昨年を上回る賃上げ獲得が目立つも、業種でバラツキみられる。格差是正の取り組みで進展も
 ――産別の賃金・一時金の要求・回答状況

ビジネス・レーバー・モニター調査

調査対象労組の多くが、昨年を上回る賃上げを獲得し、一時金などの増額を勝ち取る動きもみられるが、一部の業種では雇用維持を前提とした厳しい交渉もみられる――JILPTが実施した「ビジネス・レーバー・モニター単組・産別調査」の報告から、こんな22春闘の状況が浮かび上がった。報告によれば、今次春闘では連合方針を背景に多くの産別が「底上げ」「格差是正」を方針に掲げ、賃金改善や一時金の増額回答を得たほか、初任給や18歳最低賃金では組合要求を上回る改善もみられた。テレワークや各種休暇制度も含めた「働き方」「休み方」についても幅広く話し合われている。 ただし宿泊・旅行・旅客輸送では雇用維持や月例賃金の減額解除が議題となっており、コロナ禍での厳しい状況を脱却できずにいる産業もある。

今調査ではモニターの産別、単組に対し、①春季労使交渉での要求の柱と、妥結・合意した賃上げ結果・労働条件改定の内容②春季労使交渉で、労働諸条件の改善や働き方の見直し、職場環境の改善等について、何らかの要求・交渉を行ったか。また、交渉のなかで話題となったこと、将来を見据えた意見交換などが行われたか――について尋ねた。産別24組織、単組27組織に調査票を配布し、産別12組織、単組11組織から回答を得た。単組はほぼ大手企業の労組が対象。調査期間は2022年3月18日~4月30日。

賃金改善のほかに、企業内最賃や高齢者層の増額も/基幹労連

鉄鋼や造船重機、非鉄金属などの労組を組織する基幹労連は要求の考え方について、「厳しい経営状況となっている企業がある一方、多くの企業で一定程度の収益確保を見込んでいる」との現状認識を示したうえで、職場全体の活力発揮や人材の確保・定着などを指摘するとともに、「経済の自律的成長のためにも継続的な賃上げは不可欠で、かつ労使に課せられた社会的責務」だとして、賃金改善を要求した。具体的な要求水準は、加盟単組には複数年協定の方式を採る組織もあり、「2022年度3,500円」「2023年度3,500円以上」を基本とした。

3月16日時点の回答状況は、賃金改善額が、2年分の交渉を行った組合では2022年度が3,000円で2023年度が2,000円で、2022年度のみを交渉した組合では1,000円~7,300円の回答となった。一時金は105万円~187万6,000円(3.43カ月~6.45カ月)。その他に回答のあった項目では、企業内最低賃金の増額(17万3,000円に改定)、60歳以降の者の賃金増額などがみられる。

この回答状況について、基幹労連は「要求額に対しては十分とは言えないものの、企業収益にバラツキがあるなか、有額回答を引き出し得たことは、『人への投資』の必要性に対する組合の粘り強い主張に対し、経営側が一定程度の理解を示した内容と受け止める」と評価した。

営業職員の実質的な収入向上や内勤職員の昨年を上回る一時金の獲得が/生保労連

生命保険会社の労組を束ねる生保労連は、全組合が課題認識に応じて主体的に選択して取り組む「統一取組み課題」として、①経営の健全性向上②営業職員体制の発展・強化③賃金関係④ワーク・ライフ・バランスの実現⑤多様な人材が活躍できる環境整備――の5本柱の要求を掲げた。

このうち、賃金関係については、長期化するコロナ禍で、営業職員関係では「営業支援策の充実」と「賃金改善」により「実質的な収入の確保・向上」をはかるとした。「営業支援策の充実」を最重要課題と位置付け、これまでに導入された各種デジタルツールの定着・浸透・改善等に取り組む。内勤職員関係では、働きがいやモチベーション、仕事への意欲等のさらなる向上をはかる観点から、「現行水準を確保した上で、各組合の課題認識に基づき賃金改善に最大限取り組む」ことを掲げた。

3月31日時点の回答状況をみると、営業職員関係については、「長期化するコロナ禍での活動を支援する観点から、新規のお客さまとの接点の確保・拡大に向けた対応や、新規契約の獲得に向けた施策・支援を中心に、実質的な収入の向上につながる会社支援が引き出されている」。内勤職員関係についても、「昨年を上回る一時金の獲得、自己啓発費用補助の引き上げ等、総じて要求趣旨に沿った回答が示されている」という。また、職種を問わず、全従業員を対象とした一時金の上乗せを引き出した組合もみられた。

妥結組合の4割が前年比増額で決着/運輸労連

トラック運輸などの輸送分野の労組を組織する運輸労連の闘争方針は、深刻な労働力不足や燃料費の高騰などの業界を取り巻く厳しい環境を説明したうえで、所定内労働時間賃金に定期昇給(相当)分の1.5%と、賃金改善分(格差是正分含む)としての3.0%を加えた4.5%を乗じたものとした統一要求基準を示した。賃上げ要求額は、1万1,000円を中心として取り組みを進める。なお、同労連の要求額の組み立ては、交通労連・トラック部会と同率・同額(上下幅の範囲は30%)となっている。

また、個別賃金要求は、「他産業との格差是正を考慮したもの」とし、「18歳高卒初任給の参考目標値は、連合方針と同額の17万5,600円」としている。

賃金以外では、65歳までの定年延長の確立について、「高年齢者雇用安定法の施行を受け、70歳までの雇用延長を見据えたうえで、全ての組合が65歳までの定年延長に向け一層の推進に取り組む」ことも提起。総労働時間の短縮についても、「運輸産業に従事する労働者の年間総労働時間は、全産業と比較して約400時間近くもの大きな開きが存在しており、その改善が求められる」として、全ての組合が「恒常的な時間外労働の削減や義務化された年5日の有給休暇や計画年休の導入・拡大による取得促進、休息期間の確保・拡充など、労使で協力して総労働時間の短縮に取り組む」ことを掲げている。

4月7日時点の交渉状況は、要求書を提出した353組合中195組合(55.2%)が妥結しており、妥結額は前年比で増額が42.6%、同額が22.6%、減額が20.5%。主要組合を含む全体の対前年比は413円増(21.6%増)、主要組合を除く各地域組合では284円増(14.9%増)となっている。

連合方針を意識した「底上げ」の取り組みを推進/JEC連合

化学・エネルギー関連の労組で構成するJEC連合は、「賃上げの流れを継続・定着させ、連合方針である2%程度を意識し、『底上げ』に積極的に取り組む」方針を掲げている。

「底上げ」の取り組みについては、「年齢別目標水準に到達している加盟組合は、企業業績が改善傾向にあり、地域別最低賃金も大幅に上昇していることから、定期昇給相当分を確保し、社会全体の賃金を『底上げ』する観点から、連合方針である2%程度の賃上げを意識し取り組む」考え。

そのうえで、定期昇給制度を持たない加盟組合については、「『JEC連合2021賃金労働条件実態調査結果』を基本とし、平均定期昇給額の5,000円を定期昇給相当分、賃上げ要求額は平均所定内賃金の2%分にあたる6,000円の合計1万1,000円を要求し取り組む」とした。

一時金についても、「年収に大きく影響を与える重要な取り組み」であることから、①生活に必要な年収確保の観点から、一時金のミニマム基準は年間4カ月とする②一時金の固定部分をもつ加盟組合は、安定年収確保の観点から、固定部分を4カ月以上へ引き上げることを目指す③業績連動型一時金制度が導入されている加盟組合は、企業業績や付加価値が適正に分配されている制度設計になっているか点検する④検証し必要に応じて改善を求める――としている。

4月26日時点の状況は、賃上げ回答額が単純平均で1,698円(0.58%)、加重平均で2,520円(0.82%)。回答合計額では、単純平均が6,278円(2.10%)、加重平均は8,137円(2.52%)となっている。年間一時金回答額は、単純平均が153万8,841円(5.09カ月)、加重平均が177万8,323円(5.22カ月)となっている。

月例賃金の減額解除に向けた取り組みが進む/航空連合

航空関連産業の労組で構成する航空連合の2022春闘は、「産業・企業の存続」と「雇用の維持・確保」を大前提に据えたうえで、①労働条件の早期回復と「人への投資」による労働条件の向上②航空関連産業で働く魅力の向上――の2点を目指している。

なかでも、賃金に関しては、定期昇給の確実な実施を確認するとともに、賃金減額がなされている組織は減額期限を確認し、減額幅の縮小や減額前の水準への回復に向けた対応をするとともに、個社の状況と組合員のニーズをふまえ、ベースアップを軸とした月例賃金改善をはかるとした。一時金に関しては、「生活を守る」観点で協議・交渉を行い、年収の回復を目指す。さらに、組合員のモチベーションを維持する観点から、業績回復時の水準の考え方や、本来あるべき水準についても確認するとした。

個別労組の要求状況(3月30日時点)をみると、ベアを要求した13組合のうち、有額回答があったのは2組合。また、月例賃金を減額している企業に対する減額解除要望に関しては、多くで解除に向けた取り組みが進んでいるという。

一時金については、要求はしたものの継続協議となった労組が多い一方で、貨物関連の労組では有額回答を得た。

構成組合の7割が3月末までに決着/ゴム連合

タイヤ、履き物、工業用品などの業種の組合で構成するゴム連合は、今次春闘の賃金交渉について、「経済の自律的成長や産業間格差の拡大防止に向けて、置かれた環境を正しく認識した上で賃金の底上げや改善に取り組めると判断できる場合、連合方針もふまえた要求水準を設定する」としたうえで、①定期昇給・カーブ維持分確保を前提②目指すべき賃金水準の設定③賃金課題の明確化と底上げ・賃金改善の計画的な実施④賃金の相対的な位置づけの維持に向けた賃上げ――の4点を方針に掲げた。

一時金については、①昨年実績を基に水準の維持・向上②業績低迷や企業存続への取り組みを継続している場合は、生活防衛を勘案する③春年間方式を基本とする――の3点を示した。

4月1日時点の交渉状況は、要求書提出が49組合、確認中が6組合。このうち賃金で妥結したのは35組合(妥結率71.4%)で、要求額5,554円(1.86%)に対して、妥結額は5,394円(1.80%)となっている(金額が明確な32組合の集計、加重平均)。

一時金については、妥結が30組合(妥結率68.2%)で、要求額153万5,170円(5.04カ月)に対して、妥結額は152万8,088円(5.00カ月)となっている(金額が明確な28組合の集計、春年間妥結、加重平均)。

雇用維持を最優先に年収の維持・改善を目指す/サービス連合

宿泊業、旅行業、航空貨物業の加盟組合でつくるサービス連合は、22春闘を、雇用維持を最優先に掲げたうえで、「新型コロナウイルスの影響により引き下げられた賃金がある場合にはその回復、改善」を前提に、「将来を見据え、月例賃金を重視し、一時金の水準向上とあわせ年収の維持、改善を目指す」闘争と位置付けた。

交渉状況(4月27日時点)をみると、賃金については多くの加盟組合が要求し、昨年実施できなかった、または凍結された賃金改善を実施したうえで、今年度の賃金改善を要求し、合意した加盟組合が複数あった。また、制度に基づいた定期昇給の確実な実施や最低保障賃金の協定化を要求し、合意に至った加盟組合も多くあったという。

一時金は、昨年よりも多くの加盟組合が具体的な水準を掲げて要求したものの、新型コロナにより、業績の見極めに時間を要していることなどから、多くの加盟組合で継続協議となり、水準確定は5月以降にずれこんでいる。

半数超の加盟組合がベアを獲得/日建協

建設産業の労働組合で組織する日建協では、ベアは加盟する35組合中20組合が要求した。なお、要求方式は3つの年代(30歳大卒独身、35歳大卒で配偶者+子2名の4人世帯、40歳大卒で配偶者+子2名の4人世帯)を基準として、それぞれの年代における賃金水準について要求している。夏季一時金も同様3つの年代における賃金水準を基準としたうえで、2.0カ月~3.8カ月を要求した。

5月23日時点での回答状況をみると、ベアを獲得したのは19組合で、30歳ポイントが1,000円~1万円、35歳ポイントが1,000円~1万2,400円、40歳ポイントが1,000円~2万6,000円となっている。定期昇給については25組合で妥結しており、昇給額は30歳ポイントが3,500円~5万9,500円、35歳ポイントが4,000円~6万3,500円、40歳ポイントが4,500円~6万6,000円となっている。

夏季一時金の回答状況は、30歳ポイントが1.5カ月(45万2,939円)~3.5カ月(106万円)、35歳ポイントが1.5カ月(59万3,030円)~3.7カ月(122万円)、40歳ポイントが1.5カ月(63万3,485円)~3.8カ月(138万9,000円)となっている。

「底上げ」「格差是正」を加味し2,000円以上の賃金改善を/紙パ連合

紙パルプ・紙加工産業で構成する紙パ連合は22春闘での具体的要求について、①すべての組合は、賃金カーブ維持分を確保した上で、実質賃金の維持・向上に向けて賃金改善に取り組む②賃金改善の範囲は、月例賃金の改善を念頭に置き所定内賃金とし、取り組みを進めることとする③賃金改善分として、「底上げ」「格差是正」を加味し2,000円以上とする――を掲げた。なお、「賃金カーブ維持分の把握可能な組合」は賃金改善分2,000円以上とするが、「賃金カーブ維持分の算定が困難な組合」は、賃金カーブ維持相当分として、5,000円プラス賃金改善分2,000円以上の7,000円以上としている。

一時金については、要求基準を、年間集約要求は基準とする賃金の5.0カ月を中心に、期毎要求は基準とする賃金の2.5カ月を中心としている。

3月30日時点での妥結状況は、定期昇給プラスベアで最大5,400円を獲得した組合があったほか、扶養家族手当の改定を回答した単組もみられたという。一時金は2.09カ月~6.30カ月(70万円~162万円)の回答となっている。

賃上げは前年同時期比で額・率とも微増/印刷労連

印刷・情報・メディア産業の組合で構成する印刷労連は、2022春季生活闘争を「総合労働・生活改善闘争」と位置付け、「賃上げ」「一時金」「労働諸条件改善」の3本柱に加えて、労働環境の整備を求めた。

柱の1つ目の「賃上げ」は、「連合2022春季生活闘争方針」にのっとり、定期昇給相当分を確保したうえで「底上げ」「底支え」「格差是正」について、賃金水準の絶対値にこだわった内容とした。具体的には、「賃金政策」に示した「目指すべき賃金水準」に照らして、構成組織毎に目標水準を設定し要求する。また、「企業内最低賃金」の観点から18歳高卒初任給要求にも取り組む。

2つ目の柱である「一時金」は、「年間収入」「生活給的要素」「業績配分」のバランスを考慮した内容とし、3つ目の「労働諸条件改善」は、職場の基盤整備に向けた取り組みを基本に「労働環境の整備」全般に取り組むとした。

3月28日時点での賃上げの回答状況は、前年同時期との比較で額・率ともに微増となった。なお、一部の大手組織は9年連続でベアを獲得している。一時金の回答(加重平均)は前年同時期との比較で額・月数とも減少となった。労働諸条件については、「働き方と生活の価値の見直し」や「会社諸制度のさらなる改善」、「育児・介護の制度改正」など、職場環境の精度向上とワーク・ライフ・バランスに主眼をおいた要求を掲げたが、継続した労使協議を行うとの回答が提示されているケースが多い。

賃金改善分の回答額が前年比1,839円(0.69%)増に/セラミックス連合

セラミックス産業の労組で構成するセラミックス連合では、3月末までに加盟43組合中41組合(95.3%)が要求を提出した。そのうち、賃金改善分を要求した組合は31組合(75.6%)で、昨年(51.2%)を大きく上回っている。賃上げ要求額は単純平均で6,194円(2.61%)で対前年比905円増(0.36%増)。このうち賃金改善分要求の単純平均(同一組合比較)は3,127円(1.31%)で、対前年比1,256円増(0.50%増)となっている。

賃上げ回答状況(4月5日時点)をみると、22組合で回答があり、うち賃金改善分の回答があったのは17組合。賃上げ回答額の単純平均は5,566円(2.23%)で、対前年比1,410円増(0.55%増)となっている。賃金改善分の単純平均(同一組合比較)は2,247円(0.90%)で、対前年比1,839円増(0.69%増)となった。

こうした状況について同連合は、「政・労・使の共通の理解のもと、先行組合がつくり出した賃上げの流れを中堅・中小組合が引き継いでいる」と指摘する一方、「原材料、資材、エネルギー価格の急激な高騰等によるコスト増加を十分に価格転嫁できず、厳しい環境にある」ことを懸念。「生活不安・将来不安の払拭に向けて、また長引く『人手不足感』で、『人材確保』に向けた賃金引き上げが急務となっている」として、人への投資や月例賃金の改善にこだわった交渉の重要性を強調した。