全国一律で時給額を高く設定することで人材確保に成功
 ――コストコホールセールジャパンの取り組み

企業ヒアリング

日本国内で店舗拡大を続けるコストコホールセールジャパンでは、管理職以外で、正社員、パートタイムともに全国一律の時給制を適用し、入社時の時給額(アシスタント)は1,500円を設定している。2024年度の地域別最低賃金では、東京1,163円、神奈川1,162円、大阪1,114円、福岡992円、熊本952円となるなかで、首都圏の最低賃金を上回る全国一律の時給額の設定は、求職者の応募の増加、離職率の低下に成果をあげている。

1999年に日本進出以降、35倉庫店に拡大

コストコホールセール(米国ワシントン州イサクア、1983年設立)は、世界14カ国と地域に876倉庫店 (2024年3月時点)を運営し、31万6,000人(2024年3月時点)の従業員を抱えるグローバル企業。高品質の優良ブランド商品をできるだけ低価格で提供する会員制倉庫型店だ。1999年に、福岡県久山に日本の第1号倉庫店がオープンした。以降、店舗拡大を続け、日本国内に35倉庫店(2024年8月時点)を展開。本社と2カ所の物流センターも有する。

全従業員数は約1万3,500人。男女比では女性が57%、男性43%。従業員の平均年齢は40歳。中途採用比率は98%を占める。新卒採用では毎年40人ほど定期採用している。倉庫店の人員規模では、小規模倉庫店が250~300人弱、大規模倉庫店が約550人で運営されている。倉庫店では、倉庫店長が1人、副倉庫店長が3~4人就いている。倉庫店の売り場面積は約4,000坪と広大で、部署も様々。例えば、売り場の部署には、メンバーシップカウンター(会員の入会手続き)や、マーチャンダイジング(フォークリフトや手動パレットジャッキでの商品陳列)、デリ(サラダ・ピザ・チキン等の調理製造、接客)、ベーカリー(パン製造、接客)、フロントエンド(接客、レジ操作、商品の荷詰め)――などがある

同社の場合、雇用形態は、大別して、管理職である年俸制正社員と、非管理職にあたる時給制のフルタイム正社員、パートタイムに分かれる。米国の公正労働基準法(FLSA)では、エグゼンプトは残業代の支給対象ではなく、ノン・エグゼンプトは支給対象となっている。同社の米国本社の雇用形態も、管理職(エグゼンプト)、非管理職(ノンエグゼンプト、時給制)で分かれている。日本支社の雇用形態も、日本進出時に、米国本社の方式を導入したものだ。

正社員、パートタイムともに全国一律の時給制

フルタイム正社員は週40時間勤務であり、パートタイムは、週40時間未満で、平均的には週30時間勤務の者が多い。年俸制正社員(管理職)は、従業員全体の1割程度を占めている(女性管理職比率は27%)。従業員(年俸制正社員除く)に占めるパートタイム比率は約5割である。米国本社のグローバルスタンダードとして、「正社員比率は5割を超えること」というルールがあることから、日本支社においても、正社員の割合は高い。

フルタイム正社員、パートタイムいずれも時給制であり、同じ時給表(賃金テーブル)が適用されている。職務内容(ポジション)は、クラーク(専門職)とアシスタントに分かれている。クラークは高度の技能を必要とすることから、アシスタントよりも高い時給区分が設定されている。例えば、フロントエンド(レジ部署)の場合、レジ打ちは高度なスキルを要することからクラークの職務である。一方、商品の荷詰めはアシスタントの職務でクラークよりは低い時給区分となっている。

入社時の時給額は、アシスタントが1,500円、クラークが1,550円のスタートとなっている(2024年2月時点)。自動昇給制度を有しており、入社後、1,000時間ごと(約半年間)に、時給が20円から最大64円アップし、アシスタントで最高1,850円(月収例32万円)、クラークで最高2,000円(月収例34万円)まで昇給する。時間外勤務手当は時給の1.35倍で支給している(図表1)。最高時給に到達後、勤続年数に応じて年2回の臨時手当(賞与)を支給している。一方、管理職は年俸制で、年に1度の評価(人事考課)によって昇給する(固定残業代として一定時間分の残業代が年俸額に含まれ、12分割した金額が毎月支払われる)。

図表1:コストコの給与(時給は入社時)
画像:図表1

(ヒアリング内容をもとに筆者作成、2024年2月時点)

社内公募制度で自ら手を挙げてキャリアを形成

フルタイム正社員やパートタイムとして入社した後は、スーパーバイザー(日本企業での係長相当)、マネージャー(同課長相当)、副倉庫店長、倉庫店長へと昇進するキャリアがある。スーパーバイザー以上が年俸制正社員(管理職)である。昇進は、入社後90日間の試用期間終了後、本社・倉庫店を問わず空きポジションに応募することができる社内公募制度(ジョブポスティング制度)をとっている。社内公募で空きポジションが示され、応募し、面接で合格すれば、そのポストに就くことができる(図表2)。米国本社の昇進システムと仕組みは同じである。倉庫店長など一定の役職までは辞令がなく、社内公募で人事が決められている。空きポジションがあれば、アシスタントからクラークに応募することや、パートタイムから一足飛びにスーパーバイザーに応募することも可能だ。逆に、ライフステージに応じて、短時間勤務を希望する場合にフルタイム正社員からパートタイムに応募することもできる。

図表2:コストコの社内公募制度(ジョブポスティング制度)
画像:図表2

(同社提供)

社内公募制度では、空きポジションが必要となるが、店舗拡大を続ける同社では常に空きポジションの募集がなされている。中川裕子(人事・総務 マーケティング)本部長は、「ほぼ毎年のように新しい倉庫店がオープンしているので、常に全国のどこかの倉庫店で、複数のポジションの社内公募が出されている。かなり活発に人は流動する。自ら進んで動いてくれる、そういった企業文化が根づいている」と語る。例えば、パートタイムからフルタイム正社員への転換も、2023年1年間の転換実績では、男性で187人、女性で245人となっている。パートタイムから年俸制正社員への転換実績も、男性で1人、女性で2人いる。

一方、地域に根差して働いていきたい人で、希望する空きポジションがない場合のモチベーションの維持については、次のように語った。

「全員が全員、他の倉庫店に行きたい、昇進したいというわけではない。自ら望んで地元に根づいて、家庭環境もあり、自分はここのポジションをずっとやり遂げたいという方もいる。そういった方々は特に、自分は転勤ができないから、ここにしかいられないから、といった後ろ向きなことではなくて、例えば専門職として、その部署のそのポジションを極めたいという高い志を持っている。そのポジションのスペシャリストになっていくということで、モチベーションは十分保てている」

時給額を全国一律に設定することで求人募集の増加に効果

2024度の地域別最低賃金は、東京で1,163円(全国加重平均1,055円)である。一方、コストコのアシスタントの入社時の時給額は1,500円であり、この時給額は全国一律で設定されている。同社の時給額の設定は、賃金相場が高い首都圏での競合他社の時給を参考に一定の方法で決められ、定期的に見直されている。同社の時給額が最低賃金を大きく上回る地域もあることから、求人募集での競争力は強い。中川氏は、募集時の賃金の競争力について、「地方に行けば行くほど、われわれの賃金帯はもうはるかに高い。大変多くの方の応募を受けることになるので、人手不足では困ってはいない」と語る。

パートタイムについては、いわゆる「年収の壁」(税金や社会保険料がかからないように年収を抑えようと意識される金額)を超えるような時給額が設定されていることになるが、これについても、「(求職者には)年収の壁を大幅に超えることから、面接のときに、扶養の範囲内で働くことはできない」と伝えているという。

フルタイム正社員とパートタイムの業務や役割、処遇の違いについては、職務(ポジション)が同じであれば、均衡処遇がなされている。例えば、臨時手当(賞与)も労働時間によって按分されることから、フルタイム正社員(週40時間勤務)に比べて、パートタイム(30時間勤務)のほうが、その分、金額は低くなる。中川氏は、「同一労働同一賃金の観点でいえば、弊社は本当の意味で同一労働同一賃金が達成できている」と述べた。一方、パートタイムに比べてフルタイムのほうが職場で長い時間働いていることから、習熟度も高くなり、責任の重い職務に就く確率は高くなる。社内公募制でも、パートタイムからよりも、フルタイムからスーパーバイザーに応募するほうが、合格確率は高くなるという。労働時間の長短によって、結果的に、フルタイム正社員とパートタイムでは、就くことができる業務の内容や昇進確率で差が生じることがあるようだ。

高賃金、福利厚生の充実、OJT、社風は離職率の低下に効果

時給額の高さは、離職率の低下にも効果をあげている。中川氏は、「離職率は小売業でみてもかなり低い」という。福利厚生面でも、無料のコストコメンバーシップカードをはじめ様々なクーポン・バウチャーが支給されることに加えて、高い有給休暇の取得率、さらに、会社全額負担による団体生命保険、団体長期障害所得補償保険を設けており、離職率の低下につながっている。

離職率の低下には、バディ制度(メンター制度)の影響も大きい。同社では座学の研修よりもOJTを重視しており、新人が倉庫店に配属されると、先輩社員(バディ)が1対1でつき、OJTによってオペレーションに関して指導している。また、社風として、「オープンドアポリシー」(上司と話しやすい社風)も推進している。現場で問題が生じたときに、職務に関係なく自由に、上長に質問ができる制度が確立されていることから、従業員の風通しがよい、意見が通りやすい職場になっていることも離職率の低下に寄与している。

企業成長に伴う人材育成が課題

今後の課題では、「企業成長に伴う人材育成が急務」と語る。店舗拡大を進めるなかで、とくに人材育成の核となる年俸制正社員(スーパーバイザー、マネージャー層)の増加が鍵だという。

「人材育成が常に急務。ただ箱物をそろえるだけでなく、いかにそこで働く人材をそろえていくかが、これからも継続していく課題。人が足りない、人を雇えないということではない。新しい倉庫店をどんどん展開していくということは、新しい方をどんどん採用するということ。会社の成長スピードと人材育成のスピードが合致するわけではない。それを管理する側、管理職が必要になってくる。経験者が必要になってくる」(中川氏)

一方、同社は、例年、新卒採用で40人程度を採用しているが、新卒者に対しては、「次世代リーダー」として、ファストトラックのプログラムを経験させている。プログラム期間は18カ月(1年半)。倉庫店の各部署で、2~3カ月単位で、キーとなるポジションで実践経験を積む。期間終了後は、倉庫店運営も担当し、オペレーションの全体像をつかむこともできる。

同社としては、新卒者の早期育成に加え、フルタイム正社員、パートタイムの人材を育て上げることで、管理職層(とくにスーパーバイザー、マネージャー)を厚くしたい考えだ。毎年のように新規の倉庫店がオープンするため、常に人材育成を念頭におく必要があるという。

(奥田栄二、郡司正人)

企業プロフィール

  • コストコホールセールジャパン株式会社
  • 本社所在地:千葉県木更津市瓜倉361番地
  • コストコホールセールジャパン日本支社長:ケン・テリオ
  • 事業内容:小売業
  • 従業員数(日本支社):約1万3,500人(2024年5月時点)
  • 倉庫店:日本国内全国35倉庫店(2024年8月時点)
  • 労働組合の有無:労働組合なし
  • 認定:厚生労働省「3ツ星えるぼしマーク」、「くるみん」認定など。

(ヒアリング実施日:2024年2月1日)