【賃上げの全体状況】
賃上げ率は2年連続で5%台を達成。ベア分は物価上昇を上回る水準を確保
 ――労働組合の回答集計でみる賃上げ額・賃上げ率の最新状況

春闘取材

労働組合のナショナルセンターである連合(芳野友子会長)が集計した最新の賃上げ回答結果によると、定期昇給相当込みの賃上げ率は昨年の最終結果を0.16ポイント上回る5.26%となっている。1989年の連合結成以降でみると、1991年(5.66%)以来となる高い水準だ。定期昇給相当分を除くベアや賃金改善分だけでみた賃上げ率も、6月に入っても3%台後半を維持しており、過年度物価上昇を上回っている。現時点での賃上げの全体状況を眺める。

<2025春闘をめぐる政労使の動向>

回答状況を眺める前に、簡単に2025春闘をめぐる労使および政府の動向を振り返りたい。

2025春闘も昨年と同様、労働側、経営側、政府の3者それぞれが、積極的な賃上げを目指すスタンスを表明するなかで議論が始まり、交渉が進んだ。

労働側の動きからみていくと、連合は2024年11月28日に開いた中央委員会で「2025春季生活闘争方針」を決定した。

生活向上を実感している人は少ないと現状を分析

2025方針は、「2024闘争では33年ぶりの5%台の賃上げが実現したものの、生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は低迷している」と述べて、賃上げによる経済への好循環はまだまだ不十分だとの認識を表明。「『賃金も物価も上がらない』という社会的規範(ノルム)を変えるのは今である。ノルムを変えることで日本経済の体温を欧米並みに温め、実質賃金が継続的に上昇することで個人消費を拡大し、賃金と物価の好循環を実現する必要がある」と強調し、それを実現させるカギとして、「賃上げの広がりと格差是正」「適切な価格転嫁・適正取引の徹底、製品・サービス労働の価値を高めて認め合う取引慣行の醸成」の2点をあげた。

要求目標を「5%以上を目安」から「5%以上を実現」に強化

賃上げ要求目標については、前回の2024方針では「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げを目安とする」との文言としたが、2025方針は「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上とし、その実現をめざす」と修文。「要求だけでなく回答もきっちり取りに行くとの意思を込めて」(2025年連合白書)、ベア・賃金改善分では3%以上、定昇相当込みでは5%以上の達成を至上命題に位置づけた。

また、2024闘争では大手の高額賃上げ獲得などにより、「企業規模間格差は拡大した可能性がある」ことから、格差是正の取り組み強化を明確にするため、「中小労組などは格差是正分を積極的に要求する」との文言を追加。中小組合の賃上げ要求目標において、格差是正分1%以上を加えた水準を求めていくため、「1万8,000円以上・6%以上を目安とする」と設定した。

「賃上げの流れを巡航軌道に乗せよう」と芳野・連合会長

方針を決定した中央委員会で芳野会長は、「2025闘争は、『未来づくり春闘』の中で確実に賃上げを実現してきた流れを確固たるものとすることができるか否かの分水嶺にあるといっても過言ではない」とし、「これまで30年にわたって短期的な利益を追求してきた、あるいはそうせざるを得なかったために、賃金は上がらないというノルムを生み出した社会から、賃上げの流れを巡航軌道に乗せ、将来に希望を感じる社会へと、未来づくり春闘の新たなステージへみんなで移行する取り組みを進めていこう」と強調した。

賃上げのモメンタムを「定着」させたいと経団連の十倉会長

経営側についてみていくと、経団連(筒井義信会長、当時の会長は十倉雅和氏)は、経営側の春季労使交渉方針とも言える「経営労働政策特別委員会報告2025年版」(2025年1月21日発表)で、「人への投資」の強化を会員企業に呼びかけた。

報告は冒頭の十倉会長の「序文」のなかで、「2025年は、賃金引上げと総合的な処遇改善を『人への投資』の両輪として明確に位置付けた『賃金・処遇決定の大原則』に則りながら、『ベースアップを念頭に置いた検討』を呼びかけ、賃金引上げの力強いモメンタムを『定着』させる年としたい」と明記。

中小企業の賃上げについても、「デフレからの完全脱却」と「成長と分配の好循環」を実現させるため、「約7割の働き手を雇用する中小企業における構造的な賃金引上げが欠かせない」と記述した。

問題意識や認識は連合方針と共通している

2025年交渉・協議における経営側の基本スタンスについて報告は、まず、連合が2025闘争方針で示した問題意識や認識の多くについて「経団連と共通している」と述べ、労使が同じベクトルを向いている認識を表明。

連合が2025闘争を「動き始めた賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せる年」と位置づけ、賃上げ要求水準を2024闘争と同様に5%以上としたことについては、「2025年を賃金引上げの力強いモメンタム『定着』の年にしたいとの経団連の方向性と一致しており、労働運動としても一定程度理解できる」との考えを示すとともに、中小組合に対する取り組みを強化した点についても「中小企業における構造的な賃金引上げの実現が不可欠とする経団連の考えと一致している」と同調した。

ベースアップを念頭に置いた検討が望まれる

そのうえで、報告は基本方針として、「来たる2025年春季労使交渉・協議においては、ここ2年間で醸成されてきた賃金引上げの力強いモメンタムを社会全体に『定着』させ、『分厚い中間層』の形成と『構造的な賃金引上げ』の実現に貢献することが、経団連・企業の社会的責務といえる」と明言。月例賃金の検討にあたっては、「ベースアップ(賃金水準自体の引上げ、賃金表の書き換え)を念頭に置いた検討が望まれる」と書き込み、昨年の報告以上のトーンで、ベアの検討を推奨する書きぶりとした。

十倉会長は、報告の発表に先立つ1月7日の記者会見で「2023年は高水準の賃金引上げモメンタム『起点』の年、2024年はそれが大きく『加速』した年となった。2025年はこの流れを『定着』させる年にしたい」とコメント。「昨今の物価上昇に鑑み、ベースアップを念頭に置いた賃金引上げの実施を広く呼びかけていく」と語った。

「賃金上昇が物価上昇を上回る経済を実現する」と石破首相

一方、政府は、2024年11月26日に政労使の意見交換を開催。石破茂首相は労使の代表を前にして、「賃金上昇が物価上昇を安定的に上回る経済を実現することを目指す」と宣言するとともに、労使に対して、2024春闘と同じ勢いでの大幅な賃上げを呼びかけた。また、賃上げの流れが中小企業と地方にも行きわたることが重要だとも述べるとともに、賃上げの流れが地方にも波及するよう、厚生労働大臣に対し、全国47都道府県での「地方版政労使会議」の開催を指示した。

今年1月の第217回国会での施政方針演説で石破首相は、「(人を財産として尊重する)『人財尊重社会』における経済政策にとって、最重視すべきは賃上げだ」と語り、賃上げが経済政策における最重要課題であるとの考えを強調。そのうえで、「『賃上げこそが成長戦略の要』との認識の下、物価上昇に負けない賃上げを起点として、国民の皆様の所得と経済全体の生産性の向上を図っていく」と述べて、あらためて物価上昇を上回る賃上げが成長のカギであることを国会でもアピールした。

労働組合が要求した賃金の引き上げ率が32年ぶりに6%を超える

こうした賃上げに向けた社会的機運の高まりを背にして、連合の要求集計結果(3月6日公表)では、平均賃金方式(=組合員1人平均の賃上げ額を算出する方式)での定期昇給相当込みの賃上げ率が、1993年(7.15%)以来、32年ぶりに6%を超えて6.09%を記録した。

また、中小組合の格差是正要求として1%以上を上積みするとの方針が浸透した結果、中小組合(300人未満)の要求における賃上げ率も6.57%と1995年以来、30年ぶりに6%を超え、かつ、全体の賃上げ率を上回った。

<最新の賃上げ回答の状況>

最新の定昇相当込み賃上げ額は1万6,399円(5.26%)

では、現在のところ、政労使が期待したような賃上げ結果になっているのだろうか。

連合の最も新しい2025春季生活闘争回答集計は、6月5日に発表した第6回回答集計結果(6月2日午前10時時点)だ。

これをみると、4,863組合(293万3,516人)について集計した平均賃金方式での定昇相当込みの賃上げ額(月例賃金ベース)の加重平均は1万6,399円で、引き上げ率は5.26%となっている。

昨年同時期(2024年6月5日公表)の集計結果と比べると、額で1,163円、率で0.18ポイント上回っている。

賃上げ率は1989年の連合結成以来、3番目の高さ

7月3日に公表される第7回回答集計が最終の集計結果となるため、暫定的な見方となるが、図表1のとおり、1989年の連合の結成以降で言えば、賃上げ率は1990年(5.95%)、1991年(5.66%)に次ぐ3番目の高さだ。昨年の春闘で賃上げ率の最終結果が5%台となったのは実に33年ぶりのことだったが、今年も最終的に5%台となるのはほぼ間違いなく、さらに、昨年の最終結果を上回るのも確実だと言える。

図表1:連合結成以降の平均賃金方式での定昇相当込み賃上げ率(加重平均)の推移(単位:%)
画像:図表1
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注:2024年までは最終集計結果で、2025年は第6回集計結果の数字。

(出所:連合公表資料)

「300人未満」は1万2,453円で、率は4.70%

中小組合の賃上げ結果はどうだろうか。

図表2で、定期昇給相当込みの賃上げ額を組合規模別にみると、「300人未満」は、賃上げ額が1万2,453円で、率が4.70%となっている。5%に届いていないが、3月中旬の第1回集計と4月初旬の第3回集計では5%以上だった。

一方、「300人以上」では、賃上げ額が1万6,932円、率が5.33%となっており、賃上げ額では3月中旬の第1回集計から第5回集計までは1万7,000円台を維持。率は、第4回集計までは5.4%台だった。

図表2:連合の春季生活闘争の賃上げ額・率の2014年からの推移〈平均賃金方式 定昇相当込み賃上げ〉
画像:図表2
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注1:2014年~2024年は最終集計。

注2:2025年の欄にある日付は集計日。

(出所:連合公表資料)

100人未満でも前回集計までは1万円台を維持

より細かい規模区分でみると、「99人以下」は、賃上げ額が1万976円で、率が4.38%となっており、100人未満の小規模組合でも、3月中旬の第1回集計から1万円台を維持している。最終結果でも1万円以上となれば、賃上げが復活した2014年以降で初めてのことになる。

「100~299人」は、賃上げ額が1万2,978円で、率は4.80%。第5回集計までは5%台を維持していたが、第6回集計で5%を割った。「300~999人」は1万4,855円、5.08%、「1,000人以上」は1万7,441円、5.39%となっている。

中小を含むいずれの規模区分も、額・率ともに昨年の最終結果より高い水準となったが、額・率ともに規模が大きいほど高くなるという格差拡大の傾向は今年も変わっていない(※中小組合の格差是正の取り組み結果は別稿で詳述する)。

「交通運輸」「サービス・ホテル」の賃上げ率が昨年から大幅アップ

今年は、業種間の賃上げ格差が縮まった点も、特徴点の1つとしてあげられる。

連合が「製造業」「商業流通」「交通運輸」「サービス・ホテル」「情報・出版」「金融・保険」「その他」という業種別に集計した定昇相当込み賃上げ率(加重平均)の昨年最終結果との比較をみる。

それによると、「製造業」は2024年5.58%⇒2025年5.50%、「商業流通」は2024年5.15%⇒2025年4.59%、「交通運輸」は2024年3.31%⇒2025年4.64%、「サービス・ホテル」は2024年3.72%⇒2025年5.06%、「情報・出版」は2024年5.20%⇒2025年5.64%、「金融・保険」は2024年4.79%⇒2025年4.74%、「その他」は2024年4.93%⇒2025年5.36%、という結果となっている(図表3)。

図表3:業種別にみた平均賃金方式での定昇相当込み賃上げ率の2024年との比較(単位:%)
画像:図表3

注:2024年は最終結果で、2025年は第6回集計結果。

(出所:連合公表資料)

図表3をみてわかるように、「交通運輸」と「サービス・ホテル」の賃上げ率が、昨年は3%台にとどまって高い賃上げの波に取り残される構図となったが、今年は両業種とも大幅に率がアップし、他業種と遜色ない引き上げ率となった。

「賃上げ分」は2年連続で1万円を超え、1万1,000円台となることが濃厚

次に、ベースアップ・賃金改善の回答結果を確認する。

連合の第6回回答集計では、ベアや賃金改善分に相当する「賃上げ分」が明確にわかる組合は、集計組合のうちの3,339組合(265万3,626人)となっており、これを集計ベースにした「賃上げ分」の加重平均をみると、額で1万1,763円、率で3.71%となっている(図表4)。額は、昨年同時期を1,115円、率は0.17ポイント上回り、最終結果との比較では額で1,000円以上、率では0.15ポイント上回る。

「賃上げ分」の額は7月の最終集計でも、2年連続となる1万円超えとなるとともに、1万1,000円台を維持できる可能性が高い。率ではほぼ間違いなく2年連続で3.5%を超える結果となるだろう。額・率ともに、連合が「賃上げ分」の集計を開始した2015年以降での最高水準だ。

図表4:連合の春季生活闘争の賃金改善額・率の2014年からの推移〈平均賃金方式 賃金改善分が明確に分かる組合の集計(加重平均) 賃金改善分〉
画像:図表4
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注1:2014年~2024年は最終集計。

注2:斜線のセルは、連合公表資料に該当の数値がないため記載できず。

注3:2025年の欄にある日付は集計日。

(出所:連合公表資料)

2024年度平均の物価との比較では実質賃金を維持

「賃上げ分」の結果から気になるのが、過年度物価上昇を上回り、実質賃金がプラスとなっているのかどうかだ。そこで、総務省の2024年度平均の消費者物価指数(対前年度比)と比べた。

2024年度平均の消費者物価指数の「総合指数」は3.0%上昇で、「生鮮食品を除く総合指数」は2.7%上昇、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」では2.3%上昇となっている。いずれの指数と比べても、「賃上げ分」(3.71%)のほうが高くなっており、2025春闘では、「過年度物価」との比較では実質賃金は維持できたと判断できそうだ(図表5)。なお、2024春闘では「賃上げ分」の引き上げ率は3.56%で、2023年度平均の指数のうち、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」(3.9%)は「賃上げ分」を上回る結果だった。

図表5:「賃上げ分」の率と過年度物価上昇(消費者物価上昇率)との対比(単位:%)
画像:図表5

注1:「賃上げ分」は、2024春闘は最終結果で、2025春闘は第6回集計結果。

注2:消費者物価上昇率は2023年度平均と2024年度平均の結果。

(出所:連合公表資料、総務省統計局公表資料)

中小でも過年度物価を上回る賃上げ率を達成

図表4に戻って、「賃上げ分」についても規模別にみると、「300人未満」は、額が9,511円で、率が3.51%。「300人以上」は、額が1万1,983円で、率が3.73%となっている。中小も過年度物価上昇を上回っている。

さらに細かい規模区分でみると、「99人以下」は、額が8,548円で、率が3.28%。「100~299人」は、額が9,800円で、率が3.57%。「300~999人」は、額が1万928円で、率が3.72%。「1,000人以上」は、額が1万2,217円で、率が3.73%となっている。「99人以下」でも3%を大きく上回る結果となった。

JCMでは2014年以降で初めてベアなどの賃上げが1万円台に

賃上げ相場への影響力が大きい金属労協(JCM、金子晃浩議長)の賃上げ回答結果についても簡単に確認する。

JCMの5月28日現在の全体集計では、「賃上げ」獲得額の単純平均は、賃上げが復活した2014年以降で初めて1万円の大台に乗り、1万324円となっている(図表6)。なお、今次闘争でのJCMの賃上げの要求基準は、定期昇給などの賃金構造維持分を確保したうえでのすべての組合での1万2,000円以上の賃上げ。

図表6:金属労協・2014年以降の賃金改善分の獲得額(単純平均)の推移(単位:円)
画像:図表6
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注:2025年は5月28日現在での集計。その他の年は最終集計。

(出所:金属労協公表資料)

組合規模別にみると、「299人以下」が9,278円、「300~999人」が1万1,774円、「1,000人以上」が1万2,851円となっている。昨年の最終結果と比べると、「299人以下」は1,000円以上の増加となった。

時給の引き上げ率は3年連続で5%以上を達成

有期・短時間・契約等労働者の賃上げについては、引き上げ額は時給では加重平均で67.02円となっており、昨年の最終結果(62.70円)と比較すると、4円以上高い(図表7)。67.02円は率に換算すると5.81%で、最終集計でも5%台後半を維持すれば、3年連続の5%以上達成ということになる。

図表7:連合の春季生活闘争における有期・短時間・契約等労働者の時給等引き上げの2014年からの推移(加重平均)
画像:図表7
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注1:2025年第2回集計では、時給と月給の集計は行われていない。

注2:最低賃金全国加重平均額のカッコ内の数値は前年比(%)。

(出所:連合公表資料、厚生労働省公表資料)

なお、100万人を超えるパートタイマー組合員を抱えるUAゼンセン(永島智子会長)がまとめた5月末日現在での妥結集計についても確認すると、制度昇給分も含めた時給の引き上げ額の加重平均は66.9円で、率では5.83%となっている。10年連続で、パートタイマーが正社員を上回る引き上げ率となっており、UAゼンセンでは「雇用形態間格差是正の流れが定着している」と評価している。

<賃上げ回答結果に対する各界の受け止め>

昨年を上回った要因に、賃上げへの期待や人手不足、格差への注目など

賃上げ回答結果に対する受け止めについて、連合は5月28日に中央委員会を開き、「2025春季生活闘争中間まとめ」を確認した。

中間まとめは全体結果について、「労使が、賃金・経済・物価を安定した巡航軌道に乗せる正念場であるとの共通認識のもと、企業の持続的成長、日本全体の生産性向上につながる『人への投資』の重要性について、中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉した結果である」とし、「新たなステージの定着に向け前進した」と総括。

昨年を上回る結果に結びつくことになった要因として、経済情勢については「物価が引き続き高止まりする中で、物価を上回る賃上げへの期待が大きかった」と分析するとともに、人手不足が一段と強まった点をあげた。社会情勢については、「賃上げと適正な価格転嫁の必要性について社会的機運が醸成できた」とし、また、産業間や企業規模間、雇用形態間などの格差についても注目度が高まったと分析した。このほか、「経済団体や中小企業団体との問題意識の共有が深化」したことや、「連合方針を受けて、幅広い産業で積極的な賃上げ要求作りが進んだ」点なども要因としてあげた。

一方、格差是正の取り組みについては、中小組合の引き上げ額・率ともに全体平均を下回ったことから「格差拡大に歯止めをかけるには至らなかった」と総括した。

「確実に新たなステージの定着に向け前進」と芳野会長

中央委員会であいさつした芳野会長は、「基本方針に掲げた『5%以上の賃上げ』という目標を達成し、さらには33年ぶりに『5%以上』を実現した昨年を上回る賃上げ率となっている。ここまでの取り組みを踏まえると、確実に新たなステージの定着に向け前進していると受け止めて良いと考えている。これは、幅広い産業で積極的な賃上げ要求を掲げ、粘り強く交渉を積み重ねてきた結果だ」と話した。

金属労協は5月28日現在での回答状況について、5月29日に発表した第9回戦術委員会確認事項のなかで「賃上げの要求額・回答額ともに、2014年以降で最も高い水準となったことに加え、中小の底上げを前進させるなど、大きな成果を上げることができた」と評価している。

「賃金引上げの力強いモメンタム『定着』への着実な一歩を踏み出した」と十倉会長

経団連は3月12日、集中回答日における十倉会長のコメントを発表し、「多くの労働組合が昨年を上回る要求を提示するなど、賃金引上げに対する強い期待を感じながら迎えた本日の集中回答日では、製造業を中心に、多くの大手企業において、今年も、1万円以上の大幅なベースアップや5%を超える高い水準の賃金引上げ、労働組合の要求通りの満額回答が示された。これは、『人への投資』の重要性を労使で深く共有し、自社にとって継続可能な賃金引上げについて真摯な議論を重ねた結果であり、賃金引上げの力強いモメンタム『定着』への着実な一歩を踏み出したと、非常に心強く感じている」と評価した。

東京商工会議所も同日、小林健会頭のコメントを発表し、「昨年に引き続き、大手各社から大幅な賃上げの回答が示されたことを歓迎する。物価と賃金の好循環に向け、地方を含む中小企業・小規模事業者へ賃上げの動きが広がることを強く期待する」とした。

石破首相は「官民の連携が一層進んできたことが実を結んできている」と評価

政府は、集中回答日の3月12日の夕方にさっそく政労使の意見交換を開催。経団連会長から、多くの企業で高い水準の回答がみられたとの報告を受けた石破首相は、「『賃上げと投資が牽引(けんいん)する成長型経済』の実現に向けた機運が高まり、官民の連携が一層進んできたことが実を結んできていると考えている」と話し、2025春闘の幸先良いスタートを歓迎した。

4月14日には、16年ぶりとなる連合との政労会見が開かれ、2025春季生活闘争における賃上げの状況などについて政労で意見交換。石破首相は、「賃上げが全国津々浦々に波及させるために、やるべきことは変わっていない。適切な価格転嫁の推進、生産性の向上、事業承継やM&Aの後押しなど、あらゆる施策を総動員していく」と、引き続きの「構造的な賃上げ」の実現に向けた支援を連合に約束した。

<今年の賃上げ交渉の進捗の特徴>

交渉期間中にトランプ政権による高関税政策が打ち出される

昨年の春闘では、3月のヤマ場よりも早い時期で満額回答が経営側から示されたり、要求を上回る水準で回答が出される動きが目立ったが、今年の春闘では、金属労協傘下の主要なメーカー労組をはじめ、そうした動きは、前回ほどは見られなかった。

かわりに今年の交渉期間中で最も大きな話題となったのは、米国トランプ政権が打ち出した高関税政策。トランプ大統領は、賃上げ交渉が入口段階にある2月18日に、米国に輸入される自動車や半導体などに25%程度の関税をかける考えを表明。3月26日には、輸入される自動車について4月3日から25%の関税をかけるよう命じる文書に署名し、発動されることとなった。

特に米国に製品を輸出する産業での賃上げ交渉へのマイナスの影響が懸念された。

労働組合は今のところ影響を「注視する」姿勢

ヤマ場の回答が出揃った3月12日の会見でトランプ関税の影響見通しについて聞かれた自動車総連の金子晃浩会長は、それによって「(賃上げを)出せないというような直接の話はない」と返答。発動後の4月2日の会見では、交渉のなかで経営側が経済情勢の不透明要素としてあげる材料はトランプ関税だけではないと断りつつ、「中小のサプライヤーの交渉を注視している」と述べる一方、「今、目に見える形で大きな影響は出ていない」とした。連合の芳野会長も4月3日の会見で、その影響を「注視していく」と話した。

4月14日の政労会見で石破首相は、トランプ関税に関連して、「国内産業への影響を勘案し、資金繰り支援など、必要な対策に万全を期す」と連合に説明。石破首相は4月26日の連合系メーデー中央大会でのあいさつでもトランプ関税に触れ、「今回のアメリカの関税措置は、国内産業に大きな影響を及ぼしかねない事態だ。政府として、賃上げの勢いに水が差されることのないよう、合衆国政府に対して、この措置の見直しを強力に訴えていく」と話した。

(荒川創太)