個人事業者も労働安全衛生法の保護対象へ
――法改正など今後の措置が予定される労働安全衛生対策
国内トピックス
厚生労働省の労働政策審議会安全衛生分科会が1月にまとめた「今後の労働安全衛生対策について(報告)」に沿って、必要な法改正などに向けた作業が進められている。今通常国会での審議が予定される労働安全衛生法の改正では、フリーランスなどの個人事業者等についても同じ場所で就業する労働者と同じように、同法における保護対象や義務の主体と位置づける。分科会報告に盛り込まれた、法改正などにより今後の措置が予定される主な内容を眺める。
個人事業者の対策のほか、職場のメンタルヘルス対策の推進などが柱
労働安全衛生対策で措置が予定される分野は、「個人事業者等に対する安全衛生対策の推進」「職場のメンタルヘルス対策の推進」「化学物質による健康障害防止対策等の推進」「機械等による労働災害防止の促進等」「高年齢労働者の労働災害防止の推進」「一般健康診断の検査項目等の検討」と「治療と仕事の両立支援対策の推進」。
「個人事業者等に対する安全衛生対策の推進」では、安衛法における保護対象や義務の主体となる個人事業者として、「事業を行う者で、労働者を使用しないもの」を同法に位置づける。
また、中小事業の事業主や役員について、個人事業者や労働者と類似の作業を行う実態にあることを踏まえ、個人事業者と同様に、安衛法における保護対象や義務の主体として位置づける。
個人事業者等にも労働災害防止のための必要な責務を規定
安衛法第4条では、労働者の責務として「労働災害を防止するため必要な事項を守ること」等が規定されているが、これを参考にして、個人事業者等についても自身の災害や労働災害を防止するために必要な責務を規定する。
機械等の安全確保について、事業者には、構造規格または安全装置を具備しない機械等の使用禁止などの規制が課されているが、個人事業者等にも同様に、使用を禁止するとともに、定期自主検査の実施を義務付ける。
安全衛生教育についても、事業者が労働者を危険または有害な業務に就かせる際には特別教育を実施することが義務付けられているが、個人事業者等にも同様に、特別教育の修了を義務付ける。
注文者などによる措置に関しては、安衛法第3条第3項には、仕事を他人に請け負わせる者は施工方法、工期等について安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならないと定められているが、この規定を、建設工事以外の注文者にも広く適用される規定であることを明確にする。
個人事業者等も違反を申告できる仕組みを整備
個人事業者等による労働基準監督署などへの申告に関して、個人事業者等が請け負った作業等に関し、労働安全衛生関係法令に違反する事実がある場合については、個人事業者等は労働基準監督署等に対して申告し、是正のため適当な措置をとるよう求めることができる仕組みを整備する。
事業者等は、個人事業者等が労働基準監督署等に対して申告したことを理由として、不利益な取扱いを行ってはならないことを規定する。
個人事業者等の業務上災害について、現在は、網羅的に把握する仕組みがないことから、労働者死傷病報告の仕組みを参考にして、個人事業者等の業務上災害の報告制度を創設する。
労働者数50人未満の事業場でのストレスチェックを義務化
「職場のメンタルヘルス対策の推進」では、現行は、労働者数50人未満の事業場ではストレスチェックの実施が当分の間、努力義務となっているが、事業場規模にかかわらずストレスチェックの実施を義務とする。
「化学物質による健康障害防止対策等の推進」では、化学物質の譲渡・提供時における危険性有害性情報の通知制度の改善等などが柱。化学物質の危険性・有害性情報の通知制度の履行確保に関しては、通知義務の履行確保の観点から、安衛法第57条の2第1項に規定する通知義務違反に罰則を設ける。
個人ばく露測定について、作業環境測定と同様に測定の精度を担保するため、法律上の位置づけを明確にし、有資格者が実施しなければならないようにする。
高齢者の特性に配慮した災害防止措置を努力義務化
「高年齢労働者の労働災害防止の推進」では、高年齢労働者の労働災害を防止するため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、適切な作業の管理その他の必要な措置を講じることを事業者の努力義務とする。
「一般健康診断の検査項目等の検討」では、女性特有の健康課題への対応などが柱。月経随伴症状や更年期障害等の女性特有の健康課題について、一般健康診断の機会を活用し、女性労働者本人への気づきを促し、必要な場合には医師への早期受診などを申し出やすい職場をつくるために、厚生労働省が示している標準的な問診票である一般健康診断問診票に女性特有の健康課題に関する質問を追加する。
治療と仕事の両立支援のための必要な措置も努力義務に
「治療と仕事の両立支援対策の推進」では、治療と仕事の両立支援のための必要な措置を講じることを事業者の努力義務とする。
労働政策審議会は1月下旬、これらの措置を含む「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案要綱」「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案要綱」を了承(厚労相へ答申)。これをうけて厚生労働省は法案を作成し、近く今通常国会に法案を提出する予定だ。
(調査部)