製品開発で培った知見を活かし、女性が自分の健康や身体について「セルフケア」できる日常の醸成に向け、積極的な情報提供・啓発活動を展開
 ――大塚製薬による「女性の健康推進プロジェクト」の取り組み

企業・団体取材

大塚製薬では、女性の健康をサポートする製品の研究開発で培ったノウハウを活かし、自社の従業員にとどまらず、他の企業や団体、一般の人も対象に、女性が健康で活躍できる環境づくりのための情報提供活動に力を注いでいる。「女性の健康推進プロジェクト」という活動名で、独自のWebサイトも運営。女性が自分の健康や身体のことについて、「知って、気づいて、対処する」をすることが日常となることを目指している。

<プロジェクトをスタートさせた背景>

男性社員が大半の約60人の体制で活動を支える

女性の活躍推進や健康経営の実践が叫ばれるなか、女性の健康分野への理解は欠かせない。女性の健康を支援するために社内制度を充実させる企業は少なくないが、大塚製薬の取り組みがユニークなのは、自社の社員に対する支援にとどまらず、他企業・団体や自治体、また、一般の人も対象にして、女性の健康をサポートする活動を展開している点だ。

部署の名称は「女性の健康推進プロジェクト」。「エクエル」「トコエル」といった女性の健康をサポートする製品の研究・開発、製造、販売などを展開する「ニュートラシューティカルズ事業部」のなかに位置する。なお、ニュートラシューティカルズ(Nutraceuticals)とは、Nutrition(栄養)とPharmaceuticals(医薬品)からつくられた言葉。

「エクエル」などのプロダクト・マネジャーの肩書きも併せ持つ西山和枝氏が同プロジェクトのリーダー。プロジェクトのメンバーは、全国の「エクエル」などの販売担当者55人を含めた61人の体制で、皆この分野のエキスパートだ。ほとんどが女性で占めるかと思われるが、大半は男性だという。

活動の中心は、女性の健康課題について「知って対処することの重要性」を伝えること。「女性の健康を考える日常を醸成すること」を最終目標に掲げている。

女性の活躍推進が話題となる前から、活動は始まっていた

実は同社が女性の健康についての啓発活動を始めたのは、最近のことではない。女性の活躍推進や健康経営が話題となる前の2015年にすでに、活動をスタートさせている。

この活動の背景として、同社が「医薬関連事業」と並んで、「ニュートラシューティカルズ関連事業」(栄養補助食品事業)を柱としていることがある。このプロジェクトが属すニュートラシューティカルズ関連事業では、医療関連事業で得られたノウハウを活かしたサイエンスベースの製品を扱っているが、あわせて科学的根拠に基づいた健康啓発活動を粘り強く続けているのが特徴だ。女性の健康分野については、先ほども触れた製品の研究・開発・販売を通して、女性の健康や身体のことについて、長年の事業で培った「知見」の蓄積がある。

また、同社の企業理念は「世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する -自らの手で独創的な製品を創る -健康に役立つ -世界の人々に貢献する」であり、「『大塚にしかできないことをする』という考え方が根底にある」(車谷千江美・広報部課長)。

さらに、背景としてあげられるのは、ダイバーシティの取り組みの長い歴史だ。同社では、世間でダイバーシティという概念が浸透していなかった1980年代から、国籍や性別、障がいの有無などにキャリアを左右されない社内環境を整備してきた。2022年7月5日現在の女性役員比率は11.8%(執行役員含む女性役員比率は12.2%)と日本の上場企業の平均を上回る。「入社した時、女性がとても活き活きと働いている会社だなという第一印象をもった」(車谷氏)という。

<どんな活動を行っているのか>

まずは「知って、対処する」ことが重要だということを伝えたい

「女性の健康推進プロジェクト」では、冒頭でも触れたとおり、女性の健康をサポートしている製品を研究・開発して培ったノウハウをもとに、女性の健康分野において、「知って対処することの重要性」を伝える活動を行っている。

プロジェクトリーダーの西山氏によると、プロジェクト名に、あえて「女性の」という言葉を入れたところが、こだわりだという。

「最近はLGBTQのこともあり、若い人にしてみると、『女性の』という言い方には違和感があるというような見方もあるかもしれないが、私たちはあえて付けていると説明している。まだ、女性の健康を考えることが日常になっていないからだ。『女性の』という枕詞を付けなくても、女性の健康のことを普通に考えられる日が来たら、『女性の』は外してもよいと考えている」

なぜ、健康情報について、知って、気づいて、相談して、対処するという「ヘルスリテラシー」が大切なのか。西山氏は「知らなければ気づけないし、気づかなければ対処できない。気づいて、相談して、対処する、これがうまく回れば健康になれる」と強調する。

日本と欧州・アジア諸国のヘルスリテラシーを比べると、日本は明らかに低いという。また、大塚製薬の調査結果(2021年)によると、プレ更年期(35~44歳)と更年期(45歳以上)の女性自身でさえ、「女性ホルモンの働き」や「女性ホルモンの変化の影響」について知っている人の割合は2割に満たなかった。ヘルスリテラシーが高い人のほうが、仕事や家事のパフォーマンスが高いという調査結果もある。

出張セミナーは数え切れないほど実施

こうした状況にあることから、同プロジェクトでは、女性が健康で長く働き続けるために、女性特有の身体のリズムや健康問題について正しい知識を得るとともに、女性自身の健康リテラシーの向上を図るため、セミナーを開催している。男性の理解促進も、セミナーの大きな目的の1つだ。

企業に対しては、直接依頼を受けて行うこともあれば、経済団体などからの依頼で実施することもある。企業以外では、健康保険組合などからの依頼もある。プロジェクトのオリジナルWebサイト(女性の健康推進プロジェクト新しいウィンドウ)から、依頼することもできる。医療関係者や報道関係者向けに勉強会を開催することもあるそうだ。

これまでに開催した回数は「対象も様々で、あらゆる方法で実施したので、数えきれない」(西山氏)という。最近はオンラインでの実施が中心だ。

定期的に婦人科医に通うことまでやるのがセルフケア

セミナーの講師は、婦人科医に依頼することもあれば、西山氏が務めることもある。やはり話のなかで伝える内容の中心は「セルフケアをしてください」ということだが、食事に気をつける、サプリを自分で摂る、などがセルフケアだと思われがちだという。「栄養・運動・休養は基本だが、定期的な婦人科検診・健診を受けることに加え、かかりつけの婦人科医を持つことも組み合わせる『新・セルフケア』を推奨したい」(西山氏)。

西山氏によると、「新・ヘルスケア」を行っている人のほうが、行っていない人よりも、「自然体で過ごせる」「人に対して思いやりがもてる」「心にゆとりが持てる」といった割合が高く、仕事や家事のパフォーマンスも安定して上がると答えている人が多いといい、こうした点もセミナーでは強調している。

プロジェクトのWebサイトには、正しいセルフケアを勧めるためのメッセージとして、「わたし、からだ 上手にやさしくつきあえる毎日を」というフレーズを載せている。「わたし、からだ」の部分には、「わたしの身体」という意味と、「わたしから」(自分ファースト)という2つの意味を込めているのだという。

「女性は家事や育児に時間をとられやすく、自分のことが二の次、三の次になってしまうことも多いが、自分の身体を見つめ直して、身体を大切にしていくことが重要だということを伝えたい」と西山氏は強調する。

Webサイトでは「更年期」「PMS」に焦点をあて豊富な情報を提供

同プロジェクトが運営しているWebサイトでは、現在、女性の健康、特に「更年期」と「PMS」(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)に焦点をあてて、詳しい情報を掲載している。

更年期に焦点をあてた「更年期ラボ」というページでは、更年期についての解説、症状、対策、その他お役立ち情報を掲載。セルフチェックもできるようになっている。「相談できる施設一覧」も掲載しており、地域や機関の形態(女性の健康相談の医療機関、調剤薬局、手指の健康相談の医療機関)を選んで、検索することができる。

わざわざ「手指の健康相談の医療機関」を検索できるようにしているのは、更年期になると、指の第1関節や第2関節などが痛くなるからだ。朝、指がこわばって家事ができないと悩む人もいる。また、「かかりつけ医を持ってほしいとこちらが言っても、みなさんからは『どこにかかったらよいかわからない』という声をよく聞く。ここで検索して、自宅の近くや、職場の近くなどで探して、実際に行ってみて、自分と相性の合う機関をぜひあきらめないで見つけてほしい」(西山氏)。

一方、「PMSラボ」は、「若い女性にも自分のからだを知ってほしい」「月経前の不調を我慢しないでほしい」という思いから開設している。PMSについての基本的な情報、症状別の原因と対策、症状改善に役立つ成分の摂取に関する情報、Q&Aなどを掲載。医療機関を探したい人は、「更年期ラボ」で紹介した施設一覧から検索できる。

若い世代向けと言えば、最近、プロジェクトのインスタグラムや、YouTubeの公式ページも始めた。特にYouTubeでは女性ホルモンの働き、月経の仕組みなど、女性の身体に関する基礎情報を発信している。「日本の性教育は遅れていると思うので、若い世代にも気軽に見て、勉強してほしいという意味をこめた」(西山氏)。

また、同プロジェクトではこのほか、年1回のペースで調査を実施して、その結果を発表している。現在は、「女性のヘルスリテラシー調査」(2021年6月発表)、「働く女性の健康意識調査」(2022年2月)の調査レポートを掲載している。「女性の健康を考える日常の醸成という最終目標に向け、いまの世の中がどこまで進んだかを捉える」のが目的だ。

<社内ではどのような支援活動をしているのか>

婦人科の産業医からビデオレターを受け取ることができる

では、社内向けには、どのような活動を実施しているのだろうか。プロジェクトが社外で実施しているようなセミナーを社内でも全国で、男性も、また家族も参加できる形式で開催している。大塚製薬の健康経営の取り組みだ。また、新入社員研修、課長研修、評価者研修などでも、リテラシー向上、働きやすい環境作りにつながるよう、女性の健康分野の話題を盛り込んでいる。

eラーニングも行っている。社員が、女性ホルモンや婦人科検診などについて学ぶことができる5分程度の動画を、時間があるときに視聴できるようになっている。

さらに「WAGAZIN」(ワガジン)という小冊子でも啓発している。「自分自身(我が)のマガジン」という意味で、そうした名称にしたという。「ある程度の年齢になると、字を読むのもおっくうになる。女性ホルモンの働きなどについてグラフィックで見て勉強できるような資材にした。一般の人も『更年期ラボ』のサイトから見ることができる。親父ギャグ的なギャグも入れて、読んだ人が過度にシリアスに捉えすぎないよう、工夫している」(西山氏)。

これらに加えて、特筆すべき取り組みは、大塚製薬での婦人科の産業医の配置だ。今年の4月から導入した。

社員が婦人科に関することで、相談したいことがある場合、メールの質問フォームを使って、伝えることができる。そうすると婦人科産業医から、ビデオメッセージで返答が送られてくる。ビデオで対応するのは、「文字で書くと細かなところが伝わらなかったりする場合がある。また、先生の顔が見えたり、声のトーンがわかることで、その人向けにきちんと答えていることが伝わる」(西山氏)からだ。

<社内ではどのような効果が生まれたか>

男性社員が妻や母親のことを理解できる状況が生まれている

プロジェクトによる活動や社内に向けての取り組みの結果、女性ばかりでなく、男性についても、女性の健康に対するリテラシーの高まりが見られるという。

車谷氏は、「セミナーを終えた男性社員から、『女性の体調の波について勉強になった』『妻(または母)が怒っている理由は、こういうことだったのかと理解できた』『理解することで円滑にコミュニケーションがとれるようになった』『働く上での環境を見直したい』などの声を聞くこともある」とし、そうした声を聞くと「これもこのプロジェクトの成果。本当にうれしい」と話す。

さきほど紹介した婦人科の産業医には、もちろん男性社員が、妻や家族のことで相談することもでき、実際に相談件数も少しずつ増えてきている。「男性も参画して女性の健康のことを考えるという良い状況が社内でも生まれつつある」と、西山氏は男性社員の意識変化に手応えをつかむ。

もう、女性が我慢する時代でない

最後に、これから一層、力を入れていきたいことなどを聞くと、「やはり、知って対処するセルフケアを、もっと多くの人に伝えていきたい」と西山氏。「情報リテラシーも、ヘルスリテラシーも上げて、女性特有の症状が出た場合も、それを抱え込まず我慢しないで、仕事のパフォーマンスを上げるという時代が来る」と強調する。

「これからはホルモンなどに翻弄される時代ではなく、コントロールする時代。自らが正しい知識を取得し、それをもとにどういう対処・選択をするか。個人が主体的に対応していく時代になって行くと思う。あきらめる、我慢する、という時代ではないということをぜひ知って欲しい」

プロジェクトとしては、今後一層、若い世代への啓発に力を入れる予定だ。秋以降、中高生向けに、女性の健康分野についての啓発を本格的にスタートするという。「思春期のうちから女性の健康について考えることが当たり前の子供たちが成長すると、近い将来、大人になってもこの分野について会話することが普通の社会になる」と、西山氏は若い世代の意識変革にも期待を寄せる。

企業プロフィール

大塚製薬株式会社新しいウィンドウ

本社:
東京都千代田区
代表:
代表取締役社長 井上 眞
従業員数:
5,699人(2021年12月31日現在)
事業内容:
医薬品・臨床検査・医療機器・食料品・化粧品の製造、製造販売、販売、輸出ならびに輸入
認定:
健康経営法人ホワイト500 など