賃上げ実施予定の中小企業の約7割が、業績の改善がみられないなかでも賃上げ実施予定と回答
 ――日本商工会議所・東京商工会議所の「最低賃金引上げの影響および中小企業の賃上げに関する調査」結果

国内トピックス

日本商工会議所と東京商工会議所(ともに三村明夫会頭)が実施した「最低賃金引上げの影響および中小企業の賃上げに関する調査」の結果によると、2022年度に賃上げを実施する予定であると回答した中小企業の約7割が、業績の改善が見られないものの賃上げを実施する予定と答えた。賃上げを予定している理由としては、「社員のモチベーション向上」がトップにあがり、「人材の確保・採用」が次いで多かった。調査は、一般的に賃上げ交渉・協議が本格的にスタートする時期である2月に実施。6,007の中小企業を対象に行い、3,222社(53.6%)の回答を437商工会議所が回収した。

賃上げを予定する企業は回答企業全体の約46%

2022年度における賃上げの実施予定を尋ねると、「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定」が14.0%、「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」が31.8%、「現時点では未定」が45.1%、「賃上げを見送る予定(引下げる予定の場合を含む)」が8.5%などとなり、全体の約46%が賃上げを実施する予定と答えた。

賃上げを実施する予定の企業を100として、【前向きな賃上げ】(「業績が好調・改善しているため賃上げを実施予定」と回答)の企業と【防衛的な賃上げ】(「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」と回答)の企業とに分けると、【前向きな賃上げ】の企業の割合が30.6%、【防衛的な賃上げ】の企業の割合が69.4%で、約7割は防衛的に賃上げを実施する予定の企業となっている。

賃上げを実施する予定の企業の割合を業種別にみると、「情報通信・情報サービス業」が最も高く54.4%で、「製造業」(52.5%)、「建設業」(51.4%)、「介護・看護業」(51.2%)、「卸売業」(50.2%)も50%台となっており、人手不足が指摘される業種での割合の高さが目立つ。一方、割合が最も低かったのは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が比較的大きい「宿泊・飲食業」(24.2%)で、次いで低いのは「運輸業」(27.0%)となっている。

賃上げ率の見通しは、約6割の企業が3%未満と見通す

2022年度の賃上げ率の見通しについて聞くと、最も回答割合が高かったのは「1%以上2%未満」(30.0%)で、次いで「2%以上3%未満」(28.8%)、「現時点では未定」(19.5%)、「3%以上の賃上げ」(14.5%)などの順となっており、全体の約6割(63.7%)が3%未満の見通しを示している。

賃上げ実施予定の対象となる従業員の属性を尋ねると(複数回答)、「正社員」が95.5%で、「フルタイム・有期契約労働者」が29.7%、「パートタイム労働者(主婦パート、学生のアルバイトなど)」が37.6%などとなっている。賃上げの内容を聞くと(複数回答)、「定期昇給」が79.7%と8割近くに達し、「ベースアップ」は34.1%と3割台だった。

賃上げを予定している理由について聞くと(複数回答)、「社員のモチベーション向上」(85.4%)が8割以上の回答割合でかつ、最も高くなっており、これに「人材の確保・採用」(68.6%)が続いた()。「物価上昇への対応」は24.9%と2割台にとどまっている。

図:2022年度に賃上げを予定している理由(複数回答)
画像:図

(プレスリリースをもとに編集部で作成)

取引適正化に向けて取り組んでいる中小企業は4割以上

発注元事業者との取引(B to B)における「取引適正化」に向けた取り組みの状況について聞いたところ、「既に取り組み、成果・効果があった」が10.3%、「既に取り組んだが、特段の成果・効果はなかった」が6.2%、「現在、取り組んでいる最中」が27.7%で、すでに取り組んでいる・取り組んでいる最中の企業が4割以上(合わせて44.2%)にのぼった。

これらの、すでに取り組んでいる・取り組んでいる最中の企業を100とした場合の、取り組みの結果の内訳をみると、「既に取り組み、成果・効果があった」とする企業が23.3%、「既に取り組んだが、特段の成果・効果はなかった」が14.0%、「現在、取り組んでいる最中」が62.7%で、およそ4社に1社が、成果・効果があったとの認識を示した。

最低賃金の引き上げに伴い賃金を引き上げた企業は約4割

調査は、最低賃金の引き上げによる影響と対応についても聞いている。2021年10月の最低賃金の引き上げ(全国加重平均28円)を受け、「最低賃金を下回ったため、最低賃金額まで賃金を引上げた」とする企業は22.0%で、「最低賃金を下回ったため、最低賃金額を超えて賃金を引上げた」とする企業は18.3%に及び、直接的な影響を受けた企業の割合は約4割(40.3%)となっている。全国加重平均額の引き上げが1円にとどまった後に実施した前年調査(2021年)と比べると、21.4ポイント高い。

直接的な影響を受けた企業の割合を業種別にみると、「介護・看護業」(65.2%)や「宿泊・飲食業」(62.5%)といった業種で割合が高いのが目立った。

最低賃金を含む賃金引き上げによる人件費の増加に対して行ったことの具体的な内容を尋ねると(複数回答)、「人件費が増大したが対応策がとれない(とれなかった)」(42.2%)で最も高く、「設備投資の抑制等、人件費以外のコストの削減」(20.4%)、「正社員の残業時間の削減」(19.2%)などが続き、「製品・サービス価格の値上げ」は12.1%と約1割にとどまった。

今年の最低賃金、「引き上げるべき」が41.7%で前年より増加

2022年の最低賃金の改定に対する考えを聞くと、「引下げるべき」もしくは「引上げはせずに、現状の金額を維持すべき」と回答した企業は39.9%で、前年調査から16.7ポイント低下した。「引上げるべき」(「1%(9円程度)以内の引上げとすべき」「1%(9円程度)超~3%(28円程度)以内の引上げとすべき」「3%(28円程度)超の引上げとすべき」の合計)と回答した企業の割合は41.7%で、前年調査より13.6ポイント高かった。

2022年の最低賃金の引き上げ額が30円および40円となった場合に「経営に影響あり」と回答した企業それぞれに対し、対応策を尋ねると(複数回答)、30円の場合、40円の場合ともに、「設備投資の抑制等、人件費以外のコストの削減」が最も割合が高く(それぞれ45.9%、51.0%)、次いで高かったのは30円の場合が「正社員の残業時間の削減」(37.7%)で、40円の場合が「製品・サービス価格の値上げ」(41.1%)だった。

(調査部)