2035年には就業者の育児・介護・ダブルケアの就業者が1,285万人に
――パーソル総合研究所の「ケア就業者に関する研究」結果
労組・業界団体の記者会見、調査発表から
パーソル総合研究所は7月10日、「ケア就業者に関する研究」の結果を公表した。研究結果では、働きながら家族の介護や育児をする「ケア就業者」が2035年には2022年より約10%増えて1,285万人に達し、就業者の6人に1人を占めると推計。あわせて、ケア就業者のいる職場の課題などを調べたアンケート調査結果では、ケア就業者の業務をフォローする周囲の「非ケア就業者」の4割超が不満を抱いていることがわかった。
ケア就業者数はパーソル総合研究所と中央大学が2024年10月に発表した「労働市場の未来推計2035」をもとに、その時点でのケア就業者(育児就業者・介護就業者・ダブルケア就業者)の人数をそれぞれ推計した。一方、「ケア就業者のいる職場の課題と課題解決のためのポイントを明らかにする」目的で実施したアンケート調査は、2024年12月に20〜69歳の就業者を対象にインターネットで行い、有効回答数4,833件(ケア就業者3,137件、非ケア就業者1,696件)の回答を集計している。なお、調査では、ケア就業者を「働きながら、育児・介護といったケアを行っている者」と定義している。
<ケア就業者の推計>
2035年の育児就業者数は22年比約5%増の844万人
それによると、2035年に育児をしながら働く人は2022年比4.6%(37万人)増の844万人。男性の育児就業率と女性の労働力率(労働参加率)の増加を背景に、男女ともに40代以外の全年代で育児就業者が増える見込みだとしている。
介護就業者数も約2割増えて420万人
2035年に介護をしながら働く人も、高齢化の進行や全般的な労働力率の上昇に伴い、同20.4%(71万人)増えて420万人を見込む。性・年代別では、男性は60・70代以上、女性では50~70代以上で介護就業者が増えるとする。
育児と介護のダブルケア就業者数は3割強増加して21.2万人に
2035年に、育児も介護もしながらダブルケアで働く人は、同33.8%(5.4万人)増の21.2万人。ダブルケア就業者は、晩婚化や晩産化、高齢化を要因に、男女ともに全ての年代で増える見込みだ。
<ケア就業者の職場実態と課題>
約8割が柔軟な働き方に関する制度を「利用していない」
一方、ケア就業者の職場の実態と課題を調べたアンケート調査結果をみると、ケア就業者の短時間勤務やテレワーク勤務、フレックスタイム勤務、時間単位での有給休暇取得などといった柔軟な働き方に関する制度の、企業整備率に対する個人利用率の割合は平均で20.8%にとどまった。制度利用を認められているケア就業者の約8割が、柔軟な働き方に関する制度を利用していない状況だ。
また、ケア就業者が周りの従業員に自分の仕事を任せることがある割合は37.7%(「とてもあてはまる」+「あてはまる」+「ややあてはまる」)。また、柔軟な働き方に関する制度利用の有無別にみると、制度を利用していないケア就業者の周囲からの業務のフォローを受けている割合が26.5%だったのに対し、制度を利用している就業者のフォローを受けている割合は53.4%と、制度を利用するケア就業者のほうが周囲から業務のフォローを受けている割合が高い。
業務フォローしているほうが長い「非ケア就業者」の残業時間
一方、ケア就業者の業務をフォローする「非ケア就業者」の残業時間は14.1時間で、ケア就業者の業務をフォローしていない就業者(8.5時間)より約1.7倍(5.6時間)長い。また、非ケア就業者側が、ケア就業者に不満を抱いている割合は42.6%(「とてもあてはまる」+「あてはまる」+「ややあてはまる」)。パーソルでは、「ケア就業者への不満あり層となし層で、『(ケア就業者への)過度な優遇意識』と『就業者の不公平感』の差がみられる」として、ケア就業者への不満と特別扱い感の関連の強さを指摘している。
7割が非ケア就業者への会社の支援が「手薄い」
「ケア就業者の仕事を引き受ける非ケア就業者に対して、企業側の支援が手薄い」と感じている割合は69.2%(「とてもあてはまる」+「あてはまる」+「ややあてはまる」)と、約7割が企業の支援不足を訴えている。また、企業支援の不足を実感している層は、不足の実感がない層に比べ、ケア就業者への特別扱い感の意識が強い傾向もみられた。
なお、柔軟な働き方に関する制度の整備状況別に、非ケア就業者が感じる「ケア就業者への特別扱い感」の意識を比較すると、単純比較では、ほぼ全ての制度で、全面整備(全就業者が制度利用可)よりも条件付き整備(一部の就業者が制度利用可)のほうが、ケア就業者への特別扱い感を強く感じている傾向がある。
非ケア就業者の不満を抑えて制度を利用しやすい風土の醸成を
同研究所の中俣良太研究員は、柔軟な働き方につながる制度が導入されていても5人に4人が利用しない背景に、「周囲への仕事のしわ寄せを恐れるケア就業者の意識が潜む」ことを指摘。「本調査からは、周囲への業務の代替が、非ケア就業者側の不満を高めており、こうした不満の蓄積が、ケア就業者の制度利用の足かせとなっている可能性がうかがえる」として、「今後は、非ケア就業者の意識により一層目を向け、調整型の上司マネジメントを行っていくことや、働き方制度における特別扱いを緩和していくことなどが重要になる」と訴えている。
そのうえで、ケア就業者の活躍促進には、「その周りにいる非ケア就業者も含めた包括的なアプローチへと転換することが不可欠」だと述べ、「非ケア就業者側の不満を抑制し、ケア就業者が働き方制度を利用しやすい風土を醸成していく」必要性を強調している。
(調査部)
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