世帯所得の格差に対する妻の所得格差の影響

研究所副所長 浜田 浩児

夫と妻の労働所得の関係

世帯所得における夫と妻の関連については、夫の所得が上昇すると妻の就業率が低下する関係があるというダグラス・有沢の法則が有名であるが、近年こうした関係が薄れているという分析結果がいくつかの研究で示されている。さらに、就業している妻に限れば、夫の賃金が多いほうが妻の賃金は高いという分析結果もあり、これは、高所得の夫の妻について非就業者も含めた平均所得を高める効果を持つ。したがって、妻の就業率ではなく所得について見ると、夫の労働所得が高いと妻の労働所得が低いというような関係は、さらに薄いことになる。

世帯所得の格差に及ぼす影響

こうした夫と妻の労働所得の関係は世帯所得の格差に影響を及ぼす。すなわち、夫の労働所得が高いと妻の労働所得が低い(高い)という関係があれば、世帯所得の格差は低まる(高まる)。この影響は、特に、労働所得のウェイトの高い勤労世代について重要である。

夫と妻の労働所得の関係が世帯所得の格差に及ぼす影響の大きさ(相互効果)は、不平等度(平方変動係数)による要因分解に基づいて計測することができる。家計経済研究所の調査に基づき、やや限られた年齢層ではあるが、勤労世代に当たる 24 ~ 34歳 (1993年)から 35 ~ 45 歳( 2004年)に至る妻とその夫について計測したところ、夫と妻の労働所得の関連は弱く、両者の関係が夫婦所得の世帯間格差に及ぼす影響も小さい(拙稿「夫婦所得の世帯間格差に対する妻の所得の寄与度」『生活経済学研究』第 25巻)。

世帯所得の格差と妻の所得の格差

このように夫の労働所得が高いと妻の労働所得が低いというような関連は薄いと考えられ、それが世帯所得の格差を引き下げる効果も小さいため、夫婦所得の世帯間格差は、夫、妻それぞれの労働所得の格差を反映したものになる。世帯所得の格差に対する妻の所得格差の寄与を見ると、夫に比べて小さいが、これは世帯所得に占める構成比が低いためであり、妻の労働所得の格差自体は夫よりはるかに大きい。この妻の労働所得の格差は、不平等度により、就業者内の格差と就業者・非就業者間の格差に要因分解できる。これに基づき、それぞれの寄与を見ると、就業者内の格差のほうが就業者・非就業者間の格差よりもかなり大きい。

以上のように、夫の労働所得が高いと妻の労働所得が低いという関係が薄れ、妻の所得格差が夫の所得格差と相殺されなくなっていると考えられる。たとえば、妻が非正社員で賃金が低くても、賃金の高い夫が世帯の生活を支えているからかまわないといえるような関係ではなく、妻の低所得は世帯所得を低めることになる。このように、妻の所得格差の大きさは所得分配上問題であり、その中でも就業者内の格差の寄与が大きいことから、非正社員と正社員の処遇の均衡の推進等により妻の所得格差を縮小していくことが必要である[1]

( 2007年 7月 27日掲載)


[脚注]

  1. ^ 非正社員については、労働政策研究・研修機構(2007) 『多様な働き方の実態と課題‐就業のダイバーシティを支えるセーフティネットの構築に向けて』プロジェクト研究シリーズNo.4 で詳しく分析されている。