事例報告4: HELP MAN!●JAPANプロジェクト~若者が活躍できる産業として~
介護職の安定的な採用・確保に向けて
第62回労働政策フォーラム (2012年9月19日)

<事例報告4> HELP MAN!JAPANプロジェクト~若者が活躍できる産業として~

門野友彦 株式会社リクルートHR・斡旋カンパニー 雇用創出支援グループ HELPMAN JAPAN担当

写真:門野氏

今日はリクルートが講談社と一緒に介護業界の採用・定着・戦力化の支援について取り組んでいるHELP MAN!JAPANというプロジェクトをご紹介します。プロジェクト名の「HELP MAN!」は、講談社が出版している介護職を主人公にした漫画「ヘルプマン!」からきています。学生に介護業界の正しいイメージを形成するには、「映像やテキスト情報ではなく漫画が一番いいんじゃないか!」ということで講談社と一緒にプロジェクトを立ち上げました。

しかし何故、リクルートが介護業界の支援を行うのか?という疑問は残ると思います。リクルートは就職支援WEBサイト「リクナビ」や就職イベントで学生の就職活動を支援していますが、 ①就職活動の長期化 ②多くの未内定者 ③就職・採用活動の社会的コスト ④大手企業と中小企業の需給ギャップなどの問題が、現在も社会問題としてよく取り上げられています。

「7つの約束」を宣言

このような社会問題に対し私たちは「7つの約束」を宣言し問題解決に取り組む事にしました(図表1)。7つの中でも特に ① ② ⑥番目の約束から介護業界を支援する事を腹決めして取り組んでいます。

図表1 リクナビ「7つの約束」※2010年9月28日

図表1

図表2は介護業界に対する私たちの取り組みをマップにしたものです。一番下から始まるのですが、活躍人材の採用がちゃんとできる状態をつくり、採用した人が定着して活躍すれば、最終的にぐるっと回って「世界に誇れる日本のケアビジネス」になるだろうというものです。今日はこのマップの ①「業界への正しい理解・イメージ形成」と ②「活躍人材を採用するノウハウ」を中心に紹介します。

図表2 実現したい世界

図表2

漫画「ヘルプマン!」とタイアップ

図表3 HELP MAN!JAPANのスタンス

図表3

まず最初は ①イメージ形成です。漫画「ヘルプマン!」とタイアップして冊子をつくってリクルートの就職イベントで無料で配っています。希望する学校には直接お送りしていますし、介護事業者向けの勉強会でも使用しています。冊子だけでは届ける先が限られるので「HELP MAN!JAPAN」のサイトも立ち上げ、フェイスブックとも連動させています。サイトのコンテンツとしては、「次代の介護を創る44人(発言時)」ということで、順次取材をしながら現場で活躍されている人を取り上げています。また、「介護ビジネスの未来」ということで世界が日本の介護に注目している事実を伝えています。他にも、「MORE INFO」で介護業界のデータや漫画の紹介、介護業界で活躍している方々からのメッセージ動画もアップしています。

介護業界は、残念ながら悪いイメージを形成している一部の事業者が、新聞やテレビで取り上げられ、業界すべてが悪いというイメージになっています。そこで私たちは、頑張って進化を生み出す原動力となっている人材や事業者に注目して、社会に発信することで業界全体のイメージを上げていきたいと考えています。ボトムアップではなくトップアップ(図表3)。民間なので、頑張っているところに注目し光を当てていきたいと思っています。

丁寧に情報発信すれば介護の魅力は伝わる

毎年約60万人の学生にリクナビを使ってもらっていますので、こういう情報をどんどん発信しています。また今後は、数百万人の就職・転職希望者が見ている「はたらいく」「タウンワーク」「とらばーゆ」など転職メディアでも情報発信し、イメージアップしていきたいと考えています。

昨年、「リクナビチャンネル」という学生参加型の双方向のインターネット番組をやりました。テーマは「世界最高齢を誇れる国へ日本の未来産業を語ろう」。スタジオから発信したメッセージに対して、学生がアンケートに答えたり、チャットで本音をガンガン打ち込んでくる。打ち込んだコメントに対して、スタジオで取り上げてメッセージを返すというような形でやりました。図表4が番組で「介護業界で働くことがイメージできますか」と尋ねたアンケートの結果です。スタート時には「あまりイメージできない」「皆目見当もつかない」が半分近くを占めていましたが、終了時にはほとんどの学生に介護業界で働くイメージを持ってもらえました。参加者の半分以上は福祉を学んでいない一般学生です。丁寧にコミュニケーションすれば「介護の魅力は伝わる」という事を実感しました。

図表4 アンケート「介護業界で働くということがイメージできますか?」

図表4

また、今年は札幌の就職イベントで介護業界のパネルディスカッションをやりました。参加学生は50人。福祉を学んだ学生は2人のみでほとんどが一般学生でしたが、パネルディスカッションの後、アンケートをとったら、介護業界への志望度が上がった人が75%に達しました。丁寧に情報発信したりコミュニケーションすれば、インターネットでもリアルでも介護の魅力は伝わることがわかりました。

福祉業界へのエントリー数の推移

図表5は2011年卒~2013年卒(予定)の学生の福祉業界へのエントリーの件数の推移です。2013年卒(予定)は去年より下がっていますが、これは就職協定の絡みで2カ月分、学生の活動期間が減っているために総数が減ってしまいました。これは全産業共通の傾向です。しかし、下のグラフの全エントリーに占める福祉業界へのエントリーの比率は上がりました。つまり、活動の総数は減っていても、福祉分野へのエントリー数は増えたことになります。業界のランキングで、福祉関連は2011年卒の93位から昨年は81位、今年は78位と少しずつ上がってきています。

図表5 福祉業界へのエントリー状況 ※2012年7月末時点

図表5

活躍人材の要件を調査

次に、活躍人材を採用するノウハウです。活躍人材を採用するにも介護業界で活躍できる人材の要件が分からないと手が打てないので、有料老人ホーム最大手のベネッセスタイルケアの協力を得て活躍人材の要件を調べました。具体的には、SPI2という性格検査を用いたところ、日本人の代表的な6タイプ(図表6)の中の「慎重・繊細」タイプに波形がピッタリ合いました。つまり、日本人の13.4%に当たる慎重・繊細タイプの人は介護業界で活躍できます。慎重・繊細タイプ「だけ」が活躍できるのではなくて、慎重・繊細タイプの人にとっては介護業界は働きやすい職場であるという事がベネッセスタイルケアのお陰で明らかになりました。毎年約60万人の学生が卒業するとして、その13.4%の約8万人が活躍できることが明らかになったわけです。

図表6 SPI2の代表的な6タイプと出現率

図表6

活躍人材の採用ノウハウ

活躍人材を採用するノウハウについては、「このように工夫したら採用できました」という事例を取材してノウハウとして配っています。ポイントは「学生目線で自分の施設を見なおすこと」と「新卒採用は経営そのもの」ということです。経営がよくならなければ採用成功できるわけがないので、採用成功しようと思うならまず経営を磨きましょうということです。

また、全国で採用ノウハウ勉強会も実施しています。具体的には、①採用はマーケティングなので、マーケティングの3C のフレームで採用活動を考える ②企業広告と求人広告は別物なので、採用のためのパンフレットを用意する ③自法人の「らしさ」を磨きちゃんと伝えることが最重要――などの内容を盛り込んでいます。ご希望があれば全国どこでも参りますので(kadono [at] r.recruit.co.jp ※[at]を@にご修正ください。)までご連絡ください。

定着・戦力化には初心・最初の3カ月・同期の絆

定着・戦力化力をUPするには、採用力を上げる事が一番重要です。選んで学生を採れば、その学生は自分のところに合った学生です。なおかつ学生が選んでくれているので、学生にとってもいい事業所のはずです。だから、定着・戦力化しやすい。多くの事業者は採用力がないので、「選べずに」来た人を採って、結果、定着・戦力化せずに辞めていくという悪循環を繰り返しています。

しかし「定着・戦力化したいなら採用力をUPしなさい」と言いきってしまうと身も蓋もないので、ベネッセスタイルケア様の協力を得て、9日間の中途採用導入研修と、17日間の新卒導入研修の見学と、従業員のインタビューをさせてもらった結果、定着・戦力化の3つのポイントが見えてきました。それは「初心」「最初の3カ月」「同期の絆」です。

なぜこの業界を選んだのか、なぜこの法人を選んだのかという「初心」を周囲が関わり、ちゃんと意識し続けさせること。「最初の3カ月」を乗り越えれば何とかなること。そのためには「同期の絆」をちゃんとつくることでした。3カ月を越えると先輩や上司が本当の意味での支援者として機能するようになりますが、それまでは先輩・上司は遠い存在で本音を言う機会がありません。この初めの3カ月を支えるのが同期の存在なのです。この3つをテーマとしてプログラムを組んでいけば定着するのが明らかになりましたので、自法人だけでは十分な導入研修を運営できない事業者の皆様向けに、今後形にしていきたいと考えています。

今後の課題

今後に関しては、学校との連携を強化して学生のイメージ形成を推進したいと考えています。HELP MAN!JAPANで取り上げているコンテンツをもっともっと伝えたり、就職先の選び方についても情報提供したいと思っています。

事業者向けには、活躍人材を採用するノウハウを発信する段階から一歩進んで、使える状態まで支援するところまで踏み込んでいきたいと思っています。

定着・戦力化については最も影響力があるのは施設長だと思います。施設長がちゃんとしているところは定着していて、逆にちゃんとしていないところは定着していないという話はどこに行ってもお聞きします。よって、活躍する施設長の要件をきちっと調べて世の中に情報発信したいと考えています。新卒の導入研修プログラムについても、先ほどのノウハウの部分も含めてプログラム化して進めていきたいと思っています。