法令を読む前に~法令用語を少しだけ

副統括研究員 木原 亜紀生

出席者に法律関係者が集まる結婚披露宴で、司会者が「新郎並びに新婦の入場です。」と言ったところ、「並びにじゃないぞ、及びだぞ!」とヤジが飛んだという。実話なのか作り話なのかは知らないが、二十数年前に読んだ法令用語に関する書籍(さすがに題名等は失念)の中で紹介されていた話である。

「並びに」が並ぶ

「及び」と「並びに」の法令上の使い分けは結構有名かもしれない。単純なA+Bのときは「A及びB」で(→だから、「新郎及び新婦」)、2段階なら「(A及びB)並びにC」で、3段階なら「{(A及びB)並びにC}並びにD」のように一番小さい接続に「及び」を用い、それ以外は「並びに」を用いる。また、2個の名詞の並列的な接続は「A及びB」で、3個になると「A、B及びC」と「、」を使う。動詞等の接続の場合は、2個でも「Aし、及びBする」のように「、」が入る。

「又は」と「若しくは」では、単純な選択的接続の場合は「A又はB」で、段階がある場合は一番大きい選択に「又は」を用い、それ以外は「若しくは」を用いる(例:「A又は(B若しくはC)」)。読点の関係も「及び」「並びに」の場合と同様である。

どんなものか?

「者」「物」「もの」にも使い分けがある。単純化すれば、「者」は自然人や法人、「物」はそれ以外の有体物で、「もの」は抽象的なもの等に用いる。

さらに、「もの」には独特の用法があり、ワークブック[1]の記述をそのまま引用すると「あるものに更に要件を重ねて限定する場合(この場合には、外国語における関係代名詞に相当する用法となる。)」にも「もの」を用いることとされている(参考例1)。これは、物・者以外にも、「○○の行為であつて、次のいずれかに該当するもの」等広く用いられる。

<参考例1>

「爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物……で政令で定めるもの又は前条第1項の物を……」(労働安全衛生法第57条第1項)

→「危険を生ずるおそれのある物」に「政令で定める」という限定が加えられたことにより、ここだけ「政令で定めるもの」と「もの」になっている。

「の」!?

独特の用法には、「その他」と「その他の」の使い分けもある。

「Aその他B」のAとBとは並列的だが、「Aその他のB」ではAはBの一部であるとされる。そのため、ある規定が「○○その他政令で定める……」であれば、改めて政令で○○を定めなくても○○は当然に当該規定の対象となるが、「△△その他の政令で定める……」であれば、当該規定の対象とするためには改めて△△を政令で定めなければならないとされる(「その他」の例として参考例2)。

<参考例2>

「……事業主(……)が破産手続開始の決定を受け、その他政令で定める事由に該当することとなつた場合において……」(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)

→未払賃金立替払事業の対象に関し、事業主についての要件を定める部分である。政令(同法の施行令第2条第1項)では破産手続開始決定は定められていないが、法律の条文から対象に含まれる。

積極的意義

以上のような使い分けは、ただのこだわりのようでもあるが、積極的な意味もある。言葉の使い方が法令によってバラバラであれば、解釈にも混乱が生じ、現実的にも問題が生じ得る。それを考えると、法令間で統一性が保たれていることは有意義である。また、用語等に一定のルールがあれば、複雑そうな条文を読む上で、語句のつながりを把握する際のある種の手がかりにもなり得る。

法令用語に関し、実務家向けのほか、一般向けの書物も既にいくつか出ているようであるが、法令に携わる仕事をしている人にとって、法令用語についていろんな形で対外的にお知らせしていくことは意外と大切なことなのではないかと思う。このコラムで例示した法令用語はほんの一部であるが、「法令にはこんな秘密(?)が隠れていたのか」と興味をお持ちになる方がおられれば、このコラムにも意味があるというものである。

というようなことを考えていると、ついつい普段から言葉の使い方が気になってしまったりもするのだが、何事も行き過ぎてはいけない。そういえば、冒頭の結婚披露宴の話を聞いた人の反応パターンの1つは、「そんな連中とは付き合いたくない」であった。

[脚注]

  1. ^ 前田正道編『ワークブック法制執務 全訂』(1983年、ぎょうせい)。法令改正の立案等の実務レベルの担当者が、改正の方法、用字・用語等に関し、作業に当たってしばしば参照する本。このコラムにおける用法の説明に当たっても同書を参考にした。

( 2007年 1月 5日掲載)