【全体の賃上げ状況】
賃上げ額、率は昨年を大きく上回る水準。賃金改善を獲得した組合の割合は50%近くに到達
 ――労働組合全体でみた賃上げ回答の状況

春闘取材

ここまでの連合などの賃上げ回答を見る限り、2022春闘における賃上げ額、賃上げ率は昨年の実績を大きく上回っている。連合の最新の集計結果(5月9日公表)によると、定期昇給相当分込みの賃上げ率は2%台を維持しており、賃上げが復活した2014年以降でみると、2015年に次いで高いレベルにある。水準引き上げにつながる賃金改善の平均額は、中小労組の健闘が全体の平均を押し上げている。すでに妥結している組合に対する賃金改善の獲得率も50%近くに及び、賃上げの広がりも例年以上に進んでいる状況にある。

2022年の賃上げ交渉を取り巻く環境

岸田首相が11月に早くも賃上げへの期待を表明

2022春闘は、新型コロナウイルス流行の影響を除けば、ここ数年で最も賃上げに向けた環境が整った年と言ってもよいだろう。その理由の1つとしてあげられるのはまず、政府の政策的な後押しだ。

岸田文雄首相は昨年10月の就任当初から、働く人への分配機能の強化を強調。「所得の向上による『賃上げ』」と「『人への投資』の抜本強化」は、岸田政権の重点施策の1つとなっている。

11月に開かれた第3回「新しい資本主義実現会議」で、岸田首相は早々と翌年の春闘について言及。「来年の春闘において、業績がコロナ前の水準を回復した企業について、新しい資本主義の起動にふさわしい、3%を超える賃上げを期待する」と述べて、賃上げ実現に向けた地ならしを労使に先んじて行った。

「新しい資本主義の起動にふさわしい賃金引上げが望まれる」と経団連の報告

財界も賃上げに対して容認姿勢を表す。経団連(十倉雅和会長)が1月に公表した、会員企業に向けた労使交渉にあたっての指針となる「2022年版経営労働政策特別委員会報告」は、「『働き手』との価値協創によって生み出された収益・成果の適切な配分により、賃金引上げのモメンタムを維持していくことが重要である」と、賃上げの流れを維持する姿勢を表明。

さらに、「『分配』の原資となる付加価値の最大化にまず注力した上で、『成長と分配の好循環』に寄与していくことにより、新しい資本主義の時代にふさわしい賃金引上げが実現していくことが期待される」と強調しながら、収益が高い水準で推移・増大した企業においては「ベースアップの実施を含めた、新しい資本主義の起動にふさわしい賃金引上げが望まれる」と明記。条件付きではあるものの会員企業の賃上げを後押しした。

連合は「未来づくり春闘」で分配構造の転換を目指す

政財界が賃上げを後押しする「追い風」があるなかで、労働組合側はどのような賃上げ方針を策定したのか。昨年秋以降の方針策定段階ではまだ、一部の業種で新型コロナウイルス感染拡大の影響が残るタイミング。そんななか、ナショナルセンターの連合(芳野友子会長、組合員687万8,000人)が打ち出したのが、「未来づくり」という発想での春闘だ。

これまでの春闘では、賃上げ交渉の過年度1年間の経済情勢や物価の動向、企業業績や労働者の賃金の状況をふまえて、賃上げ要求幅も含めた取り組み方針を定めるのが通例。ただ、この考え方だと、経済や企業業績が回復していないなかでの賃上げ獲得は難しくなる。

そこで連合の2022春季生活闘争方針は、「経済の後追い」ではなく、「人への投資」を起点として経済・社会の原動力につなげるとする「未来づくり春闘」を新たに提唱。20年以上にわたる賃金水準の低迷などを克服するため、「底上げ」「底支え」「格差是正」の取り組みをより強力に推し進め、それをスタートにして分配構造の転換につながり得る賃上げをめざすとして、すべての組合が、定期昇給相当分を含め4%程度(賃上げ分が2%程度)を目安に要求する方針を掲げた。賃上げ分の要求目安である2%程度は昨年方針と変わらないが、要求組み立ての考え方は大転換されたわけだ。

一般組合員の賃上げ額の最新状況

5月上旬公表の集計で2.1%以上の賃上げ率

5月終盤にさしかかり、春闘はすでに中小企業における交渉が中心となる後半戦に突入している。実際に賃金は上がっているのか。

図表1は、連合が集計した2022春季生活闘争における加盟組合の賃上げ回答結果の推移だ。大手企業の回答が集中する「回答のヤマ場」である3月中旬時点の賃上げ率(平均賃金方式、定昇相当分込み、加重平均)は2.14%で、例年に比べれば、2%を上回る幸先の良いスタートを切った。その後、3月下旬=2.13%、4月上旬=2.11%、4月中旬=2.11%、5月上旬=2.10%と、本稿執筆時点では2.1%以上を維持している。

図表1:連合の春季生活闘争の賃上げ額・率の2014年からの推移
画像:図表1
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注1:2014年~2021年は最終集計。

注2:2022年の日付は公表日。

出所:連合公表資料

2021春闘では、最終的な賃上げ率は1.78%であり、2年前の2020年春闘も1.90%だったことから、このまま2%台を維持できれば、3年ぶりに2%台を回復することになる。また、賃上げ額がこのまま6,000円台を維持することができれば、2015年以来7年ぶりのこととなる。

賃上げ率を組合規模別にみると、300人未満の賃上げ率も5月上旬で2.02%と2%台を維持しており、「中小組合が健闘している」(芳野会長)状況。連合は、「4月末時点で中小組合の率が2%を超えたのは2018闘争(2.02%)以来であり、依然『賃上げの流れ』は しっかりと引き継がれている」と評価する。

賃金改善額は5月上旬としては2015年以降で最高

次は、ベアも含めた賃金改善の回答状況を確認する(図表2)。図表は、ベアや賃金改善分などが明確に分かる組合で集計した賃金改善の平均回答額および率だ(ともに加重平均)。直近の5月上旬の集計で1,848円、0.62%となっており、額・率ともに、回答のヤマ場である3月中旬の集計時点よりアップしている。

図表2:連合の春季生活闘争における賃金改善額・率の2014年からの推移
画像:図表2
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注1:2014年~2021年は最終集計。

注2:斜線のセルは、連合公表資料に該当の数値がないため記載できず。

出所:連合公表資料

1,848円という賃金改善額を過去の年の最終結果と比べると、賃金改善分の集計を開始した2015年の2,024円に次ぐ高い水準であり、0.62%という率もやはり、2015年(0.69%)に次ぐ水準だ。連合によると、5月上旬時点での集計結果どうしでの比較では、額・率ともに2015年以降で最高の水準だという。

組合規模別にみると、率では300人未満が0.71%で、300人以上の0.61%を上回る。300人未満の賃金改善額(1,757円)は、2015年以降の各年の最終額のどれよりも高い水準となっている。

賃金改善の獲得組合数はすでに昨年の最終実績を200組合超上回る

では、賃上げの広がりという面ではどうなのだろうか。図表3は、賃金改善獲得組合数の推移だ。

図表3:連合の春季生活闘争における賃金改善獲得組合数の推移
画像:図表3
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注1:2014年、2015年は、公表資料のなかで集計組合の数以外、同種の数値がないため、表から省略した。

注2:2022年第1回の公表資料には同種の数値の記載がないため、斜線を引いた。

注3:要求提出組合(月例賃金改善限定)の提出率は、集計組合に対する要求提出組合(月例賃金改善限定)の割合。

注4:賃金改善分獲得率は、妥結済組合(月例賃金改善限定)に対する賃金改善分獲得の割合で、編集部で算出。

出所:連合公表資料

2022闘争では、5月上旬の集計で、月例賃金改善の要求を提出したのが4,655組合(集計組合に占める割合は59.1%)。そのうち、月例賃金改善について妥結しているのは3,330組合で、1,532組合が月例賃金の改善を獲得した。

月例賃金改善について妥結した組合に対する獲得組合の割合は46.0%と半数近くに達し、公表されているデータで比較可能な2016年以降の各年の最終結果と比べると、最も高い割合となっている。獲得組合数でみると、すでに昨年の最終結果(1,277組合)よりも200組合以上、多い。

パートタイマーや有期労働者の時給・月給引き上げの最新状況

時給引き上げ額は昨年の最終結果を約5円上回る24円

一般組合員の賃上げ額が増加しているのと同じように、パートタイマーの時給引き上げ額も、昨年を上回る水準で推移している。連合の「有期・短時間・契約労働者」の時給などの引き上げ回答の集計をみると、時給の引き上げ額(加重平均)は5月上旬の時点で24.54円となっており、昨年の最終結果の19.91円を約5円上回る(図表4)。平均時給でみると1,052.03円で、昨年の1,038.77円から約13円増加した。

図表4:連合の春季生活闘争における有期・短時間・契約労働者の時給等引き上げの2014年からの推移
画像:図表4
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注1:2022年第2回集計では、時給と月給の集計は行われていない。

注2:最低賃金全国加重平均額のカッコ内の数値は前年比(%)で、編集部で算出。

出所:連合公表資料、厚生労働省公表資料

月給では、引き上げ額が5,076円となっており、昨年の3,667円を約1,400円上回る。率にすると2.33%で、昨年の最終結果である1.72%を約0.6ポイント上回るとともに、2014年以降の各年の最終結果と比べると、2020年(3.02%)に次ぐ高い率となっている。

連合公表資料から個別企業の時給引き上げ回答をみると、一般組合員よりも高い引き上げ率となるだけでなく、4%を超える高い引き上げを引き出している組合や、引き上げ額で40円台や50円以上に乗せている組合もみられる。

イオンフードサプライ労働組合では60円の時給引き上げを達成

イオングループ労働組合連合会のイオンビッグ労働組合(ディスカウントストア、有期・短時間・契約等組合員数8,299人)では40.48円(3.86%)、同イオンフードサプライ労働組合(食品製造、同753人)では60.00円(5.30%)、デンコードーユニオン(家電量販店、同1,724人)では40.95円(3.72%)、オークワ労働組合(スーパーマーケット、同3,148人)では40.08円(4.00%)、オールユニバースユニオン(スーパーマーケット、同3,225人)では38.00円(4.16%)といった具合だ(以上はすべてUAゼンセン加盟)。

月給では、UAゼンセンのアルペン労働組合(同590人)(3.60%、1,158円)、丸広労働組合(同169人)(4.16%、5,000円)、全労金の静岡労金(同147人)(3.30%、4,000円)などで高い引き上げ率を獲得している。

国民春闘共闘では回答額・率とも上昇傾向

一方、21春闘から集中回答日を連合加盟組合の大手より1週間早く設定している国民春闘共闘委員会(全労連や中立組合などで構成、代表幹事:小畑雅子全労連議長)の賃上げ状況をみると、初回(3月10日)集計の賃上げ率(有額回答を引き出した186組合の単純平均)は、額で前年同期比346円増の5,516円、率は2.00%で前年同期を0.12ポイント上回った。

第2回(3月17日、285組合)は、額が5,567円、率も2.08%に上昇。その後も、学童保育を組織する健交労・社会福祉の複数の組合が1万円前後の賃上げを得たことなどを背景に、第3回(3月24日、392組合)は額6,257円、率2.08%、第4回(4月7日、506組合)も6,051円、2.04%と好調をキープ。4月21日の第5回集計(554組合)では、全農協労連や生協労連などの組合が獲得した高額ベアが全体を押し上げ、前回集計から再度、上昇して6,079円、2.08%となり、第6回集計(5月12日、701組合)は、前年同期比1,198円、0.25ポイント増の5,981円、2.11%となっている。

なお、国民春闘共闘委員会の非正規労働者の賃上げ状況については、直近(第6回集計)で9単産163組合から298件の報告が寄せられている。時給制では221件の報告があり、そのうち引き上げ額がわかっている143件の単純平均は22.7円(2.82%)。月給制は44件の報告があり、引き上げ額は3,353円(1.82%)となっている。

春闘終盤に向けた課題

春闘終盤に向けて懸念される価格上昇や円安、ウクライナ情勢

以上みてきたように、昨年、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあってやや落ち込みかけた賃上げの勢いは、今春闘では取り戻している状況にあると言える。全体的な賃上げ額・賃上げ率は、昨年の水準を大きく上回ることは確実であり、2014年以降のなかでも高いレベルだ。

ただ、原料価格やエネルギー価格の上昇、円安、ウクライナ情勢などといった、春闘開始時にはまだ顕在化していなかった経済の不安定要因が重くのしかかりつつあり、春闘終盤戦にマイナスの影響を及ぼす可能性はある。

春闘終盤戦に向けてのもう1つの焦点は、賃上げの社会全体への広がり。連合は、2018闘争をピークに賃上げ獲得組合数が減少していることを意識して、今回の闘争方針の賃金要求指標に関する記載のなかで、「これまで以上に賃上げを社会全体に波及させる」との文言をあえて入れた。現時点での集計結果をみる限り、組織内での賃金改善の獲得組合数の減少傾向には歯止めをかけられそうな情勢だ。組織された労働者における賃上げの流れを、どれだけ未組織の職場にまで広げられるかが、働く人への分配機能の強化の実現に向けての鍵となる。

(調査部)