年を取ると硬くなるか?

アドバイザリー・リサーチャー 長縄久生

年寄りは頑固だとか、融通が利かないとよく言われる。そうした心の硬さは、再就職したり、新しい環境になじむためには妨げとなるのではないだろうか。そこで、60歳代の求職者に、心の硬さについての質問紙に答えてもらった。

30項目からなる質問紙への回答から、「人とうち解けるのに時間がかかる」といった、新しい環境、人間関係、仕事内容に適応できない「非順応性」、「新しいことに挑戦するのは苦手だ」といった、状況に応じて機転をきかせたり、臨機応変に対応したり、新しいことに挑戦したりするのが苦手な「柔軟性や応用力の欠如」、「マニュアルがあるときには、マニュアル通りに行う方だ」といった、「規範や規律の偏重」、「自分の正しいと思ったことは曲げない方だ」といった、地位、人間関係、自分流の仕事のやり方などに「過度のこだわり」を持つ傾向、「話し相手の冗談を本気でとらえてしまうことがよくある」といった生真面目で融通がきかない傾向、の5つの因子が見いだされた。

これらの因子と就業動機についての質問との相関を見ると、職業選択に際して「やりがいや能力発揮」を重視する人ほど、順応性に富んでおり、柔軟で応用力があり、融通性があるが、「過度のこだわり」得点は高く、自分の信じる何かにこだわりを持つ傾向があった。就職への取り組みについての質問との相関を見ると、心の硬さはすべての項目と負の相関があることから、就職への取り組みに対してネガティブな影響を及ぼしていると考えられた。とりわけ非順応性は自信と、柔軟性・応用力の欠如は、自己理解と自信と極めて高い負の相関を示していた。つまり、順応性の低い人は就職活動にあたっては自分に自信を持ちにくく、柔軟性・応用力の欠如した人は自己理解が十分ではないことが考えられた。これに対して、過度のこだわりは就職への取り組みとの相関が低く、ある程度のこだわりを持っている人の方が就職に関しても自分を信じて道を切り開いていけることを示唆しているのかも知れない。実は、これらの傾向は、大学生の就職活動を調べる中から見いだされたものであり、それを中高年齢者にも当てはめてみたのである。中高年の求職者は今までの経験やイメージに固執し、再就職の選択を自ら狭めていることがあるのではないか、これまでの経験が成功経験であればあるほど、固執が強くなるのではないか、そのためある1つのことに注意が集中してしまって、そこから抜けだせなくなったり、柔軟に可能性を吟味できないといったことはないだろうか、そうしたことが再就職の妨げになるのではないかと考えたからである。

年を取るとこれらの傾向は強まるのだろうか?つまり、年を取ると心は硬くなるのだろうか?各尺度の下位尺度に含まれる項目の平均得点を求めると、男性では融通性の欠如を除くすべての尺度で、女性ではすべての尺度で中高年は大学生より得点が低かった。平均で見る限り、中高年の方が大学生より硬くないという結果だったのである。

これはどういうことであろうか?心の硬さはパーソナリティの1つの側面であるが、自覚された行動傾向であり、意志にかかわるものであろう。中高年とはいっても、求職者は再就職をしようという積極的で意欲ある人たちであることによるのだろうか?大学生の得点は青年期特有の不安を反映している可能性もある。少なくともこの年齢層では、そうした行動傾向は年齢によって変わるのではないようだ。年齢とともに心が硬くなり、再就職を妨げるようになるのではないか、というのは杞憂だったのかもしれない。

(2012年6月15日掲載)