12年間で6,000円弱しか上がっていない看護職員の基本給。離職防止に向け、処遇改善の重要性を強調
 ――日本看護協会が賃金実態調査結果を発表

労組・業界団体の記者会見、調査発表から

看護職員の基本給が12年前から6,000円弱しか上がっていないうえに、夜勤手当もこの10年間で2交代が約1,000円の増加にとどまるなど、病院で働く多くの看護職員が今の賃金水準に不満を抱いていることが、日本看護協会(秋山智弥s会長)が6月24日に発表した2024年度の「看護職員の賃金に関する実態調査」結果で明らかになった。賃金に「満足(満足+やや満足)」している看護職員は1割程度で、64%が「不満(不満+やや不満)」と回答。特に「業務量」「業務内容」「他業種も含めた同年代・同性の平均的給与額との比較」についての「不満」の回答が多い。秋山会長は、「離職防止に賃金の引き上げは重要な要素だ」などと述べて、看護職員の処遇改善の必要性を訴えた。

調査は、今年1月14日から2月25日にかけてインターネットを通じて実施した。個人調査は協会会員(72万2,113人、2024年10月時点)から無作為抽出した1万5,000人を対象とし、5,575人からの回答(有効回収率37.2% )を集計。病院調査は全国8,089病院(悉皆調査)が対象で、3,471カ所の病院(同42.9%)からの回答をまとめた。

税込給与総額は前回調査比で約3万円の増加

個人調査の結果によると、正規雇用・フルタイムで働く非管理職の看護職員の就業先別の平均基本給月額は、看護系教育研究機関(養成所、大学など)が30万5,668円(平均税込給与総額37万3,036円)で最も高く、次いで介護系サービスの26万4,418円(同35万1,599円)、病院勤務の26万451円(同38万2,093円)などだった。このうち、病院勤務の看護職員の賃金水準を12年前の前回調査(2012年度調査)と比較すると、基本給月額が5,868円(約2.3%)なのに対し、税込給与総額では2万9,936円(約8.5%)の増加。給与の引き上げが賃上げより手当などで行われていることがうかがえる。

基本給は40代後半をピークに50代は減少

病院に勤務する看護師(正規雇用フルタイム勤務・非管理職)の基本給月額を年代別にみると、20~24歳(2024年調査:22万1,374円・2012年調査:20万4,146円)、25~29歳(同23万3,027円・22万1,209円)、30~34歳(同24万1,403円・23万7,139円)、35~39歳(同26万5,082円・26万465円)、40~44歳(同26万7,988円・28万7円)、45~49歳(同29万7,249円・29万1,894円)、50~54歳(同28万8,948円・29万6,358円)。

基本給月額は、2012年調査では年齢の上昇とともに緩やかに上昇していたが、今回の調査では30代後半から40代前半の増加幅の小ささが際立つことに加え、50~54歳でやや減少に転じる。この結果、年齢による基本給の上昇率は、20代前半を100%とした場合、2012年調査は50代前半が145%で最も大きかったが、2024年調査ではピークとなる40代後半で134%にとどまる結果となった。

賞与は副看護部長相当職が約185万円でトップに

賞与については、2024年に「あった」と答えた病院に勤務(正規雇用・フルタイム)する看護職員の割合は87.1%。そのうち、前年と比べて「増えた」と回答したのは30.6%で、「変わらない」(31.8%)や「減った」(29.0%)も約3割でほぼ同じ割合だった。

2024年1~12月の賞与総額は、平均118万2,440円。役職別にみると、管理職(副看護部長相当職)が上の役職の管理職(看護部長・副院長相当職/管理者、168万3,663円)より多い185万2,529円でトップ。ほかは、中間管理職(看護師長相当職)147万5,115円、中間管理職(主任相当職)137万6,075円、スタッフ(非管理職)103万6,975円となっている。

非管理職看護師の年収は約530万円

平均年収は、役職が上になるほど上がる傾向にある。平均年収が最も高いのは、管理職(看護部長・副院長相当職/管理者)の818万594円で、以下、管理職(副看護部長相当職)758万5,014円、中間管理職(看護師長相当職)676万3,829円、中間管理職(主任・副看護師長相当職)631万4,987円、スタッフ(非管理職)529万9,796円の順だった。

2025年度新卒採用者の初任給引き上げ施設は4分の1ほど

一方、病院調査では、初任給や夜勤手当の動向を調べている。まず、新卒看護師の平均初任給(学歴別)は、看護3年課程卒で基本給月額21万2,077円・税込給与総額27万4,840円、看護系大学卒で同21万7,934円・28万2,453円、看護系大学大学院卒で同22万2,736円・28万7,936円。2012年賃金調査では、基本給月額は看護3年課程卒が19万6,368円、大学卒は20万3,262円、大学院卒は20万7,464円だったことから、どの学歴もこの間に1万5,000円程度増えたことになる。

そこで2022年以降の初任給の改定状況を尋ねると、「初任給を上げた」施設(44.9%)が4割強みられたものの、「初任給は変えていない」施設(40.9%)も約4割あった。2025年度新卒採用者の初任給基本給与額も「変える予定はない」施設(60.8%)が6割を占め、「引き上げ予定」施設は24.3%と4分の1ほどだった。2025年度の初任給改定予定に2024年度の新卒看護職員の充足状況による違いはなく、充足していない病院でも約7割が「変える予定はない」と答えている。

夜勤手当の増加幅は前回調査比1,000円前後に

病院の夜勤手当の平均は三交代準夜勤で4,567円(2012年調査3,812円)、深夜勤で5,715円(同4,635円)、二交代で1万1,815円(同1万119円)。いずれも増えてはいるものの、増加幅はこの12年で1,000円前後と小さい。

また、夜勤が一定回数を超えた場合の手当の増額もしくは加算制度の有無に関しては(複数回答)、「ない」が69.6%で突出して多く、ほかは「夜勤手当の加算がある」が9.2%、「夜勤手当の増額がある」が8.0%などだった。

夜勤専従者は、「いない」施設が全体の半数近く(46.5%)を占めたが、「いる」施設も41.7%あった。「いる」と答えた施設のうち、夜勤専従者への特別な手当が「ある」のは14.2%で、84.9%は「ない」との回答だった。夜勤専従者の平均月所定労働時間は135.3時間。負担軽減のための特別休暇や労働免除が「ある」のは20.7%で、平均日数は2.33日となっている。

約4割の施設が20年以降に基本給の引き上げを実施

病院調査では、看護職員の賃金制度についての問いも設けている。看護職員について「賃金表がある」病院は全体の75.0%。そのうち、54.0%の病院が賃金表を「公開している」。賃金表がある割合は病床規模が大きくなるほど高く、400床以上が9割を超えているのに対し、100~299床は7割台、99床以下は6割強にとどまる。公開状況も、500床以上で8割に達している一方で、199床以下は4割台となっている。

2020年以降に行った看護職員の賃金制度・評価改善に関する改定(複数回答)は、「基本給の引き上げ」が38.1%でトップ。次いで「賃金表の改定・導入」(32.4%)、「夜勤手当の引き上げ」(12.3%)が多く、「その他」(9%)を除くと、「役職者の増員」(7.5%)や「管理職手当の引き上げ」(7.3%)、「昇給幅の見直し」(7%)などが続く。なお、「特に改定していない」(21.3%)も約2割みられた。

病院看護師の賃金満足度は前回調査比で13.7ポイント下落

ここまでみてきた状況を踏まえ、個人調査から満足度と就業意欲を尋ねたデータを確認すると、病院勤務者は給与水準について、「不満」(34.4%)もしくは「やや不満」(29.8%)と感じている人が多く、この2つを足した割合は64.2%に達する。一方、「満足」(2.3%)と「やや満足」(9.5%)を合わせた割合は11.8%。2012年度調査では、賃金額を「満足(満足+やや満足)」と答えた人の割合は25.5%だったことから、今回の調査で満足度は13.7ポイントも下落したことになる。

賃金に対する満足度は、今の病院での就業意向にも影響する。賃金額の満足度を、「満足(満足+やや満足)」と答えた人の「退職は考えていない」割合は45.0%なのに対し、「不満(不満+やや不満)」と回答した人の「退職は考えていない」割合は25.0%と大きく下がる。「いずれは退職するつもりだが時期は決めていない」割合も、「満足(同)」は24.3%で「不満(同)」(35.3%)のほうが11ポイント高く、「数カ月以内に退職予定・手続中、もしくは3年以内に退職意向がある」割合も「満足(同)」(13.0%)を「不満(同)」(17.0%)が上回る。

半数超が「業務量」「業務内容」「同年代・同性の給与と比較」に「不満」

病院勤務者の賃金額に関連する項目別の満足度を詳しくみると、すべての選択肢で「満足」(満足+やや満足)より「不満」(やや不満+不満)の回答割合が高い。なかでも、最も「不満」の割合が高かった「業務量」(56.2%)と「業務内容」(51.8%)、「他業種も含めた同年代・同性の平均的給与と比較」(50.4%)は「不満」が5割を超えていた。

賃金額に対する全体的な満足度を年代別にみると「やや不満」と「不満」の合計は、60代後半を除く全年代で5割超。どの年代も「やや不満・不満」の割合が高く、とりわけ20代後半および30代後半では70%を超える。また、「満足・やや満足」は30代が7%台で最も低かった。

4分の3近い施設がベースアップ評価料を算定

最後に、病院調査から「各施設がベースアップ評価料にどう対応したか」をみる。ベースアップ評価料を「算定している」施設は全体の73.2%。公的医療機関で算定割合が高く、医療法人では低い傾向がみられた。病床規模別では、大規模施設ほど算定割合が高い傾向にあり、300床以上で算定している割合が8割超。100~299床は7割台で、99床以下は約6割にとどまる。

6割強が毎月の手当で対応

ベースアップ評価料を算定している病院の対応状況は、「対象者に一律同額でベースアップ」が45.8%で最多。次に、「対象者に一定の割合(同率)でベースアップ」(23.4%)と「職種や経験年数等によって支給額に差を設けている」(20.8%)が続く。対応方法は「毎月支払われる手当による引き上げ」(63.1%)が6割強を占め、ほかは「基本給の引き上げ」(30.7%)が3割、「基本給の引き上げと毎月支払われる手当による引き上げ」も3.9%あった。

ベースアップ評価料を原資とした2024年度から2年間のベア率は「2.0~3.0%未満」が18.9%、「4.0~5.0%未満」15.9%、「3.0~4.0%未満」8.1%などとなっており、平均は3.48%。ただし、この問いには「無回答・不明」が31.3%ある。

「他業種の賃金に遅れを取らないよう、看護職の処遇改善に全力を尽くす」(秋山会長)

6月11日の通常総会で新会長に選ばれた秋山智弥氏は、6月24日に開いた記者会見で「看護職の賃金は物価上昇に追いついていない状況にある。医療機関などは光熱費などのエネルギー関連費用や、このところの物価高騰を価格に転嫁することができない。加えて、コロナ禍後の病床利用率の回復は緩やかで収益減のなか、特に一般医療機関では職員の賃金引き上げに回す余裕がない状況が続いている」と医療現場を取り巻く環境を説明。そのうえで、調査結果の内容も考え合わせて、「離職防止に賃金の引き上げは重要な要素。2024年に新設された診療報酬のベースアップ評価料のより一層の活用はもちろん、他業種の賃金に遅れを取らないよう、すべての看護職のさらなる処遇改善に向けて全力を尽くしていきたい」と力を込めた。

(調査部)