緊急コラム #024
なぜコロナ禍において10月末時点の高卒内定率は悪化しなかったのか

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人材育成部門 副統括研究員 堀 有喜衣

2020年12月17日(木曜)掲載

12月8日に今年の10月末時点の高卒内定率の状況が厚労省より発表された。いつも9月16日から採用の解禁になるところ、コロナの影響を鑑みて10月16日から採用が解禁されたため、9月16日と10月16日との比較になるが、求人は昨年度に比べて2割減少したものの、内定率は64.2%と0.2%の上昇となった。筆者も今年度の高卒就職希望者についてはそれほどは悪くならないと予想していたが、わずかとはいえ上昇したのは意外であった。データがまだそろっていないため勇み足ではあるものの、10月末時点での高卒内定率がコロナ禍にもかかわらず悪化しなかった理由は複合的だと思われるので、いくつかの可能性を検討してみたい。

まず昨年度までの人手不足の影響が持ち越され、不況下でも採用したいという企業の意向が強かったという解釈がある。少子化と高学歴化により高卒就職希望者の絶対数が少なくなっているため、ここ数年はバブル期並みの求人倍率となっていた。企業の採用行動として理解できるものである。

また今年度の就職希望者の減少が著しいことから、就職から進学に切り替えたとの見方も出されており、筆者も同意するところである。希望する求人が来ないことが分かると進学に切り替えるというパターンはこれまでにもみられたが、今回は見切りが早いように感じる。他方で保護者の経済状態が悪化して就職に変更する場合もあるが、数としては前者の方が多いのではないだろうか。

ところで高校現場では、最初の応募時の求人(いわゆる一次求人)には間に合わず、そのあと出される求人(いわゆる二次求人)が今年はあまり来ていないという声もある。かつては地方での求人は中小企業が多いために二次求人が多くなりやすかったが、近年は中小企業に対してハローワークが事前に働きかけているため求人の提出が早くなっている(労働政策研究・研修機構2018)。よって高卒求人は過去の不況時とは異なりすでに出そろってしまっており、需要の先食いをしてしまっていることも考えられる。そうなると現在内定を得られていない生徒が受けられる新たな応募先がなく、今後の内定率が伸びないことが懸念される。10月末の就職希望者がこの後に就職を断念しないような働きかけが必要である。

もう一つの可能性は、入職経路においてその他(自己開拓)が増えた可能性である。今回のデータは高校・職安を通じて就職を希望する者に限られている。しかしリーマンショックの直後は、学校によい求人が来ないので自分で探す(縁故や知人・友人を頼る)という生徒が増加したことが事例から見出されており、「学校基本調査」においても学校・職安経由の割合が低下した(図表)。よって実際の就職希望者はもっと多い可能性もある。なおこれまでの研究によれば、民間企業就職者の場合、学校経由の就職の方がそれ以外の経路で入職した者よりも安定したキャリアになりやすいことが知られている。

いずれにしても、高卒就職への影響が本格的に出てくるのは来年度以降であり、動向を注視する必要があろう。

図表 高卒就職者の入職経路

図表2グラフ

資料出所:文科省「学校基本調査」各年度から作成

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。