戦略分野における産業界と協働した人材育成の拡充や職務に必要な情報の「見える化」などを盛り込む
――厚生労働省が「第12次職業能力開発基本計画」を策定
国内トピックス
厚生労働省は3月31日、2026~2030年度までの今後5年間にわたる職業能力開発施策の基本方針を示した「第12次職業能力開発基本計画」を策定した。産業構造の急速な変化や人口減少に伴う労働供給制約のなかで、今後の職業能力開発の方向性として、今後求められるスキルの変化に対応した戦略的な職業能力開発支援の推進や、労働市場でのスキル等の見える化の促進などを提示。エネルギーなどの戦略分野における産業界と協働した人材育成の拡充や、職務に必要となるスキル等や企業の職業能力開発の情報の「見える化」を進めることによる人材育成・処遇向上に向けた基盤整備などを基本的施策として盛り込んだ。
<計画の狙い>
労働生産性の向上、労働者の自己実現、処遇向上を図る
職業能力開発基本計画は、職業能力開発促進法第5条1項の規定に基づき、職業訓練や職業能力評価など、職業能力の開発に関する基本となるべき計画を策定するもの。本計画に基づき都道府県においても、都道府県職業能力開発計画の策定に努めることとされている。
求められる人材ニーズや働き方等の変化に対応した施策の推進
第12次計画は、計画の狙いについて、わが国が「少子高齢化の進展と人口減少の継続による、必要な労働力の需要と供給のバランスが崩れることに伴う労働供給制約という課題」を抱え、「人材を『資本』として捉え、人材育成等の投資により、人材を最大限活用するという『人的資本』の考え方に変化してきており、職業能力開発の重要性が高まっている」なかで、「こうした経済・社会環境の変化を的確に把握し、人材ニーズや働き方等の変化に対応した職業能力開発施策を推進することが求められる」と強調。
「今後は、引き続きこうした施策を着実に推進するとともに、労働者や企業を取り巻く環境の急速な変化を踏まえ、個々の労働者による自律的・主体的な能力開発及びキャリア形成と、企業による積極的な能力開発機会の確保とともに、国がこれらの職業能力開発の取組を積極的に促進することにより、労働生産性の向上や処遇の向上を図り、経済社会の発展や労働者の就労意欲の向上につなげていくことが重要」だと説明した。
<経済・社会環境の変化と課題>
主な課題は、労働者の自律・主体的なキャリア形成の促進やデジタル化の進展への対応など4点
第12次計画は、こうした方向性を実現するためには、①個人、企業による職業能力開発の取り組みの促進②労働供給制約等への対応③労働者の自律的・主体的なキャリア形成の促進④デジタル化の進展など産業構造の変化等への対応――という4つの課題に対応することが必要だと主張。
これらの課題や、現行の職業能力開発施策と企業・個人の職業能力開発の状況をふまえ、今後の職業能力開発施策を推進するにあたっては、「個々の労働者・企業の事情に合わせた職業能力開発を行う『個別化』、一つの企業では行えない職業能力開発を産業・地域等の単位で複数の企業が連携して行う『共同・共有化』、労働市場及び企業における職務やスキル、処遇、職業能力開発機会の可視化を進めることで企業や個人の職業能力開発を促進する『見える化』の3つの視点を持つことが重要」だとし、産業界等や成長分野等に必要な人材を戦略的に育成・確保するとともに、労働市場の「見える化」など職業能力開発の基盤整備や、個人の自律的・主体的なキャリア形成支援、企業における職業能力開発の充実等を推進することで、労働生産性の向上と労働者の自己実現や処遇向上などを図り、経済社会の成長につながるよう職業能力開発施策を推進するとした。
<職業能力開発の方向性と基本施策>
今後の方向性としてスキルの変化に対応した能力開発支援など7項目を示す
そのための職業能力開発の今後の方向性として、第12次計画は、①今後求められるスキルの変化に対応した戦略的な職業能力開発支援の推進②労働市場でのスキル等の見える化の促進③個人のキャリア形成と職業能力開発支援の充実④企業の職業能力開発への支援の充実⑤多様な労働者の能力発揮に向けた職業能力開発の推進⑥技能五輪国際大会を契機とした技能の振興⑦職業能力開発分野の国際連携・協力の推進――の7つを掲げた。
エネルギーなどの戦略分野で産業界と協働した職業訓練に取り組む
施策の内容について、一つひとつみていくと、「今後求められるスキルの変化に対応した戦略的な職業能力開発支援の推進」では、産業界や地域、成長分野等において求められる人材ニーズを的確に把握し、デジタル技術の進展などの経済社会の動きや、労働者の希望に応じた労働移動もキャリアアップの選択肢の1つであることなども考慮しつつ、「効果的な職業能力開発を推進する」とした。
具体的には、成長分野等に必要な人材の育成に向けた戦略的な職業訓練の推進、エネルギーなどの戦略分野等について関連の産業界と協働した人材育成プロジェクトの実施や、業界団体による人材開発支援助成金の活用の促進等に取り組むほか、戦略分野等における教育訓練給付金の指定講座の拡大に取り組む。ハローワークにおいては、キャリアコンサルティング、能力向上、職業紹介までの切れ目ない支援サービスを実施する。
また、職業能力開発に関連する情報や制度に対するアクセス性を向上させるため、申請手続のオンライン化の推進のほか、在職中の人や子育て・介護中の人が訓練を受講しやすい環境整備を実施する。
そのほか、職業能力開発の各種支援策について、処遇向上等の成果の把握を通じて効果検証を行い、必要な施策を講じる。
企業の職業能力開発などの情報の「見える化」を進める
「労働市場でのスキル等の見える化の促進」では、労働市場の需給調整機能を高め、職務に必要となるスキル等の情報や企業の職業能力開発の情報の「見える化」を進めることで、人材育成の取り組みや処遇向上等を図ることができる基盤を整備するとしている。
具体的には、職業情報を提供するサイトとして厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト(job tag)」について、能力向上や処遇向上等につながる情報や戦略分野等のキャリアラダーなどの情報について、一層の充実を図る。
また、リスキリングの支援策に関する情報の連携・一体化を進め、包括的で利便性の高いプラットフォームを構築するとともに、そのプラットフォームを通じた申請手続のデジタル化を検討する。
「セルフ・キャリアドック」の導入を促進
「個人のキャリア形成と職業能力開発支援の充実」では、労働者個人が労働市場や会社の状況、自分の能力を適切に把握し、キャリアの目標を定めて自律的に能力開発を行うことができるように、キャリア形成の伴走支援や個人の能力開発支援の環境を整備するとしている。
具体的には、キャリアコンサルティング機会の拡充や、企業が労働者の自律的・主体的なキャリア形成を促進・支援するための総合的な取り組みである「セルフ・キャリアドック」の導入を促進する。
さらに、キャリアコンサルタントの専門性向上やキャリアコンサルタントの活用促進に向けた理解促進の取り組みも進める。また教育訓練給付金について、夜間・休日やオンラインでの受講が可能な講座を拡大する。
DXを推進する人材の育成、中小企業での職業能力開発などを支援
「企業の職業能力開発への支援の充実」では、企業の職業能力開発機会を充実させるとともに、能力開発の成果を労働生産性の向上に結び付ける人事制度等の仕組みの整備やDXを推進する人材の育成、中小企業での職業能力開発の支援などを推進する。
そのため、公的職業訓練や人材開発支援助成金などにおいて、DX推進人材の育成やデジタルリテラシー向上支援を引き続き推進する。また、企業の事業内計画の作成や推進者の選任を促進するとともに、その機能が発揮されるよう、計画の記載に係るモデルや好事例の提示、労使協働の取り組みなどを展開。事業内計画の作成や人材管理等の仕組みの整備等にあたっては、伴走支援する専門人材の育成のための体制を整備する。
中小企業に対する支援としては、産業・地域単位で複数企業が共同で人材育成を行う効果的な仕組みを検討し、必要な措置を講ずる。さらに、職業能力開発の専任者を置くことが困難な中小企業に対し、生産性向上人材育成支援センターや中小企業リスキリング支援事業により、企画段階から経営者等にアドバイスを行うとともに、情報の提供を行うなどの伴走支援に乗り出す。
非正規雇用労働者には働きながら学びやすい訓練を全国展開
「多様な労働者の能力発揮に向けた職業能力開発の推進」では、非正規雇用労働者、中高年労働者、若者、女性、障がい者、就職氷河期世代、外国人、現場人材などの多様な労働者の職業能力開発を推進するとしている。
非正規雇用労働者等に対しては、働きながら学びやすいオンラインを活用した職業訓練を全国展開する。
中高年労働者には、実務経験を積む機会の確保、キャリア形成・リスキリング支援センターでの支援などに取り組む。
在学段階の若者にキャリアについての相談機会を提供
若者には、在学段階からキャリアについての相談機会を提供するほか、若者の採用・育成に積極的で雇用管理が優良な企業を認定する「ユースエール認定制度」の活用を促進する。
子育て中の女性が受講しやすくなるように、公的職業訓練において育児などの時間に配慮した訓練コースや託児サービス付きの訓練コースの設定等を実施する。
就職氷河期世代等にはリスキリング支援や職業的自立に向けた支援等を行う。
2028年の愛知県技能五輪を契機に技能を尊重する機運を醸成
「技能五輪国際大会を契機とした技能の振興」では、2028年に愛知県で技能五輪国際大会が開催されることになっていることから、この大会を契機に、中学・高校生の段階から技能を尊重する機運を醸成するとともに、技能労働者の能力向上や技能継承のための取り組みの強化を進める必要があるとしている。
そのため、ものづくり分野等において1級技能士相当以上の技能を有する経験豊富な熟練技能者である「ものづくりマイスター」を工業高校や中小企業等に派遣し、実践的な実技指導やものづくりの魅力を伝える。
また、若手の技能人材等の確保・育成のため、地域の技能士・業界団体等の連携による人材育成の体制を整備する。
「職業能力開発分野の国際連携・協力の推進」では、「技能評価システムを通じた技能移転事業」について、我が国の強みであるものづくり分野や中小企業が持つノウハウを最大限活用しながら推進し、日本型技能評価システムである技能検定のノウハウをアジア地域の開発途上国に移転するなどとしている。
(調査部)
2026年5月号 国内トピックスの記事一覧
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