ヘルパー2級を目指すフィリピン人女性[1]

主任研究員 渡邊 博顕

日本の外国人労働者について企業や個人を調査していたC 先生がフィリピンへ帰国した。日本での滞在中、在留資格が「日本人の配偶者等」のフィリピン人女性を中心に聞き取り調査を行ったのだが、日本で生活する外国人個人を出身国の研究者が来て調査したこともあり、私たちが行うよりも詳しい聞き取りができたように思う。

国際結婚の動向

ところで、在留資格「日本人配偶者等」の外国人はどれくらいいるのであろうか。法務省入国管理局の資料によると、平成 18年末現在の外国人登録者 208万 4,919人のうち、在留資格の「日本人の配偶者等」は 26万 955人、外国人登録者に占める割合は 12.5%となっている。

一方、厚生労働省の平成 18年度「婚姻に関する統計」(人口動態統計特殊報告によると、夫日本-妻外国・妻日本-夫外国の婚姻件数は昭和 60年以降増加傾向で推移しており、平成 17年には 4万 1,481組、全婚姻件数の 5.8%となっている。このうち、C 先生が関心を持っていた夫日本-妻フィリピンの婚姻件数は 2万 242組である。

フィリピン人女性の就労

在留資格が「日本人の配偶者等」の場合、日本での就労に制約はない。とはいえ、現実には日本で働き、生活していくには様々な苦労があるようだ。日本語能力の問題もあり、思うような仕事が見つからないというのも苦労の1つである。そのような中、日本で暮らすフィリピン人女性達の中にはホームヘルパー2級を目指す人が増えているという。彼女たちは、日本人と同じように講習を受け、実習を経て修了する。その他、ヘルパーの仕事上必要な日本語の講習も受ける[2]。何度かマスコミでも取り上げられたのでご存知の方もいるかもしれない。

C 先生が滞在中、ヘルパー2級講座を受講しているフィリピン人女性の聞き取り調査に同行する機会があった。彼女たちの多くが「興行」の在留資格で働いていた経験をもつ。彼女たちがホームヘルパー2級を目指す理由をたずねると、「仕事を捜してもなかなかいい仕事が見つからない」、「夜、飲食店で働くのではなく、昼仕事をして子供と一緒にいる時間を作りたい」、「歳をとったので、飲食店で働くのがきつい」など、様々な答えが返ってきた。

「興行」から「ヘルパー」へ向かう文脈

では、フィリピン人女性がヘルパー2級を目指すという動きを、どのような文脈で捉えればいいのであろうか。まだ十分整理はできていないが、日系人と「日本人の配偶者等」のフィリピン人女性とを比較してみると、日本での就労が自由という点で共通している。一方、異なる点は、日系人が業務請負という就労パターンをもっているのに対して、フィリピン人女性はかつて「興行」という就労パターンを形成していたものの、結婚にともない「日本人の配偶者等」の在留資格に変わったこと、出産・育児というライフイベントを経ていること、(かつて働いていた)飲食店に代わる就業の場が確保されていないことなどが挙げられる。もしかすると、梶田( 1994 )が指摘するように、「興行」による就労とヘルパーとしての就労が職業選択上の問題であり、「日本的文脈」に沿って整理することによってこうした事実を読み解くことができるのかもしれない[3]。もちろん、ヘルパー需要の拡大を背景に、企業がヘルパー人材の育成をビジネス展開してことが加わる。

C 先生はヘルパー2級を目指しているフィリピン人女性、そして実際にヘルパーとして働いている女性達の職歴、現在の就業状況、日比両国の家族構成、送金の状況など、質問紙調査も行ってデータをとっているので、それを検討することによって興行からヘルパーに向かう文脈について考察を深めることができるだろう。

  1. ^ 以下で「フィリピン人女性」という場合、標題を含めてすべて在留資格が「日本人の配偶者等」のフィリピン人女性を意味する。
  2. ^ このため、講座のほとんどは日本人とは別コースで、受講生もフィリピン人だけで構成されており、受講生はほぼ 100 %女性である。なお、フィリピン人女性でヘルパー2級を修了した人数、さらに実際にヘルパーとして働いている人数は、寡聞にしてその数を知らない。
  3. ^ 梶田孝道(1994 ) 『外国人労働者と日本』日本放送出版協会、139ページ~。もちろん、時間が経過しているので、梶田の議論に修正を加えなければならないだろう。

( 2007年 6月 11日掲載)