やりがいがあっても低賃金・人手不足・ハラスメントで働き続けられない。全産業平均との賃金格差は月11万円に
――全労連介護・ヘルパーネットが調査
労組・業界団体の記者会見、調査発表から
介護の仕事にやりがいを感じているが、低賃金や人手不足、ハラスメントなどで働き続けることができない――。全労連に加盟する介護労働者を組織する単産・地方組織でつくる全労連介護・ヘルパーネットが実施した「介護労働実態調査」で、こんな状況が明らかになった。それによると、介護職場の正職員の賃金は月額平均24万9,585円で全産業平均より約11万円も低く、労働時間は正規・非正規ともに増加しており人手不足の影響がうかがえる。ハラスメントも、この1年間に4割近くの介護職が経験。ハラスメントを受けたことが「ある」人は、「ない」人より辞めたいと思う割合が倍以上も多くなるなど、ハラスメントの悪影響が深刻なこともわかった。
調査は介護労働の実態把握が目的。2024年10月1日~12月31日に、加盟組合や未組織職場を通じて、介護労働者6,353人分の回答をまとめた。回答者の平均年齢は50.1歳、正職員が57.2%で78.8%を女性が占める。調査は2018年以来約6年ぶり。
全産業平均より11万円低い介護正職員の賃金
それによると、「毎月きまって支払われる賃金(総支給額)」の平均(上位・下位5%除く)は、「正職員」が月額24万9,585円だったほか、「臨時・パート職員(フルタイム)」同17万290円、「臨時・パート職員(短時間・厚生年金加入)」同14万2,253円、「臨時・パート職員(短時間・厚生年金未加入)」同7万313円、「登録ヘルパー」同5万3,629円、「下請・派遣」同11万978円、「嘱託・継続雇用・再雇用」同20万4,494円だった。「正職員」を、厚生労働省の「2024年賃金構造基本統計調査」の全産業の一般労働者での「毎月きまって支給する現金給与額」(35万9,600円)と比較すると、約11万円低くなっている。
平均賃金は40代をピークに下降
平均賃金を年齢別にみると、「20歳未満」の18万2,324円から「20代」(18万8,810円)、「30代」(22万2,283円)と上がっていき、「40代」の22万8,884円をピークに「50代」は21万4,888円、「60代」は15万5,248円に下がる。他方、通算経験年数で比較すると、平均賃金は経験年数が長くなるほど高くなる傾向にある。40代をピークに賃金が下がっていく背景について、介護・ヘルパーネットは「中高年になって初めて介護職に就く人の割合が比較的高く、一方で40代の正職員の割合が他の世代と比べて多いことが影響している」とみている。
6割近くで定期昇給があった一方、ベアは3割弱にとどまる
賃上げの実施状況では、全体の58.0%が「定期昇給があった」と回答。ただし、「定期昇給と別に基本給引上げ(ベースアップ)があった」のは27.5%にとどまる。雇用形態別では、「正職員」は71.2%が「定期昇給があった」と答えているが、「臨時・パート職員」は半数以下で、特に「登録ヘルパー」は35.6%と3分の1程度に過ぎない。また、「定期昇給と別に基本給引上げ(ベースアップ)があった」と回答したのはいずれの雇用形態も3割を下回った。介護・ヘルパーネットは、「政府の進める処遇改善策が、現場の介護労働者には十分に届いておらず、物価高に追いついていないことがうかがえる結果だ」と指摘している。
正規・非正規ともに労働時間が増加
ひと月の平均勤務日数は、全体平均で19.3日。雇用形態別では、「正職員」が平均20.8日、「嘱託・継続雇用・再雇用」が平均20.1日、「臨時・パート職員(フルタイム)」が平均19.4日、「下請・派遣」は平均18.1日、「臨時・パート職員(短時間・厚生年金加入)は平均17.9日、「登録ヘルパー」は平均15.3日、「臨時・パート職員(短時間・厚生年金未加入)」は平均13.1日などとなっており、全体の85.8%が「16日~25日」の間に集中している。
ひと月の勤務時間をみると、全体平均は130.9時間(上位・下位10%除く)だった。雇用形態別では、「正職員」は「160時間以上・200時間未満」が57.7%を占め、平均で前回調査より2.1時間増の158.7時間となっている。
非正規雇用労働者は、「嘱託・継続雇用・再雇用」の平均151.7時間(前回調査比13.4時間増)が最も長く、次いで「臨時・パート職員(フルタイム)」の平均140.4時間(同5.9時間増)が続く。6年前の前回調査より労働時間が伸びており、人手不足を長時間労働で補っている様子がうかがえる。
一方、「登録ヘルパー」は、前回調査より7.7時間短い平均34.2時間となった。勤務時間を就業職場ごとにみると、「訪問介護」が平均94.5時間と最も短く、介護・ヘルパーネットは「訪問するまでの移動や待機時間が勤務時間に入らないとなっているケースが多いことによるものと思われる」としている。
7割強が「やりがい感じる」も「続けたい」は6割以下
「介護の仕事をやっていてよかったと思うか」との問いには、「すごく思う(12.0%)」と「そう思う(57.0%)」を合わせて69.0%が、介護の仕事に就いてよかったと考えていた。「介護はやりがいのある仕事だと思うか」との問いに対しても、「すごく思う(16.8%)」と「そう思う(60.0%)」を合わせて76.8%が、やりがいを感じている。
ただし、介護の仕事を継続する意思を示した人は、「今後も続ける(13.6%)」と「続けたいと思う(45.9%)」を合わせて59.5%にとどまっている。なかでも、介護の仕事にやりがいがある(「すごく思う」と「そう思う」の合計)と回答した人の7.5%が「続けたいと思わない」と答えており、2.1%は「早くやめたい」と思っている。少なくない人が「やりがいがある」のに「続けたくない」と考えている様子が見て取れる。
これを雇用形態別にみると、「正職員」では、73.3%がやりがいを感じているものの、「続けたいと思わない」と「早くやめたい」の合計が20.0%。さらに、年齢別に勤続継続意欲をみると、「20代」では「続けたいと思わない」と「早くやめたい」人が合わせて26.9%に及ぶ。
ハラスメントも離職の一因に
調査はハラスメントの状況も尋ねている。この1年間に上司や同僚、利用者・利用者家族から何らかのハラスメントを受けた人の割合は37.4%だった。このうち、介護の仕事を「続けたいと思わない」と「早くやめたい」と答えた人は合計で24.5%にのぼり、ハラスメントを受けていない人(12.1%)の倍以上。介護・ヘルパーネットは、「すでに退職した人もいると思われ、雇用の面からも根絶が必要」だと訴えている。
介護現場・労働者の実態を報告
こうした結果を踏まえ、全労連介護・ヘルパーネットは7月9日、厚生労働省に「介護報酬の大幅な引上げと介護労働者の処遇改善等を求める」要請を実施。その後、記者会見を開き、介護現場で働く労働者のおかれている実態を報告した。
この10年ほどで保育と介護の年収に30万円の差/福祉保育労
民間保育所や高齢者介護の職場などで働く労働者を組織する福祉保育労の民谷孝則書記次長は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査で介護職員の賃金が「2008年から2014年まで長きに渡り年収換算で300~310万円程度。その後、国の処遇改善策の効果も一定あり、24年には364万円になったが、全産業平均とは年収で150万円程度の差がある」ことに言及したうえで、「同調査では、保育士の賃金も2013年は310万円を切っていたが、政策による処遇改善が進められ、十分ではないものの昨年は394万円になった。10年ほど前は保育と介護の賃金水準は同じだったが、昨年の調査では年収で30万円の格差がついている。月額ではあまり変わらないものの、特に一時金の支払いで介護職員は保育士より23万円も低い」などと述べて、同期間に保育士の賃金水準が上昇してきたことを指摘した。
その理由について、「保育園は民間企業の賃金動向を踏まえた人事院勧告に連動して事業所収入となる法定価格が引き上がる仕組み。昨年度は公定価格(施設型給付費の人件費)が10.7%上がったことで、今春闘では1万円以上のベースアップとなった保育園もある。一方、介護報酬の改定は3年に1回で、他業種の賃金動向などは基本的に連動しない」などと説明する。
さらに、2025年度の人事院勧告に伴う公定価格の増額改定の可能性も見据えて、「人事院勧告が引き上がる見通しのもとでは、保育の法定価格は今年4月に溯って適用されることになり、介護職員と他産業との格差、保育園職員との賃金格差はさらに広がっていくことが見込まれる状況になっている」などと予測。「少なくない自治体が保育士に対して独自の手当を支給したり、奨学金の返済補助を出したりする自治体も増えている。しかし、介護職員にそのような施策を打っている自治体はごくまれでしかない」ことも付言して、「ケア労働者のなかでも特に遅れている介護職員の大幅賃上げを一刻も早く実現させていく必要がある」と強調した。
賃金が上がり業務が認められれば「大変だけど頑張る」気持ちになる/東京民医労
また、特別養護老人ホームで介護福祉士として働く東京民医労の上野太一氏は、「現場は人が足りないから夜勤に派遣を入れたり、(妊娠などの事情を抱える職員の)夜勤を免除しようとなると、夜勤の人数が少なく、(他の職員が)多く入らねばならない、派遣を入れることが常態化しつつある。現場では『辞めたい』との声が常に聞かれていて、実際、この数カ月で中堅が3人辞めていった。給料が低いことが原因の1つにあることは、これまでの会話から思っている。これだけの物価高なのに低い賃金水準では、将来の展望が描けない」と、現場の窮状を話した。
入職してくる職員が年々減っている一方で、外国人職員が増えていることも感じているという。「(担当する)フロアでは非常勤職員も含め20人ぐらいの職員がいるが、そのうち4人がベトナム、中国、バングラデシュ、フィリピンから来て一緒に働いている。介護の学校に通っている学生もネパールから来ていて、一緒に現場に入りながら学んでいる」などと語り、言語や文化の壁があるなかで、介護職員として活躍してもらうまでに今まで以上に配慮が必要になっている」ことを指摘した。
さらに、認知症や精神疾患への対応など、「緊張感の連続で神経をすり減らしながら働いている」うえに、「早番・遅番・夜勤といったシフト勤務や家族への対応も含め、利用者の命と生活を守る専門職に見合った賃金になっていかないと働き続けることは難しい」とする一方で、「賃金が上がり自分たちの業務を認めてもらえたら、『大変だけど頑張っていこう』という気持ちになるし、介護職を目指す人が増えるようにもなって欲しい」として、処遇改善を求めていく思いを訴えた。
人手不足が加速し高齢化も進む訪問介護/東京地評
東京地評の松﨑実和幹事(東京医労連書記次長)は、調査結果を踏まえて「現場は命を預かる仕事で、それに見合った相応のスキルが求められ、人がいなくて過密に働いていて、体力的にも精神的にも凄く負担があるにもかかわらず全産業平均より月額で11万円も低いのは本当におかしい」と発言。「政府が賃上げが必要だとして、この間、加算が付いたが、事業所の経営が悪く一時金の大幅な引き下げが行われたところが、東京医労連の加盟組合でもたくさんあり、年収ベースでは下がってしまっている。直ちに全産業平均並みに引き上げることが必要だ」などと訴えた。
訪問介護の実態にも触れ、「利用者宅から利用者宅の間を移動する時間は労働時間に含まれるとの通達が出ているが、移動費は介護報酬のなかに組み込まれていないため、実態としては最低賃金にも満たない額が支払われていたり、そこを払うことができずに他の事業所よりケア時間の時給に100円、200円のせているなど、拘束時間に比べ賃金がすごく低くなってしまう。そうしたなかで人手不足が加速し、働くスタッフの高齢化も進んでいる」との実態を語った。
(調査部)
2025年8・9月号 労組・業界団体の記者会見、調査発表からの記事一覧
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