100人~299人規模の企業でも一般事業主行動計画を作成した割合が7割以上に
――厚生労働省が女性活躍推進法の浸透状況に関する調査結果を公表
女性活躍に向けた最新の政策動向
厚生労働省はこのほど、2015年に制定された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)の浸透状況と課題を明らかにするために実施した調査の結果報告を公表した。労働者101人以上300人以下の企業でも一般事業主行動計画の作成が義務づけられたことから、100人~299人では「作成した」とする企業の割合が76.9%にまで増加。一方、情報公表の状況をみると、300人以上の企業では、最も公表項目に入っているのが「男女の賃金の差異」(71.6%)だった。
調査は全国の常用労働者30人以上の企業を対象に、2023年12月14日~2024年1月31日まで実施した。東京商工リサーチの企業データベースから、規模別に「30人~99人」「100人~299人」「300人以上」の3層に分けて各層5,000社ずつ合計1万5,000社を抽出。回答はウェブ方式で、2,738件の有効回答を得た。なお、2018年に労働政策研究・研修機構(JILPT)が前回調査を実施している。
<女性労働者の状況>
女性従業員比率は前回調査から大きな変化なし
女性労働者の状況について、常用労働者に占める女性従業員の比率から規模別にみていくと、300人以上の企業では、「0~25%未満」と回答したのが30.7%(同32.0%)、「25~50%未満」が28.4%(同30.4%)、「50%以上」が40.9%(同37.5%)。100人~299人では、「0~25%未満」が37.3%(同33.4%)、「25~50%未満」が25.5%(同27.3%)で、「50%以上」が37.3%(同39.3%)だった。30人~99人は、「0~25%未満」が42.4%(同39.9%)、「25~50%未満」が24.2%(同21.9%)、「50%以上」が33.4%(同38.1%)で、報告書は「規模間でそれほど大きな差はみられない」とし、前回調査との比較でも「大きな変化があったとはいえない」とした。
女性管理職比率0%の割合がいずれの規模でも大幅に減少
役員を除いた女性管理職比率をみると、300人以上の企業では「0%(なし)」が10.6%(同20.7%)、「0.1%~10%未満」が34.7%(同37.2%)、「10%~30%未満」が24.6%(同19.1%)、「30%以上」が20.8%(同18.1%)など。100人~299人では、「0%(なし)」が19.7%(同35.6%)、「0.1%~10%未満」が17.1%(同15.8%)、「10%~30%未満」が20.5%(同15.7%)、「30%以上」が25.1%(同25.0%)など。30人~99人では、「0%(なし)」が23.1%(同45.2%)、「0.1%~10%未満」が3.5%(同5.0%)、「10%~30%未満」が17.9%(同14.9%)、「30%以上」が23.7%(同22.8%)などとなり、いずれの企業規模でも「0%(なし)」の割合は大幅に減少した。
300人以上では女性昇進者の割合が高い傾向に
役員を除いた女性昇進者をみると、300人以上の企業では、「女性昇進なし」と回答したのが30.5%(同39.3%)で、「女性昇進あり」が47.4%(同40.7%)、「昇進なし/不明」が22.1%(同20.1%)。100人~299人の企業では、「女性昇進なし」が28.1%(同37.6%)、「女性昇進あり」が27.7%(同26.4%)、「昇進なし/不明」が44.2%(同36.0%)。30人~99人の企業では、「女性昇進なし」が14.9%(同28.2%)、「女性昇進あり」が17.0%(同17.6%)、「昇進なし/不明」が68.0%(同54.2%)で、「そもそも昇進がなかったという回答割合が高い」結果となる一方、300人以上では「女性昇進あり」が半数近くに及んだ。
報告書はこうした結果から女性労働者の状況について「全体として、女性活躍の状況は劇的に変化していないが、少しずつ改善している状況であるといえ、道半ばである」と評価した。
<行動計画の策定と取り組み>
100人~299人規模では行動計画の作成割合が37.9ポイント増
女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画作成の有無をみると、「作成した」とする割合は、300人以上の企業が92.5%(同88.4%)、100人~299人が76.9%(同39.0%)、30人~99人が15.2%(同8.8%)。2022年4月1日から一般事業主行動計画の策定・届出義務、自社の女性活躍に関する情報公表の義務の対象が、101人以上の事業主に拡大された影響から、100人~299人では前回調査から37.9ポイントと著しく増加した。
行動計画作成理由のトップは「法律で定められているから」
一般事業主行動計画の作成理由(複数回答)をみると、300人以上の企業で最も回答割合が高いのは、「法律に定められているから」で92.4%(同93.9%)。次いで、「女性の活躍推進に関する一般事業主行動計画の策定が企業イメージの向上につながると考えたから」(45.3%(同44.4%))、「女性の採用・育成・登用等に課題があり、それを解消したかったから」(23.0%(同26.0%))などの順だった。
100人~299人では、「法律に定められているから」が89.0%(同83.4%)で最も高く、次いで、「女性の活躍推進に関する一般事業主行動計画の策定が企業イメージの向上につながると考えたから」(38.5%(同35.0%))、「女性の採用・育成・登用等に課題があり、それを解消したかったから」(16.6%(同11.9%))などの順。300人以上、100人~299人のどちらも、前回調査からの大きな変化はなかった。
30人~99人の企業では女性活躍の重要性の意識の高まりがみられる
30人~99人では、「女性の活躍推進に関する一般事業主行動計画の策定が企業イメージの向上につながると考えたから」が53.4%で最も高く、前回調査から14.3ポイント増加した。前回調査で最も回答割合が高かった「法律に定められているから」は17.8ポイント減少し(37.3%)、また、「女性の採用・育成・登用等に課題があり、それを解消したかったから」(18.6%)が11.4ポイント増加、「女性の活躍推進に関する一般事業主行動計画の策定が企業イメージの向上につながると考えたから」(53.4%)が14.3ポイント増加するなど、企業イメージの向上や女性活躍への意識が高まっていることが見受けられた。
事前把握で最も取り組まれた項目は「女性社員の採用」
女性活躍推進法では、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析をして、その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画を作成するというプロセスを経ることを企業に求めている。そこで、行動計画の作成にあたって、事前に状況把握した取り組み(複数回答)を尋ねたところ、300人以上の企業では「女性社員の採用に関すること」が48.1%(同28.4%)と最も割合が高く、次いで、「女性社員の継続就業・職場風土に関すること」(41.0%(同24.7%))が高かった。また、2022年7月施行の女性活躍推進法の改正により、301人以上の企業は「男女の賃金格差」の情報公表が義務化されたことから、「男女社員の賃金格差に関すること」(20.2%)が前回に比べて12.2ポイント増加した。
100人~299人では、「女性社員の採用に関すること」が41.8%で最も高く、前回調査から33.0ポイント増加。30人~99人では「女性社員の継続就業・職場風土に関すること」が42.4%(同5.8%)で最も高かった。
いずれの規模でも、事前に状況を把握する取り組みが進んでいる様子がみてとれ、特に「採用」「継続就業・職場風土」「登用」に関する状況把握・課題分析を行う企業の割合はすべての規模で前回調査から増加した。
数値目標に定めた項目のトップは「女性の採用に関すること」
行動計画に数値目標として定めたもの(複数回答)をみると、300人以上の企業では、「女性社員の登用に関すること(女性管理職比率を含む)」が49.1%(同51.1%)と最も割合が高く、次いで、「女性社員の採用に関すること」(34.9%(同30.6%))などの順。
100人~299人では、「女性社員の採用に関すること」が30.3%(同10.6%)と最も割合が高く、前回調査から19.7ポイント増加。「女性社員の登用に関すること(女性管理職比率を含む)」(27.2%(同16.6%))も前回調査からの増加幅が大きかった。
30人~99人では、「女性社員の採用に関すること」が28.8%(同11.6%)と最も割合が高く、前回調査より17.2ポイント高くなった。また、「女性社員の継続就業・職場風土に関すること」(25.4%(同13.0%))も前回調査からの増加幅が大きかった。
<情報公表項目>
300人以上で「男女の賃金の差異」が公表項目に入っている企業は約7割
女性活躍推進法は、自社の女性の活躍に関する情報の公表を義務化しており、301人以上の事業主は「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に記載されている項目の中から「男女の賃金の差異」を必ず、それ以外から1つ以上公表するとともに、「職業生活と家庭生活との両立」の項目から1つ以上(結果最低3つ以上)を公表することが必要となっており、101人以上300人以下の事業主は、どちらでも1つ以上の項目の公表が必要となっている。そこで調査は、情報公表している項目を複数回答で尋ね、規模別に、項目をランキング付けした。
それをみると、300人以上の企業では、第1位が「男女の賃金の差異」(71.6%)で、第2位が「女性労働者比率」(58.7%)、第3位が「女性管理職比率」(57.4%)だった。100人~299人では、第1位が「女性労働者比率」(34.6%)で、第2位が「有給休暇取得率」(32.5%)、第3位が「採用者における女性比率」(30.5%)。30人~99人では、第1位が「女性労働者比率」(15.5%)で、第2位が「有給休暇取得率」(13.8%)、第3位が「採用者における女性比率」(13.7%)という結果だった。
<くるみん・えるぼしの取得状況>
「くるみん」の取得状況は前回調査から変わらず
次世代育成支援対策推進法に基づき、行動計画を作成・届出を行った企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は「くるみん」の認定を受けることができる。また、「くるみん」を取得している企業のうち、継続的に取り組みを実施している企業は「プラチナくるみん」を取得できる。そこで、「くるみん」の取得状況を尋ねると、300人以上の企業では、「『プラチナくるみん』を取得している」が2.5%(同0.6%)、「『くるみん』を取得している」が11.9%(同11.4%)、「取得していないが申請予定または申請中」が15.4%(同12.8%)、「取得していない(申請予定なし)」が70.2%(同74.3%)だった。
100人~299人では、「『プラチナくるみん』を取得している」が0.2%(同0.2%)、「『くるみん』を取得している」が4.2%(同4.8%)、「取得していないが申請予定または申請中」が14.9%(同11.7%)、「取得していない(申請予定なし)」が80.6%(同82.6%)だった。
30人~99人では、「『プラチナくるみん』を取得している」が0.1%、「『くるみん』を取得している」が2.1%(同1.5%)、「取得していないが申請予定または申請中」が9.5%(同3.4%)、「取得していない(申請予定なし)」が88.3%(同92.9%)。
報告書は前回調査との比較でも「『プラチナくるみん』と『くるみん』とも『取得している』について大きな変化はない」とした。
「くるみん」の取得に企業が前向きでないことは課題と指摘
「くるみん」を取得していない理由(複数回答)を尋ねると、300人以上の企業では、「認定基準が厳しい」が29.5%(同29.2%)と最も割合が高く、次いで、「申請手続きの負担が大きい」(26.9%(同16.5%))など。100人~299人では、「特に理由はない」が23.5%(同21.4%)で最も高く、次いで、「『くるみん』についてよく知らない」(22.2%(同23.0%))などの順。30人~99人では、「『くるみん』についてよく知らない」(40.6%(同41.9%))が最も高く、次いで、「特に理由はない」が23.2%(同21.4%)などの順(図表1)。報告書は、「くるみん」の取得状況について、「2023年度調査結果でも、全体として企業が前向きではないことは大きな課題」としている。
図表1:企業規模別「くるみん」取得状況と取得していない理由(取得していない企業のみ)の経年比較
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(公表資料から編集部で作成)
「えるぼし」の取得割合は300人以上の企業でも1割以下
女性活躍推進法に基づき、行動計画の作成・届出を行った企業のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業については、申請により「えるぼし」認定を受けることができる。そこで、「えるぼし」の取得状況を尋ねると、300人以上の企業では、「取得している」が8.3%(同3.1%)、「取得していないが申請予定または申請中」が16.2%(同14.3%)、「取得していない(申請予定なし)」が75.5%(同80.4%)。100人~299人では、「取得している」が2.3%(同0.2%)、「取得していないが申請予定または申請中」が14.9%(同6.3%)、「取得していない(申請予定なし)」が82.8%(同88.9%)。30人~99人では、「取得している」が0.6%、「取得していないが申請予定または申請中」が7.3%(同1.8%)、「取得していない(申請予定なし)」が92.0%(同91.7%)だった。
「えるぼし」について99人以下の企業では6割以上が「知らない」
「えるぼし」を取得していない理由(複数回答)を尋ねると、300人以上の企業では、「そもそもマークを取得することによるメリットを感じなかったから」が37.6%(同26.9%)と最も割合が高く、次いで「自社の指標が1段階目の認定の取得基準に達していなかったから」27.9%(同27.0%)など。100人~299人では、「そもそもマークを取得することによるメリットを感じなかったから」が40.7%(同23.1%)で最も割合が高く、次いで、「マークの存在を知らなかったから」30.4%(同62.0%)などの順。30人~99人では、「マークの存在を知らなかったから」が65.8%(同80.8%)で最も割合が高く、次いで、「そもそもマークを取得することによるメリットを感じなかったから」24.5%(同17.2%)などの順(図表2)。報告書は、「『えるぼし』の認知度はあがってきている」とするものの、 「一方でそのメリットを感じない企業もやや増加している」と指摘した。
図表2:企業規模別「えるぼし」取得状況と取得していない理由(取得していない企業のみ)の経年比較
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(公表資料から編集部で作成)
<女性の健康課題に関する取り組み>
「生理・PMS」について300人以上の企業では半数以上が何らかの取り組み
昨今、女性活躍推進法においても女性の健康課題に関する取り組みの重要性が認識され始めており、次世代法においては「仕事と不妊治療の両立」ができる職場環境の整備が求められているが、女性活躍推進法においては健康に関する取り組みの推奨などは特に定められていないことから、報告書は、「生理・PMS」「女性特有の疾患等」「更年期」「不妊治療」における企業の取り組みを確認した。
「生理・PMS」について何らかの取り組みを行っていると回答した企業の割合は、300人以上の企業では半数以上だったが、100人~299人と30人~99人では4割程度。取り組みをみると、300人以上では、「休暇制度の充実」と「サポート体制の整備」が3割程度で、「社員研修の実施」と「費用負担・補助」が1割以上だった。100人~299人では、「休暇制度の充実」と「サポート体制の整備」が2割程度。「社員研修の実施」が1割にも満たなかった。30人~99人は、100人~299人と同じような状況だった。
「女性特有の疾患等」について何らかの取り組みを行っていると回答した企業の割合は、300人以上の企業では半数程度、100人~299人と30人~99人で4割程度だった。取り組みをみると、300人以上では、「休暇制度の充実」が2割程度、「サポート体制の整備」が2割強、「社員研修の実施」が1割程度。100人~299人では、「休暇制度の充実」が2割弱で、「サポート体制の整備」が2割程度。「社員研修の実施」が1割にも満たなかった。30人~99人でも、100人~299人と同じような状況だった。
「更年期」についての取り組み実施率は300人以上の企業でも3割程度
「更年期」について何らかの取り組みを行っていると回答した企業の割合は、300人以上の企業では3割程度、100人~299人と30人~99人で2割程度だった。取り組みをみると、300人以上では、「休暇制度の充実」が1割程度、「サポート体制の整備」が2割程度で、「社員研修の実施」と「費用負担・補助」が1割にも満たなかった。100人~299人では、「休暇制度の充実」と「サポート体制の整備」が1割程度。「社員研修の実施」と「費用負担・補助」が1割にも満たなかった。30人~99人は、100人~299人と同じような状況だった。
「不妊治療」について何らかの取り組みを行っていると回答した企業の割合は、300人以上の企業では3割程度、100人~299人では2割程度、30人~99人で2割弱だった。取り組みの内容は、300人以上では、「休暇制度の充実」が2割強で、「サポート体制の整備」がほぼ2割。「社員研修の実施」と「費用負担・補助」が1割にも満たなかった。100人~299人では、「休暇制度の充実」と「サポート体制の整備」が1割程度。「社員研修の実施」と「費用負担・補助」が1割にも満たなかった。30人~99人は、100人~299人と同じような状況だった。
大企業では包括的な支援体制が設けられていると評価
報告書は、「大企業においては、いずれの健康課題についても『休暇制度の充実』や『サポート体制の整備」が進んでいることから、女性のライフサイクル全般を対象とする包括的な支援体制が設けられていると考えられる」とした。
さらに、どのような要因が女性の健康課題への取り組みを促すかを分析したところ、女性労働者の状況に注目した分析からは、特に「採用」と「登用」に課題を抱えている一方で、女性の「定着」が進んでいる企業において女性の健康課題への取り組みが積極的に行われていることがわかった。また、行動計画における状況把握・課題分析と健康課題の取り組みとの関連については、女性の育成や教育訓練、評価に関する問題意識が健康課題への取り組みを促していることがわかった。
(調査部)
2024年8・9月号 女性活躍に向けた最新の政策動向の記事一覧
- 男女賃金格差の是正や開示企業の拡大検討を。人材育成を軸に働く女性を支援 ――政府の「女性版骨太の方針2024」
- 男女間賃金格差が大きい金融業などの5産業に対し、2024年中でのアクションプランの策定の着手を要請 ――政府の「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」が中間とりまとめを公表
- 健康課題に関する調査分析を報告。20~39歳の女性では3割弱が女性特有の健康課題に対する職場の配慮として「生理休暇を取得しやすい環境の整備」を要望 ――2023年版「男女共同参画白書」
- 100人~299人規模の企業でも一般事業主行動計画を作成した割合が7割以上に ――厚生労働省が女性活躍推進法の浸透状況に関する調査結果を公表