【主要企業の賃上げの状況】
昨年に続き、高い水準の賃上げ回答が相次ぐ。4%以上のベアを獲得する組合も
――主要企業170社の賃上げ回答一覧
春闘取材
主要企業の賃上げ交渉では、回答指定日を前にした回答や要求を超える回答は昨年ほどは目立たず、例年どおりのスケジュールで、先行大手組合は昨年に続く高水準の賃上げ回答を引き出した。ベア・賃金改善分で4%以上の引き上げを獲得した組合もみられる。主要企業170社の賃上げ回答結果を見ながら、各業界の賃上げ回答の特徴点を紹介する。
大手メーカーの半数以上が要求満額か満額以上を獲得――自動車
自動車総連(組合員78万1,000人)の「メーカー部会」に所属する完成車メーカーの11労組は、半数以上が賃金引き上げについて要求満額か満額以上を獲得した(図表1)。
図表1
出所:自動車総連、金属労協公表資料
スズキでは総額1万9,000円の要求に対し、経営側は2万1,600円の回答
満額以上を獲得したのはスズキ労組で、組合側の要求である「賃金制度維持分(昇給制度維持)に人への投資を加えた賃金引き上げとして、組合員一人平均1万9,000円」を大きく上回る「総額2万1,600円」での妥結となった。
マツダ労組、ダイハツ労組、いすゞ労組、日野労組はいずれも要求どおりの回答額を獲得。SUBARU労組は、「総額一人平均2万1,000円」の要求に対して、回答は「専任職で6,000円から3万3,100円、基幹職は3,300円から3万9,900円」と幅のある金額となったが、自動車総連は「満額の水準にあたる回答」と説明している。
トヨタ労組は平均賃金での要求内容を非公開としているが、同労組は「満額回答を獲得している」と表明している。なお、個別賃金の要求基準は、自動車総連が定義する「若手技能職」ポイントで35万2,540円、「中堅技能職」ポイントで42万6,000円、トヨタ労組が独自設定する「技能職EX級 技能3等級」が45万5,670円となっている。
日産では、組合側が昨年要求と同水準の「平均賃金改定原資1万8,000円」を要求するも満額獲得とはならず、「総額1万6,500円」で決着。一方、本田技研労組は「総額一人平均1万9,500円」を経営側に要求したが、満額に至らず、「総額一人平均1万5,000円」で交渉を終えた。
12組合の平均回答額は1万8,882円、1975年以降での最高額に
自動車総連が発表した3月12日午後7時時点のメーカー部会の大手12組合(完成車メーカー11組合に部品メーカーの日本特殊陶業労組を加える)の、賃金カーブ維持分と賃金改善分を合わせた平均回答額(単純平均)は1万8,882円を記録し、昨年を1,800円上回り、比較できる1975年以降で最も高い水準となった。
自動車総連の金子晃浩会長は3月12日の会見で、「極めて厳しい交渉であった」としつつも、「労使それぞれが社会的責任を強く意識するとともに、自動車産業を取り巻く不透明かつ競争環境の激しいなか、なんとしても生き残りをかけて難局を突破しないといけないという経営側の強い意思と、それに応えるための組合員の懸命な努力や覚悟が労使で十分に共有できた。今回の高い賃金獲得水準は、労使の密度の濃い話し合いのたまものだ」と話した。
一時金については、三菱自工労組(5.7カ月を要求し、回答は5.0カ月)、日野労組(5.0カ月を要求し、回答は4.5カ月)、ヤマハ発動機労組(6.2カ月を要求し、回答は6.0カ月)を除く8組合が満額を獲得し、トヨタ(7.6カ月)は7カ月台、本田技研(5.0+1.9カ月)も7カ月近い水準を獲得した。メーカー部会の大手12組合における平均回答月数(単純平均)は5.8カ月で、昨年を0.06カ月下回った。
日立、富士通、NECの3労組は要求満額の1万7,000円の水準改善――電機
電機連合(組合員56万3,000人)で、闘争行動を背景に産別統一闘争を展開する中央闘争組合(中闘組合、12組合)の回答結果をみると、日立グループ連合、全富士通労連、NECグループ連合の3労組が、要求に対する満額を獲得した(図表2)。中闘組合は統一して、「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の個別ポイントで「1万7,000円以上」の水準改善を要求した。
図表2
出所:金属労協公表資料
満額回答に至らない9労組でも歯止め基準「1万円以上」をクリア
中闘組合がストライキなどの闘争行動に移るかどうかを判断する、いわゆる回答の歯止め基準について、電機連合は集中回答日(3月12日)を目前に控えた3月10日に「1万円以上」に決定。最終的には、満額回答に至らなかった残りの9労組も、歯止め基準を上回る水準で決着した。
回答額は、今年は5パターンに分かれ、日立、富士通、日本電気(NEC)は1万7,000円、三菱電機など5社が1万5,000円、東芝と明電舎が1万4,000円、パナソニックが1万3,000円、シャープが1万2,000円となった。
シャープの1万2,000円でも「相当高い金額」と神保会長
電機連合の神保政史会長は3月12日の会見で、昨年に続き「1万円以上」と設定した歯止め基準について、「1万円という基準は決して低くない」と断ったうえで、「ここまで高水準となると、要求に対して最低限どのくらいの水準を獲得できるかというよりも、絶対額として1万円の大台を確保し、そのうえでさらなる上積みを獲得すること」で12組合が意思統一を図ったと説明。
結果的に12組合における回答の最高額(1万7,000円)と最低額(1万2,000円)で5,000円の差が出る結果となったが、「1万2,000円でも相当高い金額であり、労使がしっかりと論議を重ねて、それぞれの状況に応じた結論を見出してくれた。このことは高く評価できるものであり、電機産業労使としても社会的責任と役割は果たせた」などと話した。
一時金について、業績連動方式を採用していない組合の交渉結果をみると、日立グループ連合が「年間6.5カ月」(組合要求は6.9カ月)、三菱電機労連が年間6.0カ月(同年間6.5カ月)、富士電機グループ連合が年間6.3カ月(同年間6.3カ月)、OKIグループ連合が年間4.3カ月(同年間5.0カ月)となっている。
総合組合のほとんどが賃金改善1万5,000円の満額を獲得――鉄鋼、総合重工、非鉄
鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の組合でつくる基幹労連(組合員27万1,000人)は、2年サイクルで労働条件の改善に取り組んでいる。2年サイクルの前半年度を「総合改善年度」と位置づけ、賃金、一時金、退職金をはじめ、多岐にわたる労働条件項目について経営側と交渉する一方、後半年度は「個別改善年度」と位置づけ、グループ関連や中堅・中小組合が格差改善に取り組んでいる。
2025年度は「個別改善年度」にあたる年だが、昨年の方針で、賃金改善については産別全体で「2024年度のみの要求とする」と決めたことから、今回は通常の「年間一時金」「格差改善」などの取り組みと並行して、賃金改善にも全体で取り組んだ。
今年は要求に幅を持たせず、賃金改善1万5,000円と設定
今年の方針は、賃金改善の要求について「基幹産業にふさわしい労働条件の確保と優秀な人材の確保・定着」「生産性の向上と働きに見合った成果の配分」「生活の安心・安定に向けた実質賃金の維持・向上」「65歳現役社会の実現と職場全体の活力発揮」「日本経済の好循環」を要求根拠の基礎とし、要求額では今回は幅を設けることはせず(昨年は1万2,000円以上)、1万5,000円と設定した。
これを受けて、「鉄鋼総合」部会を構成する日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼、「総合重工」部会を構成する三菱重工、川崎重工、IHI、住友重機械、三井E&S、キャタピラー日本(製造)、カナデビア(旧日立造船)、「非鉄総合」部会を構成する三菱マテリアル、住友金属鉱山、三井金属、DOWA、JX金属の各大手総合組合はいずれも、1万5,000円の賃金改善を経営側に要求した。
総合3部門で、日本製鉄以外は1万5,000円かそれ以上を獲得
交渉結果をみると、「鉄鋼総合」では日本製鉄が要求を3,000円下回る1万2,000円を受け入れる一方、JFEスチールと神戸製鋼はそれぞれ満額で決着した。「総合重工」では、三井E&S以外の6組合が満額獲得となり、三井E&S は要求超えの1万8,000円で妥結した。「非鉄総合」では、5組合すべてが満額獲得となった(図表3)。
図表3
出所:金属労協、基幹労連公表資料
基幹労連の津村正男委員長は総合組合の回答について、3月12日の記者会見で、「労使で課題を共有し、共通認識にすることができた。そのうえで、各加盟組合が部門・部会でまとまりをもって要求実現に向けて全力を傾注し、要求に込めた思いを粘り強く主張したことが結果につながった」と評価した。
NTN、ヤンマーなどの先行グループ大手が賃金改善1万5,000円の満額を獲得――機械、金属
JAM(組合員36万9,000人)に加盟し、3月中旬の統一回答日に先行して回答を引き出した金属・機械の大手組合は、多くが昨年実績の高水準の賃上げ額をさらに上回る回答を引き出した。JAMは今次闘争では、賃金改善について1万5,000円以上を求めることを基本方針とした。
JCMの集中回答日(3月12日)までに回答を引き出す「先行グループ」と、JAMにおける相場形成役を担うそれ以外の主要組合の回答をみると、NTN、ヤンマー、矢崎、芝浦機械、村田機械がJAMの方針どおり1万5,000円(平均)の賃金改善を要求し、満額を獲得した(図表4)。
図表4
注:特段の記載がなければ、回答額のうち、ベア・賃金改善分等のみ。
出所:JAM公表資料
「先行グループ」組合の賃金改善分の平均は1万4,694円
このほか満額獲得となったのは、横河電機(平均1万4,500円)、NOK(平均1万3,970円)、日本製鋼所(平均1万4,100円)、浜松ホトニクス(平均1万5,500円、時短2日分含む)、不二越(平均1万2,000円)。
アズビルは、賃金改善の要求は1万4,565円(平均)だったが、人事賃金制度改定分を含め回答は2万2,661円となった。ボッシュは、要求は1万8,500円(一律1万5,000円+号単価3,500円)で、回答は「1万6,000円+別原資2,787円」となった。
「先行グループ」11組合の回答平均は、賃金改善では1万4,694円で、賃金構造維持分も合わせた合計の平均では2万690円と2万円の大台に乗った。
賃金改善額、賃金改善獲得額ともに結成以来の最高
直近の全体回答集計(5月13日時点)をみると(妥結組合数は949組合)、平均賃上げの妥結額(賃上げ構造維持分込み)の単純平均は1万3,075円で、大手組合については「300~499人」が1万6,503円、「500~999人」が1万6,905円、「1,000~2,999人」が1万7,085円、「3,000人以上」が2万553円となっている。平均賃上げでの妥結額は、4年連続でJAM結成(1999年)以来の最高となっている。
賃金構造維持分を明示し、回答を受けた組合(796組合)のうち賃金改善分を獲得したのは765組合となっており、賃金改善分の単純平均は9,475円。大手については、「300~499人」が1万1,433円、「500~999人」が1万1,958円、「1,000~2,999人」が1万1,988円、「3,000人以上」が1万4,293円で、賃金改善額、賃金改善獲得額ともに結成以来の最高となった。
大手4組合がいずれも産別要求方針を上回る賃金改善を獲得――電線
1万3,000円以上の賃金改善を要求方針とした全電線(組合員2万5,000人)では、大手4組合は揃って産別要求方針を上回る賃金改善を要求した。その結果、古河電工が賃金改善1万8,000円の要求満額を獲得し、住友電工とSWCCは1万5,000円の要求満額を獲得した。フジクラは1万8,000円を要求し、1万6,100円で妥結した(図表5)。
図表5
出所:金属労協公表資料
繊維素材、化学繊維の大手は業種共闘で4%引き上げを満額獲得――化学・繊維などその他の製造業
UAゼンセン(組合員193万6,000人)の「製造産業部門」に所属する繊維・化学などの主要組合では、繊維素材や化学繊維の組合が共闘して4%の引き上げに取り組み、多くの組合で満額を獲得した。定昇相当分を含め「6%以上」の要求方針を掲げたJEC連合(組合員12万5,000人)も、化学関係などの主要組合を中心に満額回答が相次いだ。フード連合(組合員11万6,000人)加盟の主要食品メーカーでは、産別方針の「賃上げ分」1万3,000円などの水準で満額を獲得する組合が多く出た。
繊維素材は4%要求で共闘し、カネボウなど満額を獲得
UAゼンセンの「製造産業部門」の要求基準は、賃金体系維持分に加え、4%を基準に賃金引き上げを要求し、格差是正分を上積みして要求するなどという内容。同部門に所属する東洋紡やカネボウなどの繊維素材部会の組合は揃って、4%に相当する額の「引き上げ分」を要求し、カネボウ(引き上げ分1万1,532円)、倉敷紡績(同1万2,204円)、日東紡績(同1万2,949円)、富士紡績(同1万1,960円)は4%に相当する満額を獲得した(図表6)。
図表6
出所:連合、UAゼンセン公表資料
衣料・スポーツ部会のミズノユニオンなど4組合は揃って引き上げ分4%以上の要求を掲げ、ミズノユニオンは要求した4.11%(1万4,015円)を超える4.22%(1万4,429円)を獲得した。ミズノでは昨年に続く要求超えでの妥結となった。
繊維素材部会と同じように、4%に相当する額の引き上げ要求で揃えた化学繊維の4組合、全東レ労働組合連合会、旭化成グループ労働組合連合会、帝人労働組合、クラレ労連クラレ労働組合は、いずれも満額の4%を獲得。引き上げ額は東レが1万3,610円、旭化成が1万4,802円、帝人が1万4,515円、クラレが1万4,500円となっている。
UAゼンセン「製造産業部門」の吉山秀樹事務局長は3月13日の会見で、製造大手の妥結結果について「製造業の他社と比べて遜色ない良い数字での妥結となった」と評価し、その要因として、物価が上がり続けるなかで組合員の賃上げへの期待が大きかったこと、組合員の期待に応えるとの強い意志をもって共闘体制を組んで粘り強く交渉したこと、他産業でも高額の賃上げ回答が出され、賃上げに対する社会的な気運が高まったことをあげた。
賃上げの流れの継続の背景に経営側の危機感も
JEC連合の連合登録大手組合では、化学部会の東ソー(賃上げ分1万5,000円)やトクヤマ(同1万3,500円)、日本触媒(同1万5,000円)、東亞合成(同1万7,000円)、石原産業(同1万5,000円)などが満額回答を獲得。医薬化粧品部会の日本化薬(同1万5,000円)と日本新薬(同1万5,000円)、塗料部会の関西ペイント(同1万7,800円)も満額回答となった(図表7)。
「職務主義型」の人事制度を導入している三菱ケミカルは、満額超えの1万8,415円(賃上げ率4.8%)で決着。「本給部分は3%程度で労使がコミットしている市場価格に追いつき、残りの約1%は基準内賃金の手当で唯一残っている『子ども手当』に満額配分した。その後、会社側から『初任給を上げたい』との提案があり、若年層の補正分と合わせて0.8%ほどが必要になり、そこは別枠となった」(堀谷俊志会長)。なお、日本曹達は、賞与と月例賃金の配分の見直しを行い、業績賞与支給原資からの振替分も含めて月例賃金を5万円引き上げたという。
25春闘のこうした状況について、堀谷会長は「賃上げの勢いはついているが、産別全体でみると回答が突出している単組もいくつかあり、その背景には採用難などの影響もある。春闘で頑張っていることももちろんあるが、違う次元での経営側の危機感も垣間見える」と捉えている。
図表7
出所:連合公表資料
ビール大手ではベア1万5,000円を獲得
フード連合の加盟組合では、ニチレイ労働組合(ベア1万3,000円)、マルハニチロユニオン(ベア1万3,000円)、ニッスイアドベンチャークラブ(ベア平均1万3,220円)、極洋労働組合(賃金改善1万3,000円)、味の素冷凍食品労働組合(ベア1万3,000円)、キッコーマン労働組合(ベア1万3,000円)、味の素労働組合(ベア1万6,000円)、日清オイリオグループ労働組合(ベア1万3,000円)、明治労働組合(ベア1万3,000円)、サッポロビール労働組合(ベア1万5,000円)、アサヒビール労働組合(ベア1万5,000円)などが要求に対する満額獲得となった(図表8)。
図表8
注:日本ハムは日本ハムユニオンとしての回答額。
出所:連合公表資料
ゴム連合(組合員4万4,000人)に加盟する大手では、住友ゴム(1万2,000円)とブリヂストン(組合員1人平均1万2,000円)などが要求満額の引き上げ分を獲得(図表9)。紙パ連合(同2万6,000人)に加盟する大手では、レンゴーがベア1万4,000円の要求満額を獲得した。セラミックス連合(同2万人)加盟の黒崎播磨はベア1万4,100円となっている。
図表9
出所:連合公表資料
流通部門、総合サービス部門ともにイオングループが相場を引っ張る――流通、サービスなど
UAゼンセンの「流通部門」と「総合サービス部門」では、ともにイオングループの組合が早期妥結で全体の相場を引っ張った。
UAゼンセンの賃金闘争では、各加盟組合が経営側から受けた回答で妥結するかどうかの最終決定(妥結承認)を、UAゼンセン本部が行う。「流通部門」からみていくと、今年の闘争で部門のなかで最初に妥結承認を受けたのは、GMS(総合スーパー)部会に所属するイオングループ労働組合連合会イオンリテールワーカーズユニオンで、2月25日に決着。正社員組合員については、引き上げ分(ベア分含む)1万2,989円(4.01%)を含む総額1万7,319円(5.34%)で妥結した(図表10)。短時間組合員のパートタイマー時給については、総額81.0円<7.07%、内訳は制度昇給19.25円(1.68%)、引き上げ額61.75円(5.39%)>の回答を引き出した。
図表10
画像クリックで拡大表示
注1:2025年の正社員組合員の引き上げ率は、UAゼンセン公表資料で判明している組合にだけ記載した。
注2:短時間(パート)組合員で未確認としたセルについては、公表資料では確認できなかった。
出所:連合、UAゼンセン公表資料
流通で妥結が2番目となったのも同じイオングループ労働組合連合会傘下で、まいばすけっと労働組合が同じ日に、正社員組合員については引き上げ分1万2,565円(4.4%)を含む総額1万7,894円(6.26%)、パートタイマーの時給については総額88.1円<7.00%、内訳は制度昇給4.1円(0.33%)、引き上げ額84.07円(6.67%)>で妥結した。
イオン九州は引き上げ分で5.5%、全体では6%を超える賃上げを獲得
GMS(総合スーパー)の正社員組合員の交渉では、イオンリテールワーカーズユニオンのほかにも、イオングループ労働組合連合会イオン九州ユニオン(1万5,590円、5.5%)、FUJIユニオン(1万1,477円、4.22%)が4%以上の引き上げ分を獲得。イオン九州ユニオンは、賃金体系維持分も合わせた賃上げ率全体では6.13%と6%を超える水準となっている。
スーパーマーケットの正社員組合員の引き上げ分では、さとう労働組合が1万9,503円(6.91%)と7%近い水準を勝ち取っており、マックスバリュ東海MYユニオン(1万5,051円、4.84%)、原信労働組合(1万3,310円、4.41%)、マルエツ労働組合(1万3,500円、4.07%)なども4%を超える引き上げ率となった。パートタイマーの時給では、全ヤオコー労働組合(86.4円、7.49%)、マルエツ労働組合(91.57円、7.31%)が7%を超える引き上げ回答を引き出している。
なお、「流通部門」の今回の要求基準は、正社員組合員については、ミニマム水準に未達の組合は総額で1万7,000円以上、部門到達基準に未達の組合は引き上げ分で1万1,250円(4.5%)以上(賃金体系維持分がわかっている場合)、部門到達基準に達している組合は引き上げ分で1万円(4.0%)以上とした。短時間(パートタイマー)組合員の要求基準は、正社員組合員と同等かそれ以上を要求するとし、正社員と職務の内容が異なる・同じ短時間組合員では、昇給制度がある場合は5.0%(60円)以上の引き上げ、制度がない場合は7.0%(総額80円)以上の引き上げなどとした。
今年の妥結承認の第1号はイオンディライト労働組合
UAゼンセンの「総合サービス部門」では、インフラサービス部会に所属するイオングループ労働組合連合会イオンディライト労働組合が、正社員組合員については引き上げ分が1万4,680円(4.84%)、賃金体系維持分を合わせた総額で2万816円(6.86%)、パートタイマーの時給では引き上げ額88.0円(6.46%)、制度昇給を含めた総額で95.4円(7.00%)との内容で、UAゼンセンのなかで最も早く妥結承認された。
妥結2号も同部門で、人材サービス部会のイオングループ労働組合連合会イオンディライトアカデミーが、正社員組合員について総額で2万1,763円(7.06%)、パートタイマーの時給について引き上げ額95.0円(7.06%)を獲得した。
フードサービス部会ではジョリーパスタなど総額8%超えの組合も
フードサービス部会では、正社員組合員について総額で8%を超える賃上げを獲得した組合もあり、ジョリーパスタユニオンが引き上げ分1万9,263円(5.95%)、総額で2万6,326円(8.14%)を獲得し、餃子の王将ユニオンが総額で3万139円(8.19%)を獲得した。
なお、「総合サービス部門」の今年の要求基準は、正社員組合員については賃金体系維持分に加え5.0%基準で賃金を引き上げることを基本とし、産業間格差・規模間格差是正に向け、昨年の要求を上回るよう積極的に上積み要求に取り組むなどとした。短時間(パートタイマー)組合員については、制度昇給分に加え、時間額を60円、5%基準で引き上げるとし、制度昇給が明確でない場合は総額で時間額90円、7%基準で引き上げるなどとした。
「総合サービス部門」の髙井哲郎事務局長は3月13日の会見で、妥結した組合の6割近くが満額か満額以上で妥結していると報告。「業種間の格差是正につながる結果」と評価するとともに、昨年の早い段階から翌年の賃上げに向けて労使で議論した組合も多かったことが成果につながったと話した。
運輸大手2社は昨年から賃上げ額が大幅増で1万円台に
運輸労連(組合員15万8,000人)加盟の大手組合の回答結果では、全日通が総額で1万1,000円、ヤマト運輸が総額で1万5,500円となっており、ともに昨年の1万円未満の水準から大幅に増額となった(図表11)。
図表11
出所:連合公表資料
公益企業も賃金改善1万円以上の流れに――電力各社、NTTグループ・KDDI、JP
今春闘では賃上げ分1万円超えが相場に
電力総連(組合員19万6,000人)に加盟する電力各社の組合の回答をみると、昨年は定昇確保にとどまる組合も多かったが、今年は1万円を超える賃上げ分の獲得で揃い、東北電力が個別で賃上げ分1万3,000円、中部電力と北陸電力が個別で同1万2,000円、関西電力が平均で同1万3,000円、四国電力が個別で1万7,000円、九州電力が平均で同1万4,000円などとなっている(図表12)。
図表12
出所:連合公表資料
NTTは月例賃金改善で初の満額回答
NTTグループ企業の労働組合でつくるNTT労組(組合員約14万人)は、月例賃金改善についてグループ各社から「月例賃金一人平均1万2,000円改定(改定率3.08%)」の満額回答を受けて決着した。1万2,000円のベア相当分は、過去最高水準。NTT労組は、24春闘では月例賃金5%の引き上げを要求し、「正社員の月例賃金一人平均3%以上(同1万円相当)の改善」で会社側と妥結した。今春闘は満額回答の獲得に向けて、「月例賃金3%(主要会社正社員1人平均1万2,000円相当)改善」を要求。24春闘より要求水準を低く設定して取り組んだことが奏功した格好だ。情報労連の加盟組合では、KDDI労組も月額1万2,000円のベースアップを得ている(図表13)。
図表13
注1:2024年のNTTの各社については、1万円のほかに子育て・介護手当として「1,000円(平均)」相当を改定。
注2:2024年のKDDIは、月例賃金1万4,000円の加算・ベースアップのほか、一時金12万円。月例賃金改善と一時金で定昇を含めず3%以上の賃金改善になる。
出所:連合公表資料
日本郵政は民営化後最高額のベースアップに
国内最大の単一労組である日本郵政グループ労働組合(JP労組、組合員22万1,000人)は、25春闘で賃上げ分1万5,000円を要求し、正社員の基準内賃金のベースアップ1万円を引き出した。水準は、2007年の郵政民営化後以降で最大だった24春闘の5,100円を大きく上回る。ベア分の賃上げ率は、正社員の月例賃金の3.12%に相当。定期昇給分(基準内賃金1.88%に相当)も含めると5%の賃金改善となる。
また、ベア分の配分については、5,000円を全社員一律に基本給の改善分としたうえで、残りの財源を一般職や地域基幹職、総合職などの若年層を中心とした賃金改善に充てる。そのなかには、新卒初任賃金やシニアスタッフの基本賃金も含まれており、新卒初任給については、一般職は2万2,000円以上、総合職などは2万5,000円以上の改善。シニアスタッフの基本賃金は、1万6,300円以上の引き上げになる(図表14)。
図表14
出所:連合公表資料
(田中瑞穂、荒川創太、新井栄三)
2025年7月号 春闘取材の記事一覧
【賃上げの全体状況】
- 賃上げ率は2年連続で5%台を達成。ベア分は物価上昇を上回る水準を確保 ――労働組合の回答集計でみる賃上げ額・賃上げ率の最新状況
- 中小の賃金底上げに向け、自動車総連が7年ぶりに要求基準を金額で設定、基幹労連も初めて格差改善分の要求水準を示す ――中小組合の格差是正の取り組みと結果
- すべての地方連合会の代表が集まり、回答結果を報告 ――連合が2025春季生活闘争に関する地方連合会合同記者会見を初めて開催
【主要企業の賃上げの状況】
- 昨年に続き、高い水準の賃上げ回答が相次ぐ。4%以上のベアを獲得する組合も ――主要企業170社の賃上げ回答一覧