男女賃金格差の是正や開示企業の拡大検討を。人材育成を軸に働く女性を支援
 ――政府の「女性版骨太の方針2024」

女性活躍に向けた最新の政策動向

政府は6月11日、総理大臣官邸で「すべての女性が輝く社会づくり本部(第14回)」と「男女共同参画推進本部(第24回)」の合同会議を開き、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024(女性版骨太の方針2024)」を決定した。女性活躍・男女共同参画を推進するための「人材の育成」の取り組みを横串に据え、①企業等における女性活躍の一層の推進②女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進③個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現④女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化――の4つの重点事項に沿って、人材育成に軸を置いた持続的で広がりのある取り組みを進める。方針は、非正規雇用労働者の正社員転換やリスキリング(学びなおし)による処遇改善の促進と同一労働同一賃金の遵守徹底を明記。男女賃金格差の情報開示義務を課す対象を「101人以上」の事業所への拡大を検討することを盛り込んだ。働く女性の健康に着目し、健康確保と問題の解決に向けた施策の強化も打ち出している。

<1>企業等における女性活躍の一層の推進

政府は、東京証券取引所の最上位である「プライム市場」上場企業の女性役員比率を「2030年までに30%以上」「2025年までに19%」「2025年までに女性役員ゼロ企業を0%」にする目標を掲げている。一方、現状をみると、2023年7月末時点で女性の役員比率は13.4%(内閣府調べ)となっている。

こうしたなか、1つ目の柱の「企業等における女性活躍の一層の推進」では、まず「プライム市場」上場企業の女性役員比率の目標達成に向けて、取り組みが進んでいない企業に対する支援強化の必要性を指摘。そのためには、女性人材の採用・育成・登用の強化を図るとともに、女性活躍を推進する経営層や管理職などの意識の醸成が鍵になるとした。

女性登用の意義や必要性の理解の浸透を

具体的には、女性役員の登用目標の達成に向け、ロールモデルとなる女性役員の事例集など好事例を横展開したり、啓発コンテンツなどを作成するなどして企業に行動計画の策定を促すとともに、役員候補となる女性人材の段階的なプロセスの構築や女性登用の意義・必要性の理解の浸透を図る。

また、すべての「プライム市場」上場企業に、取引所・機関投資家・先進企業等と連携し、セミナーを開いて啓発活動を行うほか、女性活躍や子育て支援に積極的な企業には、各府省の補助金等の優遇措置の拡大・促進に取り組む。

女性起業家への支援にも触れ、金融機関や地域中核企業などさまざまなステークホルダーを巻き込みつつ、全国各地で女性起業家に対して一貫した支援を提供するネットワークを構築するほか、資金調達が難しいなどの課題を抱える女性起業家を支える取り組みも記述した。

プログラミングに関する教育の充実を図る

文部科学省の調査によると、大学(学部)の学生に占める女性の割合は、理学が27.9%、工学は16.1%で他の学部(人文科学64.3%、教育59.2%、社会科学36.7%など)に比べて低い。そこで方針は、理工系分野を目指す女子生徒等の育成に向けて、各地域の大学・高専で理工系の魅力を発信する機会の増加を図ることを提起している。

中学校の技術・家庭科(技術分野)や高校情報科の指導体制の充実を図るとともに、プログラミング教育に関する教員対象の研修会等も実施する。地域の大学・高専には、若手ロールモデルによる授業等の実施手順の事例等を示した「理工チャレンジ」のプログラムを作成・周知することで取り組みを促す。また、大学・高専では、文系・理系を問わず幅広い学生に対し、プログラミング教育を含む数理・データサイエンス・AI教育を行う。

そのほか、方針には、職場におけるパワーハラスメントやカスタマーハラスメント対策の強化、就職活動中の学生に対するセクシュアルハラスメント等の防止と適切な対応を求める内容も盛り込んでいる。

<2>女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進

2つ目の柱の「女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の一層の推進」では、地域における取り組みを推進し、全国各地での女性活躍・男女共同参画を促進する必要があるとした。そして、それには地域の取り組みの担い手の育成と専門性の向上、リーダー層の意識の醸成がポイントになるとしている。

正社員転換とリスキリングの推進で所得を向上

女性の所得向上と経済的な自立をめぐっては、正規雇用の女性の就業継続を支援するとともに、初職から非正規雇用で働く女性や、過去に妊娠等を契機に非正規雇用となった女性の正社員転換を実現させるために、非正規雇用労働者の正社員転換と処遇改善を進める事業主への助成の利用を促す。非正規雇用労働者へのリスキリングや就職の支援に取り組むことにも力点を置く。あわせて、同一労働同一賃金の遵守を徹底する。

就労に直結するデジタルスキルの習得やデジタル分野への就労支援も展開。スキルの取得から就労のマッチングまで一体的に支援することで、着実に就労に結び付けることが期待される地域の取り組みを、地域女性活躍推進交付金等で重点的に後押しする。

男女間賃金差異の公表・分析と格差の大きい業界への取り組みを推進

女性活躍推進法に基づく男女の賃金差異に関わる情報公表義務の対象については、常用労働者数「301人以上」から「101人以上300人以下」の一般事業主への拡大を検討する。そのうえで、男女間賃金格差の大きい業界に着目し、業界ごとのアクションプランの策定を促す取り組みも進めることで、より多くの企業に待遇の改善を促す。

また、いわゆる「年収の壁(106万円・130万円)」を意識せずに働けるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大や最低賃金の引き上げ等に取り組む。あわせて、「年収の壁・支援強化パッケージ」を着実に実行し、次期の年金制度改正で制度を見直すことも視野に入れる。

労働者ニーズに応じた多様な働き方の環境整備も

また方針は、柔軟な働き方の推進や男性の育児休業取得の促進等による育児・介護とキャリア形成との両立と女性への育児負担の偏りの解消もうたっている。

柔軟な働き方を実現するための措置や、男性の育児休業取得率の公表義務の拡充等を盛り込んだ改正育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法の円滑な施行のための支援等を実施。同法の説明会等の機会を捉えた周知・啓発活動や、長時間労働の是正、多様な正社員制度・選択的週休3日制など、労働者のニーズに応じた多様な働き方の環境整備を推進する。

なお、育児に関しては、2歳未満の子を持つ親が短時間勤務をする場合に、時短勤務中の賃金の10%を支給する「育児時短就業給付」を2025年4月から実施する。

働く女性の健康に配慮する企業を広げる

働く女性のなかには、月経、妊娠・出産、更年期等、女性のライフステージごとの健康問題で望まない離職等を余儀なくされる人も少なくない。方針は、こうした女性特有の健康課題による離職を防ぐことで活躍を支援。プライバシーに十分配慮したうえで、月経随伴症状や更年期障害等の早期発見につながる項目を健康診断の問診等に追加し、その実施を促進することをあげた。

また、女性が抱える健康の課題をテクノロジーによって解決する「フェムテック製品」などを活用した企業の先駆的な取り組み事例の公表なども明記。健康経営銘柄、健康経営優良法人、なでしこ銘柄等で女性の健康課題に取り組み、成果を上げている企業や健康保険組合の好事例も集めて広く周知する。健康経営優良法人制度に関しては、小規模事業者にも取り組みが広まるよう、中小規模法人部門の要件緩和を検討する。

改正女性活躍推進法に向けて性差に着目した健康施策を

さらに、2025年度末に期限を迎える女性活躍推進法の延長・改正に向けて、事業主が女性特有の健康課題に取り組むなど、性差に着目した健康施策も踏まえた女性活躍推進につながる検討を行う。

なお、方針は、各地域でのアンコンシャス・バイアス(人々の中にある固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み)の解消や、企業等の広報担当、人事・業務管理に携わる管理職・経営層の意識改革と理解の促進を図り、性別役割分担にとらわれない働き方を推進することも掲げている。

<3>個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現

3つ目の「個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現」の分野については、男女共同参画の視点に立った防災・復興の推進や、女性・平和・安全保障(WPS)の取り組みの強化、配偶者の暴力や性犯罪・性暴力への対策強化、さらには女性のライフステージごとの健康課題への対応など、個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現に向けた取り組みの強化が求められる。そして、そのためには、現場における女性の参画拡大と相談支援体制の強化が重要になるとする。

男女共同参画の視点に立った防災担当部局に女性職員を配置

具体的には、女性被災者への配慮の必要性などについて、能登半島地震での経験等を踏まえて災害対応についての調査を行い、今後に向けた課題や取り組みを整理したうえで、平常時から自治体の防災・危機管理担当部局へ女性職員を配置して、災害時に女性と男性で異なる支援ニーズに適切かつ迅速に対応できるようにする。

さらに、避難所では女性のニーズに対応できるよう、国や地方公共団体の災害対応の現場に女性の参画を進めることや、防災関係者に対する男女共同参画の視点からの防災・復興にかかる研修を充実させることも盛り込んだ。

暴力防止対策や問題を抱える女性への包括支援を実施

方針は、配偶者等からの暴力や性犯罪・性暴力への対策強化、困難な問題を抱える女性への支援などにも焦点を当てている。配偶者等からの暴力防止や被害者の保護および支援、相談体制の整備などのいわゆるDV対策や、性犯罪・性暴力根絶の取り組みと被害者支援の強化、困難な問題を抱える女性一人ひとりのニーズに応じた包括的な支援の実施、生涯にわたる性差に応じた健康を支援するための取り組みを推進する。

生涯にわたり必要な医療を適切に受けられる環境整備を支援

生涯にわたる健康への支援では、女性が必要な医療を適切に受けられるよう、産婦人科の受診に対する心理的なハードルを下げる方策も打ち出す。オンライン診療の活用等を研究課題にするほか、地域の内科医等が女性特有の健康課題に対応することができる知識の涵養や、婦人科等と連携して必要な受診を促していくための啓発を行う。

また、産婦人科と他科との連携の促進に際しては、精神科(うつ)、整形外科(骨粗鬆症)等の他の専門領域の医師も更年期等に関する知識を持って、必要に応じて産婦人科の受診を促してもらうなど、女性のライフステージごとの健康課題とその対処法についての研修・啓発および人材育成を支援する内容を取り上げている。

<4>女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化

最後の柱の「女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化」では、これまであげてきた取り組みを加速させるために、あらゆる分野の政策・事業の計画等において男女別の影響やニーズの違いを踏まえることが必要になることを記載したうえで、各分野の政策・方針決定過程に男女共同参画の視点を踏まえる姿勢を強調している。

方針に基づいて政府をあげて取り組む/岸田首相

方針の内容について岸田文雄総理大臣は、合同会議の終わりに「すべての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため、今回策定した方針に基づき、各閣僚が連携し、政府をあげて取り組みを進める」などと発言した。

女性の活躍促進には、正規への転換と同一労働同一賃金が喫緊の課題/連合

一方、連合は同日、「女性の活躍促進のためには、誰もが仕事と生活を両立できる職場・社会を実現しなければならない。また、正規雇用への転換促進による雇用の安定、同一労働同一賃金の徹底による処遇改善は喫緊の課題だ」などと訴えたうえで、「引き続き男女がともに仕事と生活を両立できる社会、男女平等参画社会の実現に向けて取り組んでいく」ことを強調する清水秀行事務局長名の談話を公表した。

(調査部)