選択的週休3日や勤務間インターバル11時間の確保を提言
 ――人事院研究会が国家公務員のめざすべき働き方を最終報告

国内トピックス

新型コロナウイルス感染症への対応などでテレワークによる働き方が広がったことを受け、柔軟な働き方に対応した一般職国家公務員の勤務時間制度などのあり方を検討していた人事院の「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」(座長:荒木尚志・東京大学大学院教授)はさきごろ、最終報告をまとめた。職員の業務負荷を軽減し、勤務環境を向上させるなどとして、フレックスタイム制の拡充を中心とした柔軟な働き方やテレワーク、勤務間インターバルについて具体的な施策と方向性を提言。フレックスタイム制で週休3日を選択できるようにすることや、全職員を対象とした原則11時間のインターバル確保などを打ち出している。

国家公務員の働き方

集団的執務態勢などの構造的問題で恒常的な超過勤務に

報告はまず、国家公務員の働き方について、構造的な問題や最近の課題、今後のめざすべき働き方について概観した。

構造的な問題では、「大部屋主義」と言われる集団的執務態勢をとる場合が多いなか、限られた人員数で多くの業務を行う国家公務員は、恒常的な超過勤務の状況にあり、その背景にはマンパワーの不足があると指摘。また、国会審議に備えて質疑通告を受けて答弁資料を作成する「国会対応業務」が、職員の超過勤務に大きく影響していると指摘されていることにも言及し、他国に比べて職員数が少ないなかで企画立案や行政サービスを行っている「我が国の公務の働き方は、もはや持続可能ではなくなっている」と強調した。

公務員をとりまく最近の課題として、まず、環境の大きな変化を挙げた。2018年の働き方改革推進法により、民間企業で長時間労働の是正の取り組みが強力に推し進められ、公務においてもその対応に注目が集まった。また、ワーク・ライフ・バランスの意識が高まり、さらにコロナ禍を契機にテレワークが広がるなど、国家公務員にも多様で柔軟な働き方の実現が求められるようになった。こうした背景に加え、少子高齢化で若者人口が減少し、国家公務員志願者は減り、若年職員の離職の増加が続いている。報告はその理由として、長時間労働や業務の他律性などの勤務環境の課題があると指摘。

ディーセント・ワークと個人の尊重をめざすべき

こうした現状や課題をふまえ、今後のめざすべき働き方として、①ディーセント・ワークの推進②働き方における個人の尊重――を提起。ディーセント・ワーク推進に向けては、業務の合理化やDXを進め、仕事のやりがいを高めること、職員が望む「生活時間」を確保しワーク・ライフ・バランスを実現できる働き方をめざすことを挙げた。働き方における個人の尊重に向けては、公務の運営に支障が生じない限りは、労働者が労働時間と生活時間を主体的に決定できる「時間主権」の考え方を参考に、職員の事情や希望を最大限尊重することを求めた。

そのうえで具体的な施策の方向性として、ディーセント・ワークの観点から、特に超過勤務の縮減や過労死等の防止策が最優先であると強調。超過勤務の上限規制の遵守や健康確保措置を徹底し、従来の労働時間規制ではなく、労働時間からの解放に着目する新しいアプローチとして、「勤務間インターバルの確保」をめざしていくことなどを提案した。また、非常勤職員の勤務時間・休暇の改善に取り組むことも重要だと指摘した。

個人の尊重の観点からは、フレックスタイム制をさらに柔軟化することや、一定の広がりを見せているテレワークがより利用しやすくなるよう、ルールやシステムを整備することが必要だと主張。こうした問題意識のもと、①より柔軟な働き方②テレワーク③勤務間インターバル――という主に3つの施策の内容について具体的に提言した。

より柔軟な働き方

希望者に選択的週休3日制を

より柔軟な働き方については、選択的週休3日や勤務開始後の勤務時間の変更など、フレックスタイム制の拡充について言及した。

現行の国家公務員の勤務時間制度では、一般の職員について、週休日を日曜日および土曜日とすることが勤務時間法に規定されており、フレックスタイム制を利用する場合にも、その週休日を増やすことはできないことになっている。一方、育児・介護を行う職員などについては、フレックスタイム制の利用によって、勤務時間の総量(週所定勤務時間)を変えないまま、日曜日、土曜日に加えて、選択的に週休日を1日追加し、週ごとに選択的に週休3日とすることが可能となっている。

報告は、大手民間企業では働き方の柔軟化策の1つとして、希望する労働者に選択的週休3日制を導入する動きがみられ、政府のいわゆる骨太方針2022でも選択的週休3日制度について触れていることなどを指摘しながら、今後、在宅介護や単身赴任、通院、大学院への通学など、週休日へのニーズは高まるとし、「公務の魅力向上や職員の離職防止の観点からも、土日以外の週休日を設けることを検討する必要がある」と強調。

申告割振制(職員があらかじめ始業および終業の時刻を申告し、各省各庁の長が、公務の運営に支障がないと認める範囲で、職員の申告を考慮して事前に勤務時間を割り振る)によるフレックスタイム制を維持すれば、柔軟な働き方と公務組織の執行態勢の確保との調和を取ることができるとして、一般の職員についても、育児・介護を行う職員と同様に、フレックスタイム制を活用し、土日の他に1日まで、勤務時間を割り振らない日を設けることを可能とすることが適当だと提言した。

勤務開始後の勤務時間の変更はWLBの実現に資する

勤務開始後の勤務時間の変更については、申告割振制のもとで、現状では認められていないものの(勤務する場合は超過勤務となる)、報告は、「勤務日当日の業務の状況等に応じて勤務時間を柔軟に選択できる働き方は、超過勤務の縮減や職員のワーク・ライフ・バランスの実現に資する」と指摘。勤務日当日の勤務時間の延長・短縮(勤務開始後の勤務時間の割振り変更)について、「現行制度上、年次休暇の当日請求・当日承認が可能であることを踏まえれば、これまでの運用を改めて、勤務開始後であっても職員が当日の状況に応じて変更の申告をすることを可能とするとともに、各省各庁の長がその変更を承認するかどうかの最終決定権を持つこととすることが適当」と述べて、制度の見直しを提言した。

フレックスタイム制の見直しではこのほか、法令上、フレックスタイム制について定めがない非常勤職員への導入などを提起した。

テレワーク

テレワークは公務の魅力を高めることにもつながる

テレワークについては、テレワークを活用し、国家公務員の働く場所を柔軟化することは、職員の能力発揮やワーク・ライフ・バランスの実現で公務能率を向上させるとともに、公務の魅力を高めることにもつながり、長期的に優秀な人材を確保できると指摘。また、災害や事故などの非常時にも業務を続けることができ、質の高い公務サービスの提供が可能となる、と利点を挙げ、国家公務員でテレワークが可能な業務については「職員の希望に応じてテレワークを活用した働き方が可能となるようにすること」を基本的な方向として各論に言及した。

まず、実施体制については、「通常時においては、職員の希望・申告を前提として、職務命令によりテレワークを実施することを原則とすることが適当」だとしたうえで、「テレワークは、勤務条件として、業務遂行の方法や通勤負担の緩和など職員の業務負荷に関わり、職員個人の能力発揮やワーク・ライフ・バランス、公務の能率的な運営等にも影響する」とし、このことを踏まえ、「テレワークの円滑な運用を推進する観点から、通常時及び緊急時のテレワークの実施に関する統一的な基準を人事院及び内閣人事局が指針・ガイドラインの形で各府省に示し、テレワークの適正かつ公平な運用を確保するとともに、職員に対してテレワークの希望が認められる場合や職員の希望なく命じられる場合を事前に明らかにすることが適当」だと述べた。

テレワーク中の勤務管理については、一時的に勤務から離れること、いわゆる中抜けの時間について触れ、「社会通念上認められているような常識的な理由による短時間の執務の中断」は許容されると考えられる、とし、これから整備される指針・ガイドラインで、どのような場合に認められるのかを具体的に例示することを提案した。

超過勤務は客観的把握で時間管理

テレワークは柔軟な働き方が可能となるが、同時に、管理者が勤務状況を確認しづらく、また仕事と生活の時間の区別があいまいになりがちで、長時間労働が助長されるおそれがある。そのため、テレワーク時の超過勤務について、客観的把握による勤務時間管理を行うとしたうえで、「深夜や週休日・休日においては、緊急時等の必要不可欠な場合を除き、原則、電話やメール等による業務連絡を行わないこと」とし、例えばメール送信可能時間を管理するアプリの活用について言及した。

このほか、深夜や週休日は業務システムへのアクセスを控えるなど、自主的なルールを設け工夫を検討すべきだと指摘した。

新たな健康管理の取り組みを導入

テレワークのように職場外で勤務する場合、新たな健康管理の取り組みが必要になるとも指摘した。具体的には、①管理職員と職員の双方に向けたテレワーク時の健康管理に関する研修の実施②自宅の適切な作業環境確保に関する研修の実施③テレワーク実施者にチェックリスト等を用いた作業環境のチェックの実施――などを提案。また、テレワークは対面に比べコミュニケーションが取りにくく、心身の変調にも気付きにくい面があることや、職員のメンタルヘルスの負荷が増すことを危惧し、従来のメンタルヘルス対策を着実に実施することに加え、テレワーク特有のメンタルヘルス対策の必要性も強調した。

管理者へのサポートについては、テレワークはその特殊な勤務環境から、特に管理者に情報共有や適正な業務分担、コミュニケーションの工夫などのマネジメントが求められるとして、管理者に過度な負担がかかることがないよう、適切な支援を行うことが不可欠と強調した。具体的には、テレワークを活用するための諸制度や、テレワークを通じた働き方、コミュニケーションの基本的事項の周知啓発を行うこと、また、管理職員のマネジメント能力向上のための研修や好事例の共有などをすすめた。

テレワークに伴う費用負担についても、職員に過度な負担が生じないように検討を進めることが適当と指摘。同時に、通勤回数が少なくなる職員の通勤手当のあり方についても、人事院及び関係府省で総合的に検討すべきとした。

勤務間インターバル

原則、全職員への適用を目指す

国家公務員の一部は過労死ラインを超える超過勤務が行われており、若手職員の退職者数が増加傾向にあることから、長時間労働の是正は人材確保の観点からも喫緊の課題だとして、「公務においても勤務間インターバルを確保するための取り組みを強力に推進する必要がある」と強調した。

勤務間インターバルの適用範囲について、原則として全職員対象をめざすべきと主張。勤務間インターバルの時間数は、諸外国の例やヒアリング結果などを踏まえ、原則として11時間が適当であるとした。

本格的な実施までの「当面のインターバルの確保」については、①超過勤務命令の抑制②フレックスタイム制の活用③年次休暇の使用の促進――など、現行の制度を積極的に活用したうえで、なお恒常的にインターバルが確保できないなど、課題が浮き彫りになった職種等については、実現可能な方法を探ったうえで、本格的な実施を検討することが適当だとした。

勤務間インターバルの確保には超勤命令を抑制する必要が

本格的な実施にあたっては、あらかじめ勤務間インターバルを確保しておく「事前的措置」と、結果として深夜の超過勤務が行われた後の「事後的措置」が考えられるとし、事前的措置は、「正規の勤務終了時間から翌日の正規の勤務開始時間まで、インターバルを確保できるように勤務時間を割り振ることを義務付ける」ものと、「22時以降の超過勤務命令を原則禁止する」内容を具体的に示した。

一方、事後的措置としては、11時間のインターバルを確保できる時間まで「翌日の正規の勤務開始時間を繰り下げる」方法や、勤務時間は繰り下げず、インターバルに必要な重複した時間帯を「勤務したものとみなす」方法が考えられるとした。

そのうえで報告は、勤務間インターバルを確保するには、これまで以上に超過勤務命令を抑制する必要があると強調。各府省が一層の業務改革に取り組むとともに、勤務時間管理をシステム化し勤務時間を正確に把握すること、業務端末の使用時間記録を利用して勤務時間を客観的に把握することなどが求められると指摘した。

(調査部)