70歳までの就業確保措置の実施率40%以上の達成をめざす。処遇改善を図る企業への助成措置の強化も
 ――厚生労働省の新たな「高年齢者等職業安定対策基本方針」

国内トピックス

厚生労働省は3月31日、2026年度から2029年度までの4年間を対象期間とした、新たな「高年齢者等職業安定対策基本方針」を策定し、4月1日から適用した。方針は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づき策定されるもの。新たな方針では、高年齢者の就業の機会の増大を目指した政策目標を追加し、70歳までの就業確保措置の実施率を40%以上とすることなどを掲げた。また、高年齢者等の職業の安定を図るための施策をさらに推進していくため、新たに、70歳までの就業確保措置のさらなる拡大や、高齢期の処遇改善を図るための企業の実情に沿った助言・指導や助成措置の強化なども盛り込んでいる。

<基本方針策定の経緯>

現行の基本方針の対象期間が終了することを受けて新たに策定

「高年齢者等職業安定対策基本方針」は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(1971年法律第68号)第6条第1項に基づき、厚生労働大臣が、高年齢者の雇用・就業の状況等をふまえ、就業率等の今後の高年齢者の就業機会の増大に係る目標を設定するとともに、高年齢者等の職業の安定に関する施策の基本等を策定するもの。

旧方針は、対象期間を2021年度~2025年度の5年間としていたことから、政府は2026年度からの新たな基本方針を策定。1月に開催された労働政策審議会雇用対策基本問題部会における議論を経て、3月11日に同部会および職業安定分科会に諮問し、「新たな基本方針は妥当」との答申を得たことから、3月31日に告示した。新方針は2026年4月1日からの適用となっている。

<新方針の具体的な内容>

高年齢者の雇用・就業についての基本的考え方を国民に広く示す

新方針は、旧方針と同様に、はじめに「方針のねらい」を明記したうえで、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」第6条第2項に基づき、「第1 高年齢者の就業の動向に関する事項」「第2 高年齢者の就業の機会の増大の目標に関する事項」「第3 事業主が行うべき諸条件の整備等に関して指針となるべき事項」「第4 高年齢者の職業の安定を図るための施策の基本となるべき事項」――の4つで構成している。

なお、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」については、高年齢者の活躍の場を整備するため、70歳までの就業機会の確保を事業主の努力義務とすることなどを内容として、2020年の第201回通常国会における「雇用保険法等の一部を改正する法律」の規定に基づき、改正が行われている(以下「改正高年齢者雇用安定法」)。

「方針のねらい」には、こうした改正高年齢者雇用安定法の趣旨等をふまえ、「高年齢者の雇用・就業についての目標および施策の基本的考え方を、労使を始め国民に広く示すとともに、事業主が行うべき諸条件の整備等に関する指針を示すこと等により、高年齢者の雇用の安定の確保、再就職の促進および多様な就業機会の確保を図るもの」と記載している。

70歳までの就業機会の確保や高齢期の処遇改善の取り組みを一層推進

また、2025年3月末には、それまで労使協定による継続雇用制度の対象者基準を適用できる経過措置が終了し、同年4月からは希望者全員を対象とする65歳までの高年齢者雇用確保措置(定年の引き上げ、継続雇用制度の導入または定年の定めの廃止)が全面的に施行されている。

これを受け、「方針のねらい」では「引き続き、その確実な実施に向けた取り組みを行うことが必要」と提示。さらに、今後は就職氷河期世代の多くが高齢期を迎えることから、「将来を見据えた支援に取り組む必要がある」として、70歳までの就業機会の確保や高齢期の処遇の改善に向けた取り組みなどを一層推進していく必要性も示した。

方針の対象期間は、2026年度から2029年度までの4年間〈政府の「高齢社会対策大綱」(2024年9月13日閣議決定)との調和を図る意図がある〉。ただし、適用日時点の改正高年齢者雇用安定法を前提とした内容のため、高年齢者の雇用等の状況や労働力の需給調整に関する制度などの動向に照らして、「必要な場合は改正を行う」としている。

〔第1 高年齢者の就業の動向に関する事項〕

2040年には2.9人に1人が65歳以上の高年齢者の見込み

「第1 高年齢者の就業の動向に関する事項」では、高年齢者の雇用・就業や雇用制度、労働災害の状況などに関する動向を紹介している。

65歳以上の高年齢者の人口は2020年の約3,603万人から、2040年には約3,928万人となると推計されており、20年間で約325万人増加し、2.9人に1人が65歳以上の高年齢者となることが見込まれている。また、高年齢者の就業率は2024年において、60~64歳層が74.3%(2014年比13.6ポイント増)、65~69歳層が53.6%(同13.5ポイント増)と、高い水準になっている。

70歳までの高年齢者就業確保措置を講じている企業は3割台

雇用制度の状況をみると、「希望者全員の65歳までの高年齢者雇用確保措置」の全面施行後にあたる2025年6月1日現在で、常用労働者が21人以上の企業のうち、65歳までの高年齢者雇用確保措置を講じた企業は99.9%。一方、70歳までの高年齢者就業確保措置を講じた企業は34.8%となっている。また、高年齢労働者の定年後の賃金水準については2024年において、定年前の8割以上となる企業が全体の39.6%(2019年比15.1ポイント増)となっている。

労働災害の状況についてみると、2024年における雇用者全体に占める60歳以上の割合は19.1%となっているなかで、労働災害による休業4日以上の死傷者に占める60歳以上の割合は30.0%に達しており、新方針は「高年齢者は労働災害の発生率が高く、加齢に伴って労働災害発生リスクが高まる傾向にある」としている。

〔第2 高年齢者の就業の機会の増大の目標に関する事項〕

「2029年までに、60~64歳の就業率79.0%以上」などの目標を新たに盛り込む

「第2 高年齢者の就業の機会の増大の目標に関する事項」では、まず就業の機会の増大に向けた施策を記載。高年齢者の雇用の場の拡大や、企業の実情に適した職務や能力等に基づく処遇の推進の重要性を示したうえで、改正高年齢者雇用安定法に基づき、「70歳までの高年齢者就業確保措置が企業においてさらに拡大するよう、各種支援措置の強化を図るとともに、職務や能力等に基づく処遇の改善に取り組む企業への支援措置の強化を図ることで、高年齢者の活躍を後押しする」などと明記している。

そのうえで新方針では、「高齢社会対策大綱」で示された政策目標と同等の数値目標を新たに盛り込んでいる。具体的には、「2029年までに、60~64歳の就業率79.0%以上」(2024年実績は74.3%)、「2029年までに、65~69歳の就業率57.0%以上」(同53.6%)、「2029年までに、70歳までの高年齢者就業確保措置の実施率40.0%以上」(2025年6月1日現在実績は34.8%)を目指すことを掲げた。

〔第3 事業主が行うべき諸条件の整備等に関して指針となるべき事項〕

高年齢者に配慮した作業施設の改善や再就職希望者への援助措置の実施などを明記

「第3 事業主が行うべき諸条件の整備等に関して指針となるべき事項」では、事業主が行うべき内容として、①諸条件の整備②再就職の援助等③職業生活の設計の援助――の3つについて、基本となる指針を整理している。

1つめの「諸条件の整備」に関しては、労使間で十分な協議を行いつつ、高年齢者の意欲・能力に応じた雇用機会の確保等のために、諸条件の整備に努めることを提示。具体的には、体力等が低下した高年齢者が職場から排除されることを防ぐために身体的機能の低下等に配慮した「作業施設の改善等」や、高年齢者の知識、経験、能力等が十分に活用できる「職域の拡大」、職業能力を評価する仕組みや資格制度といった「知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進」などをあげている。

2つめの「再就職の援助等」に関しては、解雇等により離職することとなっている高年齢者が再就職を希望する時は、高年齢者の在職中の求職活動や職業能力開発について、主体的な意思に基づき、「再就職援助措置の実施」(教育訓練など)や、「公共職業安定所等による支援の積極的な活用等」などに留意しつつ、「積極的に支援すること等により、再就職の援助に努める」こととしている。

3つめの「職業生活の設計の援助」に関しては、雇用する労働者が高齢期に至るまで職業生活の充実を図ることができるよう、「職業生活の設計に必要な情報の提供、相談等」や、「職業生活設計を踏まえたキャリア形成の支援」の実施を通じて、「高齢期における職業生活の設計について効果的な援助を行うよう努める」こととしている。

〔第4 高年齢者の職業の安定を図るための施策の基本となるべき事項〕

賃金・人事処遇制度の見直しで高齢期の処遇改善を行う企業事例の収集などを追記

「第4 高年齢者の職業の安定を図るための施策の基本となるべき事項」では、①高年齢者雇用確保措置等の円滑な実施を図るための施策②高年齢者の再就職の促進のための施策③その他高年齢者の職業の安定を図るための施策――の3つについて、基本となるべき事項を整理している。

1つめの「高年齢者雇用確保措置等の円滑な実施を図るための施策」については主に、旧方針から記載のあった、65歳までの雇用確保措置および70歳までの就業確保措置や、継続雇用される高年齢者の待遇の確保に関して、さらに内容を盛り込んでいる。

具体的には、2025年4月から全面施行している「希望者全員の65歳までの高年齢者雇用確保措置」が確実に講じられるよう、周知の徹底・指導等に積極的に取り組むことや、賃金・人事処遇制度の見直しによる高齢期の処遇の改善に取り組む企業の好事例の収集・効果的な提供に取り組むこと、高齢期の処遇の改善に取り組む事業主に対する助成制度の強化を図ることなどを記載している。

政策目標の達成に向けた助成措置の強化を図る

70歳までの高年齢者就業確保措置については、都道府県労働局や公共職業安定所であらためて制度の趣旨・内容の周知啓発を徹底するとともに、企業の実情に応じた助言・指導に積極的に取り組むことや、政策目標の達成等に向けた助成措置の強化を図ることなどを明記。また、雇用契約によらない創業支援等措置については、改正高年齢者雇用安定法の規定に基づき、あわせて改正されている「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」や、2024年に施行された「フリーランス新法」(正式名:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の遵守が図られるよう指導を徹底。そのうえで、高齢期の特性やニーズをふまえた多様な就業選択が可能になるよう、企業労使が合意して適切に実施・計画されている好事例などの情報収集と効果的な提供を行うことで、同措置のさらなる活用の拡大を図る。

継続雇用される高年齢者の待遇の確保については、裁判例をふまえた各待遇の記載の充実などさらなる明確化のための見直しが行われる「同一労働同一賃金ガイドライン」(正式名:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)について、見直し後の周知や指導を図ることなどを追記した。

「生涯現役支援窓口」でのニーズに応じたきめ細かなマッチング等支援を盛り込む

2つめの「高年齢者の再就職の促進のための施策」については主に、旧方針から記載のあった、公共職業安定所等による再就職支援について、さらに内容を盛り込んでいる。

具体的には、可能な限り早期に再就職することができるよう、職務経歴書の作成支援などの的確な職業指導・職業紹介や個別求人開拓を実施することを示しつつ、全国の主要な公共職業安定所に設置している「生涯現役支援窓口」において、「概ね60歳以上(特に65歳以上)の高年齢求職者に対して、その多様なニーズに応じたきめ細かなマッチングを行い、高年齢者の再就職を重点的に支援する」としている。

なお、その際には職種や条件等が合わないと考える高年齢者が増えている現状をふまえ、就労・生活支援アドバイザーを中心に、職業生活の再設計に係る、丁寧で高年齢者に寄り添ったキャリアコンサルティング支援を行うことなども示している。

安心・安全に働ける職場環境の推進やシルバー人材センターの活用を記載

3つめの「その他高年齢者の職業の安定を図るための施策」については主に、安心・安全に働ける職場環境や、シルバー人材センターによる多様な雇用・就業機会の確保に関して、さらに内容を盛り込んでいる。

安心・安全に働ける職場環境については、高年齢者の労働災害防止対策、健康確保対策および労働時間対策を推進することとし、特に、2025年に公布(2026年から段階的に施行)される「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」に基づく指針の事業者への周知・指導に取り組むことなどを示している。

シルバー人材センターによる多様な雇用・就業機会の確保については、定年退職後などで臨時的・短期的な就業を希望する高年齢者に対して、地域の日常生活に密着した多様な仕事を提供するシルバー人材センター事業の活用を促進し、「高年齢者の多様な就労・社会活動のニーズを、各種産業の人材ニーズや地域課題とマッチングし、幅広い就労・社会活動機会を提供できるよう、活動内容の充実を図る」などとしている。

(調査部)