看護師の基本給はやや増加も給与総額は減少・横ばい
 ――日本看護協会の「2021年病院看護・外来看護実態調査」結果

国内トピックス

2021年度の看護師の給与は前年度に比べ、基本給では新卒、勤続10年ともにやや増加したものの、給与総額でみると新卒でやや減少、勤続10年でほぼ横ばいだったことが、日本看護協会(福井トシ子会長)が実施した「2021年病院看護・外来看護実態調査」で明らかになった。調査は、病院看護職員の需給動向や労働状況、業務の実態を把握するために、全国の病院を対象に実施したもので、2,668件の回答を得た(回収率32.5%)。

勤続10年の看護師の基本給与は24万8,149円

2021年度採用の新卒看護師の初任給は、「高卒+3年課程」で基本給与が20万3,445円、税込給与総額が25万9,233円だった()。「大卒」ではそれぞれ、20万9,990円、26万7,440円。また、勤続10年看護師(31~32歳、非管理職)の給与は、基本給与が24万8,149円で、税込給与総額が32万846円となっている。

表:看護師の給与 (単位:円)
今回(2021年度実績) 前回(2020年度実績)
回答病院数 平均基本
給与額
平均税込
給与総額
平均基本
給与額
平均税込
給与総額
新卒看護師初任給
(高卒+3年課程)
2,259 203,445 259,233 202,289 262,277
新卒看護師初任給
(大卒)
2,145 209,990 267,440 208,918 270,292
勤続10年看護師月額給与
(31~32歳、非管理職)
2,266 248,149 320,846 244,587 318,916

注1:「税込給与額」には、通勤手当、住宅手当、家族手当、夜勤手当、当直手当等を含む。ただし新卒者については、家族手当は含まず、単身・民間アパート居住とする。

注2:夜勤をした場合には、当該の月に三交代で夜勤8回(二交代で夜勤4回)をしたものとする。

出所:プレスリリースをもとに作成

前回調査(2020年度実績)と比較すると、新卒の給与は基本給ではやや増加しているが(高卒1,156円増、大卒1,072円増)、給与総額ではやや減少している(高卒3,044円減、大卒2,852円減)。これについて日本看護協会は、夜勤手当の低下などが生じている可能性があるとしている。勤続10年の看護師では、基本給はやや増加(3,562円増)、給与総額はほぼ変わらず横ばいだった(1,930円増)。なお、准看護師の基本給を看護師と比べると、新卒で3~3.5万円、勤続10年で4万円ほど低くなっている。

70歳までの就業機会確保措置は4割弱が対応済み

労働環境についてみると、2020年度に男性の育児休業の取得実績があったと答えた病院の割合は18.5%だった。取得期間は、「1カ月未満」が42.1%、「1カ月~6カ月未満」が48.1%で、「6カ月超」が9.8%。病床規模別にみると、病床規模が大きいほど取得者がいる割合は高く、500床以上の病院では半数以上の51.9%で取得者がいた。

努力義務となっている70歳までの就業機会の確保の措置について、「対応済み」と答えた病院の割合は38.5%だった。まだ対応できていない病院の状況は、「対応を準備中」が5.8%で、「検討中」が28.6%などとなっている。病床規模別にみると、500床以上の規模の大きい病院で、相対的に対応率が低い(「対応済み」29.1%、「検討中」2.7%)。

家族介護を行う職員に対する「所定労働時間の短縮等の措置」への対応状況についても尋ねたところ、「対応済み」とした割合が最も高かった措置は「短時間勤務」の79.0%で、次いで高かったのは「始業時間・終業時間の変更」で49.0%だった。

メンタルヘルス不調により7日間以上の連続休暇を取得した正規雇用の看護職員がいた病院の割合は、85.2%と8割以上にのぼった。「いた」と答えた病院での平均人数は12.4人。「いた」と答えた場合に、例年と比べての増減を尋ねると、「増加した」が41.0%、「変わらない」が51.9%、「減少した」は6.3%だった。なお、「増加した」とした場合に、新型コロナウイルス感染症が影響しているかについても聞いたところ、「影響している(大いに、やや)」は35.0%で、「影響していない(まったく、あまり)」が46.6%となっている。

離職率はやや低下も大都市部で高い

看護職員の離職状況をみると、2020年度の正規雇用(フルタイムおよび短時間勤務の正規雇用職員)の看護職員の離職率は10.6%。前年度の11.5%から0.9ポイント減少しているものの、依然として1割程度が離職している。

新卒採用者と既卒採用者で分けてみると、新卒は8.2%(前年度比0.4ポイント減)、既卒は14.9%(同1.5ポイント減)となっている。病床規模別にみると、「99床以下」や「100~199床」の病院で高い傾向が見て取れる。

正規雇用看護職員の離職率を都道府県別でみると、神奈川県(14.0%)や東京都(13.4%)、埼玉県(13.0%)、大阪府(12.3%)の順に高く、大都市部で高い傾向にある。離職率が低かったのは、岩手県や山形県(ともに6.1%)、島根県(6.5%)などだった。

コロナ禍で診療体制で困ったことのトップは「発熱外来設置のための体制整備」

今回の調査では、例年調査している給与や離職率などに加え、新型コロナウイルス感染症の影響や対応等についても聞いた。いわゆる「第5波」にあたる2021年4~9月の時期に、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れたかどうかを尋ねたところ(複数回答)、「感染の疑いのある人の診療・検査を行った」が52.7%と半数を超え、入院については、「軽症患者の入院を受け入れた」が32.1%、「中等症患者」が39.6%、「重症患者」が15.4%であった。「受け入れはしていない」(24.6%)、「無回答・不明」(2.4%)を除く約4分の3の病院で何らかの新型コロナウイルス感染症にかかる診療・検査や入院患者の受け入れを行っていた。

新型コロナウイルス感染症に関して困ったことを、①患者②診療体制③看護職員――それぞれに関して聞いた(複数回答)。患者に関して困ったことでは「新型コロナウイルス感染症患者以外の患者の減少」(55.6%)をあげる声が最も多く、「新型コロナウイルス感染症患者の増加」(34.9%)が続いた。「患者の退院先(転院先)の確保」も3割弱(28.2%)あがっており、コロナ禍によって本来治療を受けるべき患者が受診できなかったり、転院・退院が困難になっていた状況が読み取れる。

診療体制については、「発熱外来設置のための体制整備」(57.8%)、「診療体制の変更(病棟や外来の閉鎖など)および職員の再配置」(44.3%)、「自治体又は地域の他施設との連携」(30.3%)などの割合が高かった。

看護職員については、「新型コロナウイルス感染症への感染又は自宅待機等により働けなくなる看護職員の増加」(59.4%)が約6割で最も高く、「新型コロナウイルス感染症患者に対応する看護職員の確保」(40.1%)、「新卒看護職員の成長・習熟への影響」(33.7%)などを指摘する意見も多かった。

(調査部)