男女間賃金格差が大きい金融業などの5産業に対し、2024年中でのアクションプランの策定の着手を要請
――政府の「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」が中間とりまとめを公表
女性活躍に向けた最新の政策動向
省庁横断的に女性活躍に向けた男女間賃金格差への対応策を検討している政府の「女性の職業生活におけるプロジェクトチーム(座長:矢田稚子・内閣総理大臣補佐官)」は6月5日、中間とりまとめを公表した。金融業・保険業や食品製造業など、男女間賃金格差が大きいとされる5つの産業について、課題と要因を分析。そのうえで5産業に対し、男女間賃金格差解消に向けたアクションプランを、2024年中に策定することに着手し、できるだけ早期に公表することを要請した。
<プロジェクトチーム検討の背景>
関係省庁の課長級がメンバー
2015年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が成立して以来、女性の活躍は徐々に進みつつあるものの、業界によって取り組みの状況に差があり、また、省庁横断的に取り組みを加速させる必要があるとして、政府は今年4月、その方策を検討するため、関係省庁の課長級をメンバーとする「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」を設置した。
女性活躍に向けた課題のうち、特に男女間賃金格差に着目すると、2022年7月施行の女性活躍推進法の改正により、労働者301人以上の事業主に対する男女間賃金格差の公表が義務づけられたものの、わが国では、男性の賃金水準を100%としたときの女性の賃金水準が74.8%であり、ドイツ、イギリス、アメリカなどの欧米主要国と比較すると依然として差が大きい。
また、わが国では、勤続年数や管理職比率で男女間に依然として大きな差があり、コース別雇用管理の下で、男女の労働者の役割分担が定着している実態があるという指摘もある。職業能力開発の現状でも、女性在職者の能力開発の実施割合が男性より低くなっており、女性に対するリ・スキリングの重要性が示唆されている。
男女間賃金格差の大きい産業の実態把握と課題整理からスタート
こうした現状があることから、プロジェクトチームは、「男女間賃金格差への対応策を検討していくことが必要」だとして、まず、大企業をはじめとして、男女間賃金格差の大きい産業の実態を把握し、課題を整理したうえで、男女間賃金格差の解消に向けた職場環境の変革と、女性活躍の一層の推進に向けて講ずべき対応策について検討を行った。
民間企業の女性経営者などの有識者の意見もふまえつつ、議論を進め、6月5日に中間とりまとめを公表した。今後は、この中間とりまとめに盛り込んだ取り組みを進めながら、さらに必要な検討を続けるとしている。
<中間取りまとめの内容>
金融業・保険業、食品製造業、小売業、電機・精密業、航空運輸業を分析
プロジェクトチームでは、男女間賃金格差が比較的大きい、①金融業・保険業②食品製造業③小売業④電機・精密業⑤航空運輸業――の5産業について、各産業の事情や特性をふまえながら、賃金格差の実態と、その背景・浮かび上がる課題を分析し、対応策を検討した。そのうえで、まず、「概ね産業共通に見られた課題」と「各産業において見られた課題」を整理した。
産業共通にみられた課題としては、「男女の勤続年数に差がある」「男女の管理職登用に差がある」ことを指摘。勤続年数に差がある要因として、出産、育児等での離職やキャリアの中断が一定程度あり、さらにその背景として、仕事と家庭の両立がしにくい勤務環境(転勤、長時間労働等)があることをあげた。
一方、管理職登用に差がある要因については、男女の勤続年数の差や、女性管理職のロールモデルがいない・もしくは少ないことにより、女性自身も管理職昇進への不安をもっている点をあげた。
さらに、「○職は男性が担う」「□職は女性が担う」などといった、アンコンシャスバイアスを含む意識が管理職や女性自身にあることで、従前からの職務分離などを当然とする職場の風土を生み、そういった意識がいまだに解消されていない点についても指摘した。
これらの課題や要因に対する必要な取り組みとして中間とりまとめは、「職場における継続的な女性の登用やリ・スキリング等、管理職への女性の積極的な登用、育成(ポジティブ・アクション)」「継続就業を可能とするための、社内諸制度等による仕事と家庭の両立の支援、男性・正社員も含めた長時間労働の是正、短時間勤務やテレワークを含む柔軟な働き方の推進」「ロールモデルの共有や、キャリアアップに向けた女性への意識啓発」「アンコンシャスバイアスの解消等の意識変革」を例示した。
金融業・保険業では、総合職・一般職の男女の配置の隔たりなどが課題
①金融業・保険業②食品製造業③小売業④電機・精密業⑤航空運輸業――の5産業でみられた課題については、産業ごとに整理して記述した。
〔金融業・保険業〕
金融業・保険業については、大手金融機関での総合職採用の女性比率は3~4割程度だが、総合職全体での女性比率は1~2割の機関が多い状況や、一般職・営業職の女性比率が9割以上といった実態があることを指摘。要因として、総合職の転勤・長時間労働を敬遠する女性が多いことや、「一般職、窓口業務、HR(人事)、IR業務は女性」という意識や慣行があるとした。
〔食品製造業〕
食品製造業については、労働者全体に占める女性割合が55.4%と高い一方、管理職に占める女性割合が7.4%と低い実態があると指摘。背景として、結婚・出産・育児などの個人的な理由による離職の割合が、他産業に比べて高いことなどが考えられるとするとともに、近年はそれに加えて配偶者転勤による離職が課題となっている点などもあげた。
小売業では、融通の利かない労働時間の敬遠などが要因
〔小売業〕
小売業については、店舗に配置される女性の非正規雇用労働者が多く、労働者全体に占める非正規雇用労働者の割合(71%)、非正規雇用労働者に占める女性の割合(77%)がともに高く、本社部門と店舗などの現場に分かれていることが多い業態だが、エリア総合職・一般職の従業員が本社管理職を希望しない場合があると指摘。要因として、本社の転勤や融通の利かない労働時間を敬遠し、店頭業務を希望する女性が多いことなどがあるとした。
また、自ら非正規雇用を選択する場合が多いことが推察されるが、所得向上のニーズはあるものの年収の壁によって勤務時間を制限している例もあると言及した。
〔電機・精密業〕
電機・精密業については、正社員採用に占める女性比率が26.5%と低いことや、管理職一歩手前のポストへの昇進において、男女登用の差が大きい点を指摘した。背景として、そもそも理工学部出身の女性割合が低いことや、これまで女性の採用が少なかったことによるロールモデルが少ないことなどをあげた。
〔航空運輸業〕
航空運輸業については、操縦士の女性比率1.7%に対し、客室乗務員では99.8%など、職種ごとの男女比率の差が大きいことや、男性に比べて女性の勤続年数が短いことを指摘。要因として、操縦士は「男性の仕事」、客室乗務員は「女性の仕事」といった性別による先入観が強いことをあげた。また、女性の勤続年数が男性よりも短い要因として、客室乗務員において海外を含む宿泊を伴う業務が多く、育児等との両立が難しく出産等を機に離職をする女性が多いこともあげた。
<課題をふまえた各業界の今後の取り組み>
5産業に対し格差解消に向けたアクションプランの公表を要請
こうした分析・検討をふまえ、中間とりまとめは「業界や企業においては、引き続き実態の把握、課題の分析等に取り組みつつ、継続的な女性の登用、継続就業を可能とする仕事と家庭の両立支援や働き方の見直し、職種の再編など人事改革、アンコンシャスバイアスの解消を含めた意識変革、リ・スキリング、労働環境改善、非正規雇用労働者の処遇改善や希望する者のキャリアアップの促進等に取り組むことが重要」だと強調。
そのうえで、5産業については、「課題の整理を引き続き深めつつ、男女間賃金格差解消に向けたアクションプランを、業界において、令和6年内に策定に着手し、できるだけ早期に公表することを業界に要請する」ことを求めた。
アクションプランにあわせて、女性活躍に関する目標の設定を
アクションプランについては、所管省庁を通じて、各産業に策定の働きかけを行うこととするとし、その際には、取り組みの実効性を高めるため、いくつかの点の検討を依頼するとした。
検討を依頼する具体的な点として中間とりまとめは、各業界で女性活躍に関する目標(「採用における女性割合」や「管理職における女性割合」など)を設ける方向で検討するとともに、業界を通じた広報など、業界全体での取り組みも盛り込むことをあげた。
また、各社の取り組みが進むよう、大企業を中心に、女性活躍に関する状況把握の基礎4項目(女性採用者割合、男女の平均継続勤務年数、女性管理職割合、労働者の平均残業時間数)について、国が運営している「女性の活躍推進企業データベース」での情報開示を促進することや、厚生労働省作成の「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」をふまえたコース別雇用管理、男女の職務分離など自主点検を行うことにより、男女間賃金格差の要因の自社分析を促すことなども示した。
アクションプランを策定した業界においては、定期的に実態の把握・分析を行い、必要に応じアクションプランを見直すといったPDCAサイクルを実践することも明示した。
(調査部)
2024年8・9月号 女性活躍に向けた最新の政策動向の記事一覧
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