タクシー運転者への11時間以上の休息設定の努力などを提起
 ――厚生労働省が「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の在り方について(中間とりまとめ)」を公表

スペシャルトピック

「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)のあり方について検討していた厚生労働省の「労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会」(座長:藤村博之・法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)は3月29日、中間とりまとめを整理した。中間とりまとめでは、ハイヤー・タクシーとバスの運転手についての改善基準告示の見直しの方向性について整理。ハイヤー・タクシーでは、日勤の1カ月の拘束時間を、現行の「299時間を超えないものとする」から「288時間を超えないものとする」に短縮することや、勤務終了後の休息期間の下限を「9時間」とするとともに、「継続11時間以上与える」よう努めることなどを提言。バスについては、1カ月の拘束時間についての基準を新たに設けることを提案している。トラックについては、同委員会のトラック作業部会が現在も検討中であり、トラック作業部会の結論が出た後に最終報告をとりまとめる予定だ。

とりまとめまでの背景

改善基準告示制定後も長時間・過重労働が課題に

改善基準告示は、トラックなどの自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため、業務の特性を踏まえ、すべての産業に適用される労働基準法では規制が難しい拘束時間(始業から終業までの時間(休憩時間を含む))や休息期間(勤務と勤務の間の自由な時間)、運転時間などについて基準を設けている。

1989年に大臣告示として制定され、1997年には法定労働時間の段階的な短縮を踏まえて内容の見直しが行われた。しかし、運輸業・郵便業では、脳・心臓疾患による労災支給決定件数が全業種のなかで最多となるなど、自動車運転者の長時間・過重労働が依然として課題視される状況にある。

国会付帯決議で告示の総拘束時間の改善が求められる

2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が成立。労働基準法の改正によって、新たに時間外労働の上限規制が設けられた。自動車運転者については、改正法施行5年後(2024年4月以降)、時間外労働の月45時間および年360時間の限度時間と、臨時的特別な事情がある場合での年960時間の上限時間が適用されることになっている。

関連法成立時には国会で付帯決議があり、決議事項により、過労死や精神疾患などの健康被害や、深刻な人手不足に陥る運輸・物流産業の状況を鑑み、できるだけ早期に改善基準告示の総拘束時間等を改善することが求められた。

こうした状況を受け、労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会は、改善基準告示の改正に向けた取り組みとして、ハイヤー・タクシー、バス、トラックの各作業部会で、改善基準告示や関係通達のあり方の検討を進め、今回、ハイヤー・タクシーとバスで見直しの方向性が整理されたことから、中間的なとりまとめを行った。

タクシー・ハイヤーにおける改善基準告示の見直し

1カ月の拘束時間上限は288時間に

中間とりまとめでははじめに、タクシー・ハイヤー運転手の1カ月の拘束時間や1日及び2暦日の拘束時間、休息期間について整理している。

日勤の場合、1カ月についての拘束時間は、現行では「299時間を超えないものとする」となっている。とりまとめは、これを「288時間を超えないものとする」に11時間短縮することを提案。

1日についての拘束時間については、現行では「13時間を超えないもの」とし、延長する場合でも最大拘束時間を16時間と定めてきたが、とりまとめは、「13時間を超えないもの」とすることは維持しつつ、延長する場合の最大拘束時間を15時間とするよう提案している。

さらに、この場合、1日についての拘束時間が14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努めることもあわせて提起した。

また、休息期間は「勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないもの」とするよう促した。

隔日勤務に就く運転手の2暦日の拘束時間は、「22時間を超えないもの」と提示。この場合においては、「2回の隔日勤務(始業及び終業の時刻が同一の日に属しない業務)を平均し隔日勤務1回あたり21時間を超えないものとする」とした。現行では「21時間を超えないものとする」とだけ定めている。

また、勤務終了後の休息期間について、現行では「継続20時間以上の休息時間を与えるものとする」となっているが、「継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続22時間を下回らないもの」とするよう求めた。

ハイヤーの時間外労働も年360時間が限度に

ハイヤー(一般乗用旅客自動車運送事業の用に供せられる自動車であって、当該自動車による運送の引き受けが営業所のみにおいて行われるもの)についてはすべて改正する内容となっている。

ハイヤーに乗務する自動車運転者の時間外労働協定の延長時間は、現行では、「1カ月50時間、3カ月140時間、1年450時間の目安時間の範囲内とするよう努める」となっているが、とりまとめは「1カ月45時間、1年360時間を限度」とするとともに、臨時的特別な事情がある場合も、「1年について960時間を超えないもの」とし、労働時間を延長することができる時間数または労働させることができる休日の時間数をできる限り少なくするよう努めることを求めた。なお、必要な睡眠時間を確保できるよう、勤務終了後には一定の休息期間を与えることも明記している。

バスにおける改善基準告示の見直し

拘束時間は年間3,300時間かつ1カ月281時間以下が限度

バスの改善基準告示の見直しでは、はじめに、1カ月の拘束時間や4週間を平均し1週間あたりの拘束時間、1日の拘束時間、休息期間について整理している。なお、1カ月の拘束時間または4週間を平均し1週間あたりの拘束時間は、いずれかの基準を遵守すればよいこととしている。

1カ月の拘束時間はこれまでは設定がなく、新設する。具体的には、「年間の総拘束時間が3,300時間、かつ、1カ月の拘束時間が281時間を超えないもの」とすることを提案。ただし、貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者、乗合バスに乗務する者(一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る)、高速バスに乗務する者及び貸切バスに乗務する者については、労使協定により、「年間6カ月までは、年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、1カ月の拘束時間を294時間まで延長することができる」とするとしている。なお、この場合、1カ月の拘束時間が281時間を超える月が4カ月を超えて連続しないものとする。

4週間を平均し1週間あたりの拘束時間については、現行は「4週間を平均し1週間当たり65時間を超えないものとする」としていたが、「52週間の総拘束時間が3,300時間、かつ、4週間を平均し1週間あたりの拘束時間が65時間を超えないものとする」に改定することを提起。

ただし、貸切バス等乗務者については、労使協定により、「52週間のうち24週間までは、52週間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、4週間を平均し1週間あたり68時間まで延長することができる」としている。この場合、4週間を平均し1週間あたりの拘束時間が65時間を超える週が16週間を超えて連続しないものとするとしている。

1日の最大拘束時間は15時間に見直し

1日(始業時刻から起算して24時間)についての拘束時間は、現行では「13時間を超えないものとし、当該拘束時間を延長する場合であっても、最大拘束時間は16時間とする」としているが、とりまとめでは「13時間を超えないもの」とするところは変わらないが、当該拘束時間を延長する場合、「1日についての拘束時間の限度(最大拘束時間)は15時間」と1時間短縮することを提案した。また、この場合、1日についての拘束時間が14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努めることも求めた。

休息期間については、現行では「勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与えるものとする」と定めているが、とりまとめは「勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないもの」とするよう促している。

連続運転時間は原則4時間以内

とりまとめは続けて、運転時間、連続運転時間の基準を整理している。

運転時間については、「2日を平均し1日あたり9時間、4週間を平均し1週間あたり40時間を超えないもの」との現行の内容を維持するとした。ただし、貸切バス等乗務者については、労使協定により、「52週間における総運転時間が2,080時間を超えない範囲内において、52週間のうち16週間まで、4週間を平均し1週間あたり44時間まで延長することができる」ものとするとしている。

連続運転時間(1回が連続10分以上で、かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間)は、現行どおり「4時間を超えないもの」とするものの、高速バス・貸切バスの高速道路(貸切バスの夜間運行にあっては、高速道路以外も含む)の実車運行区間における連続運転時間は、「概ね2時間までとするよう努めるものとする」としている。

(調査部)