ワーク・ライフ・コンフリクトを解消し、ワーク・ライフ・バランスを実現するために

研究員 原ひろみ

ワーク・ライフ・バランスやワーク・ライフ・コンフリクトに関心が高まっている[1]。その背景には、長時間労働だけでなく、労働者の生活関心の所在や労働者が希望するライフスタイルが変化してきたことなどがある。例えば、女性の職場進出や共働き世帯が増加した結果、家庭生活や地域生活により多くの時間を割くことを必要としたり、希望したりする労働者が増えている。しかし、会社や上司の期待に応えられるように仕事をしようとすると、仕事以外の活動に必要な時間を割くことができず、ワーク・ライフ・コンフリクトが生じることになる。

ワーク・ライフ・コンフリクトが生じ、ワーク・ライフ・バランスを実現できないと、労働者の生活の質が低下するだけでなく、労働者の仕事上のパフォーマンスにマイナスの影響を及ぼすこともある。そのため、労働者にとってだけでなく、企業の人材活用においても、ワーク・ライフ・コンフリクトを解消し、ワーク・ライフ・バランスの実現を支援することが重要になる。そこで、本コラムでは、労働時間のあり方に着目して、ワーク・ライフ・バランス実現のための取組みを考えていこう。労働時間のあり方として、(1) 労働時間の長さ、(2) 労働時間管理の柔軟性、(3) 労働時間に対する過剰感の 3つを取り上げる。

なお、本コラムの内容は、当機構から近刊予定の労働政策研究報告書No.75 『働き方の多様化とセーフティネット:能力開発とワークライフバランスに着目して』の分析結果に基づいている。分析の詳細については、そちらをぜひご一読いただきたい。

なにがワーク・ライフ・コンフリクトを引き起こすのか?

分析の結果から、長時間労働であることだけではなく、労働時間を短くしたいと考えている人、すなわち自分の労働時間を過剰に感じている人ほど、ふだんの仕事で身体の疲れや健康を損なう危険、ストレスをより強く感じている。また、そういう人ほど、地域活動への参加といった仕事以外の活動への参加が阻害され、仕事と生活の満足度も低いことが示された。よって、労働時間に対する過剰感は、仕事で多すぎる役割を負っていることや仕事が個人生活の妨害を引き起こしていることの表れ、つまりワーク・ライフ・コンフリクトが生じている状況を表していると考えられる。ゆえに、労働時間に過剰感をもっている人への手当を考えていくべきであろう。

まずは労働時間の短縮を

それでは、どのような人が労働時間を過剰に感じているのだろうか。分析結果から、就業形態に関係なく、やはり労働時間が長い人ほど労働時間を過剰と感じていることが示された。また、労働時間管理の柔軟性は、労働時間過剰感には影響を与えない。つまり、労働時間管理の柔軟化に取り組む前に、まずは労働時間を短縮できるような取組みを行うべきであろう。

さらに、労働時間の長さや労働時間管理制度の影響を考慮にいれても、正社員という働き方の人ほど、労働時間を過剰と感じていることが明らかにされた。土日出勤などが発生して週二日間の休日が必ずしも確保できなかったり、家庭の事情などで突発的に休暇をとる必要が生じても取得できなかったり、また、制度があっても現実には有給休暇や育児・介護休暇などをとりづらい状況に置かれているなどといった状況が、労働時間過剰感をもたらしているのかもしれない。このような正社員の働き方の見直しが必要と考えられる。

( 2007年 2月 9日掲載)


[脚注]

  1. ^ ワーク・ライフ・コンフリクトとは、仕事上の役割と家庭や地域における役割が両立できず、対立する状況を指す。例えば、内閣府の報告書(『少子化社会対策に関する先進的取組事例研究』、2006年)では、多すぎる役割を負うこと(role overload)、家庭に仕事を持ち込むこと(work to family interference)、仕事に家庭を持ち込むこと(family to work interference)の3つから成ると紹介している。