顧客管理システムを扱うスキルを伝授。受講後に就職が決まった人も
 ――セールスフォース・ジャパンとデロイトトーマツコンサルティングによるDX人材教育プログラム「パスファインダー」

企業・教育機関取材

セールスフォース・ジャパン(東京・千代田区)は、デロイトトーマツコンサルティングと共同で、2021年8月から今年2月まで、DX人材育成プログラム「パスファインダー」を無料で100人に提供した。顧客管理に関する一般的なビジネススキルとともに、同社が販売する顧客管理システムである『Salesforce』の基礎スキルを伝授。受講者のなかには、『Salesforce』の導入企業や『Salesforce』の導入支援を行う企業への就職が決まった人もいた。今年度は対象を1,000人に広げて、教育プログラムを行う予定だ。

<プログラム実施の背景・目的>

市場価値の高いDX人材を市場に輩出するのが目的

セールスフォース・ジャパンは米国企業Salesforceの日本法人で、『Salesforce』というCRM(Customer Relationship Management:顧客管理)システムを、サブスクリプションの方式で顧客企業に提供している。

『Salesforce』は、顧客管理システムのグローバルリーダーだ 。同社のビジネスの特色は、『Salesforce』を販売してそれで終わりということではなく、『Salesforce』を活用する導入企業の事業を含め、企業全体の成長についてもサポートする点。そのため、導入企業でシステムを担当する社員などに対し、CRMや『Salesforce』の知見を短期間で習得できる有償のトレーニングや、一般の人も使える無料オンライン学習プラットフォーム「Trailhead」を以前から提供している。

そのなかでも、同社とデロイトトーマツコンサルティングと共同で実施する「Pathfinder(パスファインダー)」のプログラムは、CRMやSalesforceでキャリアを積むために必要な技術およびビジネススキルを身につけ、就業機会を提供する人材育成イニシアチブとして2021年度から開始された。同社はなぜ、無料でこのようなプログラムを一般の人にも提供することにしたのか。

その理由について同社アライアンス事業統括本部パートナーエコシステム本部は、「新型コロナウイルスの影響による市場変化に伴い、CRMのニーズが急速に高まった。そのニーズに応えるため、CRMの基礎的な知識を習得してもらうことはもちろん、世界でもトップ製品である『Salesforce』の資格試験も受けることなどによって、市場価値の高いDX人材を市場に輩出することを目的に行った」と説明する。また、IT業界が、女性が結婚や育児のあとに仕事に戻る業界としても注目されていることもあり、「女性がリスキリングしてキャリアチェンジできるようなプログラム構成を意識した」という。

<応募の状況>

100人の定員に450人以上が応募

受講の応募は、2021年8月2日まで行った。応募資格は、就業状況を問わず、2021年中に満25歳~49歳を迎える人とした。また、プログラムでの学習内容のレベル感があらかじめ分かるように、オンラインでの事前学習プログラムを受けてもらうようにした。

求める人物像としては、前向きに学び、自身のキャリアチェンジにつなげていきたいと考える人で、かつ、『Salesforce』の資格取得を目指している、CRMの知見獲得を目指している、と定めた。

450人以上が応募し、転職・就職の希望度合いや学習時間を確保できそうかなどの点を考慮し、102人に受講者を絞り込んだ。受講者の男女比はほぼ、「男性3:女性7」。年齢層は、40代が44%で最も割合が高く、30代が34%、20代が22%などという構成となった。ITのバックグラウンドを持っていない人が実際には大半を占め、正規社員でない人が約2割含まれていた。

<プログラムの内容>

「セールスフォース認定アドミニストレーター資格」の試験が受けられる

どのような学習プログラムなのだろうか。講義はすべてオンラインで実施。プログラムは8月に開講(8月23日にオリエンテーションを開催)し、フェーズ1(13週間)、フェーズ2(8週間)、フェーズ3(2週間)と、3つのフェーズに分けて、学習を進めた(授業の総時間数は150時間)。

フェーズ1では、9週目まで、『Salesforce』の技術コンテンツと、デロイトトーマツが開発したビジネススキルトレーニングに焦点をあてたカリキュラムを提供。「単純に『Salesforce』の基本的な機能が分かっていればいいということではなく、CRMの基礎的な知識や営業の一通りの業務が分かっていないと、販売先企業のビジネスのイメージを持ってシステムの設定(カスタマイズ)ができないことから、ビジネススキルのトレーニングもあわせて行った」(アライアンス事業統括本部パートナーエコシステム本部)。

その後、『セールスフォース認定アドミニストレーター資格』試験を受けてもらった。セールスフォースでは、同社製品の知識と関連する業務知識を保持していることを証明するグローバル共通資格を設けている。『セールスフォース認定アドミニストレーター資格』はその1つで、『Salesforce』の導入に必要な基本的なカスタマイズ、設定、管理に必要な知識があることを証明するものとなっている。

この試験に合格した人が、フェーズ2に進める方式とした。フェーズ1を終えて、「セールスフォース認定アドミニストレーター資格」に合格したのは49人だった。

フェーズ2は総合演習で、フェーズ1で学習した内容をもとに、キャリア開発に向け、実務に近い形式で、要件定義から設計、開発、テスト、成果発表までを一人ひとり行った。「例えば、ある会社の課題に対して、システムで解決するものと、業務で解決するものを分けさせたうえで、では、システムで解決する部分は『Salesforce』のなかでどう解決するか、を考えさせ、システムの環境設定を行うなどの内容」(同部)。

フェーズ3ではキャリアサポートとして、現に『Salesforce』を活用している企業に受講者を紹介して、マッチングを図った。実際にマッチングを希望したのは30人程度だった。なお、フェーズ3は、プログラムのパートナー企業(人材紹介)であるWaris(ワリス)を介して行った。

<プログラムを終えて>

課題は、つまずいた場合のフォローやモチベーションの維持

プログラムを終えての課題や評価を聞くと、まず課題としては、応募の条件として、就業の状況にかかわらず、実習の時間が確保できることを条件としたが、「実際は受講者のなかには、業務が多忙になってしまって、参加時間が減っていったり、講義の時間が夕方で、お子さんがいてなかなか講義に参加できない人もいた」ことをあげた。ただ、それをカバーするため、「講義をオンデマンドで視聴できるようにして、その時間に参加できなかった場合でも視聴できるような工夫を行った」という。

オンラインということもあり、主催者側として受講者の理解度がつかみにくい状況もあった。一方、受講者の側では、オンラインで質問しづらかったり、つまずいた場合のフォローの仕方などで課題が感じられたという。そのため、「サポートのチャンネルや時間帯」もつくることにした。「講義中に質問できる時間を設けたり、講義中は聞きづらいという人には、当社が提供しているSlackというコミュニティーツールのチャネルで聞いてもらったりした」(同部)。

もう1つ、難しかったのは、授業に追いつけなかった人のモチベーションを上げることだったと話す。そうした人には、個々に連絡して、奮起してもらったり、Slackで10人程度のグループをつくって、他の受講者との横のつながりを持ってもらうようにした。

受講者には運営側の熱心さが伝わる

ただ、プログラムを終えた受講者からの評価は高い。受講者からアンケートをとったところ、「無料なうえに有益な資格が習得できるスケジュールがしっかり組まれているから、サポートも手厚く、運営側の熱心さも伝わるし、周りに同じスタートラインの人たちがいることで、頑張ろうと思える」「何か資格を取りたくても、むやみに通い放題という通学系の資格講座に通うよりも、絶対によいと思った」「学んだ知識をすぐに仕事で使うかどうかは別として、新しいビジネススタイルの考え方を学んだり、仕組みを理解するということが、いろいろな意味で有益だと感じた」「スキルアップといっても何から手を出してどうすればよいか分からなかったが、その手順が分かった」などの意見がみられたという。

受講者に対するキャリアサポートの結果、何人かは、『Salesforce』の活用企業であるNECソリューションイノベータ、toBeマーケティング、セラク、デロイトトーマツなどに就職が決まったという。

<2022年度の新プログラム>

募集人数を2021年度の10倍の1,000人に拡大

セールスフォース・ジャパンとデロイトトーマツコンサルティングは、今年度も教育プログラムを実施する。しかも、募集人数を1,000人に拡大。受講費用が無料なのは2021年度と同様だ(ただし認定資格受検費用は自己負担)。

今年度のプログラムでは、対象を①就職活動中・転職・再就職を検討中の人(学生を含む)②IT未経験からキャリアチェンジを目指す人③CRM・クラウドなど新たな技術・スキルを身に付けたい人――と拡大。全21週、累計約200時間の学習時間だ。

授業は500人ずつ、2期に分けて行い、前期が2023年1月に終わり、後期が2023年2月からスタートする予定。今回もプログラムの最後に、就労先を探す支援を行う。

同社は今年度のプログラムへの期待について、「昨年の受講生からPathfinderと出会えて人生が変わったという声を聞いている。キャリアチェンジのために一歩踏み出したいと、このプログラムを求めている1人でも多くの人に届けたい」と話している。

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企業プロフィール

株式会社セールスフォース・ジャパン新しいウィンドウ

所在地:
(東京オフィス)東京都千代田区丸の内1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワー(Salesforce Tower)
設立:
2000年4月
資本金:
4億円
従業員数:
3,590人(2022年1月末時点)
事業内容:
クラウドアプリケーション及びクラウドプラットフォームの提供

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