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              II 職業情報をめぐる現状



A 我が国における職業情報の現状とニーズ



 検討部会において、求人・求職者情報を中心とする職業情報の実情を把握するとと

もに、就職、採用、マッチング、従業員の異動等の場面における職業情報に対する顕

在的、潜在的ニーズや職業情報の問題点及び課題を明らかにすることを目的として聞

き取り調査及び質問紙調査を実施した。



1 聞き取り調査



(1)調査概要



 イ 調査対象



  公共職業安定機関  公共職業安定所(2所)、人材銀行(1所)、その他(1所)



  民間職業紹介事業者 3所



  求人情報誌事業者  3社



  人材派遣事業者   2所



  高等学校      普通高校(1校)、職業科高校(1校)、総合高校(1校)



  大学        1校



  企業        製造業(1社)、小売業(1社)



 ロ 調査項目



  (1) 個別求人・求職者情報の現状



    求職者の求める求人情報、求人企業の求める求職者情報、求人・求職者のマ

   ッチング場面における職業情報の現状等



  (2) 職業情報の利用・提供とその整備の実態



    職業分類、新たな職業の把握方法、職業・職務内容の記述方法、個人の特

   性・経歴の記述方法等



  (3) インターネットによる職業情報の提供



    求人・求職者情報の提供、職業情報のデータベース



 ハ 調査実施時期



  平成12年9〜10月



(2) 結果概要



 イ 求職者の求める求人情報



 求職者の求める求人情報については、概して次のような特徴がみられる。

 新規学卒就職では、高校生は給与・勤務地等の労働条件や職場環境を重視する傾向

にあるが、大学生になると企業の経営状況、会社の内情、キャリアなどを強く意識す

るようになる。高卒就職では、事務系職種の求人が減少し、相対的に技能系職種やサ

ービス業系職種の求人が多数をしめるなかで、特定の職種に対するこだわりを示す例

もみられる。大卒の場合には希望する労働条件を満たす企業であれば、自己実現のた

めの環境が整っているかどうかに強い関心を示す傾向にある。他方、学卒就職者は求

人側から提供される情報に対して仕事内容に関する情報が十分でないと感じている。

 職業紹介機関(公共職業安定機関及び民間職業紹介事業者。以下1の(2)におい

て同じ。)や求人情報誌を利用する求職者の重視する求人情報は、給与・勤務地等の

労働条件や職務内容であり、この傾向は両者に共通してみられる。一方、求職者にと

って入手しがたい情報は、職場環境や人間関係などの会社の内情に関する情報である。

これらの情報は応募企業の決定に際して重要な情報であるが、一般的には入手が困難

である。人材派遣事業者への登録者は派遣先企業での職務内容をもっとも重視する。



 ロ 求人者の求める求職者情報



 これに対して求人者は、求職者側の情報を次のような観点からみている。

 新規学卒採用の場合には、高卒、大卒とも態度・性格、適性など応募者の人柄、人

間関係・コミュニケーション能力を特に重視する傾向にある。

 職業紹介機関や求人情報誌を通じた採用、人材派遣事業者への登録者については、

技術者の場合は経験、スキル、年齢、営業職の場合には経験、人的要素(態度・性格、

適性)が重視される。経験の中には、従事した職務の内容、当該職務の遂行に必要な

能力、仕事上の実績、職務遂行に必要な資格などが含まれる。年齢は重要な基準であ

る。これらの情報に加えて、企業は求職者の価値観、好奇心、素養など詳細な個人的

情報の入手を希望している。



 ハ マッチングの場面における職業情報



 求人・求職を具体的に結びつけるプロセスであるマッチングの場面についてみると、

新規学卒就職では、高卒の場合、学校側の客観的な指標は成績(学力)のみであり、他

方、企業は生徒の人柄などの学力以外の部分で採用の判断をする傾向が強く、学校側

と企業側との視点の違いが大きい。大卒の採用では、インターネット求人が学生に広

範に受け入れられ、情報の提供・入手手段としてのインターネットの活用が普及・浸

透しているといえる。

 職業紹介機関におけるマッチングの際の基本的な情報は、仕事内容、求職者のキャ

リア経歴、資格、求人の給与条件、求職者の希望勤務地、年齢である。小企業では求

める人材像が明確になっていないことがしばしばあり、このため仕事内容が十分に明

確に記述されていないケースもみられる。また、企業間で職業に関する共通言語がな

いことがマッチングの障害になっているとの指摘がある。



 ニ 職業指導・相談と職業情報



 高校における進路指導の過程では、職業意識を啓発する機会がほとんどなく、生徒

に提供する情報は職業というよりも企業に関するものが大半をしめている。生徒は、

自律的な職業探索活動を行うことは少なく、学校側の提供する求人・企業情報に全面

的に依存している。

 学校教育では必ずしも十分な職業に関するガイダンス活動が行われているとはいえ

ず、その結果、就職の場面になると職業知識や自己理解の欠如に直面する者がしばし

ば見受けられる。このような者に対しては職務情報、その後のキャリア情報など職業

の世界を知るための情報や自己の適性に関する情報を提供することが必要である。し

かし、現実には特に若年者はイメージで職業をとらえる傾向があるとされ、職業選択

にあたってはマスコミ等の情報に影響されやすい。

 中途採用の場合には、企業は即戦力を求めており、必要なスキルを習得しているこ

とが紹介の前提となる。また、紹介担当者は職務内容について十分な知識を持つこと

も重要であるが、適切な紹介技法を習得していることがいっそう求められている。



 ホ 職業情報の整備



  (イ) 全般的にみると、いずれの機関・組織においても体系的・効率的に職業情

    報を収集する体制は必ずしも整備されていない。技術関連の職業だけではな

    く一般的に職場の変化を反映した最新の職業情報を維持することが困難であ

    るとしている。

     職業情報の収集については、名称や仕事内容の把握の際に判断に迷う職業

    があること、企業と求職者との間で共通理解が得られにくい職業があること

    などの問題点が指摘されている。その一方で、職種をある程度まとめた大く

    くりの分類枠組みの採用、求人誌・新聞等の情報源からの職業情報の収集、

    独自の職業分類体系や技能測定システムの整備などで職業の変化に対応して

    いる例もみられる。



  (ロ) 職業分類に関しては、労働市場の動向を反映し、仕事内容の変化に対応し

    たものとなるよう使い勝手を考慮した柔軟な体系で、容易に改訂できるもの

    とすることが望ましいとの指摘がある。各職業に求められる能力(スキル)

    やレベル(熟練度)を職業を構成するひとつの要素としてとりあげることが

    示唆されている。



  (ハ) 若年者を対象とした職業情報については、若年就業者の多い職業の紹介な

    ど職業選択のための適切な情報を提供することが重要であると考えられてい

    る。中途採用に関しては、新しい職業名の発生や同一内容の仕事に対して企

    業によって異なった職業名が用いられているといった問題があり、標準的職

    業名を設定することや経歴・仕事内容の記述にあたっては職務遂行に必要な

    スキルを共通言語化して使用することなどが求められている。また、中途採

    用では即戦力が求められることから、求職者が職種転換する際の客観的な指

    標としてスキルを用いることのできるようにすべきであるとの意見がみられ

    た。しかし、この点についてはスキルによって職業を記述する場合、技術系

    の職種ではスキルの指標が比較的自明であるが、事務系ホワイトカラーでは

    スキルの指標についての一般的合意が必ずしも得られているわけではないと

    の問題がある。



 ヘ 職業情報の提供



 情報提供の手段としては、従来、印刷物が中心であったが、コンピュータの普及に

つれてCD-ROMの利用が高まり、さらに近年ではIT技術の進展とともにインターネッ

トの利用が爆発的に増加している。しかし、職業情報の提供・収集についてインター

ネットの活用をみると、高校レベルではコンピュータを用いた情報処理教育が十分に

行われているとはいえず、またインターネット使用のための回線や予算面で活用を促

進するような環境が整備されているとはいえない。大学レベルでは、大卒予定者を対

象としたインターネットでの募集が急速に増加していることもあり、大学生の就職活

動にはインターネットが不可欠な要素となりつつある。

 職業紹介機関や求人情報誌事業者などではインターネットを通じて求人情報を公開

しているケースが多くみられ、求職者は職種や勤務地などの項目を用いて求人の検索

ができる仕組みが整備されている。また、求人者と求職者が相互に情報検索のできる

サイトなども現れ、インターネットを活用した職業情報の提供が急速に拡大している。





2 質問紙調査



 質問紙調査は、前記聞き取り調査の結果を踏まえ、より広範な機関の回答を基に把

握、検証することを目的として実施した。



(1) 調査概要



 イ 調査対象



  求職者             8,440人

  求人企業            4,000社

  民間労働力需給調整機関      310社





 ロ 調査方法



 一部の企業票を除き、協力機関を通じて、調査票を配布し、郵送により回収した。

調査票配布対象は以下のとおり。



  個人票(求職者用)   ハローワーク経由の配布       2,000人



              日本人材紹介事業協会の会員企業経由の配布

                                5,540人



              学生職業センターにおける配布     900人



  企業票(求人用)    ハローワーク経由の配布       2,000社



              無作為抽出による民間企業への配布

              (最近3年間毎年、新卒採用又は中途採用を行った

              民間企業)              2,000社



  民間労働力需給調整機関票 日本人材紹介事業協会の会員企業   277社



  全国求人情報誌協会の会員企業                  33社





 ハ 調査項目



  (1) 求職者用調査票



   ・求職活動(職業選択の際の重視項目及び十分な情報が得られないもの、具体

    的な就職先決定の際の重視項目及び情報が得にくいもの等)



   ・今後の情報整備(就職・転職等を円滑に行えるようになるための情報の整備



   ・対策、新しいメディアによる就職・職業情報の提供に関する認識)



  (2) 求人用調査票



   ・新卒採用、若年者の中途採用(利用する媒体・機関、重視する情報、知りた

    いが適切な情報を得られないもの、求人活動において将来利用が増加する媒

    体・機関等)



   ・社内、グループ会社内での異動や配置転換(重視する情報、利用したいが適

    切な情報を得られないもの)



   ・社内での情報整備、今後の見通し、中高年の転職・再就職



  (3) 民間労働力需給調整機関用調査票



   ・若年、中高年求職者が仕事を選ぶ際に重視する情報及び的確な情報・十分な

    情報を提供できないもの



   ・企業が若年技術者、中高年管理者を採用する際に重視する情報及び的確な情

    報・十分な情報を提供できないもの



   ・社内での情報の電子化の現状(求人情報、求職者情報、情報の電子化を促進

    するための条件整備等)



   ・業務に使用している職業分類、職業情報の現状



   ・中高年の再就職、若年の就職等がより円滑に進むための情報整備・対策





 ニ 調査実施時期



 平成12年12月

 有効回収率は、個人票(求職者用)が14.8%、企業票(求人用)が30.5%、民間労働

力需給調整機関票が30.6%である。



(2) 結果概要



 イ 求職者の求める職業情報



  (イ) 職業選択過程

 

    調査では、求職者の求職活動について、まず幅広い職業分野の中から職業を

   絞り込む過程と具体的な就職先を決定する際の二つの段階を想定して、それぞ

   れにおいて重視・必要とされる職業情報について現状を把握した。

    表1は、職業を絞り込む際に重視する情報を、学生とそれ以外の者で比較し

   たものである。両者とも最も重視するものが「仕事の内容」である。この傾向

   は性別、年齢別に詳細に見ても共通している。これ以外の情報になると学生で

   あるか、そうでないかによって比較的明瞭な違いがみられる。学生についてみ

   ると、約半数の者(49.3%)が「労働条件」を重視する一方、自己に「適した興

   味、関心」(55.9%)や「職場環境」(54.4%)など自己と職場との対応関係を求め

   る情報を重視する者が過半をしめている。次いで、「職業の将来性」のような

   長期的視点から職業をみる者も1/3弱(30.9%)に達している。これに対して、

   「必要な技能・スキル・知識」(20.6%)や「必要な基礎能力、適性」(20.6%)な

   ど現実の仕事遂行に必要な情報を重視する者は相対的に少ない。これは、大半

   の者がこれまで就業経験がないという事実を反映した結果であると考えられる。

    他方、学生以外の者をみると、「労働条件」を重視する者が7割(70.4%)をし

   め、「必要な技能・スキル・知識」(43.4%)や「必要な基礎能力、適性」(30.3

   %)を重視する者も3割を越えている。これらの者は、20代と30代の若年者が過

   半をしめ、大半の者がこれまでに就業経験があることから学生とは異なり、職

   業についてより現実的な情報を重視する姿勢をとっているものとみられる。ま

   た、「職場環境」(55.3%)、「適した興味・関心」(39.4%)、「職業の将来性」

   (37.5)など自己と職業との対応や長期的視点から職業を考える傾向が強くみら

   れる点は学生にみられた傾向と同様である。しかし、学生以外の者は、大半の

   項目において重視する割合が学生よりも高く、情報に対する積極的姿勢がみら

   れる。

    求職者の重視する情報と実際に流通している情報との間には、ズレのみられ

   るものがある。重視する割合の最も高い「仕事の内容」に対して、学生では4

   割の者(40.4%)が、学生以外では約半数の者(49.2%)が情報の不足を指摘してい

   る。仕事内容に関する情報は、職業を理解するために不可欠な、また最も基本

   的な情報であり、職業選択にあたって十分に提供されることが望ましい情報で

   あるが、求職者には必ずしも十分に提供されていない現実が窺える。

    同様に、重視する割合が高く、かつ不足していると考える割合の高い情報は、

   「職場環境」(学生54.4%、学生以外57.8%)と「職業の将来性」(学生36.0%、学

   生以外34.0%)である。これらの情報は、産業、事業所による違いが大きいこと、

   職業の将来展望に関する情報であることなどから一般的・客観的な情報を提供

   することが困難であるとみられる。そのためこれらの情報が不足していると回

   答することはある程度当然と考えられる。

    これ以外の情報については、学生のなかでは「必要な技能・スキル・知識」

   (25.0%)、「必要な基礎能力、適性」(23.5%)、「適した態度、性格」(22.1%)

   に関する情報が不足していると考える者が相対的に多く、学生以外の者のなか

   では「労働条件」(38.6%)、「必要な技能・スキル・知識」(29.9%)、「必要な

   基礎能力、適性」(25.7%)に関する情報をあげる者が多い。このようにスキル

   や能力・適性に関する情報が不足していると考える点では、両者は共通してい

   る。



  (ロ) 就職先決定時に求職者の求める求人情報



    具体的な就職先を決定する場面では、求職者は前記の職業選択の時とは異な

   る職業情報ニーズを持っている。これは、就職企業選択時には個別企業の発信

   する求人情報に対して意志決定を行わなければならないという環境的な背景が

   異なっていることが大きい。職業探索時には主として職業の大要を把握するた

   めの情報に焦点が当てられているが、就職先選択時にはより現実的な視点から

   の情報が求められているといえる。 

    全般的にみると、求職者の重視する割合の高い情報は「仕事の内容」(学生

   77.9%、学生以外82.7%)や労働条件(「労働時間・休日」、「賃金」)、「勤

   務地」(学生72.8%、学生以外78.7%)である(表2)。「募集職種名」を重視す

   る者も多く(学生72.8%、学生以外64.3%)、職種名が企業選択の有力な手がか

   りになっていることを窺わせる。このような全般的傾向は、募集職種名を除い

   て学生よりも学生以外の者に強く表れている。学生の特徴は、企業選択の際に

   職業名を強く意識していることである。

    これら5つの情報項目のうち入手することが困難だと考えている者の割合が

   高い情報は、「仕事の内容」である(学生34.6%、学生以外40.1%)。仕事の内

   容は、最も多くの者が重視していながら、重視する割合の高い5つの情報項目

   のなかで入手することが困難だと考える者の割合が最も高い情報でもある。仕

   事内容を情報として伝えるためには、情報発信者の側の仕事内容に対する理解

   の促進とともに、情報として記述するための視点の整理や用語の整備が必要で

   ある。

    これら5つ以外の情報で重視する傾向にあるのは、「雇用形態」(学生36.8%、

   学生以外60.5%)、「職場の雰囲気」(学生51.5%、学生以外53.2%)、「社内

   の人間関係」(学生38.2%、学生以外42.1%)、「企業の成長性・安定性」(学

   生36.8%、学生以外39.9%)である。これは性別、年齢別を問わず求職者全体に

   共通している。しかし、これらの情報のうち「職場の雰囲気」、「社内の人間

   関係」、「企業の成長性・安定性」は、言語による表現や情報伝達が困難だと

   考えられる情報でもある。事実、「職場の雰囲気」と「社内の人間関係」につ

   いては6割前後の者が入手しがたい情報と考え、「企業の成長性・安定性」に

   ついても1/3程度の者が得がたいと回答している。 

    一方、民間労働力需給調整機関の立場からみた若年者、中高年者の求人情報

   探索行動(表3)は、「仕事の内容」(若年91.6%、中高年80.0%)、「労働条

   件」(若年92.6%、中高年78.9%)、「勤務地」(若年77.9%、中高年71.6%)の

   3項目を重視しているという点においては上述の求職者自身の回答と同様の傾

   向が認められる。しかし、「募集職種名」については、過半の者が重視すると

   回答しているが(学生65.3%、中高年52.6%)、求職者自身の回答よりも重視す

   る者の割合がやや低くなっている。このような民間労働力需給調整機関と求職

   者との回答のズレには、2つの方向がみられる。「職場の雰囲気」や「社内の

   人間関係」に対しては、重視すると考えている者の割合が民間労働力需給調整

   機関のほうが低くなっている。逆に、「企業の成長性・安定性」、「仕事に必

   要なスキル」に対しては、重視すると考えている者の割合が民間労働力需給調

   整機関のほうが高くなっている。つまり民間労働力需給調整機関は、「職場の

   雰囲気」や「社内の人間関係」のような情報は求職者自身ほどには重視せず、

   「企業の成長性・安定性」や「仕事に必要なスキル」に関する情報は求職者自

   身よりも重視する傾向がみられる。

    求職者の求める求人情報のうち民間労働力需給調整機関が十分な情報を提供

   できないと考える割合の高いものは、「社内の人間関係」(77.9%)、「職場

   の雰囲気」(68.4%)、「企業の成長性・安定性」(37.9%)の3項目である。

   これらはいずれも言語による表現や客観的記述の困難な情報である。しかし、

   これらの情報は求職者が重視し、かつ不足を訴えている情報でもある。



 ロ 採用過程において企業の求める求職者情報

 

 次に、企業が求める求職者情報をみてみよう。求人企業調査では、聞き取り調査に

おいて募集対象者によって求める情報に違いがあることが判明した点を踏まえて、技

術・研究職と事務系総合職の採用場面における求職者情報のうち重視するものを選択

するように求めた。まず、職種を問わず、「仕事への意欲」(技術・研究職76.5%、

事務系総合職82.4%)を重視する企業が最も多くみられた(表4)。この情報に次いで、

技術・研究職では「基礎的能力、適性」(52.6%)と「技術・スキル・知識」(51.7

%)を、また、事務系総合職では「態度、行動」(61.0%)と「基礎的能力、適性」

(60.2%)を重視する企業の割合が高い。このような情報の重視点の違いはそれぞれ

の仕事の特質を反映したものとも考えられる。技術・研究職では「態度、行動」を重

視する企業も多く(49.9%)、採用の際には意欲や態度などの求職者の心理的側面が

スキルや能力とともに並列的に重視されるという特徴が表れている。事務系総合職で

は、求職者の心理的側面がいっそう重視される傾向にある。一方、情報のなかで「経

験、経歴」を重視する企業は1/3以下に止まっている(技術・研究職32.7%、事務系総

合職25.8%)。

 このように採用の際に重視すると回答した割合の高い項目は、企業が得にくいと考

えている情報でもある。「態度、行動」に関する情報に対して過半の企業(52.1%)

は情報の入手が困難であると回答し、「仕事への意欲」(43.3%)と「基礎的能力、

適性」(43.0%)については4割以上、「技術、スキル、知識」は4割弱の企業(38.1

%)で得にくいと指摘している。「仕事への意欲」や「態度、行動」など求職者の心

理に関する情報は、客観的な指標を作成して評価することや、言語表現をする際の適

切な用語・表現の未整備など情報提供のための環境が整備されているとはいえず、こ

のため提供されている情報は限定的であると考えられる。これら2項目に比べて「技

術、スキル、知識」や「基礎的能力、適性」は客観的指標を用いた記述や表現に適し

ていると考えられるが、入手しがたいと回答している企業が多くみられたことから、

これらの項目についても情報提供のための環境が十分には整備されていない現実があ

るものと考えられる。 

 求人企業調査の本質問項目に対応して、民間労働力需給調整機関調査では、若年技

術者と中高年管理者を採用する際の重視する情報を尋ねている(表5)。若年技術者

では「技術、スキル、知識」(87.4%)、中高年管理者では「経験、経歴」(88.4%)

を重視すると回答した割合が最も高く、企業調査で重視する割合の最も高かった「仕

事への意欲」を重視する割合(若年技術者83.2%、中高年管理職69.5%)を上回ってい

る。これらとともに、若年技術者では「基礎的能力、適性」(70.5%)と「経験、経

歴」(69.5%)を、中高年管理職では「技術、スキル、知識」(84.2%)と「態度、行

動」(55.8%)を重視すると考える機関の割合が高い。このように若年技術者の採用

では、仕事の遂行に必要な能力を中心とした情報を重視し、中高年管理職の採用では、

経験に裏打ちされたスキルを重視する点が特徴といえよう。

 民間労働力需給調整機関が企業に的確な情報を提供できないと考える割合の最も高

い項目は、「基礎的能力、適性」(47.4%)である。これに次いで、「態度、行動」

(43.2%)、「仕事への意欲」(35.8%)が指摘されている。また、「技術、スキル、

知識」(29.5%)も相対的に高い割合をしめている。このように民間労働力需給調整

機関が的確な情報を提供できないと考えている項目は、企業が得にくいと考えている

情報と符号することが確認された。



 ハ 求職者のための情報の整備、対策等

 

 労働市場における円滑な労働移動を進めるためには、制度面における整備を図ると

ともに、それと同時に情報面での下支えが必要である。就職に限らず、転職、再就職

などの際に求職者が最も役立つと考える制度面での対策は、「専門的に支援する体制

の整備」(57.2%)である(表6)。きめ細かな相談やガイダンスに始まり、就職に至

るまでの過程で専門的な立場からの支援が得られるような体制の整備が強く求められ

ているといえる。また、「学生時代から実際の職業に触れる機会の拡充」が必要であ

ると考える者も比較的多いが(37.6%)、この選択肢を選ぶ者は学生以外の者よりも

学生に多く、後者の期待の高さを示している。

 これらの制度面の整備に加えて、ITを活用したインターネット上のさまざまな情

報サービスが就職等の際に役に立つと考える者が多くみられる。すなわち、「ネット

上の求人情報」(52.4%)、「ネット上で提供される仕事・職業ガイド情報」(42.4

%)、「ITを活用した新しい就職支援サービス」(37.6%)、「ネット上で閲覧でき

る能力開発情報」(37.3%)、「ネット上で手軽にできる職業興味検査、適性検査」

(31.6%)などである。インターネットでの情報提供は、学生以外の者よりも学生に

おいて就職等に非常に役立つと考えている者が多いことが特徴である。 

 このようにインターネット技術を活用した情報提供サービス対しては積極的、肯定

的に評価する者が多いが、その影響や限界についても認識している者が多い。プラス

の面では、インターネット等のニューメディアは、「職探しが効率的になり便利」

(75.9%)、「職業を幅広く詳しく知ることができる」(59.6%)、「欲しい情報がい

つでも入手できる」(59.0%)など従来のメディアに比べて利便性が高まるとみる者

が過半をしめている(表7)。その一方で、7割を越える者が「情報格差が発生する」

(76.8%)、「個人情報の流用・悪用が懸念される」(71.4%)ことなどの問題点を指

摘し、マイナス面での影響を懸念する者が多い。また、情報格差に関する意識の高ま

りがみられ、大半の者(86.6%)は「パソコンを使えない人のための基盤整備」が必

要であると考えている。それとともに、「今までのメディアも必要に応じ使い分け」

(81.4%)を行い、情報が入手しやすくなっても「人の介在するサービスの重要性は

不変」(70.6%)と考える者が多数をしめている。 

 以上は求職者個人の視点であるが、次に、民間労働力需給調整機関や企業は情報整

備の方向をどのようにみているか概観してみよう。民間労働力需給調整機関では、若

年者の円滑な就職のためには、対策としては「学生時代に実際の職業に触れる機会の

増加」(50.5%)や「中高校での職業教育・キャリアガイダンスの充実」(32.6%)な

ど在学中における職業意識の啓発が有効であると考える機関が多く、情報の面では、

インターネットを活用した、「求人情報の拡充・整備」(35.8%)、「仕事・職業ガ

イドの提供」(32.6%)などが有効であるとみる機関が相対的に多い(表8)。 

 中高年の円滑な労働移動のための対策に関する一般企業の視点をみると、「年功的

な賃金・処遇から、仕事に応じた賃金・処遇への意識変化」(50.5%)や「再就職を

専門的に支援する体制の整備」(47.2%)が有効であると考える企業が約半数をしめ

ている(表9)。情報面では、「インターネット上の求人情報の整備」(38.5%)が有

効であるとする企業の割合が最も高い。また、インターネット上の求人情報に加えて、

「インターネット上の中高年人材データベースの公開」(31.8%)や「インターネッ

トでの仕事・職業ガイドの提供」(31.0%)も整備すべき有効な情報として指摘する

企業が多い。



 ニ 社内における職業情報の整備状況



 (イ) 異動や配置転換における重視項目

 

 企業は従業員の異動や配置転換に際して職業に関する情報の中ではどのような項目

を重視しているのであろうか。技術・研究職と事務系総合職をみると、基本的には上

述(2)ロの採用時に重視する項目とほぼ重なり合うと考えられる。すなわち、「仕

事への意欲」(技術・研究職61.9%、事務系総合職63.8%)、「技術・スキル・知識」

(技術・研究職59.9%、事務系総合職49.6%)を重視する企業が多い(表10)。採用時

の重視点と大きく異なる点は、いずれの職においても「実績、業績」、「経験、経

歴」を重視する企業が半数をしめていることである。これ以外の項目で重視する割合

の高いものは、「基礎的能力、適性」や「態度、行動」などである。

 従業員の異動や配置転換の際に利用したい情報のうち入手することが困難だと考え

ている情報は、割合の高い順に、「本人の将来目標」(34.5%)、「仕事への意欲」

(31.4%)、「態度、行動」(30.0%)、「基礎的能力、適性」(29.7%)、「興味、

関心」(27.3%)となっている。このうち、本人の将来目標や興味・関心は自己申告

等によってある程度把握することは可能である。しかし、仕事への意欲や態度・行動

は上司等による観察や評価は可能であっても客観性の確保が困難な項目である。

 また、約3割の企業では基礎的能力・適性に関する情報が入手しがたいと考えてお

り、この点にはふたつの問題が潜んでいると考えられる。第1は、人サイドの情報収

集の問題である。すなわち、従業員の職務遂行上の能力や適性を適切に把握するため

の心理検査用具等の普及の問題が関連している。第2は、職務に従事している人の平

均像の把握の問題である。当該職務に従事している人の能力・適性に関するデータの

整備とその蓄積が関係している。



 (ロ) 社内における職業情報の取り組み

 

 企業内における職業に関する情報の整備状況をみると、「各ポストの仕事内容の簡

単な記述」(40.3%)や「各職務の明確な記述」(36.3%)など職業の内容についての

記述資料を整えている企業は半数に満たない(表11)。職務やスキルの記述を行う際

に適当な用語がないと指摘する企業は2割弱であり、実際に各ポストや職務に関する

記述資料を整備している企業では記述の際に用語はあまり問題になっていないと考え

られる。しかし、この点については用語そのものに問題がないことを意味しているわ

けではないことに注意しなければならない。職務やスキルは、ある面では企業特殊的

にならざるをえず、そのような企業特殊的な職務やスキルをそれを表すために企業内

で用いている用語を使って記述している可能性が高いからである。

 次に、社内の人材面の情報についてみると、異動や配置転換の際に活用する社内人

材の情報が十分に整備されていると回答した企業は2割に過ぎず、6割を越える企業で

は社内の人材データベースを整備する必要があると考えている。データベース作成の

際には上述(イ)の情報項目が指針となりうるであろう。そうであれば、企業は入手困

難だと考えている情報について何らかの対応をとることを求められているといえる。



 ホ 汎用的職業情報の整備の現状と方向



 (イ) 職業分類の現状



 職務を単位として職業を区分したものが職業分類である。現在わが国の公務部門で

は統計表章用として総務庁が作成している日本標準職業分類と、職業紹介・職業相談

等の業務に使用する労働省編職業分類のふたつが広く用いられている。民間労働力需

給調整機関調査によると、求人における募集職種や求職者の希望職種を分類するため

に職業分類を使用している機関は8割を越えている。その分類体系をみると、全体の

約半数(49.5%)のものは各社独自の分類設定である。労働省編職業分類やそれに準

拠した分類を用いている機関は1/4を上回り(26.3%)、日本標準職業分類やそれに準

拠した分類を使用している機関は少数(7.4%)に止まっている。

 職業分類は産業構造や仕事内容の変化に伴って随時見直しが必要である。分類体系

を定期的に見直す機関は全体の1/4程度(26.3%)に過ぎず、過半の機関では新たに把

握した職業名を「その他」の分類コードに入れるか(32.6%)、「その他」から新た

な職業を独立させること(24.2%)によって職業の変化に対応している。変化の急速

な分野では、分類体系の見直しがいっそう切実な問題となっている。特に見直しが必

要となっている分野は、IT及び通信関連の職業である(77.9%)。次いで、福祉関

係(23.2%)やバイオ関係(23.2%)の分野を指摘する機関が多いが、割合としてはI

T及び通信関連分野の1/3以下である。

 職業名は、従来、一般的には仕事内容を表す名称が多く用いられてきたが、「同じ

内容の仕事が新たな呼び方になることが多くなっている」(54.7%)との指摘や、仕

事内容が分からない新たな職業名が多くなっている」(38.9%)と考えている機関が

多くみられる。また、職業情報の整備にあたって、職務や個人のスキルを記述する際

に適切な用語がなく不自由だと考えている機関(職務44.2%、スキル35.8%)が、不自

由とは考えない機関の割合(職務25.3%、スキル24.2%)を大きく上回っている。この

点は、上述ニ(ロ)の事実に反するようにみえるが、ニ(ロ)では企業が自社内の職

務やスキルを記述する観点から回答していることに対して、この設問の対象になって

いる民間労働力需給調整機関では、企業・業界横断的な観点から職務やスキルの記述

の問題点を指摘している点に注意しなければならない。すなわち、個別企業内では職

務・スキルを記述できても、記述用語の共有化・一般化が行われていない環境下では

当該職務・スキルを企業・業界横断的に記述する際には記述用語の障壁に直面するこ

とになる。



 (ロ) 必要とされる情報とその提供方法

 

 企業は、組織の垣根を越えて広く社会一般で活用される職業情報にはどのような内

容が含まれるべきであると考えているのだろうか。社会的に整備すべき職業情報とし

て相対的に必要性が高いと認識するものは「職務遂行に必要な技術・スキル水準の客

観的な目安」(43.0%)と「職業の内容(職務レベルでの仕事内容の客観的な記述

)」(34.0%)の2項目である(表12)。これらの項目に次いで、「職業に必要な教

育・訓練・経験等のレベルの情報」(28.0%)と「求職者の適性要件と職種の必要要

件との間の客観的な対応関係の資料」(22.7%)を指摘する企業が多い。これらの情

報は、「職業の内容」を除いて、いずれも採用や従業員の異動等の際の重要なポイン

トとなるものであり、その意味では企業にとって社会的に整備される必要性が高いと

判断されるものである。これに対して、「職業の内容」に関する情報は、採用や従業

員の異動等に用いられるというより、情報の活用主体はむしろ求職者側にある。求職

者の当該職業に関する意識の啓発・向上のための情報整備である面が強い。

 企業に対する上述の問と同じ質問を民間労働力需給調整機関に行った。その回答結

果は、企業調査の結果とほぼ同様である。情報整備が是非とも必要であると回答した

割合の最も高い項目は、「職業の内容」(49.5%)と「職務遂行に必要な技術・スキ

ル水準の客観的な目安」(42.1%)のふたつである。前者はマッチングにあたり、当

該職業の一般的な仕事内容を把握する必要から求められ、後者はマッチングそのもの

の可能性を検討する際の情報として求められているとみられる。このように企業の立

場からも、また求人・求職者のマッチングを行う民間労働力需給調整機関の立場から

も同じ結果となり、これらの情報が各般から強く求められていることの反映といえよ

う。

 次に、このようにして整備された一般的な職業情報の提供形態についてみると、民

間労働力需給調整機関では、今後は、インターネットでの提供を希望する機関が圧倒

的多数をしめている(83.2%)。しかし、インターネットは印刷物の利点をすべて代

替できるわけではなく、印刷物には他のメディアとは異なる固有の利便性があるため、

今後機関が半数(50.5%)をしめている。

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