中小企業の7割超で賃上げを実施・予定、正社員で4%以上の賃上げを行う企業は3割台に
――日本商工会議所・東京商工会議所の「中小企業の賃金改定に関する調査」
2024春闘における賃上げの状況
日本商工会議所と東京商工会議所は6月5日、「中小企業の賃金改定に関する調査」(共同調査)の結果を公表した。それによると、中小企業の7割超(74.3%)が賃上げを実施・予定しており、業種別では「卸売業」や「製造業」の8割以上で賃上げを実施・予定している。また、正社員の賃上げ率が4%以上となる企業は3割台にのぼった。
調査は、物価上昇や人手不足を背景に中小企業でも賃上げの機運が高まるなかで実態を把握することを目的に、全国47都道府県の各地商工会議所職員を通じた依頼等により、2024年4月19日から5月17日にかけて実施されたもの。1,979社から回答を得た。
前向きな賃上げよりも「防衛的な賃上げ」の割合が高い
2024年度の賃上げの状況についてみると、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施(予定を含む)」(前向きな賃上げ)が30.4%、「業績の改善がみられないが賃上げを実施(予定を含む)」(防衛的な賃上げ)が43.9%(図表1)。両者を合わせた、賃上げ実施(予定を含む)企業は74.3%となり、1月に実施した調査(「賃上げを実施予定」の回答割合:61.3%。以下、1月調査)より13.0ポイント増加し、中小企業においても賃上げの取り組みが進んでいることがうかがえた。
図表1:2024年度の賃上げの状況
(公表資料から編集部で作成)
賃上げ実施予定企業(「業績が好調・改善しているため賃上げを実施(予定を含む)」もしくは、「業績の改善がみられないが賃上げを実施(予定を含む)」と回答した企業)を100とした場合の「前向きな賃上げ」と「防衛的な賃上げ」の割合をみると、「前向きな賃上げ」が40.9%なのに対し、「防衛的な賃上げ」は1月調査(60.3%)より1.2ポイント減少したものの59.1%と、6割近くにのぼった。
従業員20人以下の企業では6割が賃上げを実施・予定
賃上げの状況を、従業員20人以下の企業(n=996)に絞ってみると、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施(予定を含む)」が22.7%、「業績の改善がみられないが賃上げを実施(予定を含む)」が40.6%。両者を合わせた、賃上げ実施(予定を含む)企業は63.3%と全回答企業の結果を11.0ポイント下回り、規模の小さい事業所では賃上げの動きがやや鈍くなることがうかがえた。
賃上げ実施予定企業を100とした場合の「前向きな賃上げ」と「防衛的な賃上げ」の割合をみると、「前向きな賃上げ」が35.9%なのに対し、「防衛的な賃上げ」は64.1%となり、「防衛的な賃上げ」の割合は全回答企業の結果を5.0ポイント上回った。
前向きな賃上げの割合は「情報通信・情報サービス業」がトップ
全回答企業における賃上げを実施(予定を含む)の割合を業種別にみると、「卸売業」が81.5%で最も高く、次いで「製造業」(80.2%)、「情報通信・情報サービス業」(78.7%)、「建設業」(76.4%)、「金融・保険・不動産業」(74.7%)、「小売業」(70.2%)、「その他サービス業」(70.0%)などの順で高い。一方、最も低い「医療・介護・看護業」では、52.5%にとどまっている。
賃上げ実施予定企業を100とした場合の「前向きな賃上げ」の割合をみると、「情報通信・情報サービス業」が55.8%で最も高く、「宿泊・飲食業」(54.9%)、「金融・保険・不動産業」(53.3%)でも5割に達している。一方、「運輸業」では「前向きな賃上げ」が27.8%にとどまり、「防衛的な賃上げ」が72.2%にのぼった。
正社員の賃上げ額(加重平均)は9,600円台に
調査では続いて、2023年4月と2024年4月の両期間に在籍し、かつ雇用形態や労働時間の変更がない従業員について、正社員(n=1,586)の月給とパート・アルバイト等(n=1,070)の時給における賃上げ状況を確認している。
正社員についてみると、賃上げ額(月給、加重平均)は9,662円、賃上げ率は3.62%となっている。これを従業員20人以下の企業(n=709)でみると、賃上げ額は8,801円、賃上げ率は3.34%と、わずかに低くなった。
賃上げ率の区分別の割合は、「5%以上」が24.7%、「4%以上5%未満」が11.1%となっており、両者を合わせた計35.8%が、賃上げ率が4%以上となっている(図表2)。20人以下の企業でも「5%以上」が23.5%、「4%以上5%未満」が8.8%となり、両者を合わせた計32.3%が、賃上げ率4%以上となった。
図表2:正社員の賃上げ率
(公表資料から編集部で作成)
業種別にみると、賃上げ額は「その他」を除くと、「その他サービス業」が1万1,883円で最も高く、「情報通信・情報サービス業」(1万471円)、「卸売業」(1万345円)、「小売業」(1万239円)でも1万円を超えた。賃上げ率は、「その他サービス業」が4.57%で最も高く、「小売業」(4.01%)も4割台。一方、「運輸業」(5,162円・2.52%)や「医療・介護・看護業」(5,477円・2.19%)は賃上げ額がともに5,000円台、賃上げ率が2%台と、他の業種に比べ低くなっている。
正社員の賞与・一時金は2割超が昨年度を上回る水準で支給・予定
正社員における賞与・一時金の支給状況をみると、「昨年度を上回る水準で支給(予定を含む)」は23.9%と2割超、「昨年度並みに支給(予定を含む)」は39.2%で、約4割となっている。
「昨年度を上回る水準で支給(予定を含む)」割合を業種別にみると、「医療・介護・看護業」(33.3%)や「卸売業」(31.9%)、「情報通信・情報サービス業」(30.8%)で3割を超える一方、「宿泊・飲食業」(18.9%)では2割を下回った。
4割以上の企業でパート・アルバイト等の賃上げが4%以上
パート・アルバイト等についてみると、賃上げ額(時給、加重平均)は37.6円、賃上げ率は3.43%となっている。これを従業員20人以下の企業(n=450)でみると、賃上げ額は43.3円、賃上げ率は3.88%となった。
賃上げ率の区分別の割合は、「5%以上」が27.5%、「4%以上5%未満」が16.1%となっており、両者を合わせた計43.6%は、賃上げ率が4%以上となっている。20人以下の企業でも「5%以上」が29.7%、「4%以上5%未満」が16.7%となり、両者を合わせた計46.4%が、賃上げ率4%以上となった。
業種別にみると、賃上げ額の割合は、「医療・介護・看護業」が53.0円で最も高く、次いで「運輸業」(47.3円)、「建設業」(45.3円)などの順で高い。賃上げ率の割合も、「医療・介護・看護業」が4.86%で最も高く、「運輸業」(4.67%)も4%台後半にのぼっている。
パート・アルバイト等の賞与・一時金で「昨年度を上回る」はほぼ1割
パート・アルバイト等における賞与・一時金の支給状況をみると、「昨年度を上回る水準で支給(予定を含む)」は10.6%とほぼ1割で、「昨年度並みに支給(予定を含む)」が30.8%となっている。
「昨年度を上回る水準で支給(予定を含む)」割合を業種別にみると、「医療・介護・看護業」(26.5%)が最も高く、次いで「運輸業」(21.1%)となり、ともに2割を超えた。
(調査部)
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