日勤週休3日制度・夜勤専従制度の分業制を導入することで人手不足を解消
 ――ウェルフェア三重の働き方改革の取り組み

企業ヒアリング

離職率の高さから人手不足が深刻化している介護事業。ウェルフェア三重は、求職の応募が少ない介護施設に、日勤週休3日制度・夜勤専従制度を導入することで、人材確保に成功。介護職員のモチベーションを高めることで離職率も低下した。ICTの推進にも積極的で、介護記録ソフトの導入により、業務の効率化でも成果を上げている。

三重を本拠として、介護事業を展開

ウェルフェア三重は、グループ会社を含め、三重県伊勢市を中心に、介護付有料老人ホーム、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、特別養護老人ホーム、児童発達支援事業所など12事業所を運営している。従業員数は、株式会社ウェルフェア三重(単体)で113人。

同社の従業員の男女構成は、女性が71人、男性42人で、女性が6割強となっている。年齢では、55歳以上が48人を占める(65歳以上が19人。最高年齢76歳)。職種は、介護職が72人と最多。就業形態は、正社員が83人、正社員以外が30人であり、正社員比率は73.5%と高い。正社員の新卒・中途採用比率では、ほとんどが中途採用者である(新卒採用は例年数名。2024年4月採用は2人)。平均勤続年数は6年6カ月。2023年4月に定年制度を廃止している。2016年以降、キャリアコンサルタントの資格取得を奨励しており、社内では有資格者が3人いる。

働き方改革で介護の直接業務と間接業務の分業制を導入

働き方改革の取り組みとしては、2016年に、介護業務を、利用者に触れる直接業務と、それ以外の間接業務に分ける分業制度を導入している。具体的には、介護職員が直接業務(利用者の身体に直接触れる業務【清拭、入浴介助、オムツ交換、移乗介助、食事介助など】)に特化して従事し、それ以外の間接業務(利用者の身体に直接触れない業務【掃除、洗濯、ベッドメーキングなどのリネン交換】)を間接業務専門の人材が担うこととなった。間接業務の専従者は11人で、主に高齢層の職員や身体障害を負った職員が、身体的負荷の低い間接業務に転換するケースがみられる。間接業務専従者の配置は、各施設で1人~数人など様々。

分業制度を導入した背景には、介護職員の業務の忙しさもあり、利用者の部屋の清掃や洗濯等に十分に対応しきれていなかったことから、利用者とその家族等から「部屋が汚い、衣類のたたみが乱雑」などのクレームがみられたことにある。介護職員は、本来の身体介護業務だけでなく、利用者の要望やトイレ介助等への随時の対応で仕事を中断することも多い。その合間をぬって清掃、洗濯、リネン交換の時間を捻出せねばならず、意図せず「片手間的な仕事」になりがちとなり、これが利用者・家族からのクレームにつながった面があるという。

分業制を導入することで、介護職員は身体介護に集中して仕事ができ、間接業務専従者も、間接業務に特化したオペレーションを組むことができる。分業・特化によって、間接業務専従者の仕事の精度は向上。清掃やシーツ交換を通じて利用者と日々接することから、利用者から直接、お礼を言われるなど、モチベーションの向上にもつながった。

一方、介護職員も、分業により、直接介護に集中できることから、モチベーションは向上した。利用者のクレームも格段に減った。さらに、分業により間接業務が減ったため、介護職員が利用者に寄り添う時間も増え、サービスの質の向上が図られた。とくに利用者に対する「深掘り」ができるようになったことが大きい、という。同社の代表取締役である松原和之氏は、その成果について次のように語る。

「(分業制度を入れる前、介護職員は)直接業務以外に、清掃や洗濯で忙しかった。分業することで、1対1で利用者と向き合って話ができるようになった。利用者のペースにあわせてゆっくり話をすることで出てくる反応、高齢者の感情や思いの引き出し方を学んだ職員は多かった。利用者からも、『声をかけやすくなった、いろいろ頼み事がしやすくなった』と言われた。利用者側からみると、『(分業制度を入れる前は、職員が忙しそうで)頼みにくかったけど、本当はちょっと直してほしい、タンスの位置を変えてほしい、ポータブルトイレの位置を変えてほしい。生活できなくはないけど、変えてくれてありがたかった。気持ちよく暮らせるようになった』と。それを職員たちが感じていく。利用者の思いを酌み取ることの重要さに気づいてくれた。これが一番の効果だ」

日勤週休3日制度・夜勤専従制度を導入

同社では、2018年に介護付き有料老人ホームみっかいち(鈴鹿市、1カ所)に、日勤週休3日制度、夜勤専従制度を導入した。夜勤専従制度により、日勤専従者と夜勤専従者は分業化された。具体的な制度設計としては、日勤週休3日制度は、週40時間の所定労働時間を、1日10時間・週4日勤務に設定することで、週休3日を確保した(年間休日156日)。

一方、夜勤専従制度も、日勤と同じで、所定労働時間は夜勤1日10時間で設定。導入施設では、夜勤は常時1人が配置されている。夜勤専従者は2人である(夜勤専従者2人は夜勤を希望している)。夜勤のシフトの割り振りは、1年間を2人で半分ずつ分担する形(月当たり勤務日数は15日。年間休日182日)。1人の夜勤専従者が3日~4日連続で働き、3日~4日休むイメージだ。夜勤勤務日のシフトは、希望休を2人で互いに設定しているという。

日勤専従の勤務シフトは、早番(①6時半~17時半、②7時半~18時半)、遅番(③9時~20時、④9時半~20時半)――の4パターン。一方、夜勤専従の勤務は、遅番の終わる時間(20時半)に出社し、翌朝7時半に退社する(夜勤中に休憩時間1時間)。夜勤の出社時点で、利用者は、就寝介助の終盤にあることから、夜勤の業務内容は、主に安眠支援と翌朝の起床の一部を担うイメージである。

導入経緯は、鈴鹿市に所在するみっかいち(介護施設)の求人が集まらなかったため。同社は、三重県伊勢市を中心に事業を展開しているが、三重県の形状は南北縦に長く、鈴鹿市は中北部に位置する。伊勢に立地する介護施設では、同社の認知度が高く、介護業界でのブランディングもできており、求人を出してもすぐに応募が集まる。一方、鈴鹿市の介護施設では、①本社から100キロ近く離れていること②「ウェルフェアという介護ブランド」が浸透していないこと③同業他社(介護施設)が多く設立され求人の取り合いになっていること――等から、新聞広告やハローワークで職員募集をしても、応募がほとんどなかった。人手不足により事業運営の厳しさが増すなかで、求人条件に加えたのが同制度である。その効果は高く、2人の募集に対し、1回の新聞広告で7人の応募を得ることができた。当時、みっかいち施設長で、同制度の導入に取り組んだ松原氏は、次のように振り返る。

「新聞広告を打っても、本当に1人も職員応募がない状態がずっと続いていた。退職者も重なり、事業運営が厳しくなってきた時期もあった。そこで、もう思い切って週休3日・夜勤専従を導入する決断をした。準備には半年ぐらいかけたが、それまで1人も来なかった応募が、これを始めると、1回の求人広告で7人応募があった」

制度導入後の職員の受け止め方としては、「介護という仕事では1日10時間勤務は体力的に厳しい」との意見が多かったという。「やったことがないことをやるということに対するアレルギー反応はものすごく大きかった」(松原氏)。そのため、同社では、対象施設の職員全員に対して、キャリアコンサルタントがカウンセリングを行った。職員一人ひとりに、日勤専従(週休3日)になった場合や、夜勤専従になった場合に、仕事やプライベートで生活がどう変わるか、自ら考えてもらったという。日勤専従、夜勤専従の希望を募るうえで、キャリアコンサルタントが担った役割は大きかった。

同社としては、制度導入後、とくに夜勤専従者で体調に変化が生じないか、慎重に注視していたという。しかし、施設全体でみて、制度導入前(前年度)に、突発的な欠勤(病欠)が37回生じていたものが、制度導入後(1年間)は、欠勤8回に減少した。介護施設は24時間運営されているため、制度導入前、早番・遅番、日勤・夜勤を組み合わせる変則の交代勤務が常態だった。制度導入後、日勤専従者は日勤(早番・遅番)のみ、夜勤専従者は夜勤だけに分業がなされ、日勤・夜勤を繰り返すような働き方ではなく、一定のリズムで働くことができるようになったことが欠勤減少の原因ではないか、と分析している。

介護記録ソフトで業務の効率化を実現

同社は、ICTツールを活用した業務の効率化にも積極的だ。2017年頃からインカムを導入し職員間のコミュニケーションを円滑化した。例えば、施設が2階建ての場合、1階と2階の連絡業務はインカムで行っている。利用者に緊急事態が生じた場合にも、職員は利用者に付き添いながら応援を呼ぶことが可能だ。また、2020年頃から、介護記録ソフト「ケアコラボ」が導入され、介護記録をスマートフォン上で電子記録化することで、ペーパーレス化も実現できた。職員は、携帯端末を操作、記録することで、随時、利用者の情報を画像付きで共有できる。

キャリアコンサルタントが職員の悩みにコミットし離職率が低下

同社では、社内にメンタルヘルス相談窓口も常設している。職員からの相談件数も年間数件程度あるという。一方、全職員を対象に定期的に面談を行う「セルフ・キャリアドック制度」も導入している。セルフ・キャリアドック(面談)は、入社時は対象者全員に実施する。それ以外の層には、入社年次で対象を分けて定期的に面談を実施する。例えば、今年度は、入社1年目~3年目の職員を対象に実施し、翌年度は4年目~6年目に実施するなど、対象範囲を決めて、数年をかけて職員全員の面談を行っている。

相談や面談を担うのはキャリアコンサルタントだ。キャリアコンサルタントを社内配置している理由は、職員の悩みや課題にコミットすることが離職率の低下にもつながると考えているからだ。有資格者でもある松原氏は、次のように語る。

「介護を辞めたいという悩みが来たときに、その理由を聞いていくと、いろんな理由が出てくる。キャリアコンサルタントは、その辞めるという選択肢が本当にあなたの将来にとって有効かどうかを深掘りしていく。そうすると、辞めたいと言ってくる時は、職員の視野がものすごく狭くなっていて、辞める以外に選択肢はないような、あんまり考えるゆとりがない状況にあることがわかる。それをぐっと視野を広げてあげる。今、悩んでいることで、仕事を替えることが得策ではないことに気づく。その結果、離職を思いとどまる職員がかなりの数、出てきた。職員も自分を見つめ直して、トラブルの対処法をキャリアコンサルタントと一緒に考える。前を向く職員が増えていく。会社にとっても、離職率が低下するので、人材流出が防げる」

働き方改革で職員のモチベーションが向上し人手不足が解消

働き方改革の効果はどのようなものだろうか。採用面では、同社は、計画的に実施する新卒採用以外では、欠員補充中心の採用活動をしている。しかし、近年、介護の直接業務と間接業務の分業制や、日勤週休3日制度・夜勤専従制度などの働き方改革により、介護職員のモチベーションは向上した。キャリアコンサルティングによる離職率の低下もあり、各施設での欠員も少ないことから、常時募集をかける必要もなくなった。

欠員が生じたとしても、求人方法は、職員からの紹介(リファラル)が中心になっている。ハローワークによる求人は、求職者に初めて会うことから信頼関係の構築に時間を要する。「職員の紹介のほうが、最初から信頼して採用できることにメリットを感じている。職員の紹介がもたらす安心感は非常に大きい」という。

日本の人口減少も踏まえ外国人の活用も視野に入れて働き方改革を推進

今後の課題・展望としては、今後の日本人の人口減少を踏まえ、外国人技能実習生、留学生の活用を念頭に入れている。「いずれ働き手は少なくなっていく。日本人だけに頼ってやっていけるのもいずれ厳しくなる」。同社は、すでに数名の外国人技能実習生(ネパール、ベトナム)を受け入れている。今後、日本人職員と外国人との協業が常態化することもありうることから、自社の職員に、「早いうちから外国人に慣れてもらいたい」との期待もある。

外国人技能実習生を受け入れて3年ほど経過しているが、外国人特有の特徴にも気づいたという。「まず、外国人の場合、お金を稼ぎたいということで真面目に取り組む人たちがほとんど。休みを取りたいという要望が少なく、勤務シフトが組みやすい。宗教・文化の違いもあり、例えば、日本人の場合、正月・お盆に休暇を取りたいが、外国人は休みはいらないので出勤したい、という。コロナで欠勤がでた時も、彼ら・彼女たちが、私が働きます、自分が働きますと自ら申し出て働いてくれた」(松原氏)

現状では、働き方改革の効果もあり、同社は、人手不足面で深刻な状態にはない。しかし、将来の日本の人口減少を見据え、介護人材で、外国人に活躍してもらうことも視野に入れ、働き方改革をさらに押し進めていく考えだ。

(奥田栄二、郡司正人)

企業プロフィール

  • 株式会社ウェルフェア三重 (以下はいずれも2024年4月時点)
  • 本社所在地:三重県伊勢市黒瀬町865-1
  • ウェルフェア三重代表取締役:松原和之
  • 事業内容:介護施設の運営など
  • 従業員数:113人(グループ全体約200人)
  • 事業所:12カ所
  • 労働組合の有無:労働組合なし
  • 認定:経産省「健康経営優良法人」認定企業(2021、2022)など

(ヒアリング実施日:2024年1月12日)