職場の風景

調査員 早川 誠

皆さんは職場に対してどのようなイメージをお持ちだろうか。「電話の音や話し声が聞こえる賑やかな職場」「人の出入りが多い活気がある職場」「パソコンのキーボードを叩く音が聞こえる静かな職場」等々。職場や世代によって随分違うと思う。

私が社会人になった頃(JILPTに入社する前)の職場では、電話や来客応対が多く、打合せなどの情報交換の場が頻繁にあり、とても賑やかだった印象を持っている。パソコンが普及する前の話なので、今と違うのは当然だろう。朝礼で社長の挨拶を聞き、社員旅行や同期会もあった。こう書くと随分昔のような感じがするが、私が初めて就職した会社では、これが職場の風景だった。同じような体験をされている方もいるのではないかと思う。

しかし、パソコンやインターネットの普及、働く人の意識変化、成果主義の導入などにより職場の風景は随分と変わってきた。電話や来客応対が少なくなり、代わりにメールで簡単に済むようになった。社員が集まる機会も減った。社内では以前にも増して営業成績や評価を気にしなければならなくなった。結果として職場におけるコミュニケーションが少なくなってきたと感じる。

思い返してみると、例えば先輩の電話応対を聞くことにより社会人としての対応やトラブル発生時の対処法を学ぶことができた。打合せの場では、仕事上の相談をするよい機会であり、他の人の仕事内容や進捗具合を知ることができた。また、社員旅行や同期会が職場の潤滑油になり、社長の挨拶を聞いて一体感を持てた。職場は仕事をする場であるとともに、よいコミュニケーションの場であり、同時に社会人としてのコミュニケーション能力を身に付けるためのよい場所であったと思う。

ところで、今の若者はコミュニケーションが苦手で職場での人間関係がドライであるというイメージがあるが、若者の意識の方は必ずしもそうではないようだ。日本生産性本部と日本経済青年協議会が実施した平成21年度新入社員の「働くことの意識」調査(注1)によると、就労意識のランキングにおいて、「仕事を通じて人間関係を広げていきたい」「社会や人から感謝される仕事がしたい」が1位と2位を占め、新入社員たちは職場の人間関係に大きな期待を持っているとしている。また、統計数理研究所が実施した「国民性調査」(注2)によると、仕事以外で上役とのつきあいが「あったほうがよい」とする人の割合を1998年と2008年とを比較すると、20歳代では50%から65%、30歳代では45%から63%とそれぞれ大幅に増えており、職場の人間関係を見直す動きがあったとしている。若者はコミュニケーションが苦手なのだとしたら、その理由の一つには、職場の風景が変わったことにより、社会人としてのコミュニケーション能力を身に付けるための機会が少なくなったことがあるのではないかと思う。

「会社と社員は運命共同体」。私が就職活動をしていた頃に会社案内のパンフレットに掲載されていたフレーズである。社員は企業の大切な一員であり皆家族なのだから、辛いことがあっても皆で力を合わせて頑張ろう。私はこのフレーズの意味を当時このように理解をした。今ではこんなフレーズを会社案内に載せることはまずないのではないか。

バブルの時期を経て日本の職場は大きく変わった。どちらがよいかは一概には言えない。逆戻りはできないし時代の流れにも逆らえない。会社を取り巻く環境も大きく変わってきた。しかし、日本の職場でかつてあったようなよい部分は多少形を変えて取り入れたりして、皆が目標を持ち一体となって働けるような職場が多くなればよいと思う。そして、仕事の意義は「生活のため」より「社会のため」「やりがい」と思える人が少しでも多くなるような社会になって欲しいと思う。

(注1)平成21年度新入社員の「働くことの意識」調査
http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/lrw/activity000921.html

(注2)「国民性調査」http://www.ism.ac.jp/kokuminsei/point.html

(2009年9月18日掲載)