情報化社会と若者の就職

JILPT研究員 室山 晴美

インターネットの功罪

以前、こんなテレビ・コマーシャルがあった。疲れた様子で仕事から帰宅した息子を両親が待ち構えている。なにやら険悪な表情。「何?」といぶかしげな息子。ところが両親はそそくさと隣の部屋へいってしまう。その時一言、父のセリフ。「詳しくはホームページで」。 

このCMが象徴するように、ここ数年の間に、コンピュータはビジネスの場だけでなく、個人の生活の場にも急速に浸透した。携帯電話とパソコンは就職活動の必需品である。学生たちはインターネットで企業情報、求人情報を収集し、応募する。もちろんインターネットは便利である。どこからでも効率的に情報を収集するツールとしてインターネットは何よりも優れている。

しかし、一方で、大学の就職の担当者は、就職課へ顔を出さない学生が増えていることを懸念している。就職をはじめて経験する学生は、自宅でインターネットを使っているだけで就職活動をしているという錯覚を起こす。その結果、なかなか就職先は決まらない。就職の担当者は、「相談に来たということだけで就職活動が一歩前進したことになるんですよ」と話してくれた。

相談機関での「売り」としてのカウンセリング

学生や若者が就職課や職業相談機関にわざわざ足を運ぶようにするためにはどうすればよいのか。それは、各機関がインターネットでは提供できないきめ細かなサービスを用意することだと思う。ここに来ればインターネットよりも重要な何かを得られるという「売り」の機能を持たなければ、就職はほとんどWEBにお任せという時代がくるだろう。同時に雇用のミスマッチも増える気がする。

それでは「売り」になるサービスとは何か。私個人は、求職者に提供できる有効な機能は「カウンセリング」であると考えている。求人情報は雑誌やパソコンで収集できる。しかし、個人毎の条件に合わせて就職先の相談にのるとか、悩みをきいて有益なアドバイスをするということはやはりプロの担当者のいる相談機関ならではの仕事である。特に職業経験の浅い若者の場合は、有能なカウンセラーのサポートとアドバイスが役に立つだろう。ところが、相談機関も昨今の失業者の増加できわめて多忙であり、利用者一人一人のニーズに合わせたカウンセリング・サービスの提供は難しいのが実情のようだ。特に時間も手間もスキルも必要な適性検査の実施は難しいと聞く。

「キャリア・インサイト」の役割

ところで、数年前に、公的な職業相談機関や教育機関で使えるツールとして、職業適性診断システム「In★Sites2000(インサイト)」を開発した。自分の適性を知りたいという若者は多いが、適性検査はなかなか実施してもらえない。それでは利用者が自分でパソコンを使いながら適性を調べたり、適性に合った職業について考えるきっかけを獲得できるようなシステムを作ろうというのが発端である。パソコンを媒体としているがインターネットでは提供せず、カウンセラーが常駐する環境での利用が条件である。この背景には、達成できたかどうかは別として、カウンセラーの相談機能の支援と若者の相談機関訪問へのきっかけ作りという秘かな期待が込められている。

さて、最後にインサイトのPRを一言。2001年に開発された今のシステムは、2004年の3月末の完成を目標に改訂作業が進行中である。新しいシステムは「キャリア・インサイト」と名称が変わり、デザインを一新、操作性も大幅に改善した。ただ、今度の版もインターネットからは利用できないスタンドアロン版である。システムの詳細ですか? 詳しくはHPで!