのみに生きるにあらず。仕事が大事やで」、と盛んに言っていた。そのくせ、給料遅配をしてとうとう倒産させた。それで、彼らは「ビジョンが何だ」と。従業員に対して「この会社にいてよかった」ということを見せないとだめだと。コンサルティング会社だから外向けにはカッコいいことをたくさん言って、コンサルティングをしている。「紺屋の白袴」で、外にはカッコいいことを言っても中はぐちゃぐちゃというのが結構多いわけです。そういうわけで、今は知りませんが、少なくとも7、8年前は彼の会社にビジョンはなかったんですね。しかし多くの会社はこれをおつくりになっております。それから、成長し続けるという意味での「挑戦」というキーワードが重要だということはおわかりいただけると思います。

ベンチャーはハイテクばかりとは限らない

 それから市場、顧客をどう選定するか。伸びている市場を選定して成長したというケースが非常に多いわけですが、伸びない市場の中で、経営システムの変革によってマーケットのシェアをどんどん取っていくというのが、実は1番もうかるんです、確実に。ですから、業種がローテクだから、高齢化している会社ばっかり多いから「もうだめだ」と思う必要は全然ないんですね。

 長野県の2世の方々で、25歳ぐらいから55歳くらいまで幅広い層でしたが、そういう方々を対象に3年間にわたって延べ200社ぐらい、講演、コンサルティングを継続的にやったことがあるんです。年に何回か2日間程度でしたが、講演とグループディスカッションをしました。長野はハイテクの集積度が高いものですから、ハイテクの話をしたんですが、時計の枠をつくっている会社の3代目だという人が、飲んでいる時に質問してくるわけです。「先生は先ほどハイテクの話をしました。うちは完全ローテクで、しかも職人芸の世界です」と。「私はこの会社はおもしろいと思っているんですけれども、先生のお話をきいて、『ああ、やめたほうがいい』というような雰囲気になってきたんですがどうでしょう」と言われるから、「業界はどうですか」ときいたら、「どんどん減っています」と。マーケットの減り具合と廃業の具合はどうですかと言ったら、マーケットは1、2%減るぐらいで、ほとんど横ばい。廃業率はすごく高いと言うわけね。それだったらおもしろいんじゃないですかと言った。廃業しそうな、おじいちゃんが社長をやっている伝統ある会社と仲良くつき合いなさいと。その商圏を全部もらってしまえばいい。職人芸は、どんなに技術が発展してもずっと残っていくもので、そこの部分を守っていくのは日本にとっても非常に大事なことだと。しかも、「今のシェアはどのぐらい」ときいたら、5%とか何とか言っていました。3割ぐらい取ってごらん、めちゃくちゃ利益が出るというような話をしました。

 新しいことだけが良いとは限らないんですね。日本の中小企業創造法という世界で、「新規性」という言葉が謳われれていますが、新規性の中身は「日本で初の」とか、そういうことが書いてあるんですね、解説に。マーケットがシュリンクしているような業界の中に新規性というのは、おいそれとあるはずはない。しかし、そこにいる人たちが、ある程度年齢が高くても生き生きと働ける仕組みをつくっていれば、何かそこに工夫があるはずなんですね。しかもマーケットのシェアを多くとれば価格支配力がありますから、もうかるわけです。もうかれば、そのもうかった資金で再投資できるわけでしょう。そうすると、今、新規性がなくても、もうけるシステムをつくることによって、次に新規性をつくることができるわけですね。そういうことをねらうこともできるし、いくらでも生きる道はあると私は思っております。

新製品開発系の会社の陥穽

 それから製品のサービスですが、特に開発系の会社で、開発者の方の夢というのはものすごいんです。しかしその夢を早いうちに形にして見せてもらわないと、誰も協力できないですね。プロトタイプでも何でもいいから製品を、例えば自分の目標値が100だとすると、その中のコンセプトの40ぐらい、あるいは50ぐらいでいいから、製品を早くつくり上げるということが結構大事ですね。協力しようと思う人がなかなか理解できないことをやる時ほど、そういうことが必要な気がいたします。

 第2次ベンチャーのころ、多くの会社がプラズマディスプレイの開発を手掛けました。しかしソニーは撤退したんです。その時の開発部長がソニーを辞めて会社をつくられた。その会社の資本金が5億円ですよ。アメリカ型の大きな会社を辞めた人がつくった初めての会社ということと、第2のベンチャーブームとが合わさって、ドーッと皆が投資したんですね。知り合いで2人、そこに関係した人がいます。1人は顧問弁護士、若手のばりばりだった弁護士です。それと、ある会社のリサーチャーをやめてそこに常務で入った方の2人ですが、3年後に内紛が起きて社長が解雇されました。解雇された社長が、取締役会が法令違反だということで逆告訴して、結局5年後に破産したんです。

 どういうことかというと、最初は資本金が5億集まった、そして多分、4?50億集めたはずです、短期間に。プラズマディスプレイというのは、ものすごく素晴らしい技術だったんですが、その人が走り始めるのがマーケットが育つスピードよりも早過ぎたんです。当時ものすごいベンチャーができたということで、結構講演に引っ張り出された。業界の方も関心をもって聞きに来るわけです。「おたくのマーケットは今、売上はどう」と社長にきくと、売上はほとんどない。ところが、「5年後は大体10億ぐらいにしようと思っている」と言う。5年後に、どれだけ頑張っても、業界人が全員頭をひねって考えたって20億のマーケットに成長するかどうかもわからない。その時に10億と言ったら、5割のマーケットを取っていくわけですね。あとは皆大手なんです。「5割のマーケットを取るのは至難の業だ。仮に全マーケットを取ったって、投資と売上とが全然見合わない」と皆に言われて、彼は「マーケットは私がつくる」と言ったらしい。ここが錯覚だと私は思います。マーケットというのは、コストとの関係がありますね。そして、それが部品として使われるのであれば、最終商品がつくり上げる生産技術との兼ね合いもあるわけですね。そういうことを合わせて考えていく必要があると思います。

 そういう意味で、企画開発型のベンチャーというのは、資金的にもあまり重く考える必要はないので起ち上がりやすいんですが、それぞれの業界によって起ち上がる方法が違うわけです。

 それから経営チームですが、いかに経営チームをつくっていくか、これが非常に重要です。特に、少ない人数で中が割れていたらうまくいかないというのは確かです。

 それから資金調達、これは今、いい風が吹いている。確かに銀行は結構貸し渋っていますけれども、トータルでは前から比べると良い風が吹いていると思います。

3.起業家のバックグラウンド

アメリカの起業家は高学歴

 親の職業だとか、本人がどういう経験をしてきたかとか、そういうことが起業家の能力を形づくっています。そして社会的なインフラをどう活用するか。こういうポイントがございまして、ポイントごとに起業家のバックグラウンドを見ていきたいと思います。

 資料3-1,3-2を見てください。本人の学歴ですね。かっこの中に、最新情報が去年ベースで92年ですが、同じ世代の大学、大学院への進学率が書いてあります。アメリカは約50%が大学に行っていて、約13%が大学院に行っている。で、起業家になった人の32%が大学院まで行っているので、高学歴者ほど起業家になっているというのがアメリカのデータで非常にはっきりしています。

資料 3-1

資料 3-2

 日本を見ると、起業家になった人のうち大学院出の人は2.7%です。めちゃくちゃ低い。これは何が原因か。大学の量と質が圧倒的に日本はだめだと。文系も理系も含めて、絶対量が低い。それとそこで教えている内容のレベルが低い。もう1つは、教えている人たちがエンジェルになったり、投資をしたり、あるいはサポーターになったり、メンターというかアドバイザーになったり、ということをしない。する能力がないと言ったほうがいいでしょうか。

 早稲田大学も今、いろいろ挑戦しているのですが、あと10年で日本の大学院生が同世代の方の10%まで来たら、僕は日本は相当変わり始めると思います。日本の場合は、会社を1度つくったらなかなかつぶさないで頑張りますから。アメリカは多産多死型で、たくさん設立してバンバンつぶれる。日本はそういう土壌ではないので、会社の設立がアメリカの3分の1(年間203社設立)までいけば、ものすごい社会になると思っています。

 アメリカでは50%超の方々が大学以前の学歴です。その高・中学卒業の方々が事業を起こすことは非常に少ないわけです。日本を見てください。このデータの起業家は、42歳ですね。そして1985年以降の10年間の間に会社を起こした人です。日本では大学進学率が35.6%ですから、高校卒が日本でも3割から4割おられるわけです。大体日本は学歴の分布割合どおり企業を起こしていますよね。これを考えると日本は、挑戦する意欲ある人間にとっては、アメリカのような学歴社会じゃない。アメリカでは大学に行っていなきゃもう話にならないということですが、そういう意味でまだ日本は自由度があり、貧富の差の少ない平等社会であると考えると、また1つ、夢が開けるわけですね。

 

日本の大企業の限界

 日本の大企業の伝統的収益構造は2つあると思うんですね。1つは、含み益のただ利用、新日鉄なんて、3兆円ぐらい含み益があるんですね。株式の含み益を入れると4兆円ぐらいあると思います。伝統ある企業の持っている株式で、1株の取得価格が45円になることがあります。なぜ額面が45円になるんですかね。無償交付で株をもらっている、増資は受けない、時価発行は全然自分は受けないで、無償交付でただでもらう、額面50円より低くなるわけです。今、3兆円あったとしますね、民法の法定金利は6%ですね。金利が今は異常に低いだけの話で、6%の金利。サブロクジュウハチ、1,800億ですよ。含み益により出てくる利益は、明治の土地の上で現在の商品をつくって、現在の価格で売っているんですからね。しかし新日鉄が1,800億利益を出したことは最近ないんです。伝統ある会社は伝統的という理由だけでどのぐらい利益を出す能力があるか、すぐわかりますね。

 そして、役職者でない方、組合員の方、残業手当がつきますよね。でも、実際には一定以上つけてないじゃないですか。サービス残業を全部入れて人件費を払ったとして、計算してごらんなさい。日本の会社で利益が出ている会社が何社あるのか。ほとんどないですよ。経常利益率が10%以上ない会社は絶対利益が出ません。5%ぐらいの会社は、今の2つを計算しただけで大赤字。ですから、日本の会社が海外に行ったら大半が赤字です。その2つは海外移転できないんです。今の大会社のパワーには相当限界があるということをひとつご認識ください。

どんな仕事を経験して事業を起こしたか

 それから経験職種ですが、どこと比べても、日本は特に営業マーケティング出身者が多いですね。立派なことを言ってもまずお客に売らなきゃお金にならない、ということですね。ですから、「売る」ということをどのように考えて物をつくっていくか考える必要があるということです。残念ながら、日本は研究開発出身が少ない。アメリカでも少ないですが。開発型の会社でも創業者が研究開発の専門家とは必ずしも限らないです。

資料 3-3

 研究開発型ベンチャーとしてはバイオ関連が1番リスクの高い事業ですね。去年の夏にロンドンからアメリカを回ってまいりました。ロンドン大学の教授がバイオで当時20億から30億赤字を出したまま、スタートして4年目の今年公開していると思います。設立3年目の会社に行ったんですね。本人が創業者で、一生懸命私どもに説明して下さったんですが、名刺はCEOでもプレジデントでもないんですよ。研究開発担当役員。後で「紹介しますから」と紹介されたのが、プレジデントとCEO、いわゆる会長と社長なんですね。この人は1年前、この人は半年前に採用しました、と。その2人はマーケティング担当と財務担当なんです。最適なチームをつくるために、どの役割を誰にやらせるかという発想なんですね。ですから、研究開発型企業でも、必ずしもCEOや社長が研究者とは限らないわけです。もっと下の人が研究者というのが多い。日本では経営チームのつくり方が非常に下手です。研究者は研究者ばかり、営業は営業ばかりで集まっている。そういう気がします。

 ところで見てください。米国、英国で、1番職種経験が多いのが経営管理ですよ。経営管理経験者が企業を起こしたというのは、ドイツも日本も本当に割合が低いんです。営業の強い会社は、どこまで伸びるかわからないほど成長するがいつ急に倒れるかわからないという言われ方をします。会計の強い会社は倒れないけど伸びないと言います。ではどっちにかけるかというと、やっぱり伸びる方にかけたいと私は思いますが。米国や英国では、もともとの自分のスキルは研究開発だったり、営業だったりするんですが、自分が事業を起こすという前提で3社ぐらい歩くわけです。できるだけ広い経験をするためにマネジャーになるということですね。ですから経営管理といっても、日本でいう「どこかに入ってたまたまその仕事についたスタッフ」という意味ではなく、求めてその職に就くということです。欧米の経営者にはバランス感覚があって、日本はバランス感覚がないというのがここに出ております。

 資料3?4に、設立時の年齢約40歳というのが出ています。男女の比率も出ていますが、ドイツは約30%が女性です。日本の場合、帝国データベースでランダムに選ぶので、対象は株式会社ですから資本金1,000万以上の会社なんですね。有限会社ならもっと女性が多かったと思います。日本で会社という組織の中の約10%は女性になってきた。ここではシリコンバレーエリアが抜けていますが、米国というカテゴリーとは別にシリコンバレーエリアでの調査もあります。シリコンバレーエリアでは業を起こす人の27%は女性です。大体先進国は約30%が女性となっております。

資料 3-4

 さて、いかなる会社を経験してということですが、99人未満の小さい会社が意外に多いですね。これには幾つか理由があると思います。入った時からいつ倒れるかわからないと必死で勉強する。それと、社長が起業のモデルケースになる。そしてより幅の広い仕事をさせてもらえるということ。MITのドクターを出て、4つ会社を移って5つ目に自分の会社をつくったという37歳の方がいますが、その方は「200人以上の会社には入らない、そのかわり入ったらいきなりマネジャー」ということを言っています。この人も、もともとは技術屋で、経営管理を経験しています。経営管理というところから入っていくケースが多いということです。

恩情型が会社を滅ぼす

 さて、資料3?5に能力とか性格という項目があって、米国は「バランス型」という方が性格的に非常に大きいのがわかります。日本もこれが大きいですが、米国に比べれば半分です。しかし他の項目と比べて、極めて高いのが「恩情型」。恩情型が会社をつぶしますから気をつけてくださいね。会社が小さいうちは情でいいが、50人規模になったらマクロに対して情をかけなければいけない。今回、何社か大手の会社がつぶれました。そこの会社と親しい人が言っていましたよ、トップが悪いと。トップが決断しなかった。それが倒産を招いたと盛んにおっしゃっていました。

資料 3-5

 情というのは、個々に対してかけなければいけない。しかし社長になった以上は、全体が絶対に成長するという情でなければだめです。それに反する場合には、スパッと切らなきゃ。30歳過ぎて人の性格を変えてあげようなんて、あなたは宗教家じゃないんだと、私はいつも言います。倒産しそうな会社を150社、私は過去調査してきました。いろいろな人にインタビューしますでしょう。社長や部長以上にはほとんどインタビューするわけですね。そうすると中には「なぜこの人が部長になっているのか」という人がいるわけです。社長に聞くと、「先生もそう思いましたか。いや、こいつはかわいいんですよ、できるんですよね」。しかし、過去2回失敗している。今回もまたやったじゃないか。たしかに、敗者復活を許さない会社はだめ、これはベンチャーでも大手企業でもだめなんです。しかし敗者復活は1回のみ、3回やった人はもう性格的にだめなんです。その人に「かわいいから」と情をかけたら、会社の中では全員が社長を見ているんだから、「なぜあの人はあんなことをやっているのだ」と言われる。

 今回株式を公開した会社があるんです。60億円。15年前にその社長は私のセミナーに来たんです。当時は13億でした。2つの会社があって、1つは今、1部上場で800億、1つはまだ60億ですが株式公開をしました。情の深い社長で、変な情のかけ方で3回も失敗した。いや、3回どころじゃないです。下請けや特約店を、かわいがっちゃうんですね。どうして社長はあの人に情をかけるのだと、従業員は皆思っている。「裏で金をもらっているんじゃないか」ぐらいに思う。それではいけません。情がない人間はベンチャーの社長にはなれないが、情は変なかけ方をすると会社を倒産させる。これだけは頭に入れておいてください。

 能力のところですが、「判断力」、「統率力」、「先見力」、これらが重要なのは言を待ちません。強運も能力のうちということで見ますと、「強運」が日本は2桁もあるんです。体力も9.4%もあるわけです。建設会社は今、バタバタ倒れていますが、日本の会社の中でバブル崩壊後1番増えたのは、実は建設業なんです。50万社が54万社になった、4万社増えたんですからすごいことです。大手ゼネコンの下請けとなって日本の復興を図ろうとしたら、多くが間違いだとわかった。ゼネコンは大体、従業員が皆高齢で給料が高いものですから、新規事業が全くできないんですね。ですから、ゼネコン周りに新しい事業をやろうと思ったら誰にも邪魔されないでできるんです。そんなことで、建設関連会社がたくさんできたわけです。日本はアンケート回答の業種のうち建設業が15%あるんですね。その人たちの多くは、体力と運に、たくさん○を打っている。いいですか、恩情があって、体力で勝負して、運に頼っている会社がグローバルスタンダード企業になれるか。なれるはずがない。日本は相当マインドを変えないと21世紀は救えないと、こういうことであります。

4.起業の動機

日本の起業家は自己挑戦型

 

 資料4へ行きましょう。起業の動機ですね。これを見ていてゾッとしたのは、日本とドイツが非常に似ていて、米国と英国がまた非常に似ているということです。

資料 4

今、我々は国というのを信じているか。ほとんど誰も信じていない、政治家に対して「おまえが日本をおかしくしたんじゃないか」と皆思い始めている。じゃ、企業を信じているか。何を言っているんだ、定年まで勤めるなんてあんなに言っていたのに、45歳でもう選択定年かと。選択定年が入社3年目からという会社もある。退職金を払うのは3年目からでしょう。払い始めたらもう選択定年ですよ。でも、選択定年制については大体今、45歳に収れんし始めました。45歳って1番金がかかる時でしょう。子供の教育費、住宅ローンがしっかりある、親が年寄りになり始めた、この三重苦にあえぐ時、もう選択定年ですからね。企業を信じろというのが無理になってくるわけです。国と企業とそこに勤めている個人、家庭までもバラバラになりそうだというのが今の日本です。

 英国の6割が離婚家庭だということですが、アメリカは75%ですよ。20歳ぐらいまで夫婦に育てられる子どもは25%しかいないんですから。その英国や米国で、企業を起こすときの1番強い動機が「家族や一族の幸福」なんです。離婚しているかもしれない、しかし、子供たちにとって親は親、それを大事にしたいというのが米国、英国なんですね。

 「高い収入」を得たいのは当然のことですが、これもドイツ、日本と比べると米英はやっぱり高い。日本の場合はロマンに挑戦、「自己の人生への挑戦」とか、「能力を伸ばす」、それはそれで結構なことです。しかし家族や一族の幸せという原点のところに、もう少し何かあってもよかったのではないか。日本は私事を殺しても他人のために頑張るんだなと思っていたんだけれど、他国と比較した時に、21世紀の25年から30年ごろの1番高齢社会になる時まで日本国がもつのか心配になります。この起業動機を見てそういう印象を持ち、ちょっとゾッとしました。

 もっと正直に、一族や家族を絶対幸せにするんだと、それが企業の原点なんだと。それで「皆で一緒にやろうよ」ということがあっていいんじゃないかと思ったわけであります。英国を見てください。英国もドイツも、社会や人々の幸福を考えてはいないんですね。スー・バーリという英国の教授に、2回ほど我々の研究会に来ていただいたんですが、この結果を見ながらインタビューして、「これは何だ」ときいたら、「当たり前でしょう」って。会社を起こす時に、なぜ国とか社会のこととかを考えるのか、自分のことでしょう、と言う。これが個人主義の世界かもしれませんが、非常に大きな違いがあります。

 もう1つ、創業資金の存在があります。今、社会インフラという意味では、お金という問題を非常に重視したインフラ整備をしてきたわけですが、創業時にお金があったから創業したという人は非常に少ないんです。やっぱり、何か自分を突き動かす夢がある。一族や自分の仕事に対する夢があるからだろうと思います。

5.ベンチャー企業の成功要因

ベンチャー企業が成功するために

 資料5-1へ行きましょう。 ベンチャー企業の成功要因ですが、「常なる顧客の重視」と「堅実経営」、これが米国、英国では上位に来ています。 顧客重視はどこの国でも最高のランキングですね。ここは非常に重視しなければいけないことです。 先ほど、起業家には営業出身者が非常に多く、研究開発出身が少ないと言いましたが、そういうことも関係していると思います。

資料 5-1

 もう1つ、データを見て思ったのは「システム経営への変革」、 会社をどんどん変革していくということが成功条件ですね。ところがドイツは相当低く、日本はもっと低い。 「俺の会社」と思っていては、その人の能力以上に広がらない。日本でベンチャー企業が伸びない1つの理由だろうと思うのです。 システマティックな経営ではない。

 それからもう1つ、「過去の因習の打破」も、日本は低いですね。 マーケットが伸びていなくてもシェアをどんどん取っていこうという会社は、絶対に因習の打破をやっているのです。 日本はがんじがらめの規制社会だと言われながら、米国、英国の方が、過去の因習への挑戦というのが非常に多い。 ドイツも規制社会ですが。日本は何だか諦めているのではないかということになるわけです。 ですから、クロネコヤマトの小倉さん達が飛行機を飛ばす事業に参入するような、 因習への挑戦というのは、日本に因習という既得権益があるゆえに、ものすごいチャンスなんじゃないか。 それを最初から諦めてあまりやっていないんじゃないか。こういうところにヒントがあるのです。

 資料5-2に行きましょう。 会社を設立した時に起業家は皆、夢を描きます。 「今、その目標を達成していますか」ときいた時に、「目標より良い」という答えが英国や米国では多く、 日本とドイツで低いんですね。今、英国は相当活性化しています。 具体的な将来の成長率を見ますと、米国で15%超と答えたのが50%、2桁成長というくくりだと6割、 英国が2桁成長で約50%。ドイツ、日本はそうならない。現実に米国や英国の経済は好調ですね。 1985年以降に設立した中小企業にとっても今の状況が良い、というのがおわかりいただけると思います。

資料 5-2

6.日米ベンチャートップ企業比較

何を「売る」か

 

 資料6-1にまいります。店頭市場における世界のトップと日本のトップの比較です。 ちょっと年度が1年古いのですが、95年度ベースのNASDAQとJASDAQ、それぞれの店頭市場の株式の時価ランキングですね。

資料 6-1

 パッと見て時価の桁が違うのがわかります。当時から比べるとアメリカはもっと高くなり、 日本は株が低迷しているのでもっと低くなっていてさらに差がついている。 それから1番右を見ていただくと、設立から会社の公開までですが、ここに挙がっている会社は、 理想科学を除くと日本の平均の約29年よりもはるかに短いわけです。 しかし、アメリカを見ると7年が1番長い。MCIも今度、合併されますね。 世界の通信のうち3社か4社しか通信業界には残らないと言われているわけですが、 これが7年かかって公開しているだけで、オラクルなんかは1年ということです。非常に急成長をする。 そこに急激に経営資源が集まる。ですから、ものすごい勢いで会社の経営スタイルを変えていかないと、成長できない。 先ほどのシステマティックな経営への挑戦ということは、まさにそれを意味しているわけであります。

 もう1つ、1番大事なのが事業内容ですね。アメリカの会社を見ると、世界どこでも売れるものだと、すぐおわかりいただけますね。 日本はパッと見て、世界に売れるものが真ん中にある、5番目の第一興商、カラオケ、とこうなるわけです。 でも、カラオケがリーディングカンパニーになるとはとても思えませんね。 商工ファンド、これはほとんど倒産するような会社に対して資金を供与するわけですが、 日本だからこそ成り立つ商売でしょう。そのかわり、 非常に短いサイクルで資金を回しているわけです。三井物産出身の方がつくられた会社ですね。 こういう独特なシステムが成立するのは、日本人は真面目で「返す」という意識が強いからです。 日鉄セミコンダクター、これは設立から5年で早いですが、ミネベアが手放して新日鉄に行った会社ですが今は非常に苦戦しています。 となると、世界に通用する会社は4番目のソフトバンクかな、と。ここは買収をして世界に通用する会社になっていくのではないか。 とにかく、取り扱い商品やサービス自体が日米でかなり違うということをおわかりいただけると思います。

 資料6-2に、世界のトップ企業の業績比較の表があります。 マイクロソフト、インテル、コンパック、アムジェン、三星電子。世界の研究開発型のトップ企業ですね。

資料 6-2

 日本のメーカーでは日本電気が大体平均像なんです。日電ですが、1番下のカラムを見ていただきますと、 いかに桁が違うかというのがわかりますよね。成長性とか、利益率とか、ROAというのは、リターン・オン・アセットと言いまして、 資産と税引き前利益との比率ですね。ROE、これはよく出る指標ですが、 自己資本との税引き後の利益との比率ですね。これが日本の経団連の目標が8%です。 三菱商事がアメリカに上場しようとしてやめたんですよ。 ROEが低いから恥ずかしいと。8%までいったら上場すると宣言しました。 アメリカの平均が、今、最新情報で22%です。つまり日電以外は皆、アメリカの平均値より上なんです。 いかに日本企業の収益構造が良くないか。これに含み益と従業員のただ働きを入れて利益が出ている会社は、ほとんど上場会社ではない、 とこうなるわけです。

 アムジェンを見てください。アムジェンはアメリカのバイオベンチャーとして1番成功した会社です。 アムジェンは、最新の決算書(1996年度)では大体ずっと2桁成長をしていまして、2,200億の売上になっています。 1ドル100円で換算して2,200億になっていまして、利益が1,000億。 税引き前利益がですよ。2,200億の売上に対して1,000億です。経常利益率が45%、粗利じゃないですよ。 ほかの会社も、税引き前利益率が皆30%とか40%とか、あの半導体の三星電子だって10%ですよね。 今、少し落ちていると思いますが。

業績の差が出る秘密はここにある

 強烈なトップリーダーシップを持っているということは、「これがいい」と思ったらそこに集中投資するということでしょう。 リスクにかけるわけです。そのかわり全責任を持つ、失敗したら自分が全財産をはたく。 成功すればストックオプションですごいキャピタルゲインが入る、という構造になっている。 ビジネスのスピードが根回しか即断即決かによって違うということですね。 それから独創性。日本はあの会社に負けるなと言うわけですよ。真似してもいいからとにかく凌駕しろと。 先行者利得を得て高収益企業を維持するには他と同じことはせずに、 開発のオリジナリティがどこにあるかということを常に問い続けなきゃいけない。

 そして、4番目が売上規模の競争をしている。実は今、バブル時代と大きく変わって、 役員研修で会計のセミナーをやってくれという依頼が結構来るんです。私はもともと公認会計士ですから。 「今まで売上だけで評価していた」が、いかなるポイントで業績を評価すべきか、どう評価すれば企業が活性化するか、 という内容が多いですね。アムジェンみたいな会社は売上だけで評価していてもいいんですよね。 値引きは一切ないし、コンペティター(競争相手)もない、だからこんな利益が出るわけです。荒野を行くがごとき会社ですから。 しかし、コンペティターがあって大幅な値引きがある時、売上だけで会社が判断していたら大赤字になっているかもしれませんよね。 ですからここへ来て、「利益ですべて評価するよ」となってしまったわけだ。パニックですよ、 事業部長は。大体、声が大きくて人を多く集めて、パワフルな事業部が伸びていたんですね。 ところが利益を出さなければならない、売上も伸ばさなければならないとなると、いかに経営資源のうまい組み合わせで利益を出すか、 どういうふうに首から上で勝負するかということをやらなければいけないわけです。 そうするとマネジメントのスタイルが変わってくるんですね。それがなかなか社内で理解できない。 そういうことをケース紹介をしながら解説してくれということが多いです。

適正サイズのマーケットでシェアをとる

 売上の競争とか総合力を重視して、「うちは総合提案生活産業だ」とか言う企業がありますが、 総合がついている会社で2桁成長している会社は1社もないですよ。何も特徴がないから総合とつける。 これが得意だということだったら、名前の頭にそれをつけますよね。総合電機メーカーと言った途端に、もう収益力はないですよ。 日本の場合、目指すべきは、何に特化して、その特化しているマーケットの中で圧倒的シェアをどう取るか。 日本国内でも、数十億から数百億の会社で世界からバイヤーが来る会社がたくさんありますよね。 工業技術院で調べたデータによると4、50社あります。そういう会社で、経常利益率1桁という会社はない。 皆2桁あります。それはマーケット・シェアがすごいんですよ、小さい会社でもシェアが高いんですね。

 HOYAという会社がありますね。2?3,000億の会社ですが、 12~13%の利益率ですよ。あそこの会社は、「小さな池の大きな魚」というのがキーワードです。 自分が戦える最適サイズのマーケットをまず選定する。そこの中で圧倒的シェアを取る。 だから2桁利益があるわけです。そのかわり厳しいですよ、完全なサバイバルゲームですから45歳以上の方はほとんどいない。 それでないと、世界の中で生き残れないということでしょうね。 そういうことでは、年寄りはどうしてくれるんだという話になるわけですよ。

 ところが、これまた朗報がございまして、今、60歳から年金が出ますね、そのうちに65になるかもしれませんが。 横河電機という会社があります。最近、横河エルダーという会社の社長が朝日新聞にも書いていますが、 「60歳入社、定年100歳」ということを言っています。会社をつくって今、19年目ですが、79歳のペアが2人いる。 入社初年兵が2人いたんですね、60歳の。今はブルーカラーが多いので、 エンジニアの方のをつくったらどうだと私が申し上げたから、今後できるかもしれません。 エンジニアの方はもったいないですから。今の会社はワーカーの方ですが、 エンジニアの方々のための会社づくりをして100歳まで働けるようにしないと、本当の意味の雇用創出にならないと僕は思うんですね。 そのかわり、新聞で見ると給料は月10万円と書いてありました。2年前まで9万7,000円だったんですが、 少しベースアップしたんですね。仕事があってもなくても一律10万円。 ないときは来るなと言ってあるんですね、部屋はないので。でも全員が来るんですって。

 企業活力、日本で1番会社の設立が多かったのは昭和48年です。 なぜかというと、石油ショックの前で景気が良かったということと、もう1つは団塊の世代が世に出て3年目だということですね。 会社の設立件数はそれ以降落ちっぱなしなんです。6万社とか10万社とかいろいろな数字が言われていますが、 帝国データバンクに登録される会社数はここ5年、ずっと2万社ちょっとなんです。 帝国データバンクに登録されるというのは、大体銀行取引を開始する場合ですが。 ですから会社というのは、2万社か、倍いったとしても4万社くらいという可能性があるんですね。 アメリカは60万と言われている。日本でも帝国データや東京商工リサーチの本に載るぐらいの会社が 今の2倍ぐらいになれば、活力はうんと違ってくるんじゃないかと思います。

7.起業家はいかに育つか

起業家はいつどこで育つのか

 資料7にまいりまして、起業家はいつ育つということですが、今、育っている起業家の多くは、大体社内ベンチャーからですね。 必ずしも「社内ベンチャー」という言葉がなくてもいいんです。 プロジェクトであったり、新規事業や新製品の開発があって、 そこに従事された方々が、実務経験から起業家になったケースが非常に多くて、 学生ベンチャーは非常に少ない。アメリカでも、ビル・ゲイツのようにたまたま成功している人がいるからもてはやされますが、 トータルではやっぱり少ないんですね。

資料 7

 ただ、アメリカの場合は大学及び大学院の時にベンチャーをやろうという明確な意識づけがあって社会に出ているので、 日本のように入学試験の時が一番レベルが高くて卒業時はずうっとレベルが落ちて、 会社に入ってあいさつのイロハからまた社内研修するということはない。 だから日本の大学は何のためにあるんだという話になるわけでありまして、 独創的な教育とか、起業の疑似体験をさせるとか、そういうことを今、大学でやっているところは非常に少ない。 ベンチャーのコースがあるのが、今、30校ぐらいでしょうか。もっと幅広くとらえて、 ベンチャーの講義を何らかの方法でやっているのは50校ぐらいだと思います。 アメリカは大体、300とか500とか言われていますが、日本でも100校から150校くらいで オフィシャルな講義としてベンチャーが取り上げられるようになるといいと思います。

 大体ベンチャー関係をやっている先生は、そこの大学の中ではいかがわしい人たちですね。 たたかれ、たたかれ、それでも「やる」と言っている人たちですよ。まともな人はやらない。 大体、いかがわしいと言われているものは、保守本流からするとイノベーターなんですね。 ですから、新しい人材、新しい産業は常にイノベーターから生まれるので、 その当時、全員から良いと言われたようなものから出てくることはあり得ないんです。

 資料8に行きまして、ベンチャー企業の支援という意味で、スタートした時には大学とか研究機関、あるいはエンジェルが支援をする、 それからだんだんとベンチャーキャピタルや、公的な支援がなされるということになるわけですが、 こういう、新しいベンチャー企業が小さい時からある程度の規模になるまでの支援システムが、 やっと今、日本で整いつつある。

資料 8

 あと5年もすれば、ほぼ完成するかなと思っているんですが、 1番重要なのは、社会のマインド、風土をどう変えていくかということだろうと思うんです。 風土を変えるためには、サクセスストーリーをつくらなきゃいけない。 その意味で、やっぱり孫さんの会社には頑張ってほしいですね。 ああいう会社は大体ジャーナリズムではあまり良い書き方はされませんが、ぜひ頑張ってほしい。 サクセスストーリーの会社が何社か出始めたら、皆そちらの方向にダダーッと行っちゃうのが日本ですから。

 ここでIPOと書いてあるのは、イニシャル・パブリック・オファリングということで、株式公開という意味です。 株式公開を支えるいろいろな産業が必要だということです。企業と大学との連携や、 大学生のインターンシップをどうするかということであります。

 しかし、1番重要だと私が思うのは、欧米、特にアメリカなんかは、小さい時から「あなたは1人で生きていくのよ」 ということを家庭でも教育しているわけです。そして、アルバイトをどんどんやらせている。 大学生はみんなアルバイトで食っている。我が家でも同じことを言っているものですから、 子供が大学に行かなくなっちゃいまして、電話をすると、今、アルバイト中だから電話するなと言われたりして、 卒業するかなと今、心配しています。卒業しなくても私がそうしろと言ったんだからしようがないと思っていますが。 大成功している人は中退者が結構多いんですよね。孫さんだって中退者ですから。 まともに大学に行った高学歴の人間はだめになってくるんですから。 お金をかけるとだめになるというのは、情けない話ですよね。

8.日本のベンチャー企業支援の大変革

第3次ベンチャーブームの中で

 資料8で見ていただきたいのは、アメリカで株式公開までは平均7年なんですね。 先ほどの資料6-1にあった会社を見ると平均5年ぐらいですが、 大体7年と言われているんです。日本は今、大体平均25年と書いてありますが、 25年から30年くらいです。あと10年以内に15年ぐらいになるだろう。 15年ぐらいになると、会社をつくって10年以内で公開したというような会社が、 公開社数の半分ぐらいを占めることになる。そうすると、すごい勢いで意識が変わってくるだろうと思います。

 資料9にまいります。起業インフラが1995年より大きく変わりました。 ここで挙がっているのは、全部95年以降の話です。94年が仕込み期間ですから、 94年から第3次ベンチャーブームと言ってもいいかもしれません。

 中小企業創造法ができて、95年の4月からスタートしたわけですね。 JASDAQという店頭市場で特定銘柄市場が、7月にスタートした。 中小企業創造法のもとにベンチャー財団ができて、東京都を除いて各県で設立されました。 東京都でもずっと委員会をやっていたんですが、東京都は「ベンチャー財団のようなものはつくる必要はない、 いっぱい民間キャピタルがあるんだから民間に任せればいい」ということになっています。 それから、起業家とその支援者のマッチングということで、ベンチャープラザという催しが、 今年全国14カ所で開かれた。去年は13カ所でした。今年は各県ごとに行われるかなと思ったら、 まだ無理なんですね。各県ごとに開催するだけの能力がない。

 情けない話をしましょうか。さる西の方の県でベンチャープラザがあったので、 行ったわけです。それで、「先生、私の県にも話しに来てください」と言われたのですが、 そんなに何回も行く余裕はございませんと丁重にお断りしたんです。 でも、ベンチャー財団を設立し、インキュベータールームをつくって、新しいベンチャーをそのベンチャールームに入れているんでしょう、 どういう方が入っているのですかときいてみました。 県だけでは少ないと思って全国で公募したら、50社集まったと。 ところが近県でなきゃだめだということで、自分の県と隣の県の方を選んだというわけです。 隣の県のはビジネスソフトの開発会社、自分のところはと聞いたら、釣り針の研究の会社を入居させたという。 大きな部屋を与えて1、000万、ドンとお金をあげているわけです。

 釣り針の研究といっても、真っ直ぐ伸びてどんどん魚が食いついてくるとか、 釣り針から電磁波が何か出て、プーッと魚が浮いてきて手づかみできるとか、 そんな研究あるはずありませんよね。そういうところしか入れられないこの情けなさ。 「あなたの隣の県に疑似餌で日本のシェアを6割占めている素晴らしい会社があるんだから、 釣り針なんか今さら研究する必要ないですよ」と言ったんですが。

 産業界の方では、若手で数年キャピタル会社に勤めていた方が独立してきめ細やかなベンチャー支援をし始めました。 それと起業家エンジェルが後進を育てるということで今動き始めています。 社内ベンチャーを大手企業も始めるようになりましたし、 何校かの大学でもベンチャー教育が始まったのは朗報であります。 短期集中的に会社が伸びるには、起業家のスキルの高さ、大学の積極支援を含み、いろいろな支援機関がもっとオープンで ネットワーク化されなくてはならないと思います。

9.変わり始めた日本の若いベンチャー企業

若者が日本のベンチャーを変える

 資料10-1ですが、「変わり始めた日本の若いベンチャー企業」。 これで終わりたいと思います。明治維新、戦後、今と完全に第3の創業期に入って、 第3次ベンチャーというのは、第1次、第2次と比べると全然違う。産官学が一体で動き始めたのは今回が初めてなんです。 ですから、それだけ皆、危機感が強い。これだけのすごい技術革新が情報通信を中心にあるということと、 もう日本の経済力が日本の枠を破って外にどんどん出始めたということです。 それと、様々な施設とか支援策ができて、短期集中的にベンチャーを起こそうとした場合、 体験する場ができた。この講演会もまさにその1つですし、若者が挑戦するチャンスが非常に増えてきた。 新しいことに挑戦しようとする人たちが動く、能力をアップするチャンスができたと思っています。

資料 10-1

 21世紀の初頭、これは20年ごろですが、リードしているのは少なくとも今、 経団連に所属している企業の人たちではないということです。13ページに6社ほど会社が挙がっていますが、 社長は30歳前後から40歳代ですね。去年は、30代の社長が3人、株式公開したというからすごいですね。 こういう方々が毎年10人とか20人単位で出始めたら、世の風土はあっという間に変わります。 そうしたら、大企業に良い人材が残らなくなるでしょう。 早い人はやめていって、そういう人たちがまたどんどん若い方を支援していきます。

 それから、40歳代の新興ベンチャーの方々で、これはある程度起業規模が大きくなり、 次の新しいステージに挑戦しようという方が出てきましたね。HISの沢田さんが飛行機を飛ばそうと言い、 そこにヤマト運輸が加わり、トヨタ自動車が支援に入っている。 それから、増田さんのところは、デジタル放送に挑戦し、三菱商事や松下電器が支援に入っている。 その下のアキア、あっという間にパソコンの生産販売を150億まで拡大した。これは大手流通が皆なびいてきています。 ベンチャー企業の持っているスピードに世界のスピードがマッチしていて、そのスピードに大手企業がついていけていない。 ベンチャー企業がトップを走り、インフラがまだないですから、 そのインフラに大手企業がバックアップする、こういう構図が日本の理想なんだろう。 その理想が去年、相当出てきたと言えるでしょう。残念ながら、飛行機を飛ばそうとする時、 トヨタは「うちがやる」とは言えませんよ。トヨタがまず手を挙げるとあまりにも批判が多過ぎる。 それでベンチャーが走ってトヨタがバックアップに入る。そういう形になってきたと思います。

 さあ、1番最後ですが、ベンチャー企業の形態を見ますと、流通・サービス型、技術企画型、 研究開発型等とあるわけですが、日本はほとんど流通・サービス型なんです。

資料 10-2

アキアだけが技術企画型です。しかし、日本の21世紀を担うのは実は研究開発型なんです。 21世紀の高齢社会になった時に、世界から喜ばれて日本に収益が入ってくるには、研究開発型企業の育成なんです。 これから10年間ぐらいで先端技術に十数兆円も国家予算を注ぎ込もうとしているのは、そこに力点を置いているからです。 でも、どうも産学の川上とハードに資金が流れていって、事業化に至るまでの、 ベンチャー企業輩出のためのソフトの方にお金が流れないという非常に大きな問題がある。 ソフトの方はお金がほとんどかからないわけですから、 国の予算の1%ぐらいは、川下でベンチャーを起こすのをサポートしている、 苦労している人たちに支援があってもいいんじゃないかと私は思っています。

 今、元気印は流通・サービス企業。しかしおもしろいのは、 光通信もプラザクリエイトもそうなんですが、流通・サービスからスタートしても、高収益会社ですから、 どんどん研究開発型とか技術企画型の会社にエンジェルとして支援に入っています。 こういう新しい動きが出ているというのは非常に良いことなんだろう。 日本が高齢化社会を迎える時に、高齢者が75歳まで働けるシステムをどうつくるか。 そして、若い人の出る杭を伸ばすようなシステムを社会風土としてどうつくるかということを我々は考えていかなければいけない。

早稲田大学がやろうとしていること

 最後にちょっと、早稲田大学のスキームをご説明します。早稲田大学で来年4月からこの分野の大学院ができます。 今、私どもはアジア太平洋研究センターというところに所属しているのですが、 そこは、成長ゾーンであるアジアに軸足を置いて、アジアとともに日本もまだ成長しなければということでつくられた研究所です。 アジア太平洋研究センターというキーワードでセンターをつくって、 その上に大学院を置くわけですが、「イノベーション」をキーワードにカリキュラムを組んでおります。

 早稲田大学出身者に限らず、とにかく早稲田の地からベンチャー企業を輩出しようということで、 シリコンバレーを向こうに回して早稲田バレーをつくろうと。あの地域には学生が多いし、 マルチメディア関連の人たちもいっぱいいるんですね。

 そういうことを考え、多摩大学でベンチャーを育ててきた柳先生をヘッドハンティングいたしました。 この人は流通・サービス系に強い。それから、大江さん、この方は幼児のための起業教育までいろいろやっておられますが、 ハイテク系の社内ボードメンバーを随分やっていて、ハイテク系に非常に強い。 このお2人をお迎えして、私はもともと会計屋なので少し下がるという形です。

 これは大学院の正規の科目なんですが、今、一生懸命寄附を募って歩いています。 寄附講座にしてオープンにし、社会人であれば24回5万円というような低料金で、 大学院の教育を社会にオープンにしようとしています。社会人と他大学の学生も出られるように、 6時半から8時半の開校としています。それで、オープン講座で動機づけされた方を対象に、 ベンチャーを起こすことを具体的にプランする、起業プランニングコースを少人数で開校します。

 それから、今まで国際シンポジウムを秋口に2日間開催していたんですが、 うち1日をビジネスプランの発表会にして、良いプランに副賞を出そうということを計画しています。 懸賞論文で副賞というのは結構ありますが、こういうことで副賞を出すことはあまり前例がない。 来年の6月を目標にエンジェルファンド「早稲田大学ウエル」という会社をつくろうということを企画しています。 若干ですが資金も出して、大学周辺にベンチャーが輩出する誘い水機能ぐらいの働きはしようと考えています。 一応、総長も「つくってもいいんじゃないか」ということを言っておられます。 本当は大学として数十億ファンドをきちっとつくっていきたいのですが、 時期尚早なのでその前段階のことをやろうと思っています。

 12月の半ばに最終的に文部省で大学院設置のゴーサインが出ますので、 インターネットでもオープンにします。最後にちょっと宣伝をさせていただきました。

中高年の能力を活用するために

 ベンチャー時代が来た!と言えます。 先ほどの横河エルダーではないんですが、団塊の世代の持っている母集団としての強さを、ベンチャーに活用したい。 今、早稲田大学のベンチャー支援スキームから5年後には年間50社ずつ会社が立ち上がるぐらいの仕組みをつくろうと思っているわけです。 同時にその50社をサポートする人たちを養成していきたい。 これは年齢が高い方です。平均年齢30歳ぐらいの方が事業を起こそうとするとき、 40歳、50歳、60歳の方の知恵というのは必要です。 ところが、大会社にいる方はそのままストレートにサポーターには絶対回れないんです。 今回倒産した証券会社がありますが、7、8年前にベンチャー支援のために社内募集をしてベンチャーに数十人派遣しました。 そしたら、早い人で1週間、遅い人で2カ月間もったという程度で、 ベンチャー企業の社長からすぐ追い返されました。 邪魔をする人間をなぜうちに差し向けたんだと盛んに怒られたと聞いております。 ベンチャー企業では1人で幅広い仕事をしなきゃならないのですが、 20年間現業を離れていた管理職というのは、もう役に立たないんですね。 ですから、管理職の方は、これからの社会では非常に不幸です。 早くリタイアして次の就職をしようと思っても、10年間ハンコ押ししかやってなかったら、 何も仕事できませんものね。

 そういうことを打破するためにも、停滞している企業は30歳の部、40歳の部、50歳の部というふうに仕事ごとに 全部、年齢で分けた部門をつくることを提案しています。 50歳の部は、突然部下がいなくなるんですから、自分で全部仕事をしなきゃいけません。 そうすると昔の能力ある自分が甦ってくるわけです。 その組織を離れてもすぐ使える人間になれる。 ヒエラルキーのホワイトカラー集団というのは、残念ながら役に立たなくなってしまう。 余裕があったこれまでの会社はいいんですが、そうじゃない時代には違ったシステムを考えていく必要があると思っています。

 これからものすごく変化する時代で、挑戦しようとする人間にとっては非常に楽しい時代に入ってきたと思います。 皆様がいろいろなアイデアをお持ちになって何かを始める時、少しでも今日お話ししたことがお役に立てればと思います。