【中小の賃上げ】
中小組合による大手以上の賃金改善額獲得が定着。格差是正の流れが軌道に
 ――中小にも賃上げは波及しているか

春闘取材

大手企業の賃上げ獲得が、中小企業の賃上げに波及しているのか。連合の集計では、賃金改善分の引き上げ率が3月中旬の回答のヤマ場からずっと、中小のほうが中堅・大手よりも高く推移。賃金改善分の引き上げ率は、集計を開始した2015年以降で最も高いとしている。金属労協の規模別集計では、賃金改善分の獲得額の平均が「300人未満」の組合で最も高い。「1,000人以上」より高い額で最終集計まで推移すれば、同規模を上回るのは5年連続だ。

今年は3月中旬から一貫して中小の改善額が大手を上回る

中小賃上げの全体概況を連合の集計でみると、冒頭記事で掲載した図表1(連合の春季生活闘争の賃上げ額・率の2014年からの推移)のとおり、「300人未満」の組合での、定期昇給相当分込みの賃上げ率(平均賃金方式、加重平均)は、5月上旬の時点でも2.02%と2%台を維持している。「300人未満」の組合では、2014年以降、一度も最終集計結果で2%台に乗ったことはなく、次回以降の集計で2%以上を維持できているかどうかは1つの見どころだ。

賃金改善分の獲得では、中小組合が健闘している状況が明確となっている。冒頭記事の図表2(連合の春季生活闘争における賃金改善額・率の2014年からの推移)が示すように、今春闘では3月中旬の第1回回答集計から、これまでずっと300人未満の組合の賃金改善分の引き上げ率が、「300人以上」の組合の引き上げ率を上回っており、格差是正の流れを維持している。

5月上旬の集計では、「300人未満」の0.71%(1,757円)に対し、「300人以上」は0.61%となっている。連合によると、5月上旬時点での0.71%という賃金改善分の引き上げ率は、賃金改善分の集計を開始した2015年以降の同時点のなかで最も高い水準だという。

金属労協では、中小の改善額がどの規模区分よりも高い

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、議長:金子晃浩・自動車総連会長、組合員201万8,000人)の回答集計(4月26日集計)で、中小製造業の賃上げの状況も確認する。

まず、賃金改善分の獲得額(単純平均)をみると、「299人以下」が1,891円であるのに対し、「300~999人」は1,570円、「1,000人以上」は1,693円で、「299人以下」の中小が最も高い(図表A)。今春闘はまだ終わっていないが、このまま「299人以下」の中小の賃金改善分が、「1,000人以上」の大手の改善分を上回ることになれば、2017年以来5年連続となる。

図表A:金属労協・2014年以降の賃金改善分の獲得額(単純平均)の推移
画像:図表A

注:2022年は4月26日集計。その他の年は最終集計。

出所:金属労協公表資料

賃金改善分を獲得した組合の割合(回答を受けた・回答を集約している組合に対する割合)をみると、「299人以下」は、昨年の最終実績は36.1%と3割台に落ち込んでいたが、今年の4月下旬時点では57.4%と6割近くに及んでいる(図表B)。獲得組合の拡大という面でも、今年は中小が健闘していると言えるだろう。

図表B:金属労協・賃金改善分を獲得した組合の割合(対回答・集約組合比)
画像:図表B

注:2022年は4月26日集計。その他の年は最終集計。

出所:金属労協公表資料

4,000円以上獲得の組合数は100人未満で40に対し、3,000人以上は1

JCMを構成する産別組合のうち、JAM(組合員36万6,000人)では、100人以下の組合が6割を占めるなど、中小組合が圧倒的に多い。産別を代表して今回取り上げるJAMの回答状況をみても、格差是正が進む結果が見て取れる。

5月13日時点での集計結果をみると、賃金構造維持分を明示している組合で賃金改善分の回答を受けた組合は541あるが、全体平均は1,974円。規模別にみると「1~99人」1,973円、「100~299人」2,055円、「300~499人」1,950円、「500~999人」1,654円、「1,000~2,999人」1,939円、「3,000人以上」2,286円と、100人未満の組合でも大手と遜色のない改善額となっており、全体平均とほぼ同額だ。JAMでは300人未満の改善額が300人以上を上回るのは7年連続。

JAMでは、賃金改善額の分布についても、組合規模別に集計している。規模が小さくなるほど、より高い額を獲得している組合数が多い(図表C)。例えば、「1~299人」の組合では、「3,000~4,000円未満」を獲得した組織が42、「4,000円以上」獲得した組織が43あるが、「1,000~2,999人」の組合では、前者が3、後者が2、「3,000人以上」では前者が3、後者が1となっており、その差は歴然だ。

4月4日の会見で安河内賢弘会長は、「中小ものづくり産業でも力強い賃上げの流れが続いている」と強調。一方、もともとの人手不足の状況のなかで、「いま賃金を上げないと人材流出が止まらず、廃業にもつながりかねない。これから交渉する会社の経営側はこのことを肝に銘じて欲しい」と話し、人材確保と流出防止の観点からの賃上げの重要性も強調した。

図表C:JAM・賃金改善またはベア額の分布(平均賃上げ:回答額)
画像:図表C

出所:JAM公表資料

(ここまでの3本の2022春闘関連記事は荒川創太が担当した)