賃上げに補助金を支給、価格転嫁対策に協力する企業への優遇措置も
 ――各都道府県の賃金引き上げ支援施策(厚生労働省のとりまとめ)

2024春闘における賃上げの状況

厚生労働省は経済産業省と連携し、最低賃金の引き上げで影響を受ける中小企業に対し、生産性向上のための設備投資などにかかる経費を助成する「業務改善助成金」などの支援策を講じているが、各都道府県でも独自に支援施策を講じていたり、業務改善助成金の上乗せ補助などを行っている例がある。厚労省はこのほど、それらの各都道府県の賃金引き上げの支援施策について、ウェブサイトなどのURLを載せて一覧にまとめた(2024年4月30日現在)。物価高騰対策としての賃上げや若年層の賃上げを行う中小企業を支援する取り組みのほか、価格転嫁対策として、「パートナーシップ構築宣言」に登録する企業を補助金などで優遇するなどの措置がみられる。

時給50円以上の引き上げで1人あたり5万円を支給

賃上げを実施する企業に補助金を支給する取り組みは、複数の自治体が行っている。岩手県は「物価高騰対策賃上げ支援金」として、1時間あたり50円以上の賃上げを行った中小企業等を対象に、従業員1人あたり5万円、最大20人分(1事業所あたり最大100万円)を支給している。

対象は県内事業所に勤務する正規および非正規雇用労働者。ただし、非正規雇用労働者は週所定労働時間が20時間以上である必要がある。給付上限は4万人で、申込受付はすでに1万人を超えている。

山口県は若年層の3.0%以上の賃上げなどを条件に1人あたり10万円を支給

山口県は「初任給等引上げ応援奨励金」として、①初任給または若年層(34歳以下)の正規社員について、基本給の月額を前月分より3.0%以上(定期昇給分を除く)引き上げた額を支給している②賃上げ実施から1年間は賃金を引き下げることなく雇用を継続することを誓約している――の2点を満たす中小企業等に、1人あたり10万円(上限100万円)を支給している。

福岡県は「経営革新賃上げ環境整備緊急支援補助金」として、経営革新計画に基づく新規の事業活動に必要な経費を補助している。補助率は対象経費の3分の2以内で、補助金額の上限は65万円。対象となる経費は設備機器導入費、システム導入費、外注費、広告宣伝費など。また「賃上げ実現に向けた福岡県中小企業生産性向上緊急支援補助金」では、①省力化または省エネ化による生産性向上に効果的な設備の導入を行うこと②事業場内最低賃金を時給30円以上引き上げること――を条件に補助金を支給している。補助率は3分の2以内で、補助金額の上限は1,300万円。

佐賀県は、事業場内最低賃金を3%以上引き上げる中小企業等が実施する生産性向上の取り組みに対し、補助金を支給している。補助率は3分の2以内だが、伝統的地場産品製造事業者等は4分の3以内としている。

秋田県は「賃金水準向上資金(中小企業特定社債保証)」として、生産性の改善や規模拡大により賃金水準の向上に取り組む企業に対して、長期安定的な資金調達を支援している。対象者は「給与支給総額および初任給の年率平均2.0%増を、原則として3年以上実施するための賃金水準向上計画を策定し、取扱金融機関の確認を受ける」などの条件を満たす企業。保証人は不要で、発行額が2.5億円以下なら担保も不要。2023年度は47件の利用があった。

価格転嫁対策ではパートナーシップ登録企業を優遇する措置も

価格転嫁対策として、「パートナーシップ構築宣言」に登録する企業への補助金での加点や、融資での優遇措置などの取り組みがみられる。

静岡県は、サプライチェーンの取引先や価値創造を図る事業者との連携・共存共栄を進めることで、新たなパートナーシップを構築することを「発注者」側の立場から企業の代表者の名前で宣言する「パートナーシップ構築宣言」の取り組みの促進を図っている。2023年5月時点で964社が登録している。登録企業には、一部の補助金で加点などの優遇措置がある。

鹿児島県も「パートナーシップ構築宣言」で一部の補助金に同様の優遇措置を定めているほか、県の中小企業融資制度において、宣言した事業者の保証料率を0.1%引き下げている。

福井県も「パートナーシップ構築宣言」で一部の補助金に同様の優遇措置を定めている。また価格転嫁に向けた伴走支援として、経営の改善を図るために中小企業診断士、税理士、公認会計士等を無料で派遣する事業を行っている。そのほか、県内企業における価格転嫁の好事例集も紹介している。

新潟県と愛知県は、公労使の団体が「適切な価格転嫁の促進による地域経済の活性化に向けた共同宣言」を行い、適切な価格転嫁ができる環境づくりを進めている。

栃木県は「とちぎ版構造的な賃上げ支援に関わるハンドブック」を作成し、最低賃金・賃金引き上げに向けた中小企業・小規模事業者へのさまざまな支援施策を紹介している。

取引先と価格交渉を行う際には、その根拠資料が必要となる。埼玉県は、主要な原材料価格の推移を示す資料を簡易に作成できる「価格交渉支援ツール」を公開。これを利用することで資料作成の手間を削減できるようにしている。ツールは主要な原材料1,420品目に対応しており、他県のホームページでも紹介されている。

山形県は独自の支援金で女性の正社員化を後押し

山形県は、「山形県賃金向上推進事業支援金」により、非正規雇用労働者の処遇改善に取り組んでおり、特に女性の賃金向上と正社員化を促進している。2種類あるコースのうち「賃金アップコース」では、女性の非正規雇用労働者の時給を50円以上増額改定した場合に1人あたり5万円を支給するほか、さらに100円以上の増額改定で1人あたり5万円を加算する。「正社員化コース」では、女性の非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換すると、1人あたり10万円を支給。対象の労働者が就職氷河期世代に該当する場合には1人あたり10万円を加算する。

長崎県はデジタル力の向上に向けて経費補助

長崎県では「長崎県デジタル力向上支援事業費補助金」として、原油価格・物価高騰などの影響を受けている県内中小事業者が生産性向上や業務効率化を目指して実施する、デジタルを活用できる人材の育成やIT機器・デジタルツール導入の取り組みを支援することで、賃上げを促している。対象となるのは①デジタルに関する講座受講経費②デジタルに関する資格取得経費③講座受講にあわせてIT機器またはデジタルツール等を導入するための経費――のいずれか。補助率は3分の2以内で、上限は100万円。

また、「長崎県製造業物価高騰対策支援事業費補助金(物価高騰対策タイプ)」も設け、製造業・機械設計業の生産性向上の取り組みを支援している。対象は、①研究開発費②設備投資費③生産効率化経費④販路開拓費――のいずれかで、補助率は3分の2以内。上限は100万円となっている。

島根県では「人材確保・育成支援補助金」として、製造業およびソフト産業の企業が県内に新規立地する際に、人材確保や育成にかかる経費について、最大3年間、2分の1を補助している。補助限度額は1年あたり300万円。

また「いきいき職場づくり支援補助金」として、業務効率化、労働条件・処遇改善、柔軟な働き方の実現、多様な人材の活躍、健康経営等に取り組む企業に対して、最大80万円を補助している。

さらに「林業・木材産業改善資金」では、林業・木材産業において経営の改善等を図るために機械・施設等を導入する場合等に、無利子での貸付を行っている。貸付限度額は個人が1,500万円、企業が3,000万円、団体が5,000万円。償還期間は最長10年。

大阪府は国の教育訓練給付金の対象外の人に受講費用を補助

大阪府の「大阪府スキルアップ支援金」では、離職後1年を超える人や雇用保険加入期間が1年未満の在職者など、国の教育訓練給付金が支給対象外の人に対して、資格取得等に向けた指定の講座を受講した場合の費用を補助している。補助率は運輸・建設業関連の資格取得では4分の3で上限額はない。その他の資格取得の補助率は2分の1で上限額は20万円。

また在職者を対象とした職業訓練「テクノ講座」では、大阪府立高等職業技術専門校等において、働いている人を対象にリーズナブルな受講料で、スキルアップのための短期講座を実施している。多種多様な分野に対応できるコースを用意し、短期間で必要な知識や技能を習得できるようにしている。

沖縄県は「奨学金返還支援事業」として、従業員の奨学金返済支援に取り組む県内中小企業の経費の一部を補助している。対象となる従業員は、県内の事業所に正社員として勤務する35歳未満で、かつ就業後5年以内であり奨学金の返済義務がある者。

年間返済額の2分の1が対象で、①企業の年間支援額の2分の1②従業員1人につき年間9万円――のいずれか低い金額を支援する。ただし「沖縄県所得向上応援企業認証制度」「沖縄県人材育成企業認証制度」「沖縄県ワーク・ライフ・バランス企業認証制度」「経営改革計画認証制度」のいずれかの認証を取得している企業では、①企業の年間支援額の4分の3②従業員1人につき年間13.5万円――となる。2023年12月末時点で33社が導入している。

そのほか、厚生労働省が取り組む「業務改善助成金」への上乗せ補助を富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、広島県、大分県が実施している。

(調査部)